ポチ
「どこの国に行けばうさぎにキャットタワー買うやつがいるの!」
もう一度言おう。実の反応は正しい。しかしなぜか当人の2人は。何がおかしいのかという顔だ。多数決の原理があるとするならば今この場で正しいのはふたりということになってしまう。
「だってあのうさぎムキムキだし、水色だからきっと登るの好きですよ」
「水色は関係ないでしょ」
帰り道ですっかり奏汰も里奈理論に洗脳させられてしまった。
実は未だにあの筋肉ムキウサギの筋肉量と青色に疑問を抱いている。ふたりが帰ってくる前にはウサギを少し触れたのだが、特に暴れたりすることはなかった。しかし筋肉量と重量はウサギ離れしている。
「まぁ、買ってきたものはしょうがないか」
実は腰に手を当てる。渋々の苦い顔だ。
「お姉ちゃん帰るから、後はお二人でどうぞ」
実は既に左手にカバンを提げている。家を出ようかというときにふたりが帰ってきたのだ。
「うん。またね」
すれ違う形で家を出る実。それを見送る里奈とキャットタワーの箱と買い物の荷物を運ぶ奏汰。リビングにひと通り運び終わり、キッチンに買い物袋を置き、食材たちを仕分けしていく。お肉を冷蔵庫に入れて、すべての食材を仕分けし終えた。キッチンから見えるリビングでは里奈がダンボールの前に女の子座りをしていた。きっと開けたいのだろう。
「どこに置く?」
里奈がキャットタワーの箱を開けようとしている。
「ケージ置く場所もあるからそこも考えないとだしね」
2つともかなりの大きさである。スペースをかなりの量取られるのは間違いない。
「でも2つとも置けるところって限られるよね?」
「まぁ2つを並べて置く必要はないけど」
奏汰の言うとおり、別々におくことも可能。部屋を分けるなどの工夫は全然オッケーだ。むしろそうするほうが良いかもしれない。
「それでも良いんだけどね…置ける部屋がここしかなくて…」
リビングダイニングキッチンが一つになっているこの部屋。その部屋以外はトイレとお風呂の部屋が1階にある。2階には二人の部屋とトイレが一つ、そして一つ空き部屋があるがそこは物置として使っているためスペースがない。だから強制的に今いる部屋に置くしかないのだ。奏汰も約1ヶ月住んできて部屋の構造はほとんど理解シていると言っても過言ではない。だから部屋の数も把握済み。
「置いてみる?」
里奈が奏汰にそういった。そして2人はキャットタワーを組み立ててみた。キャットタワーを組み立てること自体が初めてなので少し苦戦した。まず高さが自分たちの身長と同じくらいの高さまであるため、身長面でもたいへんだ。幸い組み立て作業はシンプルでただ筒や部品をはめ込むだけだった。道具等は一切必要なかったためとても楽にできた。やはりたかさが問題だったため、足場を使ったり横にして作ったりなど二人の頭脳を合わせて工夫をしていった。
「お、終わったー!」
里奈が両手を上げて喜んでいる。奏汰はこういう図工的な作業が苦手なためものすごく辛い時間となった。
「や、やっとできた…」
案の定ヘトヘトである。
そして組み立て終わるまでに約1時間程がかかった。その時間を使って完成したキャットタワーは素晴らしいものだった。ペットがウサギということを除けば。薄いピンクの色をした本体に、うさぎの遊び心をくすぐられるであろう穴やハンモック。ひとつひとつ跳び移れるように少し離されていたり高さが変わっているのも好ポイント。
「俺ウサギ連れてくる!」
うさぎが家に来て2日。未だに動物の全体低名詞で呼ぶふたり。
―名前…つけてあげなきゃだね。
里奈は部屋を出ていった奏汰にそんな事を思った。
「ほーらよしよし」
奏汰は重いウサギを両手で抱きかかえて部屋に入ってきた。
「はいうさぎさん、タワーですよ〜」
赤ちゃんに話すような口調で話す奏汰。
「うさぎ、名前つけなきゃだね」
里奈に言われてはっとした奏汰。
「ほ…ほんとだ…!」
どうやら名前をつけるという概念を忘れてしまっていたようだ。それは赤ちゃんをずっと『人間』や『あかちゃーん』と呼んでいるのと何ら代わりはなくなる。
「こいつに名前…」
―アオ、水、ムキウサギ、アオムキ、サギ、ウサ…うーん。どれがいいだろう。悩める名前ばかり…。
こんな糞みたいな名前しか考えられない奏汰には任せられない。名前が嫌だったのかスゴいパワーでウサギは奏汰から離れた。
「んー。タマとかポチとか?」
上へと向いた視線はいいアイデアを頭に浮かばせてくれる。手を顎に当てて少し考えた後里奈はそういった。人差し指を立てて言う姿に似合う名前だ。
「筋肉量と釣り合ってないような…でも可愛い名前」
奏汰のクソネームたちは里奈の案で全て吹っ飛んだ。故にもう択は出揃ったと言っていいだろう。
「俺はポチがいいかな。響きがかわいい」
「じゃあ、決まりだね」
里奈の顔に笑顔が浮かぶ。そして大人しく座るウサギの両脇に手を入れて里奈が抱き上げる。
「今日から君はポチだ!わかったね?」
里奈の笑顔にポチも照れている。どうやらオスのようだ。
「…重たい」
とても長い時間持てるような重さではない。里奈は10秒と持たずポチを降ろしてまった。
「今度服買ってあげなきゃね」
「それなんだけど、ポチがいた部屋になんかあったんだよ。実さんが買って置いていってくれたのかも」
奏汰がポケットから出したのはピンクのリボンとピンクのパンツ。水色の体には会う色だ。それにポチはオスだからパンツだけというのもありだし、リボンも可愛くてありだ。
「ポチー。着替えてみよっか」
里奈が奏汰からパンツとリボンを受け取る。ポチも抵抗はせずいい子だ。
左後ろ足、右後ろ足と順番に履かせる。どうやらサイズもいい感じのようだ。
「うん!かわいいじゃん!」
里奈が改めて抱き上げる。水色というアクセントを引き立てるピンク。比率も完璧と言っていいくらいだ。
―なんか…ボディビルダーみたい。
それはパンツを履くと強くなった。筋肉が余計にそうさせているんだろうし、それで間違いないのは確かだ。4足歩行なのに立ち上がると人間のようだ。
奏汰はあることを思い出しキッチンへと向かう。そして野菜室から人参を取り出した。
「ほーらポチ。人参だよー」
奏汰は少しビビりながらも人参を差し出す。するとポチの目が変わって人参に飛び込んできた。またしても空中でジャンプをする超人技。
「痛っ!」
奏汰に飛び込むポチ。奏汰は避けれずうさぎの圧に倒されてしまう。
「大丈夫?」
「こいつ…筋肉は見せかけじゃない…」
奏汰を倒したかと思うとすぐに倒れた奏汰から降りて人参を食べ始めた。
里奈はポチに近づく。
「危ないよ、危険だよ」
今飛び込まれたことでポチに対しての恐怖心が芽生えてきてしまった奏汰。腰抜けた奏汰を無視して里奈はポチ寄る。そして背中を撫でた。筋肉で固まったその背中は猫のような柔らかさの面影は1つもなかった。人参を半分程度食べた所で、ポチはリラックスして完全に眠ってしまった。
「大丈夫。奏汰君も触ってごらん」
「ええ…大丈夫かなぉ」
そして恐る恐る触る。ゆっくりとポチに近づく。完全に死角を取っているのでいきなり振り向かれて襲われるなんてことは…
「ぐは!…」
ないことはないみたいだ。