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ノベルライターズ  作者: カフェオレ
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オムライス

 白紙のパソコンとむきあうこと数時間。結局なんのアイデアも浮かばなかった。ただの空白の時間となってしまった。この時間があれば別の小説をかけれたかもしれない。それほどの貴重な時間を失ってしまったのだ。

―もう誰だよ恋愛小説なんてリクエストしたやつ。大体なんで恋愛なの!?現実でしてねえのか?いいよな恋愛経験のあるやつは簡単に設定できて。

 自暴自棄になって部屋の中をぐるぐると回る。何回転しただろう。だんだん早くなるスピードに目だけが追いつかず酔って倒れる。

 

 一方喫茶店では


「ありがとうございましたー!」

 里奈の声に客は笑顔になって出ていく。手を上げて挨拶を交わした30代のお兄さんが去っていく。店内の人も少し減ってきた。夕暮れの沈む時間帯。そろそろ店を閉める時間帯。

「里奈。お姉ちゃん帰るから時間になったら閉めとくのよ」

 実は家まで車でも少し距離があるので、閉店時間より早く帰ってしまう。だから店を閉めるのは毎回里奈か、もう一人いるバイトの役目。

「わかった。お姉ちゃんまた明日ね」

 笑顔で手を降る。なにかが不満だったのか里奈の姉、改め成田実(なりたみのる)は頬を膨らませて里奈に歩み寄る。その足音一歩一歩が大きな木の音をたてる。

「な、なに?」

「里奈が男と同棲なんて!お姉ちゃん不安だよ!」

 実が里奈に抱きつく。

「ちょっと。声がでかいよ」

 里奈は客を横目で見る。幸い、客同士の会話で紛れ込んだようで、誰も里奈たちの方を気にする素振りはなかった。

「初対面の男子高生と同居?もう里奈が襲われないか心配で夜も寝れないわ!」

―襲われるって…。高校生が殺人なんてないでしょ。

 成田里奈。彼女は度のつく純粋な心の持ち主であった。

「私を差し置いて恋愛ですかそうですか!もうおいてかれちゃうよー」

 涙を流しながら本人に向かって愚痴を吐くその強い心。

 里奈は自分の口に人差し指を当て、実に忠告をする。

「それに恋愛なんて…。向こうはそんな気ないだろうし」

 少し不安げな顔で指を降ろした。

「わからないよ〜?そう言って里奈から好きになるかもしれないし」

 そう言い残し実は喫茶店を去っていった。

―もう、そういうのじゃないのに。私だって恋、したことないのに。

 


 喫茶店の閉店時間となり、里奈はドアの鍵を閉める。

―あ、そっか。喫茶店しまってる時があるからこっちから入らない方がいいんだった。後で奏汰くんに教えておこうっと。

 少しウキウキ気分で里奈は家に帰った。そして向かう先は一直線に奏汰の部屋だった。

「奏汰くーん」

「うわぁぁ!な、何急に!」

 扉を開けた瞬間、バタンとパソコンを閉じた奏汰。怪しさ◎だ。回転する椅子で里奈の方に向く。

「どうしたの?」

「いや…別になんにもしてないよ?そっちこそどうして部屋に」

「あのね、わかったよ!喫茶店が閉まってる時があるからあそこからは入らない方がいいって。家と喫茶店の鍵は別々だから」

 里奈は人差し指を立ててそう説明した。その屈託のない笑顔からは予想もつかない、ちょうどうでもいいことだった。奏汰は一瞬なんのことかわかっていない様子だった。集中力が切れていたため、ちょうどいい休憩かもしれない。

―扉…。あああのこと。わざわざ言いに来たんだ。別にそこまでしなくても。

「わかった。じゃあ気をつけるよ」

「うん。それで、夜ご飯なんだけど…何食べたい?」

「えっと…。なんでもいいよ。好き嫌いも基本大丈夫だから」

「オッケー。じゃあ待ってて」

 里奈は指でサインを作ると部屋をあとにし1階へと戻っていった。

―私料理できないよ…どうしよう。今日に限ってお姉ちゃんいないし…

 腕を組んで考えるが、打開策は見つかっていない。里奈はキッチンをぐるぐると回り続ける。せっかくお客さんがきてるんだから美味しく作らないといけないよね…。しばらく回ったあと、里奈はぽんと手を叩いた。

―あ、そうだ。いつも喫茶店で出す料理を作ればいいんだ。それなら失敗することなんてないから大丈夫。

 里奈が作り始めたのはオムライスだ。これだけなら喫茶店でも作ったことがある。

―奏汰くんは料理できるのかな。もしできなかったら毎日オムライスになっちゃう。流石に他の料理もできるようにしないと…

 実がいない日は、ずっと出前を取るか、コンビニでなにか買ってくるか、外で食べるかのどれかだった。故に自宅のキッチンで料理をするのは今日が初めて。

 今里奈は、かなりやばいことをしようとしている。なぜなら初対面の人に対していきなりしたこともない料理を作っているのだ。いくら喫茶店の厨房に立ったことがあるとはいえ、それも両手で足りる回数。つまり、やばいのだ※語彙力もやばい模様。

「奏汰くん。ご飯できたよ」

 部屋へと呼びに行く。するとまたパソコンはバタンと閉じられた。まるで見られたくない秘密があるように。まあその通りなんだが。

「ねえさっきから何してたの?」

 部屋に入ってきた里奈。奏汰ピンチだ。慌てていたせいで彼のパソコンは開くだけで小説を書いているページに飛んでしまう。

―やばい。どうしよう。いっそのことさらけ出すのは…。いやいやだめだめ。どうしよう。

 見ての通りテンパっている。

「本?」

 偶然パソコンの隣に置いてあった本に目が行ったようだ。本に手を伸ばす里奈。彼女が取ろうとしている本は天野望の本だった。

「この人って」

―まずい。それは俺が書いた本。バレる!

「この本、私も持ってる!」

「え?」

「面白いよねこの人の書く本。私も憧れちゃう」

―それ俺の本…!しかも評価あんましよくないやつだからきょうにでも棄てようと思ってたのに!

 成田里奈。彼女は天野望のファンだった。

「よかった…」


正体がバレなかったという安堵から自然とそう声が出ていた。

「ん?何が?」

「な、なんでもない!」

 首をふる奏汰と首を傾げる里奈。

「奏汰くんもこの本好きなの?」

 向かい合わせで座ってオムライスを食べているとき、里奈が尋ねる。

「好きっていうか…」

―本人だし。

「表現の仕方とか、文の書き方とか、どういう気持ちで書いてるんだろうって考えるのが好き。この人は結構難しいから」

―自分で何いってんだって感じだけど、事実だからなあ。俺の文章表現好きって人もいるし、難しくて読みづらいって人もいる。好き嫌いもあるんだろうけど、できることなより多くの人に好きになってもらいたい。

「確かに少し難しいかも」

―ぐはあ!

「でも、そういう比喩表現を思いつくのってその人特有の才能とか価値観から生まれるものだから、すごいと思う」

―私なんて、まだ書くことしかできないのに。考えることしかできないのに。

 里奈はスプーンを置いた。

 成田里奈。彼女は物書きである。ペンネームは『香織七奈(かおるなな)

 駆け出し中の物書きで、まだ誰かに読まれることすら珍しい。ちなみにふたりが投稿しているのは同じサイトだが、奏汰はフォロワー10万人に対し里奈は未だ0人。この界隈で10万人というのは100万人超えのユーチューバーと同じくらいすごい。

「この人恋愛小説書いてないよね」 

 ギクッとする奏汰。しかし話は進む。

「読みたいのに」

 愁色な顔になった里奈を見て戸惑う奏汰。彼が本人が故の動揺というのが生まれている。

「い、いつか書いてくれるよきっと」

「そうかな。早く読みたいなー」

 里奈の表情が戻った。と同時に奏汰にある疑問が浮かぶ。

―なんでそんな恋愛ものを読みたいんだろう。

 恋愛経験のない奏汰にはかけない未知のものである。

―こんなにかわいいひとならモテたりするものじゃないの?恋愛したことの1つや2つくらいあるんじゃ。

 ふとした疑問は心に閉まったままにしておいた。

「あ、1つごめんなんだけど。私料理は全然だから、普段は出前とか取るかもしれないけど許してね」

「はあ…全然構わないけど」

―俺の思ってる女子と違う…?女子って料理とかお菓子作ってみんなでワーキャー言うんじゃないの?

 そしてオムライスを食べ終わった後は、つけてあったテレビを見ながら寝るまで、ずっと恋愛小説についてが頭から離れなかった。彼は普段からもう小説構成のことしか頭にない。だから奏汰は小説の投稿が早い。考えたものをメモにし、夜のうちに小説を書く。書けるときに書けるだけ書く。投稿ペースの速さが売りでもあるため欠かせない。

―さて、そろそろ部屋に戻ろうかな。

「奏汰くん。家でバイトしない?」

 部屋に戻ろうと椅子から立とうと手をテーブルに置いたとき、奏汰のいるリビングに戻ってきた里奈が驚きのことを口にしたのだ。

「バイトって。あのカフェで?」

「そう。明日は土曜日で休みだし、もう一人のバイトも来てくれるの。紹介にはちょうどいいかと思って。いいかな」

―ええ…それって小説書く時間減るってことじゃん…。

「いいけど…。その代わり1つ俺の言う事を聞いてほしい」

 等価交換の法則だ。里奈のバイト願承諾の代わりに、奏汰の願いを1つ受け入れてもらう。取引などでもよく用いられる。

「なに?」

「いや、まだその時じゃないから。そのときになったら言うよ」

「何それ」

 里奈の顔に笑みが溢れる。





 里奈の家に居候して初めての朝が来た。開けていたカーテンから朝日が差し込み目が覚めた。

「そっか」

 と早めの状況把握。机にうつ伏せになって寝ていたので腰が痛い。恋愛小説は進まず他の物語だけが投稿されていく。このままでは依頼者に申し訳なくなってくる。しかし彼の頭の中には恋愛小説を書かないという選択肢はなかった。どうしたら恋愛小説を書くことができるか、どうしたら書き手に恋慕が伝わるか。そういうことを常に考えている。

―今日本屋さんにでも。

『バイトしない?』

―ああ、今日はだめなんだった。

 八方塞がりだ。里奈や実にはまだそんなことを聞けるような仲ではない。

 時計は朝の7時を指している。あまり長い時間寝ていたという訳ではないようだ。重い腰を上げ服を着替える。硬い枕だったためか頭も痛い。

「奏汰君。起きた?」

 小さなノックとさえずりが耳を傾けさせる。

―こんなに小さかったら寝てても起きないんじゃ。

「うん。起きてる」

「着換えたら一回降りてきてね。制服とか渡すから」

 制服。恐らくバイト正装のことだろう。奏汰は承諾の返事をすると着替えを止めていた手を再び動かしだす。

 服にも特別気を使わない奏汰。だから色が被るとか気にしないのだ。おしゃれな服は持っている。ここに来る前に新しい服を母親が買っていてくれたのだ。故に組み合わせ次第ではおしゃれになる。ちなみに今日のコーデは黒いシャツにジーパンというシンプルな服装。細身の体がより強調されている。

 着替えと、その他諸々の身支度を終え、あとは朝ごはんを食べるだけとなった。

 1度2階に戻りスマホを手にしもう一度下に降りる。階段下に見慣れない人影があった。



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