第九話「呪いに負けるな!田舎の村の不思議な泉!」その4
「パパ……だいすき……! パパのため、まおーさまのため……! あかちゃん、いっぱいうむの……!」
「嗚呼、健気で美しいですよ! 我が愛しのキルティ! さあ、地上を貴女の愛で!!! 包み込んで差し上げなさい!!!」
魔王軍の四天王、フェゴレザードが生み出した新たな四天王、「レディ・キルティ」は、北の森から巨大な植物の根の触手を広げて森を侵食し、大地の栄養と植物群や現地の野生生物の生命力を吸い尽くしながらその侵食を人々が住む「イカナッペ村」に向けて魔の手を伸ばそうとしていた。
―――――――――――――――――――――――
「――――皆、行くわよ!」
アイルが、真剣な表情で、逃げ惑うカラスの群れで真っ黒に染め上げられた空を見上げた。
「ええ」「ああ!」
魔法少女たちは、プリズムアイテムを構えた。
『『ツイン・マジカル・ウェーブ!!!!!!!!』』
ユウキとアマネが、『プリズムペンダント』を握りしめて手を繋ぎ、大きな光の柱がユウキとアマネの身体を包み込むように現れ、その光の柱に身体に包まれた光が徐々にコスチュームへと変化する―――。
「……《二つの・奇跡の魔法少女》!『ユウキメイド』!!!!」
ユウキは黒髪ロングストレートなフリフリのミニスカメイド服の魔法少女に変身した!
「《二つの・奇跡の魔法少女》!!!『アマネキャット』!!!!」
アマネは、茶髪の長いツインテールの髪形になって、頭に黒猫の猫耳、お尻にしっぽ、宝石がキラキラ沢山付いた白くてキュートなミニスカのワンピース姿の魔法少女に変身した!
「……『アイン・マジカル・シャワー!!!!』」
アイルは、『プリズムブローチ』を両手に持って胸に抱きしめた後、天高く掲げる!
光のシャワーが、アイルを包み込むと、段々と男性的な肉体が美しい曲線を描く女性の身体に変化していく。そして、その体にピンク色と薄紫色をベースカラーにした、セーラー服のようなコスチュームが現れフィットするように体に装着されていく。そして、元々腰まで長かった黒髪は、ピンク色の髪をツインテールに変化していく。
「……咲き誇るは、乙女の花!《魔法少女》、『アイル・フルール』!!!」
アイルが名乗りを上げると、桃色の花びらと藤色の花びらが、突風と共に吹き荒れた!
「『マジカル・プラズマ・シャイーーーン!!!!』」
ミクルは、自分を抱きしめるように腕をクロスさせると、『プリズムリング』が光り輝きミクルの身体を包む!
光のドレスが、ヴェールで包み込むようにミクルの身体にフィットする。そして、キラキラとアクセサリーがドレスに装着されていき、ダイヤモンドや宝石の意匠が施された黄色いミニスカートのアイドルコスチュームに変化して、髪型も黒髪から黄金よりもまぶしい金髪の髪になって、伸びた髪は自動的に三つ編みになっていく!
「未来を照らす、栄光の輝き!《魔法少女》、『ヒカル・ミクル』!」
ミクルの名乗りと共に、ダイヤモンドが弾けて七色のプリズムが輝く!
ヒメコは、プリズムベルトへ手をハートの形にしてかざす!
「『ピュアラブ・マジカル・ウイング!!!』」
ヒメコのプリズムベルトが光り輝くと、神々しい光の天馬が現れ、光の翼でヒメコの身体を包む!
鬼の角、そして欠けたユニコーンの角が、ダイヤモンドの光で再生されていく。竜の鱗がキラキラの天の川のように体を包み、そして風船のように膨らみ、バルーンのようなスカートを作る。
髪は光り輝きながら伸び、蒼や桃色の美しい色とりどりの色調に染まっていく。最後に、桃色のマントをたなびかせ、地面へと降り立つ。
「過去を越え、天空に駆ける憧れの翼!《魔法少女》『ヒメコ・ペガサス』!!!!」
ヒメコの名乗りと共に、ペガサスの羽が輝きながら辺りに舞う!
「「「「「今、五つの力が合わさるとき!」」」」」
「花咲く世界を守るため!」
「輝く未来を守るため!」
「今、私たちは飛翔する!」
「あまねく悪を断ち切って!」
「勇気で世界を照らす!」
「「「「「私たち、《五つの・奇跡の魔法少女》!!!」」」」」
「いくわよ! 皆!」
「おう!」「ええ!」
アマネが叫ぶと、5人はそれぞれ『光の翼』『シャイニングバーニア』『白鳥の翼』『ペガサス・ウイング』を纏って北の森に向かって飛翔する!
『おいらはアマネを助けるべ!』
聖盾シブトは、飛翔するとアマネの左腕に装備された!
『少女よ、叫べ! 我が助けを求むのなら、オレの名を呼べ!!!』
「ガンボイ! 来い!」
「ガンボイ!」「ガンボイ!」「ガンボイ!」「ガンボイ!」
『承知した!』
自由の鎧「ガンボイ」は、5つのパーツに分離すると、それぞれユウキの胸部に、アマネの右腕に、アイルの左腕に、ミクルの左脚に、ヒメコの右脚に装備された!
『オレを装備している間は、通常よりも魔法力の供給速度、大出力に対する耐久性が向上する! 思う存分戦え! 熱き血潮を燃やせ!』
5人の身体に装備されたガンボイが、力強く5人の頭の中に呼びかけた。
「ありがとう! ガンボイ!」
「なら、もっとスピード上げていくぞ!!!」
ユウキはすーっと息を吸うと、背中の翼をさらに腰にも生やして、4枚の天使の翼の力でさらに飛翔のスピードを上げた!
「あっ! 待ちなさいよユウキ!」
アマネも慌ててユウキの真似をして翼を増やす。
「ちょっと! 敵に詳細な位置だって分かんないのに……!」
「……いや、探す必要もないみたいね」
夜空を飛翔する魔法少女たちの目の前には、巨大なイバラのような大木の根のような、太くて巨大な植物の植物が何百本も束になってこちらを刺し殺さんと眼前を覆いつくす勢いで伸びてきていた。
「って、なんかもう来てるヨォォォ!?!?」
グングンと新幹線並みのスピードで天高く伸びていく植物の根は、アマネたち4人よりも先行して森に向かっていたユウキの目の前に迫る。
「あんなの、まるでチャンプルー(以前戦った腕を何百本も伸ばすゴブリン)の腕じゃない!?」
「ていうかもうそんなん越えて神竜樹の幹みたいになってない!?」
「どっちでも一緒でしょ!!! あのバカ男、どうやってアレを突破する気なのよ……?! 刺し殺されたら、いくらなんでも……ッ!」
アマネとミクルの驚きの声にツッコミつつ、ヒメコは慌ててユウキの援護に向かおうとする。
「ユウキッ!」
アマネが思わず叫ぶ。
「……イカナッペ村の人々も、世界の人々も―――僕たち魔法少女がッ! 護るんだァァァ!!!」
ユウキは『シャイニングソード』に強烈な炎の呪文『フレイミングバーニングボムズ』の魔力を込める!
「『フレイミングファイアスラーーーァァァああああああッッッシュ!!!!!』」
ユウキの光の剣は、ヒメコの火炎よりも巨大な轟々と燃え盛る巨大な獄炎をまとって、大木の神竜樹のように巨大な木の根の束を、焼き払いながら切り裂いていく!
「僕はこんな程度じゃ……止まらないぞォォォ!!!」
ユウキは、木の根の群れに一切怯むことなく、一斉スピードを落とさずに一直線に木の根の発生源に向かって急降下する。
「流石の魔法力……! やるわね、ユウキ君!」
アイルが思わず感心する。
「ま、それだけガンボイのサポートがすごいってことかもしれないけどネ!」
「でも……」
明らかに、ユウキの魔法の力も、剣技の実力も成長している。素人目から見ても、アマネにはそう感じた。
「感心してる場合じゃないわよ! 私たちも続くわよ!」
「おう!」
ヒメコがそう言うと、ミクルは『シャイニングソード』で、アイルは竜巻を纏った脚にさらに氷の刃を纏い新たな合体技『ブルーローズアイシクルタイフーン』で木の根を切り裂きながら突撃していき、ヒメコも新しい『呪術スキル:呪刃』を腕から放ちながら木の根に向かって突撃していく。
「ううう~……待ちにゃさいってばぁ~~!!!」
アマネ▼ 『スパークルジアイス・ストーム』と『ヘルファイアクロー』を合わせて
合わせ技スキル『スパークルジアイス・ライジングクロー』を会得しました!
「うにゃにゃにゃにゃにゃあああああああ!!!」
雷と氷のツメを纏ったアマネも、伸びてくる木の根たちを、雷を纏った氷の斬撃と電撃をまき散らしながら焼き切りながら、急降下する4人の魔法少女たちに続く。
「おやおや……皆さんお揃いのようですね」
フェゴレザードは、にやりと微笑みながら夜空を見上げる。
「ぱぱ……あれが、まほうしょうじょ……?」
レディ・キルティは、初めて目にする魔法少女を瞳に焼き付ける。
「ああ、そうだよ。アレがパパが殺したくて殺したくて仕方ないママの仇なんだよ! キルティ」
「……うん」
レディ・キルティは、フェゴレザードに促されるままさらに脚から根っこを更にどんどん伸ばして増やしていく。
「——――あれが敵」
(……まほうしょうじょ……かわいい)
内心で、心にときめきのような気持ちを覚えつつ、レディ・キルティは頬を紅潮させた。
「でやあああ!!! たああああ!!!」
「……っにしても、マジでこれキリがないわねえ! んもおおお!!!」
「ええ、木の根の発生源はなんとなくわかるのだけど……」
5人の魔法少女たちは、斬っても斬っても別の場所から伸びてくる木の根の群れに押し返され、近づこうにもどうにもできず、同じような場所で停滞していた。
「ヒメコ! ちょっと流石にこれは燃やした方がいいんじゃないの!?」
ミクルが言った。
「はぁぁ!? 正気!? 確かにわかるけどねぇ! こんな植物が密集している場所で広範囲の火炎呪術なんて使ったら、燃え広がってこの森のほとんどは焦土と化すわよ! ついでにイカナッペ村も、それどころかラドルームの本土やシャムラン近隣の村にも被害が広がるじゃないのこのアホポンタン!」
「確かにそれも考えつつ戦わないとといけないわね……くっ、勇者の使命って重いわ……!」
ヒメコもアイルも、憎々し気な顔をしながら対処法を必死で考える。
「ハハハハハ! 実に英雄らしい! 勇者とはこうでなくては! 正直貴方たちが周りの被害を考慮しない戦闘狂のお馬鹿さんでなくてよかったです! 実に賢明だ!」
フェゴレザードは高笑いしながら手を叩く。
「でもっ! どうするの! このままじゃ!」
無限の魔法力と体力があるとはいえ、終わらない攻撃では精神力も削れてジリ貧になっていく。
「だったら……皆! 合体だ! ガンボイの超パワーで、押し勝つんだ!」
ユウキの叫びに、全員の目に光が灯る。
「そっか!」「なるほどね」
「ナイス天才の発想ジャン!」
「やるわねユウキ! だったら……皆、せーのでいくわよ!」
『ああ! 勇者たちよ! オレの名を叫べ!!!』
自由の鎧ガンボイの金色の縁が、ピカピカと光って呼びかける!
「せーのっっっ!!!」
「「「「「フリーーダーーーム!!!! ガーーーンボイーーーーーー!!!!!!」」」」」
5人の叫びに呼応して、ユウキの胸のパーツと残り4人が持つ4つのパーツが巨大化し、ユウキの胸のパーツ『Aパーツ』に合体していく!。
巨大な部屋状の胸部パーツとなった司令塔のAパーツにはユウキが乗りこみ、残りの右腕にはアマネ、左腕にはアイルが、左脚にはミクルが、右脚にはヒメコが搭乗する!
『おらもいっくべ~!!!』
さらに、聖盾シブトが巨大化し、大きな頭部パーツになっていく!
ガッキィィィィィン!!!!!!!!
『オレの名は……正義と自由の守護神!!!! フリーーダーーーム!!!! ガーーーンボイーーーーーー!』
なんと! ガンボイは超巨大な100m級の大型のロボットに変形した!!!!
「よし、いくぞガンボ……」
『待ちなさい! 待ちなさい! 待ちなさ……NOOOOOOOオオオオオオ!!!』
ユウキがガンボイを操縦しようとした、そのときだった。
「どうしたの!? ガンボイ!」
『動けない、動けない、動けない……!』
巨大な触手は、なんと100m級の巨大ロボットの手足に絡みついて、動けないほどがんじがらめにしてしまったのだ!
「なによ、コレぇ!?」
アマネが驚いて叫ぶ。
「ガンボイの身体に、根っこが沢山絡まっているんだ! くそう! これじゃあ操縦できないヨ~!」
ミクルが左脚を動かそうとするも、ギチギチに絡まった木の根っこが関節を締めあげるようにきつく絡みついていて少しも動かせない。
「どうしよう! 右腕も動かせないわ!」
「左腕もダメ! 身動き一つできないわ!」
アマネとアイルも必死で操縦しようとするが、巨大な木の根っこが絡まったガンボイの腕はどうにも動かせない。
「ちょっ! アンタ! スーパーロボットなんでしょ!? あくまでこんな魔法少女にあるまじき姿をしておいて、パワーで植物に押し負けるってどういうことなのよ!?」
ヒメコが額に漫画のような青筋をビキビキと浮かべながらガンボイを怒鳴る。
『すまない、すまない、すまない……! だが、このオレの『植物や大地の生命力を向上させる効果』が、かえって相手の触手のパワーに味方しているようだ……! すまない、すまない……!』
申し訳なさそうに、ガンボイが言った。ガンボイの足元からあふれる生命力のエネルギーを吸って、木の根は生き生きとその太さと強靭さを増しているようだった。
「そうか……! 砂漠に花畑を作るほどのガンボイの生命力の力が、逆に相手の力に……みんな! ガンボイ作戦は中止だ! 一旦ドッキングを解除する!」
司令塔の操縦席のユウキは、緊急脱出のボタンを押した。
「ラジャ!」「了解!」「ええ!」「わかったわ!」
4人も緊急脱出ボタンを押して、ガンボイを元の装備品の姿に縮小させた。
「おやおや……? 魔法少女の新兵器とやらも、その程度なのですか?」
再び地上での根っことのいたちごっこになった魔法少女に、フェゴレザードが喋りかける。
「うるさいバカ! 今に見てなさい!」
「おやおやヒメコ様……期待外れもいいところですよ」
ブチ切れるヒメコを煽るように、フェゴレザードがにやりと笑う。
「だったら……これなら、どうかしら!?」
「む?」
ヒメコ▼呪術専用スキルパネルを開きました!
ヒメコ▼SP:120を使用して、『呪怨侵食』を取得しました!
ヒメコは、イバラの触手に向かってどす黒い闇のオーラを放った!
「『呪詛呪術』、『呪怨侵食』!!! 身体を蝕む呪いで、苦しんで死になさい!」
呪いを受けた植物の根は、徐々に蝕まれて生気を失い枯れてボロボロになっていく。その呪いが段々と根っこの先端から徐々に本体のレディ・キルティに向かってしみ込んでいく。
「パパ、こわい……!」
「大丈夫さ、パパに任せなさい」
怯えるレディ・キルティを胸に抱き寄せて頭を撫でながら、フェゴレザードは微笑みを浮かべつつ右腕を構えた!
「『聖呪術』……! ホーリーセイントカース!」
次の瞬間、フェゴレザードの右腕からまばゆい光がほとばしり、ヒメコの呪いを受けていた植物のツタに放たれる!
「闇の魔物が……光呪文ですって!?」
フェゴレザードの放った光を受けた植物の根は、徐々にヒメコの呪いを押し返し、押し返された部分には生命力が戻っていく。
「これは光呪文ではありませんよ『光呪法』でございます。大いなる昔、闇の魔物が扱う闇の呪いに抵抗するため、神々が編み出したと言われる聖なる呪いの力……! 神々の大いなる信仰によって生み出された光呪法は、長年闇の闇の者たちを苦しみ続けてきたのです……!」
「だったら、なんでアンタがそんなものを……」
「ハッ。もちろん神々に抵抗するための手段を模索するための知識を得るためですよ。もちろん闇呪文が得意な魔の者がこれを習得するにはかなり長い年月が必要でしたがね……! ですが、神々の恐ろしさを誰よりも理解しているという点においては、私も大いに神々を信仰している!」
「!」
フェゴレザードの光のパワーは、あっという間にヒメコの呪いの力を跳ね返し、消し飛ばした!
「パパ、なおった」
「ヒメコ! かつて魔王様をも恐れさせた貴方の呪術! いずれ現れるであろう伝説の呪術師に対抗するために私は多くの年月を費やした! 私の可愛いキルティはやらせはしませんよ!」
フェゴレザードはにやりと笑った。
「ちっ……! コイツ、ほんっとに厄介極まりないわね……!」
苛立たしそうにヒメコはフェゴレザードを睨みつける。
すると、フェゴレザードが口を開いた。
「それより……いいことをお教えしましょう。今もなお、キルティの触手はここを迂回して横の方からイカナッペ村への侵攻を続けています。あと3分もあれば、集落の建物に触手の群れがぶつかるでしょう」
「なっ……!?」
「なるほど……あくまでここ近辺の触手は囮……! 本体の根っこは、地下深くから街に向かって進んでいたのね……!」
悔しそうにアイルが後ろを振り返る。徐々に植物の根はもはや北の森の5割を呑み込んで侵食を広げており、イカナッペ村の人々に危機が迫っていた。
イカナッペ村の人々は、不安そうに北の森の方角を眺めていた。
ずぅぅん……ずぅぅん……!
「森の方は、大丈夫だべか……?」
逃げ惑う野鳥や動物の群れを見ながら、遠くの方で聞こえる地響きを不安そうに地元の住民が見守る。
「お兄ちゃん、教えてくれて、ほんにありがどなぁ。勇者様たちは、無事でいらっしゃるだべか……」
「いえいえ……皆さんの避難を急いで下さい。みんななら……やってくれますよ」
ミートパティは、イカナッペ村の村長たちと、住人の避難の準備を手伝っていた。
「しかし……こんままでゃ、どこ逃げたとしてもあの『死のイバラ』からは誰も逃れられんべ……! ああ、聖なる神々よ……! 我らをお救いください……!」
座り込んで祈りをささげる村長の肩を支えながら、ミートパティは不安そうに夜空を見上げた。
(みんなを……助けに行きたい。でも……)
「オイ、オマエ……ミートパティか!?」
すると、目を伏せたミートパティに誰かが声をかける。
「君は……」
顔を上げたミートパティは、思わず驚いた。
「よう! どうやら事態は急を要するようだな」
声をかけたのは、仮面に身を包んだ謎の犬獣人『ワイルド・バロン・マスク(レド・コリー)』であった。
「君は……神竜樹の!? で、でもどうしてボクだって……」
「ん? 確かに人間になっていたのは驚いたが、嗅覚で分かる。……それより、俺のアマネと勇者たちはどこにいる!?」
ワイルド・バロンはミートパティの肩を掴んでがくがく揺らして問いただす。
「み、皆は……魔王軍の四天王と戦うために、北の森にいるよ!」
「そうか。だったら、オマエも来い!」
「……え?」
ワイルド・バロンの言葉に、数秒の沈黙を置いてミートパティが呆けたような声を出す。
「聞こえなかったのか? 俺は、アマネたちを助けに行く! オマエも来い!」
ワイルド・バロンは、マントを翻して、黒曜石の剣を抜く。
「で、でも僕じゃ……」
「オマエ、それでもオスか! 動物なら、本能のままに生きろ! 好きな女のためなら、命を懸けるのがオスってもんだろ!」
「す、好きだなんて……でも、ボクなんかじゃ足手まといに……」
「……その鎧は、飾りか?」
「!」
ミートパティは、自分がいつの間にか白銀の鎧と、白銀の刺突槍に身を包んだ姿になっていることに気付く。
「戦いたいんだろ! オマエのその鎧は……何の為にあるんだ!」
「でも……」
「みんなー! 無事だべか~!?」
すると、上空から声が響く。
「あれは……」
「アイツ、新聞で見たことがある……確か、『アルフルート商人連合の若き盟主』ホミナ・ナカマルか……!」
頭部は鷲、脚はライオンの幻獣「グリフォン」に、お付きのメイド『エリンシア』と共に乗っているのは、かつてユウキたちに協力したこともある商人連合の幼女盟主、ホミナであった。
「おおおおホミナ様~!」
村長は泣きながらホミナの元に駆け寄る。
「村長! 被害の状況は、大丈夫だべか!?」
「まだ農場は無事ですだ! だけんど……もういつ農場や村に被害が出てもおかしくない状況で……」
「わかっただ! 農場や店はまたいつでもやり直せる! 人命最優先で住人を全員ラドルーム近辺まで避難させるべ! 今商人連合が持つグリフォン隊と、魔道車をありったけ手配してきただ! 村人を全員乗せるだよ!」
「わかりましたべ! さすが盟主様!」
ホミナはてきぱきと、素早く村人に指示を出して避難させる。
「そこのお方~!」
すると、ホミナはミートパティとワイルド・バロンに声をかけた。
「な、なんだぁ?」
「その立ち姿……名のある冒険者の方だとお見受けするべ! どうか……勇者様たちを助けに行ってくれねえか!? 報酬なら、後でいくらでもお支払いするべ!」
ホミナは、頭を下げて二人に手を合わせた。
「で、でも……」
「貴方、ホミナ様のご命令が聞けないのですか……?」
ホミナの後ろでメイド長のエリンシアが、弓を構えながら鬼の形相でミートパティを睨みつけた。
「ひい!?」
「エリちゃん! 命令じゃないべ! ……村の皆のことを心配してくれてるんだよな? だったら大丈夫だべ! おらが皆を守るべ! だから……」
ホミナは真剣な表情でミートパティに頷いた。
「で、でも……」
「……ここまで言われて行かないのは、メスと言われても仕方ないぞ。どうする?」
「…………」
真剣な表情で悩むミートパティが、選んだ決断は―――――。
場面は戻って、魔法少女たちと四天王たちとの戦いも、苛烈を極めていた。
「さあ! キルティ! 魔法少女たちを捕まえてしまうのです!」
「わかった」
「捕まるわけには……ッ! きゃあああああ!」
最初に捕まったのは、アイルだった。足を絡めとられ、全身を触手でぐるぐる巻きにされてしまった!
「アイル! このっ……『エメラルド・チェーン……」
「遅いっ!」
フェゴレザードが叫んだ瞬間、ミクルの手足も絡めとられて動きを止められてしまう。
「しまっ……!」
「いっぱい、ちょうだい……!」
アイルとミクルに絡みついた触手は、グングンと二人のMPと体力を吸収していく。
「ぐああああああ!」
「うぐううううう!」
『いけません! あのまま魔法力を体力の限界まで吸い取られて、変身が解けてしまったら……その瞬間に人体の水分を全て吸い取られて、二人が死んでしまいます!』
女神ゼウが、魔法少女たち5人の脳内に警告した。
「なんだって……!?」
「そんなこと……させるわけないでしょおおおお!!!」
ヒメコが、怒りに任せて呪いの炎を身体に纏いながら、レディ・キルティに向かって突撃する!
「愚かですね。まるでわざと捕まりに来たかのようだ!」
次の瞬間、ヒメコの身体も触手に捕まってしまう!
「ひーちゃん!」
触手に捕まったヒメコの身体の炎は、徐々に勢いを失っていく。
「キルティの本体には、近づくにつれて私の対火魔法『フレイムフォース』がかかっています……! たかだか炎など……!」
「愚かなのはアンタよ! だって私はわざと捕まったんですもの!」
ヒメコは、触手に直に手を触れた。
「まさか……」
「直に触れていれば、直接呪いを流し込めるでしょ!!!」
ヒメコは、もう一度『呪怨侵食』を触手に流し込んだ!
「ぐううう……!」
「小癪な真似を!」
フェゴレザードも、直接レディ・キルティの脚の根に触れて光呪法を流し込んで抵抗する!
「いい? これで少しでも、私たち3人がエネルギーを吸収されない時間を稼ぎながら、クソジンギスカンを止める! ユウキ! あーちゃん! アンタたちに任せたわよ!」
ヒメコは、苦しそうな表情を浮かべながらニヤリと笑った。
「くううう! キルティ、もっと強く締め上げてやりなさい!」
「うん。もっとぎゅ~ってする」
3人を拘束する触手の締め付けが、さらに強くなる!
「ぐああああああ!」「いぎいいいいいい!」
「ああああああああ!!!」
「……ユウキ!」
アマネは、ユウキに背中を合わせた。
「ああ! ……すぐに、皆を助ける!」
アマネは雷と氷のかぎ爪を、ユウキは二振りの火炎の剣を構える。
「「…………勝負だ!」」
二人がそう叫んだ瞬間、レディ・キルティに向かって二人が跳躍した!
「はあああああああああああああああ!!!」
「やああああああああああああああ!!!」
轟々と燃え盛る炎の双剣と、黒い稲妻と氷を纏った猫の爪が、レディ・キルティに向かって斬りかかる―――!
「……やれやれ。突進? 馬鹿の一つ覚えですか」
フェゴレザードは、やれやれとため息をつく。
「……おいで。ぎゅ~ってしてあげる」
レディ・キルティは微笑んで、無数の触手の根を二人に向かって伸ばした――――!
~その5に続く!~




