クレシェンド 『大好きだったんだけどな』
物語のあるリボン作家『いろいと』です
私の作るリボンには、1つずつ名前と物語があります
手にとって下さった方が、楽しく笑顔で物語の続きを作っていってもらえるような、わくわくするリボンを作っています
関西を中心に、百貨店や各地マルシェイベントへ出店しております
小説は毎朝6時に投稿いたします
ぜひ、ご覧下さい♡
Instagramで、リボンの紹介や出店情報を載せておりますので、ご覧下さい
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明るく眩しく照らしてくれる陽の光は、午後の賑やかな公園を鮮やかに彩る
公園のベンチに腰掛ける浮かない顔の私は、そばで楽しく声を上げる子どもたちが、スローモーションに見える
聞いているはずの声が遠く、笑う顔もどこか滲んで見える。今にも倒れてしまいそう
もう一度、聞く勇気はなかったが、それでも私は確かめたくて、ゆっくり彼を見る
真っ直ぐに、どこを見つめているかも分からない表情は、私を余計に現実のものへと変えていく
『ねぇ。もうダメなの?』
問いかける言葉が見つからず、結局再び同じ言葉を口にする
『ごめん。別れよう』
やはり聞き間違いではなかったようだ
目を伏せる彼は、徐ろに立ち上がりチラリと私を見下ろす
『俺、もう行くわ。今までありがとう。じゃあな』
どこか鋭く冷たい目は、私を通り越して何を見ているのだろう
私の言葉を待つことなく、彼はサッと荷物を持ちその場を後にした
賑やかな子どもたちの声だけが、泣き崩れそうになる私を踏み止まらせてくれていた
どれくらいの時間が経っただろう
私は、公園を出て、ふらりふらりと当てもなく歩き続けている
ふと気が付くと、想い出のある神社へと足を運んでいた
『お祭りの後に、ここで付き合ったんだっけ』
コツ、コツと、一段一段想い出を噛みしめるかのように、私は神社の中へと歩みを進める
初めて会ったのは、1年前。友達の紹介で遊んだのがきっかけ
高校2年生の私達は、来年は受験
エレベーター式の私立高校なので、受験と言っても確認テストをするだけで良い
世間でいう受験というものは、中学で終わったようなものだった
同じ高校なのに、文系と理系では校舎が違う。私は文系で、彼は理系
だからそんなに学校で会うことはない
しかし、お互い意識しだすと、食堂は一つしかないので、必然的に会う事が多くなっていく
始めは、ばったり会っても照れて話すことはなかったが、次第に会う機会も多くなり、後は自然と仲良くなるのに時間はかからなかった
10段ほどの石段を上り終えると、広い境内が見えてくる
右に大きなご神木、左には授与所、そして目の前には朱色のお社がある
陽が少し陰ってきているからか、夏だと言うのに少し肌寒い
両手で腕をさすりながら、ご神木の手前にある手水舎へ向かった
カランと鈴を鳴らし、神様に挨拶をする
一通り挨拶を終えた私は、広い神社をぐるりと歩きだす
彼と付き合う前に来たのは、この神社で毎年行われる夏祭り
広い境内に、所狭しと屋台がひしめき合っていた
金魚すくい、イカ焼き、りんご飴、ベビーカステラ
ベビーカステラを彼と半分こして、金魚すくいで濡れた私の浴衣を見て、笑い合いながら夏祭りを楽しんでいたのが懐かしい
『そういえば、おみくじ引いたな』
神社の奥へと歩いていくと、おみくじを結ぶ場所につく
私は大吉、彼は吉
どちらも〈縁〉は良好だった
二人でおみくじを結んで、それから何したっけ。
物思いに耽っていると、サーっと夏の香りが気持ちよく駆け抜け、近くの木々を揺らす
ゆっくり目線を木の向こうにある、頬を染めたような茜色の空へうつす
『今年も一緒に夏祭り来たかったな』
そのまま彼の言葉を繰り返し思い出す
『俺、他大学受ける。ごめん、今は付き合ってる余裕ない』
『え?じゃあ受験終わるまで私、待ってるよ』
『いや、待つとか、そういうのはやめたい』
『勝手じゃん』
『ごめん』
それだけ言って黙り込む彼
『ねぇ。もうダメなの?』
問いかける言葉が見つからず、結局再び同じ言葉を口にする
『ごめん。別れよう』
やはり聞き間違いではなかったようだ
目を伏せる彼は、徐ろに立ち上がりチラリと私を見下ろす
『俺、もう行くわ。今までありがとう。じゃあな』
思い返すとだんだん腹が立ってくる、勝手すぎる
そう思う私は、ふぅっとため息を一つつき、彼に買ってもらった〈クレシェンド〉を髪の毛から外す
夏祭り一緒に行きたかった。大好きだった。
出会いは必然で、終わりは理不尽
どこかで誰かが言っていた
頬を伝う透明な雫が、物悲しげにポタリと茜色に染まって落ちてゆく
夕陽に染まる境内だけが、優しく私を包み込んでくれていた
終
最後まで読んで下さり、ありがとうございます
色々なお話を書いておりますので、どうぞごゆっくりとしていってもらえると嬉しいです
また明日、6時にお会いしましょう♪