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千年生きる智いエルフと僕が行き着く歪な結末 

 先輩がエルフであることを告白してきた時、僕はこう答えた。

 “たとえ先輩が人間でなくエルフであったとしても、僕にとっては大好きな先輩に変わりはないです。だから、いつまでも僕の大好きな先輩でいてください。”



 「ただいまー。って、誰もいるわけないか。」

 夜の9時過ぎ、僕は誰もいない自宅へと帰宅した。

 今年から一人暮らしを始めた僕は、家に帰っても誰もいないことへの新鮮さと少しの寂しさを感じていた。

 1日の疲れに身体を引きずりながら、リビングに到着し電気をつけると、そこには


 「ウへへ、、、。」


 僕のパンツを頭から被り昇天しかけているエルフ先輩がいた。


 「エ、エルフ先輩、なにしてるんですか。」

 間髪容れずに近づき、パンツを奪取する。


 「お、お帰り後輩君。」

 トロンとした顔でそんなことを言うエルフ先輩。


 「鍵変えたはずなのになんで侵入できるんですか!?」

 そう、このエルフ先輩はなにを隠そう我が家に侵入すること複数回。さすがにこのままだとまずいと思い、つい先日鍵を変えたのだが、その効果はあまりなかったようだ。

 

 「だって、私魔法が使えるから、鍵変えたって意味ないよ。」

 自慢げに語るエルフ先輩。魔法の使い道を完全に間違えている。


 「はぁ。もうわかったので、帰ってもらってもいいですか?」

 不審者を早く追い出したい僕であったのだが、


 「やだー。まだ後輩君の匂いが嗅ぎ足りないよ~。」

 言うや否や、僕に抱き着いてくる。フワッと香る甘い匂いに本来ならキュンとくるところなのだろうが、状況が状況なだけにそうはならない。


 「いいですか、エルフ先輩。エルフの里ではこんな行為が許されていたのかもしれませんけど、ここ日本ではれっきとした不法侵入であって、犯罪行為ですからね。」

 言っても無駄ではあるが、一応は警告しておく。そして、未だ僕を抱きしめては動かないでいるエルフ先輩の華奢な身体を抱え上げ、玄関に向かう。


 「こ、後輩君のお姫様抱っこだ~。嬉しいな~。」

 一人喜んでいるエルフ先輩。いや、よくこの状況でそんなに喜べるな、、、。


 「いいですか、もう二度と来ないようにしてくださいね。そろそろ職場にも報告しますからね。」

 玄関先でエルフ先輩を抱き下ろし、釘をさすが、対するエルフ先輩はというと、


 「ハーイ、分かりました、後輩君。」

 元気に手を挙げて笑顔で答える。いや、絶対わかってないだろ。

 それから、帰路に就くのを確実に見送ってから、再びリビングに戻りベットにダイブする。


 「はぁ、疲れた。」

 時々、いや頻繁に我が家を訪問するエルフ先輩にはほとほと困っている。だが、好いてくれている彼女を僕は無下にすることもできず、いつもなあなあになってしまう。この関係性はあまり良くない、というか、ものすごい悪いことはわかっているが、あまり大事にはしたくないのも本音ではある。

 けど、このまま放置しておいてなにか大きな問題にならないといいけどな、、、。

 そんなことを考えつつ、寝返りをうつと、目の前には脱ぎ捨てたのであろう生暖かい彼女の下着が目の前にあった。


 「ま、明日にでも返すか。」

 もう深く考えることはあきらめた僕であった。




 「おはようございます。ってあれ、今日、エルフ先輩は?」

 いつも通り出勤すると、僕のデスクには誰も座っていなかった。まあこれが普通なのだろうが、いつもはエルフ先輩が僕のデスクにべったりと座っており、それを引きはがすのが朝の日課となっていた。


 「今日は出張みたいですよ。」

 ちょうど通りかかったエルフ先輩と同じ部署の人が答えてくれる。


 「そうなんですね。」

 いやいや、今日は彼女に昨日の下着を返したかったのに、出張なんて聞いてないぞ。


 「すいませんが、ちなみに、どちらに出張行かれたんですか。」

 先ほどの人に聞いてみる。


 「えっと、確か世田谷だったと思いますよ。」

 意外な出張先が返ってきた。

 よかった、我が家とは別方向のようだ。

 だけど、世田谷になんで出張しているんだろう。そんな疑問が今日の仕事中、僕の頭から離れることはなかった。

 



 「2夜連続ってことはないよな。」

 1日の仕事を終え、今日も自宅に帰宅し、玄関前にいる僕。今までの傾向上、2日連続で家に来ていたことはないが、一応警戒はする。


 「ただいまー。」

 昨日の今日だけに、恐る恐るリビングの電気をつける。


 「、、、よかった。今日はエルフ先輩いないみたいだ。」

 ふぅ、家に誰もいないことに安心する日が来るとは。

 だが、安心したのも束の間、なにかされていないか注意深く部屋を見渡すと、朝は整理整頓されていたはずのテーブルに書類が散乱していた。

 不思議に思い近づき、何の書類か確認してみると、


 「、、、結婚式場のパンフレット!?」

 予想外の代物に思わず、大声をあげてしまう。


 「な、なんでこんなものがうちに。って、どうせエルフ先輩が置いて行ったんだろうな。」

 おそらくは、出張の帰りにでもふらっと不法侵入したのであろう。けど、なんで結婚式場のパンフレットなのかはよく分からない。

 なんとなく、散乱するパンフレットに目をやると、


 「え、これ全部世田谷にあるやつじゃん。」

 なんで式場がすべて世田谷のものなのか。少し考えたのち、思い出す今朝の会話を。


 「まさか、僕との結婚式場を探すために世田谷まで出張していたとか、、、。」

 それは考えすぎか、いやあのエルフ先輩ならやりかねないかも。

 けど、問題なのは僕たちは婚約はおろか、付き合ってすらいないということだ。いうならば、エルフ先輩が一方的に好意を抱いているだけで、僕はなんとも思っていない。エルフ先輩は僕たちが相思相愛とでも思っているのだろうか、、、。

 本格的に怖くなり、沈黙に包まれる部屋。


 プルプル、プルプル。

 「うわっ。」

 静かな部屋に携帯の着信音が鳴り響く。まさか、エルフ先輩・・・?

 恐る恐るスマホの画面を確認する。


 「、、、なんだ、お母さんからか。」

 安心すると同時に、部屋の空気が一気に弛緩する。


 「もしもし、お母さん、こんな時間にどうしたの?」

 電話をしてくるなんて珍しい。


 「あんた、おめでとう!あたしも嬉しいよ。こんな日が来るなんてね、お母さん楽しみにしているからね。場所はもう決まったのかい?」

 早口でまくし立ててくる。


 「えっ、待って待って。なんの話をしているの?」

 いったいなにを言っているのか、見当もつかない。なにかあったかな、、、。


 「なにって、あんた、もう照れちゃって。結婚する話だよ。お母さん驚いたよ。今日ね、あんたの彼女って名乗る美しいエルフさんがうちに来てくれてね。私、あなたの息子さんと婚約している者ですって。うふふ。あんな可愛いお嫁さんをもらっちゃって、あんたも隅に置けないねぇ。」

 嬉しそうに語る母親とは反対に血の気が引く僕。


 「ちょっと、え、、、。」

 困惑と恐怖で言葉がなかなか出てこない。


 「そしたらね、あんたのお嫁さんが、今度結婚式を挙げるって言ってくれてね、世田谷にある素敵な式場を色々と教えてくれたんだよ。仕事を休んで式場を探してくれるなんていい子だねぇ。」

 今日、エルフ先輩は出張で世田谷に行ったはずじゃ、、、。


 「待って、エルフ先輩、お母さんの家に行ったの?」

 ようやく、言葉が出てくる。


 「そうだよ、知らなかったのかい。今日のお昼過ぎくらいかな。突然来てびっくりしたよ。」

 エルフ先輩に実家を教えたつもりはないが、なにかしらの手段で実家を特定したのだろう。


 「、、、お母さん。今からそっちに行っても大丈夫?」

 「う、うん構わないけど、どうしたの?急に怖い声して。」

 少し驚いているようである。


 「いいから、よく聞いて。僕が着くまでに、もしエルフ先輩がもう一度家に来たとしても、絶対に中には入れちゃダメだからね。」

 今度はなにをされるかわからない。


 「う、うん、わかったよ。もしかして、あのエルフさんはあんたのお嫁さんじゃなかったのかい?じゃあ、あの子は一体誰なの?」

 電話越しの声が徐々に強張ってくるのが、痛いほど伝わってくる。


 「お母さん!しっかりして、今から行くからね。」

 すぐに電話を切り、着の身着のまま家を飛び出す。

 まさかこんなことになるなんて、エルフ先輩がこうなるまでずっと放置していた僕の責任だ。



 バタン。

 ドアが閉まると同時に、静まり返る我が家。


 「あらあら、可愛い後輩君だこと。あんなに慌てちゃって。もっと、もっと、も~っと、好きになっちゃいそう。」

 空になった部屋で透明魔法を解除するエルフ先輩。その顔には恍惚の表情が浮かんでいた。


 「さーて、どの式場で挙式しようかな、後輩君?」

 テーブルに広げられたパンフレットに目を落としつつ、慣れた手つきで椅子に座るエルフ先輩。

 そう、まるで毎日そこにいたかのように。


 2人の幸せな結婚生活でも夢見ているのであろうか、彼女の美しい顔に浮かぶ不気味な歪んだ笑顔をまだ誰も知らない。



 ~ウエディング・エンド(世田谷エンド)~

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