ぬるいココアと春の風
悲恋
真っ白いカーテンがふわりと揺れた。
「あら、風かしら? ……それにしても、暖かいのか涼しいのか微妙な空気ね」
『――今日は四月二十日。次は天気予報です。本日は雨、春にしては冷える一日となりそうです――』
テレビがニュースを流す。それを聞いた彼女はおもむろに立ち上がった。
「……今日はココアでも、入れようかしら。あなたはぬるい空気の中でぬるいココアを飲むのが好きだったものね」
ポツリと呟くとキッチンに向かう。鼻歌まじりにお湯を沸かし、マグカップにココアの粉を入れた。
「ふふ、あなたはココアにはうるさかったわ。『粉を入れたらほんのちょっとのお湯で練る』『それから水を注ぐといい感じにぬるいココアが出来るんだ』って」
カチャカチャとスプーンがマグに当たる音が響く。
「私はいくらあなた好みだとしても美味しくなくて嫌だったわ。熱いから冬に合うのだって、アイスココアは氷が嫌だって。ふふふ、だいぶ言い争ったわね」
出来上がったぬるいココアを、彼女は一口飲んだ。
「――ほら、美味しくない……」
彼女は僕の気持ちも知らずに一人で泣く。
『そりゃ、お前は熱いやつが好きだからだろう。僕の好みに合わせたらマズイに決まってる――僕が死んだからってさ、毎年のように嫌いなもん飲むなよ、バカ。好きなもの共有できてもさ、理由が命日だからって……嬉しくねぇや、ばーか』