第十話「王子の純愛と、はじまりの勇者」そのはち
「だからお前は甘いんじゃ。イヴ」
魔王チーマは、目の前のイヴに向けて、右手で竜の鱗でできた拳銃を構えてイヴの額に向ける。
「その声で名前を呼ばないで!」
思わず叫んだイヴは、はっとしてチーマを見る。チーマは、震えながらじっと真剣な表情で、イヴの瞳を見つめていた。
「チーマ……?」
「ワシは、お前の父と母の命を奪い、弄んだ悪の魔王じゃ……お前を救ってやることはできん」
チーマは、拳銃の引き金を引いた―――。
「…………」
琥珀色の弾丸は、確実にイヴの額に命中した。そのうえで、イヴの額には傷一つなく、ひしゃげた弾丸がころりとイヴの足元に転がった。
「不意打ちなんて……貴方らしくもないじゃない! 殺すなら、ちゃんと殺しなさいよ!!!」
イヴは、怒りのままにチーマに吐き捨てた。
「……分かっておったよ、ワシが……お前に……」
チーマは、がくりと膝を突き、手放された拳銃がゴロゴロと地面を転がった。
「諦めないでよ!!! 一方的に私が勝っても、貴方が殺されるのよ!」
イヴは、巨大な魔法樹の箒の杖を生み出すと、空に向かって巨大な炎の玉を生み出していく……!
「もっと必死に抵抗してよ! でないと……貴方に殺されたワーロックも、お母さまも……無辜に死んでいった人々も浮かばれないじゃない!!!」
イヴは、箒の杖を振りかざし、巨大な爆炎をチーマめがけて振り下ろした!!!
(ワシは……どうすればよかったのじゃ、あの時……)
目の前に広がる燃え盛る火球を目の前にして、チーマは思い出していた。
五千年前に、勇者イヴと戦っていたあの頃を。
五千年前。チーマはいつものように、魔王城の水晶から『勇者となるべく生まれた人間』の様子を観察していた。
水晶に映った映像には、ボロ布をまとった小さな銀髪の女の子が、森の中を必死に走っている様子が映っていた。
「はぁ……はぁ……!」
それは、まだ10歳の幼い少女、イヴの幼い姿だった。
「いたぞー! 怪物だー! 魔女だ~!」
「魔女は村から出ていけ~!」
イヴと同じくらいの年端も行かぬ村の子供たちが、悪ふざけで小動物を追い回すようにイブに向かって小石や木の枝を投げつけていた!
「やめて! もう出て行くから! 出て行くからぁ!」
イヴは、必死に紙袋を抱きかかえながら子供たちから必死に逃げていた。
「森に逃げるぞ! 逃がすなよ!」
「くたばれ~! 森の魔女!」
太った少年の投げた小石が、イヴの頭にこつんとぶつかる。
「痛っ……!」
イヴの頭から、血が流れる。それでもイヴは歩みを止めずに、滝の裏にある洞窟まで走って逃げた。
「洞窟に逃げたぞ!」
「あいつ、洞窟の主が怖くないのかよ……!」
「洞窟に入ったら、母ちゃんに怒られる……!」
子供たちは、洞窟を恐れてすごすごと村の方へ戻っていった。
「ハァ……ハァ……もうイヤ……あいつら皆死んじゃえ……!」
イヴは、なんとか洞窟の中の岩の前に座る。
「早く、お母さまの所に帰らなきゃ……パンと、薬……!」
イヴは、紙袋にふと目をやる。すると、袋の底がやぶけている。
「ああっ……! なんのために……なんのために盗みに行ったと思ってるのよ! アタシのバカ!」
イヴは、必死にあたりを見まわした。すると、すぐ近くに薬の瓶が落ちている。
「すぐ近くでよかった……あとは、パンもこの近くに……!」
イヴは、慌てて薬の瓶を拾い、近くに落ちているであろうパンを探した。
「じゅるじゅる……!」
すると、近くにゲル状の魔物『グミジェリー』たちが群がっているのを見つけた。
「まさか……やめなさい! それは、アタシの!」
パンに群がっているグミジェリーを蹴り飛ばしてはねのけると、無惨に食い荒らされたパンの残骸が地面に転がっていた。
「ちっ……! 許さない……!」
イヴは、近くに落ちていた木の棍棒を拾い上げると、グミジェリーに向かって振り下ろした!
「ぐみ~!」
「このパンは……! アタシの三日ぶりの食事だったのよ!!! 半分は、お母さまにあげて……お母さまにも!!! 食べてもらうはずだったのよこのぶよぶよっ!」
イヴが棍棒を振り下ろすと、ぐちゃっと子供のグミジェリーが潰れて絶命する。
「このっ! 許さない! このっ! この!」
「ぐみ~!」
子供のグミジェリーは必死にか弱い悲鳴をあげるが、怒りに我を忘れたイヴはグミジェリーを執拗に殴り続ける。
「アハハッ! いい気味ね! ほらっ、もっと、もっと鳴け! このっ!」
イヴは、普段から村の子供たちに虐められている鬱憤を晴らすかのように、笑いながらグミジェリーを殴り続けていく。
「ぐ~~~み~~~!!!」
「アハハハ……!」
すると、後ろからズドン、という重たい地響きのような音がした。
「ん? 何の音……?」
イヴが後ろに振り返る。すると、目の前には大きな壁のような、ぶよぶよとした巨大な物体があった。
「ぐ~~~み~~~……!」
目の前にいたのは、5mはあろうかという超巨大なグミジェリーだった。
怒りに満ちた眼差しで、イヴをじろりと睨みつけていた。
(コイツ……洞窟の主……『お化けグミジェリー』!)
イヴは、思わず後ろに向かって後ずさる。だが、すぐ後ろは洞窟の壁で、イヴが逃げるための通路は、目の前のお化けグミジェリーにふさがれていた。
(死ぬ……! アタシ、ここで殺される……!)
「ぐ~~~み~~~!!!!」
巨大なグミジェリーは、巨大な身体を広げてイヴにのしかかろうと飛び掛かった!
「きゃああああああ!!!」
イヴは思わず、悲鳴を上げてうずくまる。
「バチスパークルズ!!!!」
すると、低い男の声が響き渡る。次の瞬間、お化けグミジェリーの身体に凄まじい稲妻は迸り、お化けグミジェリーの身体を貫いた!
「ぐ、ぐみみみ~~~~~!?!?!?」
お化けグミジェリーは、そのまま爆散して、べちゃべちゃにはじけ飛んでしまった。
「え……?」
「ははは、危ないところだったな……怪我はないか? お嬢ちゃん」
その呪文を放ったのは、茶色いローブと、鍔の広い三角帽子をまとった、白いひげと白髪が特徴の老人だった。
「わ……魔法使い!」
イヴは、目を輝かせてワーロックと呼ばれた男に駆け寄った。
「遅い! いつもいつも、来るのが遅いのよ! パンが食べられちゃったじゃない!」
イヴは、ポカポカとワーロックのお腹を叩いた。
「ははは、悪いな……それで、他のものはどうした?」
ワーロックは、イヴの頭を優しく撫でながら言った。
「薬は、なんとか無事よ……でも、他の食糧が……」
「……イヴ」
ワーロックは、イヴの破れた紙袋を見て言った。
「また盗んだのか? 俺がこないだくれてやった銀貨はどうした?」
イヴは、ボロボロの紙袋を手に取る。それは、ゴミ捨て場で拾った使い古されて濡れていた紙袋だった。
「銀貨はダメよ。また村の悪ガキどもに奪われたわ。あいつら、私が銀貨を持っていることを嗅ぎつけて、いつも村に来るたびに村の子供たち全員引き連れてアタシを追い回すの」
イヴは、悲しそうな目で薬の瓶をみつめた。
「そうか……じゃあしょうがないか。また別の方法を考えないとな……」
ワーロックは、ポンポンとイヴの頭に手を置くと、立ち上がって煙草のパイプに火をつけた。
「薬屋のばあさんには、俺が上手いこと言っておくよ。とにかく、すぐにクリスに薬を届けよう。案内してくれるか? イヴ」
「ええ。……急ぎましょう」
イヴは、ワーロックの手を握って一緒に洞窟の奥に進んでいった。
洞窟を抜けると、そこは崖の上の森に繋がっていた。山の奥には鹿やイノシシといった野生の動物たちが、自然豊かな風景の中で暮らしていた。
山道を歩きながら、イヴとワーロックは二人で手を繋いで進んでいく。
「ワーロックは、どうして魔法は勉強できたのに、道を覚えることはできないの? この道も、何度も何度も一緒に歩いてきたじゃない」
イヴは、ため息をつきながらワーロックに言った。
「はは……どうにも、森も洞窟も、似たような景色が続くと、すぐ分からなくなるんだ。イヴがいてくれて助かるよ」
「こんな小娘に頼ってるようじゃ、全然だめね。そんなんじゃ、生きていけないわよ」
「ははは、ロリのくせに言うじゃないか。ちょっと興奮する」
ワーロックは、ニヤニヤしながら笑った。
「…………ロリって、何?」
「ああ、俺の故郷の言葉だよ。気にしないでくれ……それより、クリスの容体は、最近どうなんだ?」
ワーロックは、イヴに聞いた。クリスとは、イヴの母親のことだ。
「……お医者様がね、いじわるして何も教えてくれないの。次に診療費が払えないなら、もうお家までは来ないって。もうすぐお別れだから、神父様に葬式の準備を依頼しておけって言ってたわ」
「何……? ええいあのヤブ医者め、俺がいくら払ってると思ってるんだ……分かった。あのお医者様に来てもらうのはやめよう。別のお医者様に……」
「でも、ワーロック……」
イヴは、ぎゅうぅ……っとワーロックの手を掴んだ。
「イヴ……」
「お母さまは……もうじき、死ぬんだって毎日口にするの。もう長くないから、昨日も遺書を書く便箋を買ってこいって……」
「……ええい諦めが早い! 待ってろ、俺がもっといい食い物を買ってきてやる!」
「わ、ワーロックっ!」
ワーロックは、イヴを担いで肩車すると、大慌てでイヴの家まで走りだした。
イヴの家は、山の上の森の奥にある小さな山小屋だった。家の周りは雑草で覆われ、家の壁にはツタが生い茂り、家の中にはキノコが生えるほど荒れ果てていた。
「お母さん、ただいま……」
イヴがドアを開けて、小さな声で母親を呼ぶ。おんぼろのベッドの上で、瘦せこけた女性が寝転がったまま入り口に立ったイヴとワーロックに振り返った。
「……もう、来るなって……言っただろ」
瘦せこけた女性……イヴの母親のクリスは、ぶっきらぼうにワーロックに吐き捨てた。
「おいおい、せっかく来てやったのになんだその言いぐさは。俺だってなぁ……」
「もうあたしのことなんて忘れな。金も要らない。アンタにイヴは……渡さないよ。げほっ、げほ……!」
テーブルの上には、ワーロックが残した銀貨が入った皮袋がそのまま放置されていた。
食事にも手を付けていないのか、カビたパンがそのままテーブルの皿の上に乗っていた。
「テメエ、飯も食ってねえのか! イヴだって、ガマンしてるんだぞ!」
「ケジメだよ……魔女の血は、この戒めの土地から出てはならない……お前に絆されてそれを破ったあたしのせいで、『魔王チーマ』が生まれたんだ……! お前がいなければ、この子だって産まれなくても……」
「ババア! 黙れ!」
ワーロックは、イヴの耳をふさいで叫んだ。
「くだらないことを、この子の前で言うな! さっさと薬飲んですやすや寝てろババア!」
ワーロックは薬の瓶をテーブルの上に置くと、イブの手を握った。
「イヴ! 俺についてこい! 食料を買いに行くぞ!」
「わ、ワーロック……?」
ワーロックは、イヴを連れて家を出て行った。
「行くぞ! 『ビューン』!」
山を下りたワーロックは、イヴの手を握り瞬間移動の呪文を唱える。すると、一瞬で二人は空を飛んで、首都であるラドルーム王国の王都に一瞬でたどり着いた。
「わ、わぁ……!」
さっきまでの森が広がっていた景色とは違い、ラドルームの王都は白い石畳の上を多くの通行人と沢山の馬車と行き交い、とても賑わっていた。
「お、王都までこんなに一瞬で……? ねぇワーロック。どうしてウチの家にくるときは、この呪文を使えないの?」
イヴは、目をキラキラさせながら聞いた。
「使えたら……よかったんだがなぁ……あの土地のせいだよ。戒めの地には、呪文の効果を打ち消す謎の結界があるんだ。あんなところ、さっさと引っ越せばいいものを……」
「ふぅん……」
イヴは、ワーロックの手を握りながら一緒に王都の街並みを歩いていく。
大通りから路地に入ると、商店街はさらに多くの人でごったがえしていた。
「……かぼちゃの飾り物がいっぱい」
「街は、もうすぐハロウィンだからな……子供はお菓子がいっぱいもらえるんだぞ?」
ワーロックは、街角にある飴を売る屋台を指差して言った。
「……ハロウィンは嫌いよ。どうせなら、クリスマスのケーキのほうが好きだわ」
イヴは、首を振って言った。
「どうして?」
「魔女は化け物……魔女だって、オオカミ男もマミーも、みんな怖いから人は遠ざける……魔女のお祭りなんて、最低よ……」
イヴは、下唇を噛み締めながら、ぎゅうぅっとワーロックの服の裾を掴んだ。
「……俺は、好きだな。ハロウィンは、いいお祭りだ」
ワーロックは、飴を売る屋台に立ち寄ると、キャンディーを二つ買って、イヴに手渡した。
「だって、魔女も怪物もモンスターも、みんながお菓子を分け合って仲良くするお祭りだろう? 仲良くすればいいじゃねえか、魔女っ娘だって可愛いもんだぞ?」
「でも……」
イヴは、遠慮してキャンディーを受け取らずに、首を横に振る。
「遠慮するな。俺は女の子が笑っている顔が好きなんだ」
「…………うん」
イヴは、キャンディーを受け取って、一口ぱきりと噛み砕いて食べた。
「……これ、イチゴの味」
「な? 悪くないだろ? ハロウィンは」
ワーロックは、にこりと笑った。
「……うん! 私、この味が大好き!」
イヴとワーロックは、その後食料の買いだしを済ませると、街の関所にある馬車の定期便に乗って、戒めの地がある場所の近くの村まで向かうのだった。
馬車に揺られながら外の景色を眺めているイヴは、馬車の奥で本を読んでいるワーロックに言った。
「……ワーロックって、魔女が好きなの?」
「ん? ……おお、好きだよ。可愛いじゃん」
ワーロックは、本を閉じてイヴに微笑んだ。
「……変なの。魔女は、恐ろしくて怖い存在なのよ。可愛くなんてないわ」
イヴは言った。
「ははは、そんなことはないさ。俺の故郷では、そうだなぁ……『魔法少女』っていう小さな女の子の魔女が、悪を倒すために戦って、街の人たちを守ったっていうアニ……伝説があるんだ。かっこよくて、可愛くて……おまけに最後は悪に染まった者たちまで助けて、友達になってしまうんだ。優しくて、強い……俺の憧れなんだよ」
「……悪い人たちと、仲良く……?」
イヴは、ワーロックの言葉に首をかしげる。
「例えば……金を払わずにモノを盗むのは、悪いことだ。だが、イヴはクリスを助けるために盗みを働いた……村の人たちが、もっとイヴとクリスと仲良くなって分かり合っていれば、みんなで助け合ってイヴが盗みをする必要はなくなるわけだ。悪い人たちだって、何も最初から悪い人になるわけじゃない」
「…………確かに、そうだわ!」
ワーロックの言葉に、イヴはポンと手を打った。
「だから、悪を悪だと決めつけて責めるだけでは、悪が悪事を働く原因を根本から解決することにはならない。俺の知っている『魔法少女』たちは……それを知っている心の底から優しい人たちなんだよ」
「そうなのね……! すごいわ! 魔法少女って!」
イヴは、目をキラキラさせながらワーロックのひざの上に乗った。
「ははは、そうだろう? だから、魔女だって……本当は優しい人たちなんだと分かれば、皆が怖がったりしないはずなんだがな……」
ワーロックは、ひざの上に乗ったイヴの頭を優しく撫でる。
「ワーロック……」
「だから、俺は魔法使いになったんだ。 この世界に、魔法があることは驚いたが……魔法があるなら、魔法少女にだって会える! 俺は、魔法少女を探す旅に出たんだ!」
ワーロックは、子供のように無邪気な笑顔で、ニカっとイヴに笑いかけた。
「……嘘ね」
イヴは、ジト目でワーロックに言った。
「嘘なもんか! 本当だぞ! 本当!」
イヴは、首を横に振ってワーロックの言葉を否定する。
「お母さまが言ってたわ……ワーロックは、『魔王チーマ』を倒すために、異世界からやってきたって……その旅の途中で、お母さまに会って、二人は結ばれて……」
「ば、馬鹿やろう! 嘘だ! アイツと俺は付き合ってない!」
「愛し合ってたって、お母さまは言ってたのよ! だから、ワーロックは……お父様だって……」
「俺はお前の父親じゃない!」
ワーロックは、大声で叫んだ。
「ん? お客さんどうかしましたか?」
馬車の御者が、大声に気付いてワーロックに声をかける。
「あ、ああすまん! 虫がいたんで驚いたんだ! 気にしないでくれ!」
ワーロックは慌てて誤魔化して御者に言った。
「ああさいですか……そろそろアルフレッドの村に着きますよ。降りる準備をしておいてください」
「わ、ワーロック!」
イヴはワーロックの服の裾を掴んで言った。
「ワーロックは……私のお父様なの?」
「……すまんな、イヴ。俺はお前の父親にはなれないんだ……お前を、巻き込むわけには……」
ワーロックが眉間にしわを寄せて煙草のパイプに火をつけた、その瞬間だった。
ドカ――――ン!!!!!!
「な、なんだべ!? アレは!」
御者が驚いて目を丸くしながら指をさす。
「何事だ!?」
「アルフレッドの村に、魔物が押し寄せています! まさか、魔王チーマの軍勢がなんでこんな田舎に……!?」
御者が指さした方向には、翼の生えた悪魔たちが、村の建物や森に火を放って、村中に火の手が上がっていた。
「ああ! 火事よワーロック!」
「まさか……山は!」
ワーロックが、慌てて山の上を見上げる。山の上の森の方にも、山火事の火の手が迫っていた。
「イヴ、走るぞ! クリスが危ない!」
「!」
ワーロックはしゃがんで、イヴを背中に背負うと慌てて馬車を降りて村に向かって走り出す。
イヴは、ワーロックの背中から振り落とされないように、ぎゅうぅっとワーロックの背中にしがみついた。
「キシャ―――!!!!」
「バーニングボムズぅ!!!!」
襲い掛かる『悪魔』の群れを、ワーロックが火炎の呪文で焼き払う!
「数が多いな……イヴ、しっかり掴まっていろよ!」
ワーロックは、イヴに振り返って声をかける。
(お母さま、無事でいて……!)
イヴは、最悪の未来を想像して締め付けられるように苦しくなった胸をぎゅっと抑え込んだ。
「う、うわあああああ!!!」
目の前で、村人の男が『中級悪魔』に襲われている!
「オブジアイス!!!」
ワーロックが、氷の槍を放って中級悪魔の身体を貫いた!
「ギャアアアア……!」
中級悪魔は悲鳴をあげながら、一瞬で霧となって霧散していった。
「大丈夫か!」
「わ、ワーロックの旦那! ありがとうごぜえやす!」
「礼ならいい! 他に逃げ遅れたものはいないか!」
ワーロックは男に向かって言った。
「だ、大丈夫です! 先ほど最後の逃げ遅れの避難が終わりました!」
「わかった、すぐに王都から応援が来るはずだ! それまで持ちこたえろよ!」
ワーロックは、男の肩を叩くとすぐに洞窟に向かった。男は、ワーロックに頭を下げると慌てて村を出て行った。
ワーロックとイヴは、急いで洞窟の中を駆け抜けていく。
「あの人たち、大丈夫かしら……」
「アルフレッドの村人たちなら、大丈夫だ。それより、今は……」
と、ワーロックが言った瞬間だった。
「キシャシャ~~~~!!!!」
ゴブリンの群れと、中級悪魔、上級悪魔の群れが、行く手を阻んできた。
「ワーロック、魔物よ!」
「任せろ……邪魔はさせん!」
ワーロックは、両手に二つの呪文をまとわせて同時に唱えた!
「トルネードぉ!!! エクスプロメテウスぅぅぅ!」
真空の竜巻と大爆発が、魔物の群れを一斉に吹き飛ばした!
「グギャアアアアアア!!!!」
魔物の群れは、強烈な魔法を喰らってバタバタと倒れていった。
「ちょっと、ワーロック! 洞窟の天井が崩れてしまうわ!」
「ああすまん、考えてなかった……! 急ぐぞ!」
ワーロックとイヴは、慌てて洞窟を抜けて走り出す。
バチバチバチ……!
「ああっ! 山が……」
洞窟を抜けた先の森は、辺り一面が火の海になっており、動物たちが慌てて逃げまどっていた。
「ちぃ……! イヴ、煙を吸うなよ! ウォーターカノン!!!」
ワーロックは、魔法で鉄砲水を打ち出して、強引に火を消し止めた。慌てて二人はクリスがいるイヴの家へと急ぐ。
(お母さま……! お母さま……!)
そうして、ワーロックの魔法で火を消しながら二人は必死で山の上の戒めの地まで急いだ。
そして
「見えた! おかあさ……」
イヴの瞳に、イヴの家が見えた。紫色の炎で燃え上がる、ボロボロの自宅が。
「あ……あああ……っ!」
「クックック……遅かったではないか、ワーロック」
上空に、低い声の笑い声が響く。緑色の肌をした、悪魔の翼を生やした邪悪な悪魔が、ニヤリと微笑んでいた。
「く……クリスぅぅぅ!!!!」
ワーロックが、思わず叫ぶ。
「そのボロ小屋に住んでいた老婆なら、死んだじゃろう……お前たちの暮らしぶりは、ワシも見させてもらった……のう、イヴ?」
悪魔は、ニヤリと笑いながら、ゆっくり地面に降り立った。
「貴方が、お母さまを殺したの……? な、なんでアタシの名前を……?」
「コイツと言葉を交わすな! イヴ!」
ワーロックは、自分の背中にイヴを隠す。
「アイツは……『魔王チーマ』だ!」
「ワーロック……ワシはそろそろ、お主との戦いにも飽きてきておる……諦めてその『ペンダント』を誰かに渡してはどうじゃ?」
緑色の肌をした悪魔……『魔王チーマ』は、笑いながらワーロックの胸を指さす。
「ダメだ! このペンダントだけは……!」
「まさか、それって……」
イヴは、ワーロックの胸ぐらにジャンプして、ワーロックの懐をまさぐった。
「イヴ、やめろ!」
「なれるのね! 『魔法少女』に……! それがあれば、お母さまを……!」
イヴは、ワーロックが懐に隠していた『プロト・プリズムペンダント』に手が触れる。
「お前を魔王との戦いに巻き込みたくないんだ! イヴ!」
「くどいわ!」
魔王チーマが、指先からビームを放ってワーロックの肩口を貫いた!
「ぐああああああ!!!」
「ワーロック!」
倒れ込んだワーロックに、イヴが駆け寄る。
「イヴ、お前とワシは戦う運命にある」
魔王チーマは、イヴに言った。
「チーマ……!」
イヴは、チーマに振り返った。
「ペンダントを手に取れ! そして叫ぶのじゃ! 変身しなければ、ワシはその男を殺すぞ!」
チーマの指先に、紫色の光が宿る。今変身しなければ、ワーロックは殺されてしまう。
「い、イヴ……! 逃げてくれ……! 俺のことは……」
「見捨てられないわ! ワーロックは……私の大切な家族なのよ! もう、家族を奪わせたりしない……!」
イヴは、『プロト・プリズムペンダント』を空に掲げた!
「『マジカル・ウェーブ!!!!』」
イヴは、『プロト・プリズムペンダント』を両手に持って胸に抱きしめる!
大きな光の柱がイヴの身体を包み込むように現れ、その光の柱に身体に包まれた光が徐々にコスチュームへと変化する―――。
「……《魔法少女》、『イヴ・ウィッチ』……!」
イヴが名乗りを上げると、光のオーラがイブの身体を包んで輝いた!
「……さあ、魔女のパーティーの始まりよ……♪ 準備は、よろしいかしら?」
~そのきゅう へ続く!~




