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ノベルライターズ  作者: カフェオレ
6/50

イントロダクション

「本、どこ?」

「いや、その…」

 奏汰は里奈に本を読ませてもらおうと棚を模索する。しかし一向に本は見つからない。いや、本と言うより原稿用紙や紙の冊子と言うべきだろう。

「まだ書いてないの。応募する本」

 奏汰は思いがけず動きが止まった。

「どういうこと?春の部には応募しないってこと?」

「春は今回間に合わなくて。じゃあ夏に出そうってなってるんだけど。イマイチ書けないの」

「それは、何が出なくて困ってる感じ?シナリオ?それとも構成?」

「両方」

―なんだ、そんなことなら俺に任せろってんだ。誰だと思ってんだ。天野さんだぞ。

「シナリオから決めよう。どんな物語書くとか決まってんの?」

「あ、それは決まってるよ」

―なんだ。じゃあ後は構成考えて文作ってくだけじゃん。話が早い!流石エキスパートクラス

「恋愛者を書こうとしてるんだけど」

 恋愛者を書こうとしてるんだけど。恋愛者を書こうとしてるんだけど。脳内で繰り返し再生されてく言葉。それは奏汰が来るなと散々願っていたもの。何故様々あるジャンルの中で唯一の弱点である恋愛者を書こうとしてるんだと心のなかで怒りを立てる。

―ごめんなさい無理でーす

「あの〜…恋愛小説以外を書くというのは」

「私もそうしようと思ったんだけど」

 里奈がスマホを触り始めた。少し里奈がスマホを操作したあと、奏汰にスマホの画面を見せてきた。

『夏といえば恋!たくさんの青春イベントが行われるこの夏、いい恋したいですよね!ということでこの夏の応募テーマは『恋』です。応募お待ちしてます!』

―なんだこれ…!?こんなの泣かせにきてるだろ!恋愛小説なんて書ける奴いないんだから。

※書ける人は書けます。ふたりが恋愛経験ゼロなだけなのでご安心ください。

「えっと…秋に持ち越しっていうのは」

「それ私も思ったんだけど、応募するサイトも選べないしこのサイト恋愛テーマにしてくること結構あったから困ってて。どうにかならないかな。お願い」

 里奈が手を合わせて懇願してくる。

―無理だよ〜。恋愛は書けないよ。価値観とか気持ちとか知らないもん。どうしよ。手伝うって言った以上なにかしなきゃだし。それにこんなに必死に頼まれたら、断れない…。

「恋愛は俺もしないから…他の友達に聞いてみるとか」

「私のクラスはみんな勉強だから。恋愛の話とかあんまししなくって。奏汰くんなら家でもチェックしてもらえるから良いかなって思ったんだけど」

 開いていたカーテンからは西陽が差し込み思わず奏汰の眉を潜めさせる。

―八方塞がりだ…。

 突破口が見当たらない。どうすればふたりは救われるのだろうか。

「なんとか探してみるよ。とりあえず今は…」

「待って。あるかも」

 里奈が言葉に割って入る。顎に手を当てている。険しい顔だ。

―少し無謀かな…。でも頼んでみないことには。

 里奈の中で決心が固まった。

「私達で恋愛っぽいことすればいいんじゃないかな」

―へ?

「どういうこと?」

 奏汰は頭上にハテナが浮かんでは止まらなかった。

「お互いに経験したことのない同士だから、まだ恋については何も知らないでしょ?だから恋愛っぽいことをすれば書きやすくなるんじゃないかなって思ったんだけど」

―おもうように伝わらない…。言いたいことはあってるのに。

 言葉にしたとして、奏汰は理解できていなさそうだ。ぽかんと口を開けた状態で静止してしまっているその表情が物語っている。里奈は発言よりもこの案に嫌気が差してきた。

―言いたいことはなんとなくわかるんだけど、何言ってるのかわからない。

 脳内で言葉を整理し、自分なりに解釈しようとするがどうもまとまりきらない。

「つまり、恋人みたいにすればいいってこと?」

「そこまでだと行き過ぎじゃないかな。あくまでも恋とか恋愛だから」

「お互いがどんなことでキュンキュンするかお互いを使って確かめるってこと?」

「そう!ちょっと違うけどそんな感じ!」

 自分でも無茶苦茶なことを言っているというのは里奈も十分承知している。しかしこれもコンクールのためだ。それに奏汰にとってもいいことではある。彼もまた恋愛を経験していない者。自分がキュンとくる仕草、女子目線でキュンとくる仕草を知ることができれば、課題でもあった恋愛小説が書ける。里奈のコンクールと、奏汰が受けていたリクエスト両方に得するまさに一石二鳥である。

「いいけど…」

―里奈さん。ほんとに恋愛経験ないの?

 奏汰は改めて里奈の足先から頭までを見た。学校でも1番頭のいいクラスに通う優秀な頭脳。それだけでなく学校の片手に入るであろう美しい容姿。そんな彼女が交際したこと、ましてや告白されたことなどないだろう。奏汰の中でその考えだけがずっと抜けていない。しかしそれを聞くのは失礼な気がして結局答えを知らぬままになっている。

「うん。わかった。やろう」

「ほんとに?ありがと!あ、勿論他の人には内緒ね。そういうのは、ふたりのときだけ」

「麻也の前でも駄目なんだ」

「あの子、弁明しないとすぐ変な勘違いするから」

 確かに同居のことを麻也が知った時も1人でに勝手な妄想をしていた(あれは仕方のない気もする)。

「悪魔でも、小説のためだからね」

「わかってるよ。俺もそのつもりだし」

「そのつもりって?」

「あーいや。里奈さんのためにってこと」

 うっかり口を滑らせてしまうところだった。

「ありがと」

 満面の笑みが夕暮れとともに奏汰に写った。



―ってなったのはいいんだけど…。何すればいいかわからない!いい案だと思ったのに…。そうだ。ネットならきっと何か載ってる!

『男子高生 キュンとする仕草』

 ベットにてゴーグル大先生の力を借りる。検索すると即座にたくさんのサイトがお披露目となった。

『恋に飢えている男子高生のキュンと来る仕草!』

『男子の恋とは??』

『異性を恋に落とすためにはまずこれ!』

 様々なサイトがありどれから見たらいいかわからない。情報リテラシーが試される時代。錯綜する情報から自分が正しいと思える物を抜き取るのは困難。

―あれ?これ調べたら意味なくなっちゃう?せっかく協力してくれるって言ってくれたのに私今カンニングしてる…?

 謎の正義感がゴーグルを閉じさせる。

「ずるはだめだよね」 

 壁に背中を預け、伸ばした足をクロスさせた里奈はボソリと呟いた。


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