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ノベルライターズ  作者: カフェオレ
10/50

筋肉ムキウサギ

「これならもう少しメニュー増やしても良いかもね」

 お弁当にはいろんなおかずが少しずつ入っている。それらを一口ずつ全種類食べた実はこれからが楽しみだと言わんばかりに腕を組んだ。

「スイーツとか作れればいいんだけどな」

 悪魔でも喫茶店。ご飯系ばかりをだすよりはスイーツなども出せたほうが良いだろう。しかし今まで奏汰がスイーツを作っている所を里奈は見ていない。料理はできてもスイーツがどれだけ作れるかは未知数。もし作れるのなら、人気が出ることは間違いないだろう。おかずでこれだけの見た目が出せるならスイーツを出した羽目には映えるとかで写真をネットに拡散してくれるかもしれない。もし奏汰がスイーツを作れなかったとしても料理のメニューを増やせばいいだけ。この状況、誰も損をしないいわば無敵の状態。

「今度作ってもらおっと!」

 実がまたじゃがいもを食べる。よほど気に入ったようだ。

「奏汰戻ってきたぞ」

 少し離れたところから奏汰が歩いて戻ってきていた。演技なのか本当に時間トイレで用を足したのかハンカチで手を拭いている。そして離れていたと思っていた距離は一瞬で縮まり、気がつけばもうすぐそこに来ていた。

「遅かったな小僧」

「何ですか小僧って」

 奏汰が実にツッコミを入れながら靴を脱ぐ。そして里奈の隣に腰を下ろした。

「割り箸どうぞ」

「ありがと」

 袋から一膳、里奈が割り箸を取る。そして奏汰は里奈から割り箸を受け取る。

「お弁当すっごく美味しい!」

 感謝と言わんばかりに里奈がそう告げる。屈託のない笑顔は奏汰に照れを呼んだ。

「ありがと!」

 顔にこそ出なかった照れだが、それはすぐに嬉しさへと変わった。

 そして里奈はまたおかずに手を伸ばす。

―人参、美味しかったな。もう一個食べ…

 ようとしたその時。目の前を何かが横切って視界を一瞬黒く染め上げる。次に色が訪れたときには何者かに人参を奪われていた。それはお弁当箱から人参を取り出した瞬間のことだった。しかし里奈は何が起こったか理解してなかった。気づいた頃には箸は真っ二つに折れていたし、にんじんは取り出したものだけじゃなくお弁当箱から全て消えていた。その場にいた全員の動きが止まった。まるで時が止まったかのようだった。

『え?』

 全員がそれしか言えず首を傾げた。そして横切った方向にゆっくりと全員が目を向ける。そこには視界を埋め尽くした黒ではなく水色の何かがいた。

「なに、あれ」

 里奈の声が震えている。体を僅かに奏汰の方に後退していっている。

「何が起こったの今?!」

「おおおおおおおちちつくんだ」

 奏汰は、誰よりも焦っている。怖がる里奈、焦り散らかす奏汰、固まって動かない実。そしてただひとり冷静な人がいた。

―お前が1番落ち着け。

 麻也だ。麻也は里奈の横斜め前にいたのでその正体を理解している。しかしそれならなぜ同じように斜め前にいた奏汰と正面にいた実が気づいていないのかという話になるが、2人はそれどころじゃないようだ。

「はあ。よく見て。うさぎじゃん」

 麻也は水色の生物を指さした。反応したのか人参を食べているウサギが振り返ってこちらを見た。黒色の目に長い耳。たしかにそれはウサギだ。

「なーんだウサギか……って!こんなムキムキなうさぎがどこにいるんだよ!!?それに水色だし!」

 奏汰が大声を上げる。

「そうだよ。こんなウサギ見たことない」

―それは確かに…。

 確かにウサギなのだ。ムキムキすぎるという点を除けば。普段動物園とかで見るような華奢なウサギじゃない。体毛ごしでもわかるその筋肉の多さ。ウサギ版ボディビルダーと紛いそうになるほどの筋肉の量。明らかに筋肉質であるのはひと目で分かる。普通のウサギではないということも同様に。こんなウサギ実際にいるはずない。そしてこんなにも無理矢理うさぎが出てくるのもおかしい!

「何でウサギ?」

 里奈は後退を止めず奏汰にくっつく形となってしまった。奏汰はその衝撃で手を後ろに着いてしまった。

「野良?だよな」

「でもこんなムキムキな野良ウサギなんて見たことない」

 しかしムキムキなウサギは大人しく奪い取った人参を食べている。

「でもリードなんてついてないよ?」

 里奈の声はまだ少し震えている。実はまだ、固まっている。

「首輪もないな」

 麻也が言いながらゆっくりと近づいていく。実はまだ固まっている。

「ちょっと麻也?何してるの?」

 里奈が泣きそうな声で麻也に手を伸ばす。しかし抜けた腰のせいでその手は届かない、奏汰は密着を指摘しようとしていたが出来なかった。

「なんだ。大人しいじゃん」

 麻也はすっとウサギを持ち上げた。するとだらんと力が抜けたようにウサギはなんら抵抗もなく持ち上がった。しかし…

「お、重い…」

 持ち上げてみると筋肉の量を重さで知ることができる。ウサギ自体が大きいのだが、それ以上に重みを感じる。

「里奈さん。そろそろ…」

 奏汰の脚は限界を迎えていた。ふわりと香る匂いなんて関係はない。

「あ、ごめん」

 里奈がすっとどく。奏汰の脚には血が巡って安堵する。

「それでこのウサギどうする」

 麻也がウサギをすっと里奈達の方に出す。重みの限界で腕がプルプルと震えている。

「あ、もう限界」

 麻也がウサギを離す。するとウサギは持ち前の筋肉を活かして空中でジャンプをして里奈と奏汰の方に飛んできた。

「キャッ!」

 ウサギは里奈の方目掛けて一直線。里奈は避けれそうにない。里奈は体が勝手になにかに吸い寄せられる。奏汰が里奈を引き寄せてウサギから逃したのだ。

「ああ!ご、ごめん。これは体が勝手に」

 自分から遠い方の里奈の方を左手で抱き寄せる。それはまるで車に引かれそうな彼女を守る彼氏のようだ。しかし奏汰はやってしまった!と里奈を急いで離す。

「あ、ありがと」

 怒られると思った奏汰は里奈の反応を意外とおもった。

―お…怒らないのか。

 それとは対象に里奈は少し照れているのか頬が紅色になっている。

 そんな里奈を不思議そうに見る麻也。そして固まっている実。

―照れてる?

 麻也は首を傾げていた。奏汰はウサギを抱き上げる。

「確かにちょっと重たいな」

 予想以上の重たさに思わず笑いが溢れる。

「持ってみる?」

 里奈が物欲しそうな目を向けてきたことに奏汰は気づいた。里奈が嬉しそうに思いっきり首を縦に振り「うん!」と言った。その姿は子供のようだった。

「お…重たい」

 麻也と全く同じ感想。

「すごい」

 里奈がウサギを触って感想を零す。今まで麻也と奏汰が出さなかった感想だ。

「何が?」

「腕と脚と胸の筋肉がすごいなあって」

「???」

 奏汰は頭に数個のハテナを浮かべた。予想外の反応にかなたは反応に困った。そして思わず吹き出してしまった。

「何で笑うの」

 里奈が頬を膨らました。眉間にしわを寄せているが怒っている訳では無い。

「着眼点が不思議だなって思って」

 色々な人と関わることでいろんな性格を知れる。それは小説家奏汰にとって好都合だ。

「エキスパートクラスだからね」

 どこから持ってきたのかメガネをかけてクイッとした。その自慢そうな顔でさえ里奈は似合っている。

「おい、実起きろ」

 2人が和気あいあいと話している間に麻也は実をぶっ叩いて起こしている。

「ふわあ!!地球の危機!」

「んなわけあるか」

 実が目を覚ましたが夢のようなことを言っている。麻也が頭をコツンと叩きツッコミを入れた。

「いつまで固まってんだ」

「固まってたの私?記憶ないんだけど?!」

「ウサギごときで固まってた」

「ウサギ?嘘でしょ?!」

 嘘のようなほんとうの話。

「ほら見てみろ」

 麻也が指さした方向では里奈と奏汰がウサギをかわいがっている。実はそのウサギを見て驚いた。

「え、何あのムキムキ」

「それみんな言ったからもう飽きてる」

「新鮮な反応をほったらかすのはどうかと思いますけど!?」

「まぁまぁ。気を失ってるのが悪い」

 そんなふたりのことを気にもせず里奈と奏汰はウサギを撫でている。かわいいねえだとかムキムキだねぇとはそんな感想ばかりが聞こえてくる。ウサギも2人には完全に懐いてしまった。そしてふたりは禁忌を零す。

『これ、飼いたい…』

 そう思ったふたりの視線は実を一直線に突き刺す。

「な…何その飼いたいと言わんばかりの視線は」

 言葉にせずとも実はその目の輝きで読み取った。

「だめ?」

「一匹ならいいんじゃないか?店の看板キャラにもできるし」

「まぁ、確かに…」

 実が腕を組んだ。そしてしばらく考えた後。

「わかった!飼おう!」

 その頃にはもうウサギは寝ていた。

「いいの?お姉ちゃん」

「かわいい妹たちの頼みだからねえ。断れないよ」

「やったね!奏汰君」

 里奈が両手の平を奏汰に向けた。

「イエイ!」

 奏汰も手を出してハイタッチ。パチンという大きな音が鳴った。

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