誰かが座ったベンチ
話のネタに詰まった私が、通勤電車の中で聴いていたB●MPの曲から思い付きました。
揉みくちゃにされた地下鉄から降りた時にすぐ座るべきだった。
長いエスカレーターの手すりに捕まってようやく地上に出た時、私鉄側の高架橋から朝のラッシュでワラワラと降りて来てきた人波にのまれ、来た道を押し戻されそうになって……堪らずタクシー待ちのベンチに腰を下ろしてしまった。
地上の陽ざしに目をやられてしまったのか、一瞬、視野が真っ暗になって緑や黄や赤の星が目の前を飛び交う。
今朝は目を開けた時から体調不良で……何も口にすることができないままマンションの重い鉄扉を押し開けたんだっけ……
だって行かなきゃ!!
会社へ!!
ずいぶん前に
どうしようもなく重くて重くて
生理休暇を申し出た時
電話口で
「お前が女だとは知らなかった」
と言われた。
次の朝一番に
なんとか動ける体を会社に運び、溜まっていた業務を処理し始めたのだけど、ある種の猥雑さを纏った男性社員の視線より、女子社員たちが醸し出す冷たい“オーラー”が身に堪えた。
何の価値もない女はかくも生きづらいもの……
幼い事から幾度となく味わった世間から受ける私の扱い
そして『郷に入っては郷に従え』『場の空気を読め!』と言う不文律
これらが綯い交ぜとなって私を捕縛する。
いや!それは自己欺瞞だ!
そもそも私は“不適合者”
ひとところに根付く事ができなかったデラシネが何をか言わんや
こうやって立ち眩みがするのも
自分の“意気地なし”の成せる業で
そのうちきっと
吐き気をもよおして来る。
「自分は具合が悪いんだ」と
自分に信じ込ませようとする。
だったら吐いてみろよ!!
そうしたら吐瀉物がこの空間をバリケードし
忌むべき汚物として
私は遠ざけられる。
「それが望み!!」と言い切れるのなら良いのだけど
生きて行かなきゃいけないから……
「スミマセン、スミマセン」と頭を下げて
人と人のほんのわずかの隙間に潜り込んで
つましく生きて行かなきゃいけないんだから!
これ以上ハブられたら立ち行かない……
ホラ!
タクシーの運ちゃんがブスッとこちらを睨んでいる。
私が“営業妨害してるから……
さあ!立って!!
今なら遅刻にはならないし
今日一日
首を竦めていれば乗り切れる。
そうしないと……
やがて
ぶしつけなハトが近寄って来て
お昼のお弁当を狙う時の様に
見せかけのフレンドリーで
私の肩や足元から纏わりついて
出来合いの甘言を私の耳に垂らし
豆粒みたいなアイデンティティを啄んで行くに決まってる!!
だから今日も
生きているフリをしよう
そうすればそのうち
昼休みが来て
いつかは終業時間になる。
有意義なんて事は微塵も無いけど
スーパーの値引きの時間が訪れるまで
買うつもりなんてまるで無いウィンドウショッピングでやり過ごそう
もうちょっとマシなお話を捻り出したいものです(^^;)
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