歩く黄金仏像
1
いつの頃からか、京の町外れの、広い古寺に黄金仏像が現れるようになった。
夜、信者たち40人ほどが境内で待っていると。
寺の石段を光る黄金仏像、人の大きさの仏像が登ってくる。
一人ではなく10人ほど。
境内を通って本殿へ。奥に座る。
信者は並んで一人ずつ進み、台の上に捧げ物を置いて願い事を話す。
黄金仏像が捧げ物に布をかぶせる。
布を取ると品物が消えている。そして次の人。
半刻(1時間)ほどして仏像たちは立ち上がる。
信者たちは境内の左右に座って見送りをする。
仏像たちは、歩き出して境内へ横切り、
そして石段を下りていく。
好奇心で後をつけた者もいたが、気を失った状態で発見された。
仏像が来るのは1日目と15日の夜。満月の時期。
2
そうした事件が3ヶ月も続き、信者の数は増えるばかり。
京の朝廷の警察組織、検非違使も動いたが、
古寺を調べようとした者は遺体で発見されるばかり。
信者は5千人に達して、境内に入れるのは
よほどの豪華な贈り物を用意できる者だけになった。
その古寺の責任者、摩利支天法師は、黄金仏像のお告げとして
美女で評判の姫君を、巫女として来させるように、と話した。
そうしなければ京は、ひどい災いが起こって壊滅するであろう、と。
その姫君に恋をしている貴族は多く、黄金仏像を恨んだ。
手を尽くして対抗手段を探した。
田舎の無学な老人の猟師がやってきた。
まず信者のふりをして古寺を偵察。あちこちを歩き回って話をして。
「大体の見当が付きました。何とかやってみましょう」
3
次の満月の夜が来た。
人身御供に出すなどとんでもない、と貴族たちは姫の屋敷を固めた。
信者たちは屋敷を包囲。押し入ろうとする暴徒と兵士たちが争う。
その混乱の中、空から影が舞い降りた。
「このような面倒な仕掛けをせずともよかろうに」
「まあ神仏の仕業に見せかけろ、と上の指示だ、我らは従うだけだ」
4人の黒覆面男が姫を誘拐。古寺へ運ぶ。
2千人ほどの信者が古寺の外に。
境内には有力な信者100人ほど。
黄金仏像たち10人が階段を上がって境内へ。
2人が気を失っている姫を荷物のように持っていた。
本殿の奥に行く。
捧げ物の台に姫を置いて布をかけようとして。
「待たれよ!」信者の列から若い声。
立ち上がって、かぶっていた傘を取る。
摩利支天法師「大臣の息子!」
若君「姫君の誘拐とはさすがに許せぬ」
法師「神に逆らうか?」
若君「どう考えても偽物であろう」
10人のうち帝釈天が進み出る。
両手を伸ばして。「ムッ?」
若君「念力か。超能力は効かない。おぬしら、傀儡党であろう。
構成員は200名。いろんな集団のはみ出し者。抜け忍集団。
掟を嫌うのはともかく、悪行三昧は許せぬ。ここで死んでもらう」
信者に化けていた老猟師が、神速で弓矢を射る。
黄金仏像の喉元。光が消えて10人が人間の姿になる。
幻術をかけていた男が倒れる。
台の下の板がはずされて忍び装束の男たちが湧き出るように出てくる。
ここから捧げ物を運び出していた。
傀儡党200人 対 影・忍び・山の一族の連合軍、千人のバトル。
外では兵士たちが信者たちと対立。
4
そして1刻(2時間)後。
超能力戦闘が終わり、死体の山があちこちに。
猟師「どうやら片付きました。まず敵の9割は殺した」
若君「1割は逃げた、と?」
猟師「まあ顔や身元は知れています。
大陸にでも逃げない限りは追って仕留められるかと」
若君「影たちのまとめ役としてよくやってくれた。ほうびは何を望む?」
猟師「身内の不始末を正しただけなので、金銭は不要です。
あの姫君ですが、身分の低い若者と恋仲で、政略結婚させようとする
父親に反対されてるとか。
何とか姫の希望に添うようにしてやってくれませんか?」
若君「可能だ。詳しくは姫に直接聞いてみよう」
身分の低い若者を、後継のいない没落貴族の養子にさせる。
そして姫をそこへ嫁がせた。
手本は「日本霊異記」、小泉八雲「怪談」