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ノベルライターズ  作者: カフェオレ
9/50

ランチタイム

「やったー。ついた」

 途中から駄々をこねていた麻也の期限が良くなった。奏汰がメガネを取ると、フィルター越しに見るものとはまた違ったきれいな桜が目に飛び込んでくる。風に揺られる桜。風に耐える桜。風に散る桜。風に舞う桜。桜の中でも1枚1枚個性が感じられる。小説化としての脳が働いた奏汰は思い浮かんだものをスマホのメモアプリに書き留めていく。

 一本の桜の木のふもとにレジャーシートを広げた実。実が四つ角を靴などの重りで風で飛ばないようにさせた。重たいお弁当を両手に抱えた里奈もレジャーシートのうえに腰を下ろしてお弁当箱を横に置き靴を脱いだ。麻也が里奈の横に座った。奏汰はまだ立ったまま小説を書いてる。

―あとちょっと。後ちょっとで完成する…。てかなんで休みに小説書けないんだよ。

「食べますか!」

 腹をポンと叩いたのは実。朝からの運転でお腹を空かせているようだ。免許を取ってからまだ2年しか経っておらずまだ完全に運転に慣れたとは言えない。さっきの運転だって里奈にちょっかいを出しておきながら手汗びっしょりなほど緊張していた。その運転が一段落したので安心しているよう。

「オー美味しそう」

「奏汰君ほんとに料理上手なんだね」

「意外だな」

 ふたりの愉快な会話を耳で流して、里奈は別のところに意識が行っていた。

―何してるんだろ?

 それは奏汰だった。スマホに高速でタイピングする奏汰に気づいた里奈は首を傾げた。

 実と麻也がお弁当箱の蓋を開けた。中は奏汰が手間暇かけて作ったものがたくさん。見た目も味もとても美味しそうだ。そんなふたりをよそに里奈は奏汰が気になっていた。唯一まだ靴を脱がず立っている奏汰に里奈は声をかけた。

「奏汰君?食べようよ」

 奏汰は指だけ動かして顔は上げた。今スマホの画面を見ずにフリックで入力している。それもスピードは一切落ちない。

「ごめん。ちょっとトイレ行ってくるから先食べてて!」

 そういうと奏汰はダッシュでトイレへと走った。もちろんトイレというのは建前。ほんとは小説のネタをメモするためにただトイレの近くに行っただけ。日差しの眩しさによりスマホの画面を明るくしても暗く感じる。

―ふう。これで書ける。

 せっかくネタを思いついたのに書かないのはもったいない。そう奏汰は思っている。そしてトイレの建物の物陰に隠れてしゃがみ、高速で指と頭を動かした。明後日投稿だというのにこんな時に限って別のネタが思い浮かんでくる。これはあるあるなのでは。

「奏汰君、そんなに我慢してたんだ。途中トイレ寄ってあげれば良かったかな」

 お弁当箱の蓋を持ったまま奏汰のダッシュを見送った実が言った。

―トイレじゃないんだろうな。

 麻也がそんな事を思いながら奏汰の移動した跡を見つめる。そして立ち上がり里奈の横に寄った。

「先、食べようよ」

 里奈の肩に手を置いた。里奈の顔を少し伺ってから麻也は再び座った。

「私、待つ」

 予想外のことを言うものだから実は割り箸を割る手が止まった。

「え?なんで」

 麻也はなんとなく想像していたような顔だ。里奈はその場に座った。

「だって、せっかく奏汰くん作ってくれたのに」

 微妙に納得しづらいライン。恐らく里奈は作ってくれたのにいただきますも言わずに食べるのが癪に障るらしい。麻也は里奈の性格を理解してるからか驚きもしない。

「いいけど里奈、奏汰いつ帰ってくるかわかんないぞ」

 麻也は奏汰が作家だというのを知っているのでトイレのためにトイレに行った訳では無いというのはなんとなく察していた。車の中の時も歩きながらでもスマホに夢中。もし普段からそういう事をしているのであれば、恐らく麻也は手や足の1つでるだろう。実は奏汰は隠しているつもりでも隣の麻也は車の中で小説を書いているというのは見えていた。ただ仕事だというのは理解しつつも、こういう時くらい忘れて楽しめばいいのにとは思っている。

「でも…」

 里奈のお人好しなところは良いところでもあるが悪い所にもなり得る諸刃の剣。

「奏汰君は食べてもらうために作ったんだよ?だから食べないでそのままにしておく方がもったいないさ」

 実は間髪入れずに言う。

「それに奏汰君。『先食べてて!』って言ってたじゃん」

 里奈はほんの少し前の走り去る奏汰を思い出す。

「そうだったね。じゃあたべよう!」

 里奈は決心したようで腰を下ろして割り箸を受け取る。そして不格好ながら割れた割り箸で人参をひとつまみ。笑顔は桜よりも輝いているように見えた。そしてそんな里奈の顔を見た2人もまた笑顔でお弁当をつまみ始めた。

「うん。美味しい!」

 冷えていても何のその。柔らかくて甘いにんじんは口の中でほろりと崩れた。味付けは塩だけなのにこれだけの、味がだせるのはやはり相性がいいからだろう。美しいのは見た目だけじゃなかったことが証明された。里奈は満面の笑みで食した。

「里奈これが毎日食べれるなんて羨ましいな〜」

 実が食べたのは茹でられたじゃがいも。こちらも味付けは塩のみ。茹でただけのじゃがいもと人参。手抜きのように思えるが沢山の量のおかずを作るのだ。手抜きはうまくしていかないと時間が足りない。しかし他の料理も文句のつけようがないほどのものばかり。

「実が調理場を退くのも時間の問題かも」

「もうカフェじゃなくてレストランにしたほうが良いかも」

「のるな。今のは冗談のつもり」

 イジりのつもりで言ったのが実は真面目に受け答えしてくるものだから麻也は焦った。自分で掘った落とし穴に自分で落ちたような感覚だった。




 

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