第十話「王子の純愛と、はじまりの勇者」そのよん
『戒めの魔女』を封印するために、『聖剣ブレイブ』を回収するため、ラドルーム王城を訪れたユウキたちに、『聖剣ブレイブ』を狙うフェゴレザードの軍勢が襲い掛かり、ユウキは戦いのどさくさに紛れて聖剣ブレイブを持ち出したトウロ王子を追いかけ、彼から聖剣ブレイブを受け取ろうとした。しかし、そこに突如魔王チーマが現れ、城にあった剣は偽物であると告げ、彼女は本物の『聖剣ブレイブ』をユウキに渡すのであった。魔王チーマは、勇者と魔王が決着をつける前に、『戒めの魔女』を魔法少女に倒してもらうためにはやむを得ないことだ、と話しユウキたちに『聖剣ブレイブ』を託すのであった。一方その頃、四天王ヒンケルと戦うミクルたちは―――。
「……って、何が何やらさっぱりだけど……ユウキ、大丈夫ニャン!?」
呆気にとられたアマネは、はっと気が付くと勇気に駆け寄った。
「ああ、僕は大丈夫……キミも、大丈夫だったかい?」
「あ、うん……」
ユウキがトウロ王子に声をかけると、トウロ王子はもじもじしながらユウキの腰に抱き着く。
「王子! 王子は無事か!?」
「だいじょうぶ!? 二人とも!」
すると、王子の部屋に王様とアイルが慌てて駆け込んできた。
「城の兵士さんから、剣を取りに行った大臣が倒れていて、王子が剣を持って逃げたって聞いて……」
「おお! 我が息子トウロ王子よ! 怪我はないか!?」
王様は、大慌てで王子に駆け寄った。
「う、うんお父様……このお姉さんが、護ってくださいました……」
トウロ王子は、ぎゅっとユウキのスカートの裾を掴んだ。
「そうか……大儀であった。王子を護ってくれたこと、礼を言うぞ」
王様が、ユウキに頭を下げた。
「い、いえ……!」
「それより、さっきの気配は……」
アイルが不安そうにアマネに声をかける。
「実は……」
アマネは、王様に聞こえないように小声でさきほどの状況をアイルに説明した。
「……そう。『聖剣ブレイブ』の本物は魔王が持っていて、それをユウキに渡したのね」
アイルは、眉間にしわを寄せながら状況を頭の中で整理した。
「……それで、魔物たちのボスはどうなっておる?」
すると、王様が言った。
「たぶん、魔物の親玉はさっき僕が撃退したけど……」
ユウキは、王様を混乱させないために咄嗟に嘘をついた。
「そう言えば、ひーちゃんとみーくんは?!」
「……心配ね」
アマネとアイルがそう言うと、3人は慌てて城の城門に向かって行くのであった。
城門前。
「……エメラルド・チェーンスライサー!!!!」
ミクルは、『四天王ヒンケル』に向かって、エメラルドの蛇腹剣を伸ばしてヒンケルの手足を切り裂こうとする!
「…………」
だが、闇のオーラに包まれた鉄の甲冑には、『エメラルドチェーンスライサー』では傷が入らない!
「だったら! これでどうだぁ! 『ダイヤモンド・タワー』ぁ!!!」
ミクルは、『氷魔法』と、『宝石魔法』を融合させて魔方陣を描くと、ヒンケルの足元に氷のタワーを生み出してヒンケルの手足を一瞬で凍り付かせた!
「……ウガアアアアア!!!!」
すると、ヒンケルは鋼の甲冑を真っ赤に光らせて甲冑を発火させると、高熱で氷を溶かして強引に氷のタワーを腕力で破壊した!
「ダイヤモンドタワー……破れたり!!!」
「げ、マジぃ!?!?」
「ウゴガアアア!!!!」
すると、真っ赤な炎を纏った鉄の拳で、ヒンケルはミクルを殴りつけた!
「うぎゃあああああ!!! 熱~い!!」
強烈な炎のパンチを喰らったミクルは、燃やされながら城壁に吹き飛ばされる!
「ミクル!」
「オイ、ミートパティ! 下がっていろ! 『獣牙王の覇閃』あぁぁぁ!!!!」
ワイルド・バロンは、黒曜石の剣を構えて、虹色の閃光と共に金色のオーラを纏って強烈なエネルギー斬撃波をヒンケルに放った!
「グ、グググ……!」
「よくやったわ! 駄犬! そのまま抑えてなさい! 『グラビドドン』!!!」
すると、空から『ペガサスウイング』で飛翔したヒメコが、強烈な超重力の呪文をヒンケルに放った!
強烈な重力波が、上からヒンケル地面を陥没させながら押し潰す!
「グオオオオオ!!!!」
ヒンケルは、苦しそうに咆哮をあげる!
「ヒメコ!」
ミートパティが涙目でヒメコを見上げた。
「こっちの雑魚は大体片付けたわ! あとは……コイツだけ!」
ヒメコは、左手で『超級重力呪文』を操りながら、右手で強烈な炎の呪文を生み出す!
「『火炎呪術:蒼』―――『経極境地・蒼蓮煉獄大閻魔』!!!」
強烈な、蒼い炎の大火球を上空に生み出すと、ヒメコは重力で動けないヒンケルに向かって大火球を振り下ろした!!!
「いけえええええええ!!!!」
「!」
すると、巨大な蒼い大火球がヒンケルに命中し、ヒンケルの鎧は蒼い炎に包まれた!
「どうよ!?」
「……ウウウ、ガアアアアア!!!!」
すると、ヒンケルは全身を振動させ、重力波と全身に回った蒼い炎を振り払ってかき消した!!!
「は!?」
「オイオイ嘘だろ!?」
次の瞬間、ヒンケルの鎧は黒い闇のオーラに再び覆われ、炎の熱で溶けるはずの鎧には、溶けるどころかダメージの一つも入っていない。
「だったら……これで!」
すると、城壁に叩きつけられていたミクルが、壁を蹴ってまっすぐヒンケルに向かって跳躍すると、シャイニングソードを構えてヒンケルに突撃した!
「「シャイン・エーテリアル……カノォォォォン!!!!」
ミクルは闇のオーラを吹き飛ばすために、最大火力の光魔法を放った!
「はあああああああああああ!!!」
ピカ―ッ!っと辺り一面を眩い光が城中を包み込む!
「うわぁ! まぶしい!」
「ああ……だが、これだけの光魔法なら、ヤツの闇のオーラも……!」
「光は、届カナイ」
すると、ヒンケルは、背中から『戦斧槍』を取り出した。
「何ッ!?」
「『邪槍剣……ネオ・グランドソード!!!!』」
すると、槍は凶悪な闇のオーラを纏い、十字の剣閃となって光を切り裂き、ミクルに襲い掛かる!
「ゲゲッ!? 強化技とか、聞いてないってばぁ~~~!!!!!」
ミクルが、慌てて身をひねってかわすが、光の呪文は切り裂かれて消滅し、強烈な一撃でズドォン……!と後ろの鉄の城門に、大きな十字の剣閃の傷跡が刻まれていた。
「あんなのまともに受けたら……腕どころか上半身と下半身がグッバイしちゃうヨネ……? ひぇぇ……」
ミクルは、後ろを振り返って冷や汗をかく。
「ちょっと! 城門に被害だしてどうすんのよ! ちゃんと受け止めなさいよ!」
ヒメコがブチギレてミクルに言った。
「ムチャ言わないでよ! 流石にあれはボクでもムリすぎるってぇ!」
「ちっ……でも、流石にアレは私たちだけじゃ……」
ヒメコも、超強力な炎と重力の呪文を無効化されて、打つ手なしと言った様子で歯を噛み締めた。
「『獣牙王の覇閃』で傷の一つも入らんとは……」
「こ、こんなのどうすればいいの~!?」
ワイルド・バロンとミートパティも、悔しそうに物陰に隠れるしかなかった。
どうすればいい―――? ミクルとヒメコが、必死で頭を悩ませていた、そのときだった。
「な~にをやっとるかぁ! お前たちはまだまだじゃのう!」
すると、上空から『魔王チーマ』が飛んできた!
「ま、魔王!?」
「チーマですって!?」
思わずミクルとヒメコが驚く。
「いいか? 強い敵にはなぁ……こうやるんじゃ!」
チーマ▼スキルによるステータスを維持したままスキルパネルをリセットし『スキルパネル転生』をしました!
チーマ▼SP:54×3000を使用して『攻撃力&素早さ+15000』『格闘技能スキル全開放』を開放しました!
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チーマ▼SP:54×3000を使用して『攻撃力&素早さ+15000』『格闘技能スキル全開放』を開放しました!
チーマ▼SP:360を使用して『部位変身:龍変化』を開放しました!
チーマ▼SP:250×4を使用して『部位増強:脚部強化』を開放しました!
「『ネオハイパーデストロイスーパースマッシュキック』!!!!!」
チーマは、一瞬でヒンケルの頭上に現れると、右脚を巨大な黒い鱗の龍の脚に変身させると、ヒンケルの頭に向かって強烈な威力の蹴りを叩き込んだ!!!
「が、ガアアアアア!!!!!」
強烈な蹴りによって、先ほどのミクルたちの攻撃では傷一つは要らなかったヒンケルの鎧は、一気にベコォ……と凹み、蹴りの衝撃波だけで城壁の角にある見張り台がガラガラと崩れ、崩壊する。
「ま、魔王サマァァァ……!」
そして、ケリをまともに食らいまるで空き缶のようにグジャグジャに潰れてしまったヒンケルは、あっけなくサラサラと灰燼となって消えていったのだった―――。
「……オイ、ヒンケルを死霊操術で無理やり蘇らせたのはオマエか? フェゴレザード」
魔王チーマは、ジト目で自分の上空を飛んでいたフェゴレザードを睨みつけた。
「ひ、ひぇ……! に、人間たちの城を攻め落とすには、これくらいないと心許ないと思いまして……」
「たわけ! ヒンケルを甦らすのは、魔王城での四天王戦まで取っておくつもりだったのじゃぞ! 貴様謹慎中に無断出撃するだけに飽き足らず、ワシの楽しみまで奪うとは……しかもこんな中途半端な強さで!」
「ひ、ひぃぃ!」
魔王チーマは、フェゴレザードを怒鳴りつける。
「ちょ、ちょっと! なんで魔王がいきなり街に襲いに来てんのよ! 序盤の街に魔王自ら来るのはルール違反でしょ!」
「そーだそーだ! 許されないぞそんなこと! しかも倒したはずの四天王まで蘇らせて!」
ヒメコとミクルが言った。
「いやぁすまんな! 今回の襲撃はフェゴレザードの独断じゃ。ワシは止めに来ただけじゃから許せよ? 手土産もユウキに渡しておいたからな」
魔王チーマは、パンと手を合わせるとヒメコたちに上空から頭を下げた。
「手土産ですって? アンタ、ユウキたちに何をしたのよ!?」
「じゃから何もしとらんのじゃが……あ、そうそうお前たち」
魔王チーマは、くるりとヒメコたちに背を向けると、目線だけヒメコたちに戻して言った。
「その程度の強さのヒンケルに手こずっているようでは……ワシはおろか『戒めの魔女』にすら勝てんぞ。何か攻略法を考えておく必要があるかもしれんのう」
それだけ言い残すと、魔王チーマはバサッバサッと悪魔の翼をはためかせ、赤い月に向かってフェゴレザードと一緒に飛び立っていってしまった―――。
「あっ! こら~! 待ちなさい! その顔燃やさないと気がすまないっての~!」
「ヒメコ! 空が!」
すると、魔王がいなくなったことによって、暗くなっていた空が元に戻り、暗雲は晴れて元の穏やかな夕焼けの晴れ空に戻っていった―――。
▼ ユウキはLV:50にレベルアップしました! ステイタスが上昇しました! SPを獲得しました!
▼ アマネはLV:50にレベルアップしました! ステイタスが上昇しました! SPを獲得しました!
▼ アイルはLV:51にレベルアップしました! ステイタスが上昇しました! SPを獲得しました!
▼ ミクルはLV:5にレベルアップしました! ステイタスが上昇しました! SPを獲得しました!
▼ ヒメコはLV:51にレベルアップしました! ステイタスが上昇しました! SPを獲得しました!
「……とにかく、これで『聖剣ブレイブ』は手に入りました」
そして、魔王軍襲来の後、ユウキ達は再び王様の前で報告をした。
今回の襲撃で、怪我をしたのは兵士数人と大臣のみ。魔王軍に本拠地であるラドルーム王城を襲撃された事件は、王様が緘口令をしいたことによって城下町の人たちには伝えられていないが、それでも城壁の一部や見張り台が破壊されたので、市民たちが事件に気付くのは時間の問題だろう。
「うむ……まさか魔王軍が聖剣を狙って攻撃してくるとは……聖剣が奪われなかったのが不幸中の幸いであるな」
(ちょっと……魔王が来たってこと、王様に言わなくていいワケ?)
ヒメコが、小声でアイルに言った。
(事実を伝えても、魔王がその気になればいつでも本人が襲撃に来ることができると知れば、王様も兵士たちもパニックになってしまうわ……)
(しかも、守っていたはずの聖剣も偽物だったとしれば、あの王様なら自暴自棄になって自分から戦争でも起こしかねないヨネ!)
(確かに、それはマズイわね……)
アイルとミクルとヒメコは、小声でそう言うと、王様の機嫌を損ねないように言った。
「聖剣は、我々勇者が預かります。そうすれば、聖剣を狙う魔物はこっちに注力するはず―――従って、魔王の軍勢が王城を狙ってくることはないでしょう」
「うむ……しかし、王城が襲撃されたのは事実。『戒めの魔女』の封印も重要な課題ではあるが……城の兵力では、あのような凶悪な魔物と打ち合うのは不可能かもしれん。アイル殿。せめて魔法少女を1人、我が国の戦力として留めておいてくれまいか? 本国が落ちては、元も子もないと思うのだが……」
すると、ラドルーム王は眉間にしわを寄せ、指を顔の前で組んで言った。
「それは……」
「確かにそうだけど……でも」
5人で力を合わせなければ、強大な敵を相手にするのは不可能だ。ヒメコたちが、そう言おうとした時だった。
「なら、俺たちが残ろう」
すると、謁見の間の後ろで控えていたワイルド・バロンが手を挙げた。
「貴様は……」
ラドルーム王は、ワイルド・バロンを見た。
「失礼。オレの名は『ワイルド・バロン』。勇者たちの従者をしている。見ての通り獣人族だが……オレの剣技は勇者にも引けを取らない。勇者たちが任務を遂行中は、オレと連れが王国を護衛しよう」
(え? ボクも……?)
(いいから黙っていろ!)
ワイルド・バロンの隣できょとんとするミートパティを、ワイルド・バロンが口をふさいで黙らせる。
「ワイルド・バロン様……!」
「勇者アマネよ。魔法少女は、5人揃ってこそ『五つの・奇跡の魔法少女』だ。誰か一人欠けても、強大な敵を打ち倒すのは難しいことになるだろう」
ワイルド・バロンは、静かに言った。
「ふむ……しかし、貴様は魔法少女の代わりとなる戦力になりうるのか?」
王様は怪訝そうな顔で言った。
「確かに、このオレ一人では戦力としては足りないでしょう……ですが、ご安心ください。我が獣人族の戦士に伝わる剣術、槍術を、王国の兵士たちにお教えしましょう。1週間もあれば、この国の兵士たちのレベルは、見違えるほど格段に成長するでしょう」
「…………ふむ」
すると、ラドルーム王は玉座から立ち上がった。
「兵士よ!」
「!」
王が手を振りかざすと、ガチャンと脇にいた兵士たちがワイルド・バロンの首筋に槍を突きつけた!
「王様!?」
「なにを!?」
「…………」
狼狽えるアマネとユウキたちをよそに、ワイルド・バロンは顔色一つ変えずに王様を見つめる。
「お前も獣人族なら知っているだろう……我が『ラドルーム王国』が、獣人族たちと何度も戦争となった歴史の数々を! なればこそ……なぜお前たちの言うことを信用できようか! 恨みを抱かれこそすれ、協力する恩義もないはずであろう!」
ラドルーム王は、真剣な表情でワイルド・バロンに言い放った。
「ちょっと! 王様! ワイルド・バロン様は……」
「……正直に、申し上げましょう」
アマネが王様を止めようとしたが、ワイルド・バロンは首を振った。
「確かに、オレはかつて人間族を恨んでいました……我々獣人族の土地や財産を奪い、散々虐げて差別してきた人間族のことを……オレ個人はあまり好きではありません」
しかし、そう言いながらワイルド・バロンは、腰の黒曜石の剣を床に投げ捨てた!
「!」
「しかし……勇者様に会って、オレは考えを改めました。獣人族を差別する人間たちばかりではない……世界の人々は、獣人族と共に歩める未来のために、少しずつ変わろうとしていると。現に、この王国では獣人族差別禁止のポスターも見かけ、街の人たちからも奇異の目で見られることもなく勇者たちと共に過ごすことができました」
ちょうど、レドは朝にユウキ達とカフェで食事をとっているときに、カフェの掲示板で『獣人族差別禁止』のポスターを見かけていた。店内では店員も獣人族のレドに全く態度を変えず注文に応じ、厨房では豚の獣人族が笑顔でフライパン調理をしているのを、自分の目で見ていたのだった。
「であるならば……偏見を捨て去るべきなのは、我々獣人族だ。かつて我々と人間族は、お互いに傷つけ合い憎みあっていた。だが、今は『戒めの魔女』や『魔王チーマ』など、我々と人間族は共通する敵を抱えている! なればこそ、我々は今までの怨恨に目を瞑り、手を取り合って一緒に戦い、友として生き延びて未来を築く、そのために協力し合うべきではなかろうか? 少なくとも、このオレはそう思っているのです。人間族の王よ」
ワイルド・バロンはひざまずくと、敬礼のポーズを取り王に頭を下げた。
「…………」
ラドルーム王は、目を瞑って「はぁ」とため息をつくと、ゆっくり玉座に座り、静かに言った。
「…………武器を収めよ」
ラドルーム王が手を引っ込めると、兵士たちが槍をひっこめた。
「まずは無礼を詫びよう。獣人族の戦士よ」
ラドルーム王は、頭を下げた。
「面を上げるがいい。確かに、獣人族と我ら人間族の戦いの歴史は、そう簡単に取り戻せるものではないとワシも思っておる。だが、何か取り戻せるといいと思ってワシは近年『獣人族差別禁止法案』の整備を進めてきた」
王様は、自分の頭の上に乗った王冠を玉座の隣の台座に置くと、もう一度立ち上がって謁見の間の上座から降り、ワイルド・バロンの前に歩いていった。
「我らラドルーム王族と人間族がしてきた歴史の罪が、すぐに消えることはないであろうが……ワシは、そなたの言葉を信じることで、獣人族たちへの信愛と信頼を示すことにしよう。どうか、『メイデンワンダーランド』の未来のため……人間族と獣人族の未来のために、その力を貸してくれぬか。ワイルド・バロンよ」
ラドルーム王は、ワイルド・バロンと同じように、かしついて彼に目線を合わせて手を伸ばした。
「……ラドルーム王。喜んで、この要請を拝命いたします」
ワイルド・バロンは、差し出されたラドルーム王の手を取って笑顔で言った。
「これで、王国の安全は大丈夫そうね」
アイルが、微笑んで言った。
「みんな~! ぼ、ボクもバロンくんと一緒に修行するから……あとで、一緒に合流しようねぇ! つよくなって、もっと皆の役に立ってみせるよぉ!」
ミートパティは、涙目でアマネたちに言った。
「ミートパティ! じゃあ、ラドルーム王国は頼んだわよ! バロン様にもよろしくね!」
「うん!」
アマネは、ミートパティの頭を優しく撫でた。
「では……勇者たちよ。引き続き『戒めの魔女』の封印と、『魔王チーマ』の討伐を命ずる。既にアルフルート商人連合を通じてイカナッペの港に高速魔道船を手配してある。早急に王都を出発し、イカナッペ村の港に向かうがよい」
王様は、玉座に座るとアイルたちに命令を下した。
「はい! 何から何まで、ありがとうございます」
アイルたちは、王様に頭を下げた。
「うむ! そなたたちの活躍に期待している!」
こうして、ユウキ達一行はワイルド・バロンとミートパティと別れて、日が落ちる前にラドルーム王国を旅立ってイカナッペ村の港へと向かうのであった―――。
~そのご へ続く!~




