第十話「王子の純愛と、はじまりの勇者」そのきゅう
そして、時代は再び現代に戻る。
「あれから……五千年の月日が過ぎたんじゃ……封印されていたお前の怒りは……こんなものではあるまい」
魔王チーマは、遠い昔のことを思い出す。全身を紫色の炎で火だるまにされ、肌を焼かれながら涙を流した。
「……ハァ、ハァ……!」
巨大な魔法樹の箒で、紫の業火を振り下ろした戒めの魔女、イヴは息を切らせながら、じっと燃え続けるチーマを見下ろす。
「じゃが……ワシを殺したところで、ワシは何度でも蘇る……! そのたびに、ワシを殺し、お前が少しでも報われる瞬間が訪れるのか……?」
魔王チーマの全身が焼け焦げる、肉の焼けた匂いがあたりに充満する。イヴは、鼻を押さえた。
「……何よ。魔王のくせに……アタシに同情するつもり?」
イヴは、ふっと杖を右にふるうと、紫色の業火が消える。全身を黒焦げに焼かれたチーマは、ぜぇぜぇとか細い息で呼吸をする。
「そう……ではない。あのお方に抵抗しようなど……! お前のようなちっぽけな人間風情一人が抗ったところで……何も、ならん……」
立ち上がる気力もないチーマは、ぜぇぜぇと横たわったままイヴに言う。
「……神の一族のくせに、随分と臆病なのね。『絶対神』を殺そうと思ったことが、一度でもないのかしら?」
「過去に……そのようなものは一人もおらん。イヴ……それを試みたのはお前が初めてじゃった。じゃから……神々はワシに加勢し、お前を封印したのじゃぞ」
イヴの言葉に、チーマは必死に言う。徐々にチーマの焼け落ちた翼が再生し、焼け焦げた肌が再生し始めていく。
「……なら、今度は歯向かう神々も、アタシが全て皆殺しにする。貴方が、魔王城に隠した『絶対神』への道を譲る気がないのなら……この『メイデン・ワンダーランド』も粉々に破壊する」
イヴは、魔法樹の箒にまたがると、スイーッと空に上昇していく。
「ま、魔王様……!」
ボロボロのチーマに、フェゴレザードが慌てて駆け寄った。
「何をする気じゃ! イヴ!」
チーマは、上空に小さくなっていくイヴに手を伸ばす。
「……タイムリミットは、『24時間』」
箒にまたがって上昇するイヴは、箒からキラキラの光を放ちながらぐるりと星を一周する。キラキラの光は、大きな光の輪になって、メイデン・ワンダーランドを一周して一つの輪になると、そこから輪の中央に向かって光が収束していく―――!
ちょうどその頃、イカナッペの漁港にガンボイを停泊させ、避難してきた村人たちの誘導をしていたユウキたちも、空を見上げる。
「なんだ……? あれは!」
ユウキが思わず空に指をさした。
「あれ……遠くてよくわからないけど……かすかに、炎魔法の魔力を感じるわ」
ヒメコが言った。
「あれ、飛行機よりも上空に見えるんだけど、気のせいじゃないヨネ……?」
ミクルがそういうと、アイルはメガネを構えなおして遠くの光の輪を凝視する。
「ええ……しかも、あの距離からここまで肉眼で捉えられて、微量な魔力をあの距離で感知できるということは……相当な魔力で作られたってことになるわ」
「まさか、戒めの魔女が⁉」
アマネが驚いて叫ぶ。
「お前たち!」
すると、遠くから馬に乗ってやってきたのは、レドだった。
「レド!」
「ボクもいるよ! アマネ!」
レドが乗ってきた馬は、いつもの馬の姿になっていたミートパティだった。
「ミートパティ!」
「あれは……戒めの魔女の『大破壊魔法陣』だ! あの光の輪の中央……アルフルートの方角を見ろ!」
レドが叫びながら指をさす。イカナッペからはるか南東の方角、水の都アルフルートの上空を見ると、光の輪から光が集まって、まるで小さな太陽のような強い光が集まっていた。
「あれは……太陽じゃないのか!」
「ああ、今のところはな……! だが、城の魔法学者の連中によれば、あと24時間もすればあの小さな太陽は本物の太陽に引けを取らない大きさになり、地表のあらゆるすべてを……いや、このメイデン・ワンダーランドの大地そのものを焼き焦がし、世界を滅亡させてしまうらしい……!」
ユウキの叫びに、レドが言った。
「これを、戒めの魔女がたった一人で……!」
アイルが、悔しそうに歯を噛みしめる。
「なんとかしないと、冗談抜きで世界の危機だぁ~!!!!」
「落ち着きなさい! 早くあの女見つけて、ぶっ殺すわよ!」
アイルとヒメコが言った。
「避難民のことは、あとは我々がラドルーム王国の城に避難させる! あとは……魔法少女に任せたぞ!」
「頼むよ! ボクたちはお城でみんなが帰ってくるのを、待つしかできないけど……!」
レドとミートパティが、心配そうにユウキたちを見つめる。
「……わかった! 僕たちで……イヴさんを止めて見せる!」
「必ず……世界の平和を守るニャン!」
ユウキたちは全員でうなづくと、南東の空の小さな太陽に向きなおった。
「いくよ!」
ユウキの掛け声で、アマネ、アイル、ミクル、ヒメコが手を握る。
「……『ビューン』!!!」
瞬間移動の呪文で、ユウキたち5人はアルフルートの街へと飛んで行った!
「……頼んだぞ、アマネ」
レドは、小さくそう言うと、ミートパティの手綱を引いてラドルームの兵士たちと一緒に、避難してきた村人たちを城まで先導するのであった―――。
「あ、あああ……!」
アルフルートの、領主ホミナの屋敷。ホミナの母親が、屋敷の窓から上空を見上げて悲鳴を上げる。
小さな太陽の影響で、水の都と呼ばれたアルフルートの噴水や水路の川はすっかり干からびてしまい、町の建物からは火の手があがりはじめていた。
「奥様! すぐに避難を! ……熱ッ」
屋敷の老執事が、僅かな荷物を抱えて玄関の扉を開ける。金で作られたドアの取っ手はすっかり焼けるような熱さになっており、老執事が手袋の上に更に布巾をかぶせてなんとか扉を開く。
「けど、ホミナとエリンシアがまだ……!」
そうホミナの母親が言おうとした次の瞬間、屋敷の屋根に火がついて、天井から大きな瓦礫がガラガラガラ……!と音を立てて燃え落ちてきた!
「奥様!」
「きゃああああああ!!!!」
ホミナの母親が目を伏せ、老執事が慌ててホミナの母親をかばおうとした。
「ジアイス!」
次の瞬間、燃えた瓦礫が一瞬で凍り付いて空中で氷の氷柱が支柱になって制止する。
「大丈夫ですか!」
駆けつけたのは、アイルだった。アマネが氷の呪文で炎を消し、なんとか魔法少女たちが助けたのだ。
「ああ、勇者さま!」
「ここは危険です! すぐに南の橋から避難してください!」
ユウキがそう言うと、ホミナの母親と老執事は一緒にうなづいた。
「ありがとう勇者さま! このご恩は、一生忘れません!」
ホミナの母親と老執事は、ぺこりと頭を下げると慌てて扉を出て走って行った。
「……ひどい、街が燃えてる……!」
アマネが屋敷の高台からアルフルートの街を見下ろすと、あちこちで建物や街路樹が燃えていた。
「流石に、このレベルの火災になるとボクたちだけじゃ……」
「……それより」
ユウキが、上空を見上げた。 そこには、箒にまたがって街を見下ろす『戒めの魔女』イヴがいた。
「……さあ、パーティーの始まりよ☆」
イヴがぱちんと指を鳴らすと、上空に巨大なキャンディー玉やくまのぬいぐるみが、ぽんぽんと現れた。
「何よ、アレ⁉」
「……ふふっ♪」
ヒメコが思わず叫ぶ。イヴがほほ笑むと、巨大なキャンディー玉が次々と街に降り注いでいく!
一つ一つが、街の建物一棟分くらいの大きさもある巨大キャンディー玉は、まるで砲弾のように街の建物にぶつかって次々に爆発し、建物を破壊していく!
「噓でしょ!」
アマネが思わず叫んだ。
「危ない! 『エメラルド・チェーンスライサー』!!!!」
咄嗟にミクルが飛び出して、エメラルドの蛇腹剣でキャンディーの砲弾を切り裂いた!
上空でキャンディー玉が大爆発を起こし、なんとかユウキたちに直撃することは免れる。
だが、
『キヒィィィィ!!!』
キャンディー玉の爆発でもくもくと広がった爆発の煙から、5mほどの体躯を誇る、ぬいぐるみのクマのモンスターが現れ、ズシンと目の前で3体着地する。
『アングリーパペットベア、LV.85』
3体のクマのモンスターたちは、ギラリと光る爪とキバを光らせ、だらりとよだれを垂らす。
「レベルが高い……!」
ユウキが確認する。
「ステータスも、今まで戦った魔物たちとは段違いね」
「それでも……!」
アイル、アマネ、ユウキが武器を構える。
「フレイミング……ファイアスラーッシュ!!!!!」
「スパークルジアイス・ライジングクローぉぉぉぉ!!!」
「ブルーアイスストームランスキック!!!!」
強烈な業炎の斬撃、雷と氷の爪、氷の嵐をまとった蹴りが一斉にアングリーパペットベアの身体を切り裂いた!!!!
『キシャアアアアア!!!!!』
ぬいぐるみの体表がズタズタに切り裂かれたアングリーパペットベアたちは、甲高い悲鳴を上げながら闇になって霧散していった―――。
「イヴさん!!!」
ユウキが叫ぶ。
「無駄なあがきよ」
だがイヴは意にも介さずに次々と指を振る。次の瞬間、また上空に次々とぽんぽんと巨大キャンディー玉とアングリーパペットベア、コウモリの魔物、ハロウィンキャンディーバッドが次々と現れる。
「いつまで持つのかしらね!」
「みんな! 悔しいけど、今は魔物や隕石にかまっている場合じゃないわ! イヴ本体を……一刻も早く止めるわよ!」
アイルがそう叫ぶと、アイルは「アメイジング・リーブラ」形態に変身する!
「行くわよ! ミクル!」
「ボクたちが、キミを止める!!!」
ヒメコが「レイジング・サジタリウス」形態に、ミクルが「シャイニング・スコルピオ」形態に変身し、空に向かって跳躍する!
「イヴさん!!!!」
「イヴさん!!!!」
ユウキとアマネが、二人で手をつないで「マジェスティック・ヴァルゴ」形態と、「ライジング・レグルス」形態に変身する!!!
「はああああああ!!!!!」
5人が一斉に、上空のイヴに向かってとびかかる!
「……ふふっ」
イヴは、ぽんっと目の前にあま~いミルクたっぷりのカプチーノが入ったカップを生み出すと、手にもとって口を付け、ずずっとすすった。
「このおっ!!!」
ユウキが、聖剣ブレイブに光のオーラをまとわせて斬りかかる。しかし、イヴはひょいっと両手はカップに添えたまま、箒だけを動かしてユウキの攻撃をかわす。
「ええいっ!!!」
「やああああ!!!」
ミクルの攻撃や、ヒメコの蹴りも、目を閉じてカプチーノをゆっくり味わいながら、何食わぬ顔でひょいひょいっとかわしてしまう。
「やあああああ!!!」
「はああああ!!!!」
アイルの花吹雪の魔法や、アマネの氷と雷の魔法も、イヴに直撃する寸前のところで見えないバリアが魔法をはじき、イヴを傷つけることはかなわない。
「ちょっと! 真面目に戦いなさいよ!!!」
ヒメコが、ブチギレて叫ぶ。その様子を見て、ごくんとイヴはカプチーノを喉で飲み込んだ。
「……失礼。ハロウィンパーティーの催し物としては……ちょっと退屈だったものだから♪」
イヴは、ぱちんと指を鳴らすと空中からマカロンが出てくる。イヴはそのマカロンを手に取って、さくさくと食べる。
「なんだとぉ……!」
「それより……状況をよくご覧になってはいかがかしら?」
イヴが下を指さす。 ユウキたちがあたりを見渡すと、アルフルートの街はキャンディー爆弾が次々と落ちてほとんどの建物が焼け崩れていた。それだけじゃなく、世界中のあちこちに、キャンディー爆弾やぬいぐるみの魔物たちがどんどん降り注ぎ続けている。
「このままじゃ、世界中の街が……!」
アマネが思わず口に出す。
「やめてくれ! イヴさん! なんで……なんでそんなことをするんだよ!!!」
ユウキが涙を流しながら叫んだ。
「…………これは、『電子遊戯』よ」
イヴは、箒と共にまた更に上空に昇っていく。
「待て!!!」
「こんな世界は、見せかけだけの世界……そこに生きる人々も、世界も……全部全部、『あの方』が楽しむために、退屈しのぎのためだけに作られた世界なのに!!!」
イヴの箒は、雲の上を突き抜け、成層圏を抜け、徐々に宇宙に近づいていく。
「おい!」
「ユウキ! 待ちなさい、このままじゃ空気が……」
更に上空に追いかけようとするユウキを、アイルが止める。
「空気?」
アマネが、息を吸う。そこはかなり上空で酸素も薄い場所のはずだったのに、普通に呼吸ができる。
「息が……苦しくない?」
ユウキも、普通に息が吸えている事に気が付いた。
「まさか……」
アイルたちはうなづくと、イヴを追いかけて更に上空に、成層圏の向こう側へと上昇していった―――。
「……ほら、見なさい」
イヴは、箒から降りて、空中に降り立つ。
「なんなの、これ……!」
真っ暗な空を見上げて、アマネが息をのんだ。そこは本来、真っ暗な宇宙があるはずの場所だった。
「これは……」
「見なさい! これが……世界の真実!」
イヴが叫んだ。真っ暗な宇宙には……いくつもの映像が浮かんでいた。それは、いろいろな世界に暮らす人々が、普通に生活している様子や、戦車やミサイルで戦争をしている様子、モンスターに襲われ悲鳴を上げる様子、魔法でこなごなに星ごと砕け散る様子、色んな様子が次々に浮かんでは、ブツッと消えて、また新しく始まったりを繰り返していた。
「これは……」
「全部異世界の映像よ! 私たちが住む『メイデン・ワンダーランド』や、貴方たちが本来住んでいた世界だって……全部こんな映像に過ぎなかったのよ!」
イヴは叫んだ。
『ああっ、皆さん見てはいけませんそこは!』
すると、目の前に女神ゼウが直接姿を現した。
「ゼウ様!」
『人の身で……この世界を観測することなど、あってはならないのです!』
ゼウは、真剣な表情で、イヴの前に立ちふさがった。
「ええ、ここは本来の『神々の領域』に近い場所……けど、私は知ってしまったのよ……この世界すべてが、たった一人の存在を楽しませるためだけに、神々によって作られてしまったことを……!」
イヴは、魔法の箒を振りかざし、キャンディー爆弾を生み出す!
「ほら、見なさい!」
イヴの放ったキャンディー爆弾が、他の映像にぶつかって、爆発する!
「あっ!」
次の瞬間、映像が映っていた場所はブツブツと、壊れたテレビのような挙動になってヒビが入り、消滅してしまった。
「ほら! みなさい! ほらほらっ!」
イヴは、次々にキャンディー爆弾を生み出し、いくつもの映像たちを破壊していく!
「やめろ! イヴさん!」
ユウキは、怒りを込めてイヴに向かって叫んだ。それが何を意味しているのかを理解したからだ。
「チーマだって……こうしていたに過ぎないのよ! ただの映像に過ぎないアタシたちを……こうして遊戯として壊して、遊んでいただけ!」
「それでも!!! だからって!!!」
ユウキは、聖剣ブレイブに虹色の光をまとわせると、イヴに向かって斬りかかった!!!
「マジェスティック・レインボースラアアアッシュ!!!!!」
「ユウキ! あなたはまだ何もわかっていないのね!」
イヴは、右手を『凶悪な猛獣の腕』に変化させると、闇のオーラをまとってユウキの聖剣ブレイブを受け止めた!
「まだわからないの! ここまでやっておいて、なぜアタシの存在が許されているのか……! なぜアタシのことを、まだ神々が全力で止めに来ないのか!」
イヴは強烈なパワーで、ユウキの聖剣ブレイブを受け止めて押し返す。
「なに……⁉ どういうことだ!」
ユウキが、聖剣ブレイブを握る手に力を籠める。
『イヴっち!』
聖剣ブレイブが、涙声になって叫ぶ。
「アタシの存在が……許されているからよ! 魔王を倒し、魔法少女とアタシが戦う姿を! あのお方が見たいと望んでいるからよ!!!!」
イヴは、聖剣ブレイブをはじき返すと、目からビームを放つ!
「ぐっ!」
ユウキは、すんでのところでビームをかわし、バックステップで後退する。
「…………」
その様子を、女神ゼウは無言で見守っていた。
「ゼウ様……?」
そんな女神ゼウの様子を、アマネが不安そうに見つめる。
「まずは……女神ゼウ! あなたから殺す!」
イヴは、箒から立ち上がって跳躍すると、闇のオーラで大剣を生み出してゼウに上空からとびかかった!
「死ね!!! 女神!!!」
どす黒い血のような色の大剣が、ゼウの額めがけて飛んでくる!
「ゼウ様!」
「……!」
アマネが慌てて飛び出そうとするが、ゼウは全く動けない。
「ゼウ!!!!」
すると、イヴの大剣を、目の前で精悍な大男が大きな大剣で受け止め、バチバチと火花と雷が散る!!!!
「……ケイロ……!」
「イヴ……! はっは、久しぶりだなぁ……!」
ゼウをかばったのは、ゼウの兄であるケイロ神だった。ケイロは、大剣を片手で振り上げると、焦りを悟らせないようにするためか、わざとにやりと笑って見せた。
「ケイロ……!」
「ん~……まあ、思うところは色々あるだろう。だが、俺もお前の魔法少女時代の神であった責任もある。どうだ? 今からでも反省して、俺のもとに来ないか?」
ケイロは、イヴに手を差し伸べる。
「……図々しい男! お前のように身勝手な都合でアタシたちを駒のようにしか思っていない男が、えらそうに!」
イヴは、ケイロに向かって爆炎魔法を放つ!
「ぐっ……!」
ケイロは、爆炎魔法を大剣で受け止める。だが、爆発の威力がすさまじく、ガードするので手いっぱいのようだ。
「ケイロ様!」
ゼウがケイロの名前を呼ぶ。
「ぐっ……! はぁ、はぁ……! いけえアイル! お前たちが、メイデン・ワンダーランドを……お前たちの住んでいた世界の未来を守るんだぁ!」
ケイロが、必死になって叫ぶ。
「……みんな!」
ユウキが叫ぶと、アマネ、アイル、ミクル、ヒメコは同時にうなづいて、5人は輪になるように手を繋いだ。
「「「「「今、五つの力が合わさるとき!!!!」」」」」
5人は、息を吸って心を一つにすると、5人の心の光が集まって、大きなハートを生み出していく!
「慈愛の心!」
ユウキが叫ぶと、翡翠色の輝きがハートを包みこむ!
「星々の加護!!!」
アマネが叫ぶと、オレンジ色の輝きが、ハートを包んでキラキラ輝きだす!
「大輪の息吹!!!」
アイルが叫ぶと、花びらのようなオーラが、ハートの中に注がれて満たされる!
「永遠の……輝き!!!」
ミクルが叫ぶと、キラキラとした輝きのオーラが、5人の身体を包む!
「貫け!!!! 私たちを燃やす、情熱の炎よ!!!」
ヒメコが叫ぶと、5人は横に並んで手をかざし、ギラギラと燃えるようなオーラと共にハートをイヴに向けた!
「「「「「届け!!!! 『フィフス・マジックハート・エレメントフィナーレ』!!!!!」」」」」
5人の手から放たれた七色の光をまとった大きなハートは、イヴに向かって一直線に向かっていく―――!
「…………!」
次の瞬間、イヴに直撃した七色のハートは、大爆発を起こした―――!!!!!
「……や、やったか……?」
ケイロとゼウは、ごくりと爆発の煙から様子をうかがう。
「……なるほど、これが……『五つの奇跡の魔法少女』の力……!」
次の瞬間、バサッとイヴが悪魔の翼を広げた!
「…………!」
ユウキたちが息をのむ。確かに、新必殺技の『フィフス・マジックハート・エレメントフィナーレ』はかなり大きなダメージをイヴに与えていた。だが、
「確かに素晴らしいわ……! この力があれば、十分にあの魔王チーマくらいなら倒すことができるかもしれない……! でも、そんなわかりきった試合であの方が満足するはずがない……!」
「…………!」
イヴの『あの方』という言葉を聞くたびに、ゼウとケイロはごくりと唾をのむ。よほど聞かれたくない存在なのだろう。
「とびっきりのパーティーにしましょう……! 今日から私は、魔女なんかじゃない……! 全ての世界を支配する、最強の『大魔女』になるの!」
イヴは箒にまたがると、再び『メイデン・ワンダーランド』に降りていった!
「ま、待て!」
「何をする気なの⁉」
ユウキとアマネが、慌ててイヴを追いかける。
「待ちなさいよ!」
「ボクたちも!」
ヒメコとミクルが、慌ててユウキたちを追いかける。
「ケイロ様……」
アイルが、4人を追いかける前にちらりとケイロ様の方を振り返る。
「……今は、何も言うな。お前たちの、使命を果たせ」
「アイルさん……」
ケイロとゼウも、不安そうに苦虫を噛み潰したような、上手く何を言えばいいのかわからない、といった表情をしていた。
「……あとで、色々聞かせてもらいますからね」
アイルはそれだけ言うと、ユウキたちを追いかけて大気圏を突入していった。
「……さあ、『終末の炎』よ! 時を進めなさい! 運命の鐘を、今鳴らすとき!」
イヴは、小さな太陽に手を掲げると、小さな太陽は徐々に巨大な大火球へと急成長していく!
その大きさは、アルフルートの街全体、グランド大陸全体の三分の一を覆うほどの巨大な大きさになっていく!
「もう間もなく、『ビッグバン・エクスプロメテウス』の魔法は完成する……! もう、この魔法は止まらない!」
イヴは両手を掲げて、終末の炎に魔力を注ぎ込んだ!
「この『『ビッグバン・エクスプロメテウス』の炎が! この世界を! そして存在するすべての世界を! 星々全てを炎に飲み込んで、世界が全て灰になる! 神も、人も、魔も! 等しく全てが滅び去った後に、世界がこの大魔女『イヴ』様のものとなるのよ!」
「させるかああああ!!!」
ユウキとアマネが、二人で二振りの聖剣ブレイブを使って切りかかる!!!
「ちっ、負け犬が……!」
イヴは、魔法の箒で二人の剣を受け止め、ガチガチと剣と箒がぶつかる音が響く。
「イヴさん……! 例え、僕たちの住んでいた世界が……メイデン・ワンダーランドだって、ゲームの中の世界だったとしても……!」
「みんな……生きてるの! 大好きな人もいて、必死に生きて、生活してて……!」
二人は、左手に聖盾シブトを構え、2つの砲門を構える!
「それを壊しちゃうのは!」
「いけないことなのよ!!!」
二人は、聖盾シブトの引き金を引いた!
「「グランド・ホーリーショットXX!!!!」」
二つの聖盾シブトから放たれた強烈な貫通ビームが、イヴにゼロ距離から直撃した!!!
「……ハァ、ハァ……!」
イヴは、ぼろぼろになりながらも指をふるう。ぽんぽんっと、キャンディー爆弾がユウキたちの目の前に現れる!
「イヴさ……!」
ユウキとアマネの目の前で、キャンディー爆弾が爆発する!!!
「ユウキ~! アマネ~!!!!」
ミクルが叫ぶ。
「もう……遅いわ……!」
イヴは、だらりと腕をおろした。
「イヴさん……まさか!」
アイルが叫ぶ。
「ふふ……もう『終末の炎』……『ビッグバン・エクスプロメテウス』の魔力は満たされた。もう間もなく、『ビッグバン・エクスプロメテウス』は地表に堕ち……この大地をすべて焼き払い、世界そのものを消滅させる……!」
イヴがそう言った瞬間、『ビッグバン・エクスプロメテウス』はゴゴゴゴ……と振動をはじめ、ゆっくりと地表に向かって落ち始める―――!
「そんな……!」
「そんなの! ゼッタイにさせない!!!!」
ユウキとアマネが、終末の炎に向かって飛び出そうとする!
「バカ! アンタたち、あんな太陽みたいな温度の物体に近づくだけでも焼け死ぬわよ!」
ヒメコが言った。
「でも……あんなの、どうやって止めれば……!」
ミクルが、息をのむ。
「行かせるわけないでしょう? 貴方たちは……アタシとここで世界が終わるまでパーティーをするの」
イヴが手をふるうと、次々にアングリーパペットベアやハロウィンキャンディーバッドの群れが姿を現した。
「さあ……! 差し出せ、破滅か死を♪」
イヴの目が赤く光ると、魔物たちが一斉にユウキたちにとびかかった!
「まずい……!」
「このままじゃ、間に合わない……!」
ユウキとアイルが、思わずそう口にこぼした、その瞬間だった。
「……デストロイスーパースマッシュキックぅぅぅ!!!!!」
すると、目の前の魔物たちが、突如としてボコボコと風穴を開けられて、霧散した!
「え?」
ユウキたちは、思わず振り返る。
「い……行きなさい! 上級悪魔軍団よ! チーマ様と魔法少女の皆様をお助けするのです!」
悪魔の羽で飛んできた四天王フェゴレザードが、手下の悪魔たちに指示を出す。
上級悪魔たちは、数で群がってアングリーパペットベアたちに襲い掛かる!
「ち……チーマ⁉」
「フェゴレザードまで!」
ユウキとアマネが、思わず驚く。
「お前たち……一時休戦じゃ! この世界を滅ぼされるわけにはいかん! このメイデン・ワンダーランドの支配者は……ワシじゃ! わかったら、はようアレを止めるんじゃ!」
チーマは、闇の魔剣を手に取ると、イヴに斬りかかった!!!
「ちっ……! 貴方、アタシに勝てるとでも……」
「微塵にも思うておらんわ!!! じゃが、さっきのようにはいかんぞ!!!」
チーマは、右手の魔剣でイヴを押さえながら、左手に闇の魔力を込めた!!!
「ジュゼノブライドおおおおおお!!!!!」
強烈な闇の魔力が、混沌を飲み込んで爆発を起こす!
「チーマ……」
「今のうちよ! えっと……」
アイルがきょろきょろと終末の炎を見るが、アレを止める手段がやはり思いつかない。
「あああんもう!!! アナタたち!!! 揃いも揃ってニブすぎですよっ! 察しが悪いにもほどがあります!」
すると、フェゴレザードが大声で怒りながら言った。
「アレがあるでしょう!!! アレが!!!! ワタクシと戦った時にも使った、あの便利なアレがあるでしょう!!!」
そのフェゴレザードの言葉を聞いた瞬間に、五人の心に一斉に『アレ』の姿が浮かんだ。
「そうか! あれなら!」
「最強の攻撃には、最強の『鎧』というワケね!」
ユウキとアマネが言った。
「なるほど!」
「だったら……」
「呼ぶしかないわね! あの名前を!」
5人がうなづくと、5人は声をそろえて一斉に叫んだ。
「「「「「フリーーダーーーム!!!! ガーーーンボイーーーーーー!!!!!!」」」」」
『よくぞ呼んでくれた! 偉大なる自由を守護する、オレという希望の名を……!』
5人の叫びに呼応して、5人の身体に装備されていた自由の鎧が、5人の身体を飲み込んで巨大化し、5つのパーツに分かれて合体していく!
『おらもいっくべ~!!!』
『合体信号、受信。頭部モードへ移行します』
『あ~しもやっちゃうぞ~~~!!!!』
さらに、聖盾シブト、全知の兜メタ、聖剣ブレイブが全て巨大化し、巨大な頭部パーツ、シールド、剣になっていく!
ガッキィィィィィン!!!!!!!!
『オレの名は……正義と自由の守護神!!!! フリーーダーーーム!!!! ガーーーンボイーーーーーー! である!!!!』
自由の鎧ガンボイは、超巨大な100m級の大型のロボットに変形した!!!!
「行くわよ! みんな!」
「「「「おう!!!」」」」
司令操縦室のヒメコの号令で、5人が一斉に操縦桿を握る!
「僕たちが……!」
「あの炎を、止めて見せる!!!」
『行くぞ……! フリーーダーーーム!!!! ガーーーンボイーーーーーー!!!!』
巨大ロボット、フリーダムガンボイは背中と足のバーニアからジェット噴射を飛ばして一気に加速すると、終末の炎『ビッグバン・エクスプロメテウス』に向かって飛び出していくのだった―――!
~そのじゅう へ続く!~




