第十話「王子の純愛と、はじまりの勇者」そのなな
『戒めの魔女』を封印するために、アイスエッジ神殿に突入したユウキたち。しかし、時は既に遅かった。
戒めの魔女である『イヴ』は封印から解き放たれ、圧倒的な魔力で魔法少女たちを圧倒する。さらに、ユウキ達の記憶から魔王軍の四天王たちの強化コピーを生み出し、それを囮にして神殿から逃走してしまった。
ユウキ達は新たに『神器をコピーできる』伝説の剣『聖剣ブレイブ』の力で新たなるパワーアップ形態を生み出し、四天王のコピーたちを倒した。そして、逃げてしまった戒めの魔女イヴを急いで追いかけるのであった――。
(ねぇ、魔法使い……)
アイスエッジ神殿から地上に飛び立ち、悪魔の翼をはためかせた戒めの魔女イヴは、冷たい吹雪が吹きつける上空から、南のグランド大陸を見つめた。
(こんなことをしても、貴方は喜ばないのでしょうね……けれど)
イヴは、すぅぅ……と息を吸った。
「待て~!」
イヴに向かって、エメラルドの蛇腹剣と、黄金の鎖が伸びてくる!
「……思ったより早かったわね」
イヴは、赤い爪の指先から闇の刃を生み出し、なんなくエメラルド蛇腹剣と黄金の鎖を切り裂いてしまう。
「イヴさん! 待ってくれ!」
『天使の奇跡:光の翼』で翼を生やしたユウキと、それぞれ翼を生やしたアマネ、アイル、ミクル、ヒメコも飛んでくる。
「待たないわ。……貴方たちは、またアタシを封印するのでしょう?」
イヴは、くすくすと笑いながら言った。
「それは……」
「ちょっと待ってくれ! どうして……どうしてイヴさんは、神々を憎んでいるんだ!? 罪のない町の人たちを襲ったりなんてしたんだ!」
言いよどんだアマネの声を遮るように、ユウキは叫んだ。
「……罪のない町の人? おかしなことを言うのね」
イヴは、指先から亜空間の扉を開くと、ペロペロキャンディーを取り出して、ぺろりと舐める。
「あんなの……所詮意識のないゲームのために用意された架空の存在じゃない。 神々の遊びのために用意された、いわゆる人形……あまりにも可哀想だから、この世界から解き放ってあげただけなのに」
ぺろり、ぺろりとイヴがキャンディーを舐めるたび、ぽたぽたとキャンディーが溶けて雫が落ちていく。イヴの目は、全く笑っていなかった。
「何を……言っているの……???」
アイルが、思わず息を吞んだ。
「言葉の通りよ。貴方たちは、所詮あの人たちが生きた魂のある人間だとでも思っているのでしょうけど……ああ、貴方たちもそうだったわね? なら、なおさら可哀想だわ」
イブは、溶けて半分ほどになってしまったキャンディーを舐めるのに飽きてしまったのか、食べかけのキャンディーをぽいっと投げ捨てると、イヴがぱちん、と指を鳴らした瞬間に、ボッとキャンディーは紫色の炎に包まれて一瞬で燃えカスになってしまった。
「……神々は、僕たちの世界もゲームのように僕たちを作ったと言っていた。つまり……僕たちも、僕たちの世界もゲームの中の存在で、この世界にいる人たちも、ゲームの中の存在でしかないから殺したっていい……そう言いたいんですか?」
ユウキは、拳を振るえるほど強く握りしめてイヴを睨んだ。
「その『ゲーム』というものが、電子遊戯のことを指すというのなら、そうよ。この世界には本物ななんて何一つない。全部が神々の『暇つぶし』のために作られた世界。そんなもののために、魔王チーマも、貴方もアタシもそう作られた。……滑稽でしょう? そんなの」
イヴは右手を掲げると、上空に巨大な魔方陣を生み出した!
「だったら……なくなっちゃえばいいのよ、こんなくだらない世界」
イヴは、魔方陣に巨大な魔力を放った! 魔力をぶつけられた魔方陣は、光り輝きながら数百の隕石をまき散らしてきた!
「いけない! あんなものが地面に落ちたら!」
アイルは、目の色を変えて慌てて氷の魔方陣を描く!
「貴方たちは、せいぜいその『くだらない世界』を守っていればいい……神様はその方がお喜びになるのでしょう?」
イヴは、そのままユウキたちに背を向けて、高速移動用の縦の魔方陣を3つ描く。
(『瞬間移動呪文』が使えない……まあいい、高速移動する手段なんて、いくらでもある)
魔方陣の中に飛び込んだイヴは、ギュギューンと3つの魔方陣を伸縮させると、高速で自身をグランド大陸に向けて射出した!
「あっ、待ちなさい!」
アマネが叫ぶ。
「けど、今はそれどころじゃない! 街が!」
ユウキが、光の剣で隕石を粉々に砕いていく。だが、取りこぼした隕石が『コズモ村』の民家の屋根に直撃し、粉々に屋根を砕いて燃えていく。
「ちっ、これ以上はやらせないわよ! 『グラビドドン』!!!」
ヒメコが重力魔法で隕石を吸引し、砕いていく。
「『アイスブリザード』!!!!」「『シャイン・エーテリアルカノン』!!!」
アイルが吹雪の刃で、ミクルが光の呪文で隕石を次々に砕いていく。
「ええい、こうなったら……『ティアレイン・メロディー』!」
アマネは、雨のハープを取り出し、癒しの雨を降らせる唄を歌った!
民家に延焼した炎が、癒しの雨で徐々に鎮火されていく。
「あとは……」
炎の鎮火を確認したユウキは、上空を見上げる。
イヴが作った魔方陣は、まだ光ったまま次々に隕石を振らせ続けている。
「小さい隕石はアタシたちが砕くわ! ユウキ、いきなさい!」
アイルが、腕と脚に重力をまとって、次々に蹴りやパンチで隕石を砕いていく。
「頼んだわよ、ユウキ!」
「道を開くよ! 『スコルピオ・チェーン・マイン』!!!」
「『『レイジング……サジタリウス・マイクロ・アロー』!!!!」
ミクルは黄金の鎖を伸ばすと、黄金の鎖は光り輝いて大爆発を起こした!
砕かれた隕石の破片を、ヒメコの弓矢が次々に拡散して吹き飛ばしていく!
「うおおおおおお!!!!」
ユウキは、両手に魔力を込めながら、ミクルとヒメコの攻撃で一気に開かれた上空に向かって飛翔する!
「全ての魔力よ、虹色に輝け! 『マジェスティック・レインボー』おおおおお!!!!」
ユウキの両手から、虹色に輝くビームのような魔力が閃光となって放たれる!
まるで大樹のように太い巨大なビームが、魔方陣にぶつかってビキビキ、とヒビが入る。
「いっけええええええええええ!!!!」
ユウキが更に魔力を放つと、魔方陣にぶつかった魔力が一気に飽和して、ビキビキと魔方陣に出来た亀裂がさらに大きくなり、ついにバリン!と魔方陣が縦に割れ、ユウキの虹色のビームが魔方陣を貫いた!
貫かれた魔方陣は、すぐに雲のように霧散して消えていき、隕石が落ちてこなくなった空は雲が晴れて朝日の光がユウキたちの顔を照らした。
「はぁ……はぁ……」
ユウキは、額の汗をぬぐう。すると、シュンっとユウキは『マジェスティック・ヴァルゴ』の形態が溶けて、いつものユウキ・メイドの姿になる。
「ユウキくん、お疲れ様」
アイルも、『シャイニング・スコルピオ』の形態を解いて、ユウキの肩をかついだ。
「アイルお姉さん……でも、すぐにイヴさんを追わないと……」
「気持ちはわかるけど、まずはコズモ村の皆さんの無事を確認してからよ。村の家屋にも被害が出てるし、村民の皆さんをガンボイで送り届けないと」
アイルは落ち着いて言った。
「そうね……すぐに行くニャン!」
「いこう!」「ええ!」
アマネたちもうなづくと、すぐにコズモ村に向かって飛んでいった。
「ああ、ありがとうございますじゃ……皆様のお陰で、人的被害は全くありませんですじゃ」
ブレイド港では、勇者たちを信じて待っていたコズモ村の村長、サモニケハが残った村民たちを集めて待機してくれていた。サモニケハは寒そうに震えながら、鼻の穴から伸びた氷柱は先ほど会ったときよりも伸びていた。
「すみません……戒めの魔女の封印を阻止することは叶わず……皆さんの住宅にも被害を出してしまいました」
アイルが、頭を下げる。
「いやいや……むしろその程度で済んだというのは、我々にとっては幸運と言うべきでしょう」
サモニケハは穏やかに微笑みながら言った。
「『戒めの魔女現れし時……世界は崩壊するやもしれぬ』。この村に伝わる言い伝えですじゃ。あの隕石の雨を観た時、わしらはこの世界と共に死ぬことも覚悟しましたが……皆様がたが皆とに村民たちを避難させるように言ってくださったおかげで、おかげで老人も子供も皆無事に生きておる。それだけでもはや十分というもの……ぶえっくし!」
サモニケハは、大きくくしゃみをした瞬間に、鼻水の氷柱がぽきんと折れた。
「みんな~! ガンボイ……じゃなくって、避難船の用意が出来たよ~!」
ミクルがガンボイの入り口から村民たちに手を振る。
『ウム、早く乗れ、早く乗れ、早く乗れ……室内は十分に広く、暖房もある。食料も潤沢である』
自由の鎧ガンボイは、大人数が乗れるように自らの身体を大きくし、大きな部屋のような形態になっていた。
「おお、すっげ~!」
「なにこれなにこれ~!」
村の子供たちが、目を輝かせてガンボイに乗り込んでいく。
「そういえば、私たちが乗ってきた船はどうするのよ?」
ヒメコが言った。
『ウム、牽引が可能である。ロープを持て、オレが引こう、引こう、引こう……』
「おっけ~、置いてきちゃったらまた取りに行くのが大変だもんね!」
ヒメコとミクルが、慌てて港に泊めてある高速船までロープを取りに戻った。
「よし、これで村民は皆乗ったわね」
アイルは、ガンボイに乗り込んだ人数を確認する。
「あら? ユウキは?」
アマネは、きょろきょろとユウキを探す。
「おねえちゃん」
すると、レディ・キルティがふわふわとアマネのところに飛んできた。
「ママは、あっち」
レディ・キルティはアマネの指を引っ張って、ユウキがいる場所へ連れて行った。
「…………」
ユウキは、ガンボイの室内にある壁に取り付けられた、温風ヒーターの前でぼーっとしていた。
「お姉ちゃん、そこどいてよ!」
「あったか~い! あたちここ座る!」
村の子供たちが、ユウキの隣にやってきて、男の子がユウキの隣に、女の子がユウキの膝の上に座った。
「ああ、ごめん……」
「ユウキ……」
困ったように笑うユウキを、アマネが心配そうに見つめる。
「ユウキ、さっきから何かぼーっとしてるみたいだけど……大丈夫なの?」
アマネは、マグカップにココアを淹れて座ったままのユウキに渡す。
「ああ、ごめん。僕は大丈夫だよ。……ただ」
ユウキは、子供たちの頭にマグカップをぶつけないようにそっとアマネからマグカップを受け取ると、ふーっと熱々のココアに息を吹きかけた。
「イヴさんが……なんだか、すごく悲しそうな目をしていたのが気になって……なんで、イヴさんは神々と喧嘩することになってしまったんだろう。 仲良くすることは……できなかったのかなぁって」
ユウキは、そう言いながらココアを一口飲む。
「……たしかに! ゼウ様たちも、ときどきヘンなこと言うし……案外、ゼウ様たちが悪かったりするかもしれないかもね」
アマネは、ユウキと左隣に座ると、自分のマグカップからココアを飲んだ。
「おねーちゃんたち、おれもそれ欲しい」
「なんてのみものなの~?」
子供たちが、アマネたちのココアを見て言った。
「ごめんごめん、気が利かなかったね。アマネちゃん、皆の分も淹れてこようか」
「ちょっと、今あたしが気が利かないって言った?」
「言ってないから。……アマネちゃんは座ってて」
ユウキは立ち上がって、ガンボイの壁に取り付けられた給湯器まで歩いて言った。
(……ユウキのくせに、座ってろだなんて……)
珍しく気を利かせてきたユウキに、アマネは思わずつぶやいた。
「……ナマイキ」
「あのおねえちゃん、やさしいね」
すると、アマネの膝にやってきた小さな女の子が言った。
「ユウキが?」
「フリフリのメイドふく、かわいいっ!」
「しかも、めっちゃつよいんだろ! すごいよな~!」
子どもたちが無邪気に、魔法少女ごっこを始めて飛び跳ねる。
「ふれいみんぐ、ふぁいあすら~っっしゅ!!!」
「ふれあぼむず~!」
無邪気に魔法少女たちの真似をする子供たちをみて、アマネはふっと微笑む。
(あたしがテレビをみてた頃も……あんなカンジだったなぁ)
アマネは、立ち上がってガンボイの窓の外を見る。
(イヴさんも……魔法少女に憧れたり、してたのかな……?)
窓の外は、ビュウビュウと強風と大雪が降り続いていた。
一方その頃、魔王城。
ズドォォォォン!!!!!
強烈な衝突音と共に、グラグラと魔王城の壁が揺れる。
「なっ、何事ですかっ……!?」
フェゴレザードが、思わずびくっと手に持っていたティーカップから紫色の紅茶をこぼす。
「…………いくらなんでも、早すぎじゃろ」
魔王チーマは、ゆっくり玉座から立ち上がると、階段をコツン、コツンと一段ずつ降りていく。
「少なくとも、あやつらなら3日は持つと思っておったが……魔法少女たちはまだ生きておるのか?」
魔王チーマは、マントから闇の大剣を生み出すと、ガチャリと手に持った。
「相手にならなかったわ。相手をする価値もない」
崩れた魔王城の外壁の瓦礫から、ガラガラ……とイヴが立ち上がって言った。
「無視してこっちに来たというワケか……よほどワシのことを殺したかったとみえる」
魔王チーマは、ギロリとイヴを睨みつけた。
「ええ、そうよ……チーマ……貴方だけは許さない……何度殺しても殺し足りないッ!」
次の瞬間、イヴは跳躍して一瞬の間にチーマとの間合いを詰めた!
「ま、魔王様!」
フェゴレザードが手を伸ばすが、間に合うわけもなく。
「お父様の……ワーロックの、仇ッ!!!!」
バチィィィィ!!!!!
イヴの右手から放たれた闇の魔力と、チーマの闇の大剣がぶつかり合い、バチバチと黒い閃光と稲妻がほとばしる!
「よせっ! ワシを殺したところで……あの爺は戻ってこん! ワシを殺し、この世界を滅ぼしたところで……オマエはあのお方には敵わぬぞ!!!」
魔王チーマは、冷や汗をかきながら大声で叫ぶ!
「構わないわ! この私も、この世界も……どうなろうと知ったこっちゃない!!! 負けたっていい! この世界が全て全部滅んだっていい!!! 私たち人間の人生を……生きた証を! 愛した人を! 全部奪った神々たちは、絶対に許さない!!!!」
イヴは、左手から強烈な火炎の魔力を込めてチーマに向けて解き放った!
「『ヘル・ヴォルケーノ』!!!!」
火炎魔法はさらに溶岩と化してチーマの上半身を燃やし尽くした!
「ま、魔王様ァ~!?」
フェゴレザードは、恐怖のあまり思わず後ずさり、玉座がある祭壇の階段に思わず足をぶつけて腰を抜かしてしまった。
「狼狽えるな、それでも四天王か」
すると、上半身が溶けてなくなったチーマが、そのままシュルシュルと再生して立ち上がる。
「まったく……神々の加護がなければ即死じゃった。フェゴレザード、場所を変えるぞ。城を戦場にするわけにはいかん」
チーマは、ぺっと血反吐を吐くと、マントを悪魔の翼に変えて城壁に空いた大きな穴に向かって飛び立った。
「か、神々の……あっ、お待ちください魔王様ァ!」
慌ててフェゴレザードが悪魔の翼を広げて追いかける。
「……臆病なやつね」
イヴは、チーマが飛んでいったのをわざと見送ると、悪魔の翼を広げてチーマを追いかけた。
(あの城を、イヴとの戦いで崩壊させるわけにはいかん……!)
チーマは、必死に最大速度で湖の上を飛翔していた。びゅんびゅんと、鳥も弾丸も追いつけないスピードで風を切って飛びながら、チーマは思考を巡らせる。
(あやつを相手取るのに、地の利は必須じゃ……まずは)
「遅いわ、愚図」
「!」
チーマがその声に気付いた瞬間、チーマの腰めがけてイヴの蹴りが叩き込まれ、チーマは一直線に水面の底に叩きつけられた!
「がばああああああああ!!!!」
強烈な水圧と呼吸を奪われた衝撃で、チーマは耳から血を噴きながら湖の底に叩きつけられる。
(……この、クソゲーが……!)
チーマは、瀕死の身体を引きずって湖の水底を平泳ぎで泳ぎ、なんとか波打ち際までたどり着く。
「…………無様ね。貴方、こんなに弱かった?」
必死で張って陸地に上がろうとするチーマの前には、真顔でチーマを見つめるイヴが立っていた。
「はは……あれから何千年経ったと思っておる。ワシかて……衰えてもしょうがないじゃろ」
チーマは、強がってへへっと笑ってみせた。
「言い訳ね」
イヴは、亜空間の扉を開くと、紫色で巨大な悪鬼の腕を生み出してチーマの頭を指でつまんで持ち上げる。
「あががが……!」
「鍛錬を怠る? 用意周到で勤勉な貴方がそんなことするワケがない……もしかして、情が移ったの? このアタシに……」
イヴが手を振ると、巨大な悪鬼の腕はギリギリとチーマの頭をつまむ指の力を強くした!
「ぎゃああああ! ぐっ、誰が、オマエなんぞに……!」
「じゃあ……その『アタシそっくりの女の姿』は、なんなの?」
イヴは、真顔のまま問い詰める。
「フッ、答える義理もない……ただのいめちぇん、じゃ……」
「……嘘ね」
イヴが手を振る。巨大な悪鬼の腕は、ぽいっとチーマを湖に投げ捨てた。
「チーマ……今更だけど、貴方を殺してもむなしくなってきたわ。なんで偉そうにしてくれないの? なんで……魔法使いを殺したことを後悔しているの?」
湖に沈んだチーマに向かって、イヴはぽつりと投げかける。
「こ、心を読むな……ワシゃ、ただの仕事人じゃ……! 殺しに情も躊躇いも、後悔もないわ!」
チーマは、ばしゃあっと悪魔の翼で飛翔して、湖から上空に飛び上がる!
「言われた筋書きを忠実に実行する……その上でワシのやりたいようにやる! イヴ……お前にこの筋書きを台無しにされるわけにはいかんのじゃ……」
チーマは、ぜえぜえと息を切らせながら、イヴを睨みつけた。
「……そう」
イヴは、河原の小石を拾うと、水面に向かって小石を投げて水切りをする。
「チーマ、チャンスをあげるわ。……アタシを『あのお方』に会わせて」
何度も水切りをしながら、イヴはチーマに言った。
「会わせるわけにはいかん……その権利は、神々でさえもないのじゃぞ」
チーマは、苦悶に満ちた表情で吐き捨てた。
「なら、ここであなたを殺して『筋書き』を終わりにするわ。 そのほうが、貴方も神々も困るのではなくて?」
イヴは、チーマを見上げて言った。
「それは、そうじゃが……じゃが……」
「……煮え切らないわね。 貴方って本当に可哀想。 この世界の作られた人々も……あの魔法少女たちも。 つまらない物語に踊らされてばかりで、自由なんて何もない」
イヴは、息を吸って、ゆっくり吐く。
「私の人生もそうだった。 自由なんてなくて、誰かのシナリオに踊らされてばかりで……やっと自由だって思えたワーロックとの出逢いだって……全部全部、偽物で」
「…………」
寂しそうにつぶやくイヴの言葉を、チーマは神妙な面持ちで聞くしかなかった。
「自由になりたい……そう思うことの、何がいけないのチーマ……? 貴方だって、自由に憧れる気持ちが、ないわけじゃないのでしょう?」
「……ならぬ。ならぬのじゃ。お前は……わかっておらぬ」
チーマは、ゆっくり上空からイヴの隣に降下する。
「お前は、知るべきでなかった……ワシが、あの時口を滑らせたばかりに……」
「ええ、本当よ。 アタシだって……何も知らないまま、神々に言われるがまま貴方を殺しておけばよかった」
イヴは、チーマの背後に立ってチーマの首筋に手を伸ばす。
「ねぇ、ワーロック」
ぎゅっと、チーマの首を絞めつける指の力を込める。
「イヴ……ワシを、殺すのか?」
「…………殺したいわ。殺したかった。殺さないといけなかった。アタシは……」
イヴは、震えながら歯を噛み締める。
「…………」
チーマは、イヴの手を優しく振り払って一歩前に進む。
「だからお前は甘いんじゃ。イヴ」
「その声で名前を呼ばないで!」
思わず叫んだイヴは、はっとしてチーマを見る。チーマは、右手で竜の鱗でできた拳銃を構えてイヴの額に向けていた。
「チーマ……?」
「ワシは、お前の父と母の命を奪い、弄んだ悪の魔王じゃ……お前を救ってやることはできん」
チーマは、拳銃の引き金を引いた―――。
~そのはち へ続く!~




