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夢賊 冒険は少女ハートと少年夢賊ヴォイスと共に  作者: 六福亭(鹿西こころ)
1/6

1 ヴォイスのあいさつ

夢の世界で主人公ががんばる話です!


 夢の中の宝のこと、聞いたことある?


 僕たちみたいな夢の中の人間なら、みんな知ってる。だけど、あなたたちのような__そっちの世界に生きている人は、だあれも知らないと思う。僕がこうやって話すのも、今が初めてだ。


 僕の仲間たちは、僕が「あっちの人間」(あなたたちのこと!)に話しかけていることを、まだ知らない。秘密なんだ。だから、告げ口しないでね。約束だよ。


 僕らがいる夢の国は無数にあって、そのどれもがそれぞれ全然違う。だけど、その奥深くに宝物が眠っているのは、どの国も同じ。その宝は、あるときはダイヤモンドや真珠みたいな宝石だったり、絹のドレスだったり、ぴかぴかのおもちゃだったりする。そして、どれも夢の中の住人に高く売れるんだ。


 僕は仲間たちと、隠された宝物を見つけ出して、ちょびっとずつ拝借する。それが毎日の仕事だ。危険だけど、わくわくする冒険なんだ。


 そっちの世界には、「海賊」や、「山賊」がいる。僕らはそれと同じ、だけど海や山でなく夢の中を暴れまわる「夢賊」だ。


 __僕の名前は、ヴォイス。船長グロッソの一人息子。まだ11歳だけど、もう一人前の夢の男だ。荒くれ者揃いの仲間たちも、僕には一目置いてる。(ちびだガキだって、よくからかわれるけど)

 だって、仲間の中でも、僕は一番すばしっこくて、度胸があるんだから。父さんにも、時々ほめてもらえるし、自分専用のベッドももらった。僕と、もう一人しか乗らないくらいの小さなベッドだけど。

 

 さて、僕たちは、その時もいつものように冒険と戦いに飛び込んでいった。相手は、夢賊のライバルだ。夢と夢の狭間の広い空で出会った僕らは、目と目が合うより前に開戦を決めた。船長の指示のもと、戦士たちは剣で切り結び、鉄砲と大砲をぶちかまして威嚇した。操舵手は互いのベッドをぶつけあい、脚がもぎとれるまでベッドのかたさを見せつけあった。料理人も厨房から飛び出してきて、腐った果物や肉を相手に投げつけた。

 

 その間僕は、相手のベッドに乗り移り、敵の目を盗んで宝物庫に忍び込んだ。背が小っさいから、興奮してる大人たちの目にはなかなか入らないんだ。シーツで隠された目立たないスペースには、案の定、連中がため込んだ宝物がどっさり積み上げてあった。僕はささっと宝物の山を物色し、転がっていた宝石を2個だけポッケに詰めた。これくらいだったら、後で点検に来た夢賊も、盗まれたことに気づかないだろう。


 だけどその時、もう一つ、目を引くものがあった。紙に包まれた、四角い板のような物。大きさは、僕の顔よりちょっと大きいくらい。白い紙の上から紐できっちりと縛られていて、その厳重さがちょっと気になったんだ。他の宝物は、乱雑にほっておかれてるのに。


 紐の結び目は硬くて、ちょっとやそっとではほどけそうになかった。よっぽど、大事な物らしい。僕はそれもいただくことにした。持ち上げると、けっこう重い。脇に抱えて、ベッドの上に飛び出した。


 戦いは、敵の方が押してるみたいだった。いまや敵の夢賊のほとんどが僕らのベッドに乗り移って、勝ち誇った叫び声を上げながら剣を振るっていた。敵の一番強そうな戦士に応戦しているのは、僕の父さん、グロッソ船長だった。

「父さん!」

 僕は叫んで、ふかふかのシーツの上を駆けた。僕に気がついた敵の戦士たちが、わめきながら捕まえようと腕を伸ばしたり、網を投げつけた。それをすれすれのところでかわし、ベッドのへりに身を乗り出した。自分たちのベッドのへりは少し離れていて、ぽっかりと隙間が空いていた。ざっと、2mくらい。


 いつもだったら、難なく飛び越えられる距離だ。だけど、今の僕は重い包みをかかえている。ジャンプすると同時に重みに負けて、隙間に落ちてしまうかもしれない。


 漂うベッドの下には、どこまでも底のない空が広がっている。落ちたら、二度とは戻れない。僕は、唾を飲み込んだ。

 

 向こうのベッドで、仲間が僕を呼んでいる。闘いの相手に膝をつかせ、荒い息をついていた父さんも、僕に向かって手を伸ばした。

「捕まえろ!」

 すぐ近くで、敵の戦士の声がした。迷ってる時間はもうない。ままよ! 僕は足に力を込めて、思いっきり飛んだ。


 落ちる__怖くなった瞬間、僕らのベッドが素早く動き、僕を受け止めてくれた。


 シーツの上に仰向けに着地した僕の周りに、仲間たちが集まってくる。

「大丈夫か?」

 僕はさっと立ち上がった。まだドキドキしてたけど、戦場でいつまでも寝転がっているのは危険だからだ。

「へっへへ、大丈夫」

 笑ってみせると、腕が何本も伸びてきて、頭をわしゃわしゃとなでてくれた。

「よくやったぞ! ヴォイス」

「さすがヴォイスだな!」

「ちびのくせに大したもんだ」

「えへへ……」

 ベッドが急旋回して、はずみでみんな尻もちをついた。舵取りが大急ぎでベッドの向きを変えていた。

 グロッソ船長が、戦いはもう終わりだと決めたらしい。まだ悔しげにこっちを罵る敵の夢賊たちのベッドから、僕らはすごい速さで離れていく。こっちのベッドに残った敵の戦士たちは、古い布団に乗せてベッドの外に放り捨てる。布団はベッドほどのスピードは出ないけど、夢の中を漂うことはできる。そのまま布団の上で待っていれば、味方のベッドに引き上げてもらえるだろう。


 グロッソ船長が僕の元へやってきた。

「ヴォイス」

「はいっ」

 実の父さんだけど、つい敬語を使ってしまう。それくらい船長は威厳があり、偉大なるリーダーなんだ。

「収穫物を見せてもらおうか」

「はいっ」

 僕はポッケの中からルビーとサファイヤを1つずつ取り出し、船長の手にのせた。大粒の宝石たちの光が交わって紫に見えた。

「それは何だ?」

 船長は、まだ脇に抱えたままの四角い包みに目を止めた。両手で持ち上げながら、僕は首を傾げた。

「よく分かりません」

 副船長のスプリングが、ナイフで紐と包み紙を切り裂いた。

 現れたのは、黒く固い板だった。何の文字も、模様もない。吸い込まれそうなほど真っ黒なただの板だ。

「タブレットかな?」

「いや……材質が違う」

 船長がうなる。「それに、コードを指す穴もない。だが、何か価値のある品物には違いない……」

 仲間たちものぞきこみ、好き勝手に言い合った。

「こりゃあ、黒板だ!」

「馬鹿言うな、コンピュータの一種に決まっている」

 僕はいたたまれなくなって、船長を見上げた。

「あの、これ、持ってこない方がよかった……ですか?」

 答えたのはスプリングだった。

「まさか。これだけ厳重に保護されていた物だ。きっと役に立つよ」

 戦士のジョイが提案する。

「マーチじいさんに鑑定してもらったらどうでしょう?」

「そうだな……」

 マーチじいさんは、僕らの大事な仲間の1人。すごく年寄りだから、戦いはとっくに引退している。だけど物知りでもあるから、困ったことがあったらいつも相談してるんだ。


 船長が板を持ったまま、大声を出した。

「よし、あいつらのベッドも見えなくなったことだし、少し休むとしよう。アルゴ! 『ねぐら』に潜り込む準備をしろ」

 舵取りのアルゴは、振り向かずに返事をした。「了解」

 船長が、ぼーっとしてる僕の肩を優しく叩いた。

「無事で良かった」

「え?」

 僕が顔を上げた時、船長はもう背を向けて歩き去るところだった。


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