5.そして始まる婚約破棄
いよいよ夜会が始まり、来賓や招待客が続々と会場の大広間に入ってゆく。以前、直前になって延期と発表された皇弟殿下の婚約発表である。きっと訪れる招待客の誰もが期待に胸を膨らませていることだろう。
ホストであり主賓でもあるマインラートとアンジェリーナは最後の入場だ。
「私、今日この日を一生忘れないわ」
ホスト専用の入場扉の前でお披露目のその時を待ちながら、彼女は傍らの婚約者に声をかけた。
「ああ。私もだ」
彼も同じ気持ちだと応えてくれて、彼女はたまらなく嬉しいような、申し訳ないような、そんな気持ちを抱いていた。
広間への扉が開く。
きっと集まった大勢の人々は、今か今かと待ちわびているに違いない。
ようやく姿を現したふたりを、会場の人々は万雷の拍手で出迎えた。
彼と彼女はそれに礼をもって応えてから、すぐに始まった楽団の演奏に合わせて広間の中心でふたりだけのファースト・ダンスを踊る。彼はブロイス皇族、彼女は由緒ある伯爵家の令嬢。互いに基礎教養としてダンスはひと通り習得済みで、幸せを振りまくように優雅に華麗にステップを刻んだ。
「アンジェラ、お前を愛している」
「ええ、私もよマイン」
ふたりは互いにだけ聞こえるように、互いの冒険者名で呼びあった。それはあたかも、地位も権力も何もかも脱ぎ捨てた、ひとりの男と女として互いにかけた言葉のようだった。
そのことに、かすかに彼女の心が痛んだ。お互いにその名で呼び合うのもこれが最後だと、分かってしまったからだった。
もうあの日々には戻れない。立ち止まることも許されない。どんなに関係性が変わろうとも、先へ進むしか道はないのだ。
ふたりだけのダンスが終わり、今度は招待客たちが思い思いにそれぞれのパートナーたちと踊り始める。ふたりは互いに一旦離れて、ダンスに参加しない招待客たちと歓談に回る。
招待客はブロイス国内の主要貴族が大半で、ブロイスの友好国であるアウストリー公国やポーリタニア王国、アレマニア公国、シレジア侯国などの要人はもちろん、普段は敵対しているガリオン王国やイヴェリアス王国、エトルリア連邦王国、それにアルヴァイオン大公国などからも少数が招かれていた。つまり世界の主要各国から大勢の客たちが参列しているわけだ。
アルヴァイオンから来ていたのはオリバー・ド・ストーン前侯爵夫妻で、女王陛下の名代として招待されたとのことだった。
「それにしても、貴女が噂の婚約者だったとは驚きましたよアンジェリーナ嬢」
ストーン前侯爵が、にこやかに彼女に話しかける。
「驚かせて申し訳ありません。陛下が情報統制をなさって、敢えて我が国で噂が広まらぬよう計らって下さったのです」
「そうでしたか。我々も何も知らされておりませんでしてな。此度も陛下は『行けば分かる』としか仰せにならずに…」
イタズラ好きでサプライズを好む陛下らしい、とアンジェリーナは内心で苦笑するしかない。
「ああそれと、愚息が大変なご迷惑をおかけしたようで改めてお詫びを申し上げる」
そう、全ては現ストーン侯爵、ショーン・ド・ストーンが彼女を無理やり妻にしようとしたことから始まったことだった。だがそのおかげで数奇な紆余曲折を経て、そして今日この日があるのだから、今となってはそれを怒っていいものやら。
「愚息には真に反省の色が見えるまで無期限の謹慎処分を言い渡してあります。それでどうかお納め頂ければ」
ショーンの処分は女王も裁可してのことだとストーン前侯は語った。謹慎が解けるまでは前侯が当主代行としてすべての執務を肩代わりするのだそうだ。
まあそれに関してはアンジェリーナがどうこう言える立場でもないし権利もない。それよりも老境に差し掛かっている前侯の負担が増さないかの方が心配である。
「ははは。なんのこれしき、まだまだ若い者には負けませんとも」
そう言って微笑う顔は確かに無理している感じではなかったので、まあ大丈夫そうだ。何か彼なりのモチベーション維持の方法でもあるのだろう。
「それにお恥ずかしい話ですが、愚息めはどうやら“六本指”にまで恨みを買っているようでしてな」
六本指、とは数年前まで西方世界の各地を騒がせていた大盗賊のことだ。主に悪徳貴族を襲って金品を奪い、庶民やスラムに施しをするので世間からは義賊と持て囃されているが、貴族たちからは恐怖と怨嗟の象徴でもある。
ここ最近はほとんど名を聞かなくなっていたが、再び現れたのだという。そしてストーン家ではなくショーンの個人資産を狙って派手に盗んでいったのだとか。ショーン自身も一度遭遇したらしく、護衛たちが発見した時には恐怖に染まった顔で失禁したまま気絶していたという。
以来彼は怯えきって、実のところ謹慎させるまでもなく自室から出てこないのだそうだ。
何があったかは知らないが、まあヤツのことだ、きっと自業自得の案件だろう。
「お姉様、お久しゅうございます。ご機嫌うるわしゅう」
ストーン前侯爵夫妻と挨拶を交して別れたアンジェリーナの元へ、ひとりの令嬢が歩み寄って挨拶してきた。
相変わらず一分の隙もない完璧な淑女礼だ。
「あ、サーヤちゃん。来てくれたんだ」
「本当に、いつもいつもお姉様には驚かされますわ。母国で行方不明になられたから心配しておりましたのに、いきなりマインラート従兄様の婚約者だなんて」
サーヤ・フォン・シュヴァルツヴァルトはアレマニア公国の筆頭宮廷魔術師で、公国を治めるアルフレート・フォン・シュヴァルツヴァルト・アレマニア公爵の従妹でもある。アルフレートだけでなくブロイス現皇帝のヴィルヘルム三世の従妹にもあたり、だからマインラートとも義理とはいえ又従兄妹の関係になる。
そして〈賢者の学院〉674年度、つまり去年の“知識の塔”首席卒塔生でもある。アンジェリーナが在塔中に親しく付き合っていた、数少ない後輩のひとりだ。
今回彼女は従兄にして主でもあるアルフレートの名代として出席したのだという。なんだ、あの超絶イケメン今日は来てないのか。残念。
「それで?お姉様今度は何を企んでらっしゃいますの?」
「あはは、やっぱサーヤちゃんにはバレちゃうか」
でも内緒、とアンジェリーナは微笑う。サーヤはため息を吐きつつ、困らせるのはマインラート従兄様だけにして下さいませ、と言うので、笑顔で安請け合いしておいた。
「アンジェリーナ、こちらへ」
そうして歓談を続けていると、マインラートから呼ばれた。彼女が彼に歩み寄ると、目ざとく察知した周囲がサッと引いて、広間の真ん中にはふたりだけが残る。
心臓がドキドキしてきて、顔が上気してくるのが自分でも分かる。
いよいよ来たのだ、この時が。
「私の求婚を受けてくれて感謝している」
マインラートはどこか陶酔した様子で話し始めた。
「最初に会った時から、私はそなたのことが忘れられなかった。今にして思えばあの時から、私はそなたに惹かれていたのだろう。
アルヴァイオンまで追っていったのもそのためだ。せめてもうひと目逢いたいと、そう願わずにはおれなかったのだ。
そして、かの国でそなたが誰であるか知った。同時に、上位の貴族から無理やり婚約させられそうになっている事も知った。だから居ても立ってもおれずにそなたの後を追い、無我夢中でそなたを救い出した」
長い。要点は簡潔に。
そう言いたかったが彼女は我慢して聞いていた。
周りの招待客たちはその馴れ初めをうっとりしたように聴き入っている。
「あの時、そなたのことを手放したくないと強く願ったのだ。だから少々強引な手も使ってしまったが、どうか許して欲しい。
そして、よく私の想いに応えてくれた。この婚約を受けてくれたこと、改めて礼を言う。
そしてこの場を借りて改めて申し込みたい。
私と結婚をして欲しい。私の傍で、妃となって生涯にわたって私を支えてはくれまいか」
マインラートはそう言って彼女の眼前に跪き、その右手を取って手の甲にキスを落とした。
感動的で、熱烈な求愛を目の当たりにして、居並ぶ令嬢方が息を呑んで感動しているのが手に取るように分かる。
「ええ」
努めて冷静に、満面の笑みを浮かべながらアンジェリーナははっきりと宣言した。
「お断りいたします」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そうか。では引き続いてこちらの婚姻誓紙に署名を……………は?」
時が止まったのではないかと錯覚するほど、マインラートの動きが止まった。彼だけではなく、周りの人々も今聞いた言葉が信じられないようで、広間はシーンと静まり返った。
「い、今、なんと………?」
「お断りします、と申しあげましたわ」
混乱した顔で二度聞きしてくるので、アンジェリーナはもう一度言ってやった。聞き取れなかったなら何度でもお伝え致しますわよ、とダメを押すことも忘れなかった。
周囲から起こった小さなどよめきは、あっという間に火がつき膨らんで、異様な雰囲気を醸し出してゆく。
その渦中に取り残されたふたりは対象的だった。
ひとりは混乱し、ひとりは平然としている。
「な、何故…………なぜだ」
跪いたまま立ち上がることもできずに、マインラートがようやくそれだけを問うてきた。
「そうですわね、ひと言で言うなら『萎えた』というところでしょうか」
「な、萎えた…だと!?」
小さく悲鳴が上がったのは、招待客からか、それとも給仕役のメイドからか。
マインラートが、ようやく事態を飲み込んだのか怒気を発し始めていて、それが周囲にも伝わったのだ。
「ええそうよ。だからはっきりと申し上げますわ。
わたくし、アンジェリーナ・グロウスターは今日この場限りを持ちまして、マインラート・フォン・フォーエンツェルン・ブロイス皇弟殿下との婚約を破棄致しますわ!」
アンジェリーナは掴まれたままの手を振り払って、一歩下がって高らかに宣言した。仁王立ちになり、傲然と胸を張って、彼を見下ろしながら指を突き付けて。
「アンジェリーナ」
ゆらりと立ち上がりながら、マインラートは目の前の女に呼びかけた。その背からどす黒いオーラのようなものが立ち上っていて、もう見るまでもなく激怒しているのが分かる。
それはそうだろう。人生の絶頂たる晴れ舞台を、よりにもよって自ら見初めた婚約者に台無しにされたのだから。誇り高き帝国皇族のメンツ丸潰れにも程がある。
「一度は赦そう、アンジェリーナ」
努めて怒声を抑えながら彼は言う。
「今ならまだ間に合うぞ。大人しく余に跪いて許しを請え。
そうすれば今の不敬は不問にしてやろう」
あらあら一人称まで変わってますわよ。
そう思いながらアンジェリーナは返事もせずに、口の中で小さく詠唱を始める。こんなに怒った彼は見たことがないし、正直空恐ろしくもあったが、こうなることは当初から織り込み済みだ。
「右腕、装填。左腕、装填。右脚、装填。左脚、装填」
「何をブツブツ言っている。返事はどうした」
「神経、接続、完了。霊炉、点火━━━!」
カッと見開いたアンジェリーナの瞳が虹色の光を帯び、その全身から膨大な魔力が一気に立ち上る。その瞳に見据えられたマインラートが気圧されたように僅かに怯んだ。
それを見逃さず、彼女は人類には到底反応できないほどのスピードで彼の方へと左脚を大きく踏み込み距離を詰めた。左足のヒールが砕け、踏み込んだ爪先の下の大理石の床には蜘蛛の巣状に亀裂が走る。
誰も反応できないまま、彼女は右足を高く蹴り上げて振り抜いた。豪奢な朱色のスカートがふわりと花開き、スラリと伸びた右脚が美しい円弧を描きながらマインラートの左側頭部を襲う。その足の甲は狙い違わずに彼の左のこめかみを精確に捉え、そして吹っ飛ばした。
「な━━━━!」
「きゃあああ!」
周囲から悲鳴が上がる。華奢で美しく荒事などまるで似合わなさそうに見える“婚約者”が、鍛え抜かれた帝国皇族を一蹴りで圧倒したのだから無理もない。
「ぐっ…、き、貴様…!」
「あら、あれで気絶しないとは流石ですね殿下」
「お前は!自分が今何をやっているか解っているのだろうな!?」
「もちろん、殿下を足蹴に致しましたわ」
「そこではない!何故だ、何故このような乱心を起こした!」
壁際まで吹っ飛ばされたマインラートがよろよろと立ち上がる。それを見ながらアンジェリーナは余裕の笑みだ。
「乱心も何も。貴方様はわたくしを満足させることが出来なかった、ただそれだけの話ですわ。お怒りになるのでしたら不甲斐ないご自身にお怒りになればよろしくてよ?」
「欲しいものは何でも与えると約束したであろうが!富も栄誉も地位も何もかも、余に大人しく従っておれば思いのままだというのに!それを━━」
「そんなものいりません」
「な、何………?」
「わたくしの望みはただひとつ!」
アンジェリーナは再び彼に指を突きつける。
「わたくしの心の赴くままに、自由に生きること!貴方様に囲われて縛られるだけの生活のどこに、そんなものがあるというのです!」
場内は再びシーンと静まり返った。マインラートでさえ予想だにしなかった返答に言葉を失くしている。
会場のどこかで「あー、それは無理ですわね」とサーヤが呟くのが聞こえた。
「貴族に生まれて………」
マインラートの肩がぶるぶると震える。怒りの沸点はとうに過ぎ、もはや抑え込むのも無理そうなほどに怒り狂っている。
「そんなものが、そんな我儘が通ると思うな!国のために、生家と婚家のために尽くすのが貴族というものだろうが!」
「通りますわよ、通しましたもの」
それを通すために、そのために〈賢者の学院〉で席次を得るほど頑張ったのだ。そして家族にも、女王にも筋を通して、許されたからこそ彼女は今まで自由に生きてきたのだ。
だから他国の皇族と言えどもその権利を侵すことは許さない。この世の誰にも、たとえ神々であろうとも彼女は縛られない。縛らせない。
それが彼女の唯一の望みなのだから。
「というわけで、貴方様が何を仰ろうとも無駄でございます。そもそも今のわたくしを抑えられるはずもございませんし」
「………随分と余裕だな」
「それはそうですとも。今のわたくしはレギーナ先輩よりも強いですからね!」
「な、なに………?」
いくら何でも学院の席次持ち程度の実力で勇者を超える実力など得られる訳がない。だがアンジェリーナの余裕の態度、それに彼女の身を包む濃密な魔力がその言葉を如実に裏付ける。
「魔術か………!」
「種明かしを所望されても無理ですわ」
「くっ、取り押さえろ!」
怒りに顔を歪ませたマインラートがアンジェリーナを指差し、会場警護の騎士たちが殺到してくる。
彼我の実力差が分からぬでもないだろうに、主命に逆らえないのはいっそ哀れですらある。
だから彼女は、優しくそっと触れるように、なるべく傷も後遺症も残らぬように、彼らのうなじを軽く叩いて全員の意識を刈り取って回った。一瞬のうちに全てを終え、崩れ落ち倒れ伏してゆく騎士たちの只中にひとり立ってなお平然と胸を張る彼女の姿に、さすがのマインラートも驚きを禁じ得ない。
だが、この場には少なくとももうひとり、彼女に対抗できそうな実力者が残っている。
「サーヤ!」
そう、学院の首席卒塔者のサーヤだ。彼女は知識の塔、つまり魔術師養成コースを首席で卒塔した、西方世界でも屈指の大魔術師である。力の塔、つまり王侯の帝王学と力の使い方を専門に学ぶコースの13席に過ぎないアンジェリーナ以上の実力者のはずだった。
「嫌ですわよ」
だがその彼女は即答で拒否した。
「それとも来賓の皆様を全員巻き込んで亡きものになさりたいのかしら、従兄様は」
知識の塔の首席と力の塔の席次持ちとがまともにぶつかれば、その場に居合わせた者が無事でいられる保証などないのだ。互いが本気でやり合えばそれこそ周りを気にする余裕などないし、そうなると周囲の者は自力で身を守るしかないが、生き延びるためには少なくとも同等クラスの実力が必要であろう。
そしてこの場にいる「同等クラスの実力者」はマインラートだけなのだ。
「だいたい、縁戚と言っても他国人のサーヤちゃんに命令できるとでもお思いで?ちょっとそれは傲慢じゃありませんこと?」
「そもそも今お姉様がお使いの術式はわたくしが組み上げたもの。すでに発動している以上はわたくしでもどうにもなりませんわ」
「なっ、なんだと!?」
「いやー、あの時お願いして組んでもらっといてホント良かったよ。発動させたのは2回目だけど、マジで凄いわ、これ。やっぱ切り札は持っとくもんだね!」
「お褒めにあずかり光栄ですわ、お姉様」
ふたりしてころころと笑い合う乙女たちを、マインラートは呆然と眺めるしかない。
「くっ、お前が組んだのならお前も使えるはずだろう!?」
「確かに使えますけれど、剣術も体術もまるで素養のないわたくしが使ったところで、“力の塔”のお姉様に対抗できるわけありませんわよ従兄様」
「ぐっ…!」
「さて、それではわたくしはそろそろお暇致しますわ。これ以上場の雰囲気を荒らすのも本意ではありませんし、あとは皆様ごゆるりとお愉しみ下さいませ」
今さら雰囲気も何もあったものではないのだが、それでもアンジェリーナはそう嘯いて優雅にカーテシーを決めてみせた。左のヒールは跡形もなくなっていたからバランスなど取れるはずもなかったが、彼女は何食わぬ顔で爪先だけで立ち、姿勢を僅かにも狂わすことがなかった。
そしてアンジェリーナが姿勢を戻した瞬間、シャンデリアの魔術灯が一斉に消えた。シャンデリアだけでなく壁面のそれも、テーブル上の燭台タイプのそれも、ひとつ残らず全て消えた。
たちまち会場は闇に呑まれた。夜会つまり夜に行われているのだから当然である。残る光源は、窓から差し込む陰神の光だけだ。
「皆様身動きなさいますな!動かなければ危険はありませんわ!」
「サーヤちゃんナイスフォロー!」
オーロラの仕掛けを知っているわけでもなかろうに、サーヤが的確なアドバイスをいち早く会場に叫んだため、思わずアンジェリーナは褒め称えた。そしてそのまま誰にも追随できないスピードで窓に駆け寄った彼女は、素早く窓を開いてバルコニーに出ると、そのまま手すりを飛び越えて地上へと身を踊らせた。
「それでは皆様さようなり━━━!!」
「何をしている、追え━━━!」
会場ではマインラートの怒声が聞こえていたが、警護の人員はさっき彼女が全て眠らせたばかりだ。だから彼女を追う者は誰ひとりいなかった。