第四話「2人目の魔法少女は、輝きのアイドル!?」~前編~
前回の話と続き物になっているので、前回の話をご視聴の上ご覧ください。
また、今回の第四話は「前後編」構成になっています。こちらは前編です。
~あらすじ~
謎の魔法少女の正体は、佐久良 藍留と名乗る男子大学生であったことを知ったユウキとアマネは、3人で協力して魔王を倒すことを決意する。
3人は、散り散りになった勇者たちを仲間にするため。アイドラウムの街に向かうラブゼバブの街のキャラバン隊の商人たちの護衛をすることになる。
そこで四天王の一人「フェゴレザード」と悪魔部隊の軍団に襲われるが、3人で力を合わせなんとかこれを撃退する。3人が戦い疲れて眠っている間に、キャラバン隊の荷馬車はアイドラウムの城下町に到着するが―――。
「ユウキ! ……おきて! ユウキ!」
「う、う~ん……」
異世界転生して、勇者(という名の魔法少女)になって世界を救うことになった僕、14歳の波戸 悠木ことユウキは、もう一人の魔法少女、13歳の鈴木 天音ことアマネに揺さぶられ、ゆっくり目を開ける。
「気が付いたかい、ユウキ君」
僕たちの先輩魔法少女で、21歳の咲久良 藍留ことアイルが、声をかける。
「ここは……って、ひええっ!?」
目の前のアマネやアイルは、なぜかインナー(ありていに言えば下着)姿だった。
「ぼ、僕は見てません!」
あわててユウキは目を伏せる。
「ムチャ言わないで! そりゃ、あたしだって恥ずかしいけど……」
アマネは、恥ずかしそうにインナーのブラとパンツを隠しながら顔を赤くする。
「どうやら、アタシたちは眠っている間に何者かによって身ぐるみをはがされ、こんな牢屋に入れられたらしい……一体、誰の仕業なんだ……?」
アイルの言う通り、ユウキ、アマネ、アイルの3人は、下着姿の状態でまさに「牢屋」と呼ぶにふさわしい、狭い鉄格子の部屋の中に入れられていた。
「ど、どうして僕たちが牢屋の中に!?」
「わからない……キャラバン隊の商人たちの仕業だとは思えないし、だとすると、アイドラウムの兵隊たちか……? しかし、こんなことをされる理由もわからない」
「ていうか、アイルお姉さんって、下着は女性モノじゃないんだね」
アマネが言った。
「……いや、アタシの体格では女性モノの下着が合わなくて……決して恥ずかしかったからとかそういうことではないんだが」
顔を真っ赤にしながら胸を隠すように腕を抱いてもじもじするアイル。下着は男物のトランクスと白シャツだ。
「って、今はそう言うこと言ってる場合じゃないだろ! ……アイルさん、ここからは出られないの?」
ユウキは、アイルに訊いた。
「ああ。……当然だが、カギはかかっていてここから出ることはできないようだ」
「だったら! 変身すればいいのよ! 魔法の呪文でドカーンとカベをふきとばしちゃいましょう!」
と、アマネが胸のペンダントに手をかけようとした。
「……あれ? ない!? プリズムペンダントが、ない……!?」
アマネが、自分の服を慌てて探るが、魔法少女に変身するための変身アイテム『プリズムペンダント』が見当たらない。
「……って、そうだ! 僕のペンダントも……ない!?」
ユウキも、自分のプリズムペンダントを探すが、ない。
「恥ずかしながら……アタシの『プリズムブローチ』も……くそっ、どうなっているんだ……?!」
アイルが、悔しさでバンッ!と牢の石壁を叩いた時だった。
「キミたちの変身アイテムは……もうボクのものだよ、キャハッ☆」
すると、牢屋の鉄格子越しに、アニメキャラのような高い声域の声が響いた。
「だ、だれだ!?」
「あれぇ~? ボクのこと知らないんですかぁ~??? おっかしいなぁ、もうボクの名声は、『メイデン・ワンダーランド』中に響いてるはずだったんですケドねぇ~???」
鉄格子の前に現れたのは、キラキラに輝く金色の髪と、キラキラな黄色のアイドル風衣装をした、美少女だった。
「じゃあ自己紹介、してあげちゃうよ♪ ボクは『美彩 みくる』……君たちと同じ、『異世界転生者』さ」
みくるは、バチっとウインクをした。
「ぼ、僕たちと同じ……異世界転生者!?」
「じゃあ……勇者、『魔法少女』ってこと!?」
「おっと……勘違い、しないでよねっ? ボクは君たちと違って……『魔王を倒すつもりなんてない』から、ネ!」
みくるは、3人の変身アイテムをわざとらしく手のひらの上で軽く投げて見せつける。
「……どういうつもりだ? アタシたちの変身アイテムを奪った上に……魔王を倒すつもりがないなんて」
アイルが問いかける。
「まあ、確かにボクもかつては、魔王を倒すために冒険したこともあったよ……でも、あんなんどう考えたってムリムリの森じゃん? それに、ボクにはそもそも『救いたい世界』なんてものもないからね」
「『救いたい世界が、ない』……?」
ユウキが聞き返すと、みくるはすーっと息を吸って語り始めた。
「言葉通りの意味さ。キミたちも大方、ボクと同じように元居た世界を魔王に滅ぼされて、神様たちにサルベージされて連れてこられたんだろうケド……僕にとっては、前にいた世界なんて『滅んだほうがマシ』なほど最低な場所だったからね。むしろ魔王にはあんなところ滅ぼしてくれて感謝したいくらいさ」
みくるは、一瞬切なそうに目を伏せたが、すぐにフッと笑った。
「だから、ボクは……『異世界転生を謳歌する』ことにしたのさ。SPを振ればここでは自由に『美貌すらも手に入る』。僕が夢見た『カワイイ』を表現することだってできる……ボクは、このアイドラウム王国で、初めてのアイドルになって、今や僕はメイデン・ワンダーランドでNo.1のアイドルになったんだ!」
「……アイドルぅ?」
アマネは、顔をしかめた。
「ああ、アイドルさ。……知ってるかい? このメイデン・ワンダーランドは、ボクたちが元居た世界よりも大きく文明が遅れているから『ボクがこの世界で最初のアイドルになれた』んだ! ボクが作った歌と、とってもカワイくてキュートなボクのダンスプロモーションビデオの映像を記録した魔法石のコピーは、今や飛ぶように売れてボクはこの王国で一番のお金持ち、なんだよネ!」
「でもっ……魔王を倒さなきゃ、いつかこの世界だって征服されちゃうんだぞ!? それなのに、アイドル活動なんてやってる場合じゃ……」
ユウキがそう言うと……みくるは、フッと鼻で笑った。
「……どーでもいいね。むしろ、魔王の進攻による不況で、人々は文字通り『希望の象徴』を求めてるんだよ? それなのに、神様から魔法少女になる力が与えられても、魔法少女なんかじゃ、魔王は倒せない。だったら、希望の象徴になって、歌と踊りで皆を楽しませる。最後の滅ぶ瞬間まで、皆が笑顔でいられたほうが幸せじゃないか」
「それは……あまりにも考え方が刹那的すぎる。それに、アタシたちはこの世界にいる全ての魔法少女が、全員で力を合わせれば、まだ可能性だってあると考えている。今からでも遅くはない、一緒に魔法少女として戦ってくれないか」
アイルが言った。
「……フンッ。協力、ねぇ……『それはボクも試したよ』。けど、ここにはいない『3人目』の魔法少女は、ボクとは絶対に分かり合えないヤツだった。キミたちでは、絶対に彼女と分かり合えるとは思えない」
「なに……?」
すると、みくるはにやりと笑って言った。
「それよりも~、ボクはこれから『この国の王子様と結婚するんだ』。そのための計画には、このアイテムを売って手に入る莫大な資金が必要だからね」
「なっ……プリズムペンダントを、売るだって!?」
「だ、ダメに決まってるじゃない!? それは、あたしたちの大切なものよ!」
「フッフ~ン♪ もう泣いても怒ってもダメでぇ~す! もうこれはボクのもの! 君たちは世界が滅ぶまでこの牢屋で過ごしてもらいま~す! じゃあね!」
みくるは、ペンダントとブローチを胸ポケットにしまうと、ひらひらと手を振って立ち去ってしまった。
「あっ、待て~! 卑怯だぞ~!」
「こらー、まちなさいよ~! ぶんなぐってやるわ!!」
「……くっ、これからどうすれば……」
牢の中の3人は、虚空に向かって叫ぶしかできなかった。
すると、
「……あらあら、アンタたち大変ね~」
すると、みくると入れ替わるように誰かが牢の前にやってきた。
「こ、今度は誰?」
「ウフフ……アタシ、この国の第3王女『ミノ』っていうの。みくるんとは大の親友なのよ?」
頭に小さなクラウンを載せたドレス姿の王女ミノは、そばかすが特徴的な顔で笑った。
「王女様? 王女様が、どうしてこんなところに」
ユウキが聞くと、ミノはにこりと笑って答えた。
「ふふっ、さっきみくるんがと~~ってもワルそうなお顔をしてここに向かっていくのが見えたものだから……よかったら、何があったか聞かせてくださらないかしら?」
ユウキたちは、一度顔を見合わせると、うなづいてこの王女に事のあらましを話すことにした。
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「……そう。それは大変だったワネ。みくるん、基本的に他人の言うことなんて聞かない子だし」
王女ミノは、ユウキたちの話を親切に聞いてくれた。
「王女様。……どうか、我々を牢獄から出してはもらえませんか? みくるさんとは、もう少し話し合えばわかるはずです。私たちが魔王を倒すことが、ひいてはこの国のためになるはずです」
アイルは、ミノに頼み込んだ。
「……残念だけど、それはできないワネ。私たちのお父上も、『もう魔王には誰も敵わない』、と思っていらっしゃるから」
「な、なんでよ!?」
「さあ……それよりも、パパの頭を悩ませているのは後継者の問題よ。よかったら聞いてくださる? 今アイドラウムの王家には、王位継承権のある男はお兄ちゃんしかいないの。なのに、お兄ちゃんがダメ人間すぎて、どこの王家ももらってくれないの」
ミノは、話をそらして自分の話を始める。
「魔王がやばいときに、ケッコンの話なんてしてる場合!?」
「まあ、アマネちゃん。もう少し話を聞こう。……さっき、みくるが『王子様と結婚する』と言っていたが……」
アイルが言った。
「ええ…さっきも言ったけど、お兄ちゃんはほんとにダメ人間でね。剣もダメ、勉学もダメ。おまけに大の女好きで以前嫁いできた貴族の娘には2日で逃げられ、おまけに本人も『100万人から告白されるような絶世の美女でなければ結婚はしない!』……なーんて言うものだから、パパも頭を抱えちゃって」
「うわぁ……いくら王子さまでも、そんな人とはあたしもケッコンしたくないなぁ……」
アマネはドン引きのようだ。
「そうでしょう? アタシからもそう言ってるんだけど、お兄ちゃん無駄にガンコだから聞く耳を持ってくれなくってネェ……だから、みくるんは『100万人が収容できる大型コロッセウム』を建設して、そこで世界中のファンを集めてライブを開くため、お金を集めているのヨ。……あ、それでね」
すると、ミノは急にこんなことを言った。
「そう言えば……みくるんって、『本当は男の子』なの、知ってたかしら?」
ミノがそう言うと、数秒の沈黙。
「えええええええっ!?」
あんなにめちゃくちゃカワイイ美少女のみくるが、男!?とユウキは驚いた。
「ええええええ!? 知らない知らない!」
アマネも驚く。
「……ユウキ君の例もあるし、彼女は変身していたな。もしかしたら、と思ったが」
アイルは、メガネを光らせた。
「そ~よね~。普通気づかないし、みくるんは表向きは『女性アイドル』としてやってるからね。あ、あたしも本当は気づいてないフリしてるだけだから、アタシから聞いたことはナイショね?」
ミノは、手を合わせてお願いをした。
「でも、男なのに、男と結婚……?」
「みくるんは、伝説の勇者『魔法少女』だったけど、魔王に敗れて以降は、ウチの王国で『アイドル』なるものを始めたの。ウチの王国にはね、『異世界より来たりし美の化身が、この国に現れ『希望の象徴』となるであろう』という伝説があってね。その伝説にあやかってアイドル活動は大ヒット。今じゃメイデン・ワンダーランド中に名前が知られるある意味伝説的存在になったのよ。そんなおかげで、ウチの王国としても経済に貢献した英雄的存在だし、勇者なら王族の結婚相手としても申し分ないだろうってね」
ミノは説明を始めた。
「みくるんはね……お兄ちゃんの扱いに頭を抱えるパパを見かねて、女のフリをして『お兄ちゃんと結婚する』って言ってくれたの。……みくるんは腹黒い子だから、王位継承権を狙ってるんでしょうけど……半分は、アタシたちの家族を助けようと思ってそう言ってくれるんだから、嬉しくって。そこからアタシとも仲良くなったのよ」
「う~ん、いいやつなのか、悪いやつなのか……よくわかんないやつだなぁ」
「でも、どうして女のフリをしてるのかしら……?」
アマネが聞くと、ミノは難しそうな顔をして答えた。
「……あんまり詳しいことは、アタシも知らないワ。でも、元居た世界では、アイドルになる夢を親に否定されたり、服を捨てられたり、周りの人たちにいじめられてたりしたらしいの。あたしは、それを聞かされた時……あの子の夢を、応援してあげたいなって、思ったのヨ……」
「みくるさん……」
いじめ、と聞いてユウキはその辛さを想像した。自分は、いじめに直接遭うことはなかったが、傍観者としてみているだけで、その辛さは否応にも痛感することができた。
そして、ミノ王女は言った。
「さて……アンタたちには悪いけど、あたしはみくるんの味方。でも、いつかは出してもらえるように、少しは掛け合ってみるワ。それと、キャラバン隊の商人の皆さんたちは、もう解放して、護衛の騎士たちもつけてもらって帰路についているから安心なさい」
「そうでしたか……王女様、ありがとうございいます」
「ウフフ、お力になれなくてゴメンナサイね」
ミノは、優雅に一礼すると、牢の前を去っていった。
「……う~ん、これからどうしようか」
ユウキは、頭を悩ませた。
「そうだ! こういうときこそ女神様の出番よ!」
アマネが言った。
「おお! そうか! ゼウ様にサポートを頼んでみよう!」
ユウキは、目を閉じて女神ゼウに呼びかける。
「……アタシも、ケイロ様に指示を仰いでみようと思う。やってみよう」
アイルも、ケイロ神に心で呼びかけた。
(ゼウ様……ゼウ様……聞こえますか……?)
ユウキが念話を送ると、女神ゼウの返事が返ってきた。
『はい、聞こえていますよ。ユウキさん。アマネさん。聞こえていますし、貴方たちが今どういう状況にあるかも、おおよそ把握しているつもりです。ですが……』
「ですが……?」
アマネが聞き返すと、数秒の間を置いて返事が返ってきた。
『……え~、あの……勇者同士で潰しあいをするなんて、そんなのマニュアルに載ってないんですけど……』
女神ゼウは、悲痛そうな声でテレパシーを返してきた。
『はっはっは! 仕方ないだろう! 我が愛しい妹ゼウよ! 人間とは自由、それゆえに何が起こるかわからん、だがそれがいい! ……それより見たまえ、いたいけな少年少女たちがあられもない姿にされて牢屋にぶち込まれて……そそるっ、スクショが止まらんっ!』
ゼウと一緒にアイルの主神『ケイロ神』がいるようだ。
「……はいぃ?」
思わずユウキはぽかんとした顔になる。アマネもぽかんとした顔をして真っ白になっている。
「ちょっと、あの、ケイロ様……? やめてください、アタシはともかく、この子たちはまだ中学生なんですから……」
心底ドン引きした様子でアイルはジト目になる。
『はっはっは! よいではないかよいではないか! お前も14歳の時に初めて召喚した時は、まだ卑猥な言葉の意味が分かってなくて可愛いもんだったが……やっぱロリショタってもんは最高だなぁ! ガハハ!』
『お兄様。……(お気持ちはわかりますが)それ以上は我々管理神の沽券にかかわりますので。ご自重ください』
「ゼウ様、今変なかっこ()がなかったですか?」
『そそっ、そんなことはありませんっ、まるで我々兄妹が全員ヘンタイだ~なんてあらぬ誤解はしないでください』
「誤解なんですかそれは???」
「そーんーなーこーとーよーりー! ゼウ様! ケイロ様! 助けてください! 牢屋から出してください!」
アマネが叫んた。
『う~ん……出してやりたいのはやまやまだが……どうする? ゼウ?』
『まあ、我々の神々の権限で『エンドキー(この世界のあらゆるカギを開ける鍵)』を送っても問題ありませんが……今は、おそらくその時ではないと、女神の啓示が告げています』
『そうかそうか……だそうだ。まあ、もうちょい待ってりゃ、イベントが起こるだろう。気長に待つといいさ』
「えっ、助けてくれないんですか!?」
アイルが驚いて叫ぶ。
『はっはっは、まだ今は神々に頼るときじゃあない。それに……弟のメテルが呼んだ『2人目の魔法少女』……あの子にも、もう少し助けが必要だろうしな』
『というわけで……頑張ってくださいね。あっ、せっかくですから、ほんの少しだけ『SP』をボーナスで差し上げますから、それで何とかしてみてください!』
と、それだけ言うと女神ゼウとケイロ神はブツッと念話を切ってしまった。
「ゼウ様~! ……ぐっ、ダメだ、あの駄女神さまは……!」
「ねえねえ、SPが『5』追加されてるよ!」
アマネがスキルパネルを開く。
「そういえば、僕たちレベルアップしてから『変身前』のスキルパネルを振っていなかったっけ……」
「ああ。変身前でも、しっかり振っておくに越したことはない。いざこういう変身ができない時にも、変身した時と同じように戦えるからね」
「まあ、それでも変身後のステータス上昇にはかなわないと思うけど……ん? これは……」
ユウキは、スキルパネルに『あるスキル』を見つけた―――。
ここまでご覧いただきありがとうございました!ちゃんと後編もみてね!
また感想、評価、読了ツイートなどお待ちしてます!