第九話「呪いに負けるな!田舎の村の不思議な泉!」その3
西の大国『ラドルーム王国』を目指すため、途中の山奥にある自然豊かな集落「イカナッペ村」を訪れたユウキたち一行。そこでユウキ達は宿屋の主人にミートパティの世話を任せて混浴で温泉に浸かり、ひと時の疲れを癒やしながら今後のことを話し合っていたが、突如温厚な宿の主人であった『ヤバン』が、ミートパティの前で正体を現す。その正体はなんと魔王軍四天王最後の一人フェゴレザードだった!
フェゴレザードは、敵対するそぶりを見せるでもなく、静かに口を開く。
「……ご夕食、いかがでございましょうか?」
温泉の周りに建てられたぼんぼりに、ロウソクでぼうっと明かりが灯る。
柔らかい火の明かりに当てられた温泉のお湯の上に、豪華な和食のお膳が乗った大きなお盆が浮かぶ。
「では、皆様手を合わせて」
いつもの執事服を脱いで筋骨隆々の身体でタオル一枚の姿のフェゴレザードが、温泉に浸かりながら手を合わせる。
「いただきます」
「「「いただきまーす」」」
魔法少女たちも、手を合わせていただきますをする――――。
「……イヤ、なんでよ!!!!!」
ヒメコのツッコミが、満月の夜空に響き渡った――――が、
「もぐ……! うん、うまい!」
「おいしいわね! お刺身なんて久しぶりに食べたわ!」
ユウキとアマネは美味しそうにフェゴレザードが用意した、和食のお膳の料理に舌鼓を打つ。
「ちょ、アンタたち!?」
「流石に、不用心すぎるわ……敵が用意した料理に、手を付けるなんて……」
アイルとヒメコが言った。
「えー、でも確かに美味しそうだけどなぁ……」
ミクルがよだれを垂らしながら、美味しそうにお膳を見つめる。
「はっはっは。 流石の私も食事に毒を仕込むような無粋な真似はいたしませんとも。貴方たちと決着をつけるなら、きちんと戦場で変身した姿を打ちのめしてこそ悪の本懐というもの。そもそも最初からその気なら、食事ではなく湯船の方に猛毒を流し込んで殺しますよ」
フェゴレザードはそう言いながら、徳利でお猪口に日本酒を注ぐと、ぐいっと一息に飲み干す。
「くぅ~~~!!!! やっぱりコレでございますよ!!! キレのある酒!!! 心地よい温泉!!! そして眼前の美少女!!! この瞬間こそ、生きててよかったと噛み締める瞬間でございますよ!!!」
「うげっ……酒とかオヤジ臭すぎるでしょこのクソ魔物……」
ヒメコが眉間にしわを寄せた。
「うう~……! ボクもう我慢できない! 食べるね!」
「あっ、ちょっと……!」
ミクルも箸に手を付けてお膳を食べ始める。
「はっはっは。 遠慮なさらないでください。 こちらのお食事は野菜から魚まで全てイカナッペ村の地元で採れた食材を、安心安全な調味料で調理しておりますからね。 魔法少女の皆さん、いただきますをしたからには……生産者の皆さんに感謝しながら、欠片も残さず最後まで召し上がるのがマナー、でございますよ?」
フェゴレザードが言った。
「コイツ、無駄に意識が高いわね……」
「まあ、確かにその言葉には一理あるわ。廃棄するのも忍びないし……いただきましょう、ヒメコちゃん」
「うう……めっちゃ腹立つ……」
結局、しぶしぶアイルとヒメコもお膳を食べ始めた。
「……貴方も、召し上がってはいかがですか?」
フェゴレザードは、しぶしぶ温泉タオル姿に着替えたものの、うつむいたまま食事には手を付けていないミートパティに声をかける。
「……キミが用意したものは、食べれない」
暗い声で答えるミートパティの声は弱々しく、ぐぅ~とお腹が鳴った。
「おっと、私としたことが……箸ではなくスプーンとフォークの方が、手先の動きに慣れていない貴方には好都合でございましたね。献立も、畜生であった貴方様の味の嗜好に合わせて、野菜中心のものにしてあります。さあ、召し上がってください」
フェゴレザードは、ミートパティに用意した箸をスプーンとフォークに取り換えながら、微笑んだ。
「…………」
「それで―――、こんな食事を用意してまで、お前とチーマの目的はなんなんだよ?」
ユウキが言った。
「ええ、そうでございましたね。 ……私の目的といたしましては……ズバリ、エンターテインメントです」
フェゴレザードは言った。
「え、えんたーていめんと???」
「ええ、エンターテインメントです」
呆けた顔のユウキに、フェゴレザードは微笑んで言った。
「人類と世界を護るため、戦う『魔法少女』……そして、それらを阻み世界を混沌に陥れ、魔族の支配をもくろむ『魔王軍』……我らの戦いは、後の世界に語り継がれる英雄譚として、エンターテインメントとして存在いるのです」
フェゴレザードは言った。
「この戦いを、楽しんでいる……?」
「それは……魔王が、ってことか?」
ユウキが聞いた。
「いいえ、もっと――――――――でございます」
フェゴレザードの声は、なぜか砂嵐のノイズのようにかき消されて聞こえなかった。
「なんだ、今の……?」
「ふむ……『ブロック』がかけられたようですね。 まあ、お察しください。 これを口にするということは、私も魔王様に、あるいはその者たちに大目玉を喰らうことにもなります。 詮索しては―――早死にすることでしょうね」
フェゴレザードは、あごに手を当てて言った。
「えっ、何よそのヤバい情報……?」
「ちょ、そんなハナシ聞かされたら余計に気になっちゃうジャン!!! 知りたい知りたい~!」
ヒメコとミクルが言った。
「……というわけですので、現時点でお伝えできることをお伝えしましょう。 現在『魔法少女VS魔王軍』の戦いは……魔王様の主導の元、貴方がた魔法少女陣営が順調に神器を集め、我が魔王軍が劣勢となっている――――そういっても過言ではないでしょう」
フェゴレザードは静かに言った。
「……ええ、間違いではないわね」
アイルが言った。
「それの、どこがいけないんだよ! 僕たちだって……勝たないといけない理由があるんだ!」
「そうよそうよ! いさぎよく、たたかう前に降参したほうがいいんじゃないの?」
ユウキとアマネが言った。
「そういうわけにはいかないのです! 本来……この戦いはあと3年、いえ10年はかけてもらいたかった! 必要なギミックも、寄り道したくなるようなダンジョンも、この世界に魔王様が沢山の冒険を用意していました! しかし……こうもあっさりとした冒険を進められては、問題が出るのです!」
フェゴレザードは、もう徳利のお酒をお猪口に注ぐのをやめて、徳利ごと直接口に付けてぐびぐびと酒を飲み始める。
「ですので……ここらで一つ、我らも逆転する必要があるのです! 四天王は私を除く3名が敗北し……魔界の均衡は崩れている! このままでは『時の封印』にも影響が出るでしょう……! そうなれば、我ら魔族だけでなく人類も、このメイデン・ワンダーランドさえも無事では済まない……!」
フェゴレザードは、ぶるぶると腕を振るわせながら、ぽちゃんと空になった徳利を温泉の上に落とす。
「時の……封印?」
アイルが訊き返す。
「いいえ失礼……これもこちらの話ですので。とにかく……魔界の均衡を取り戻さなければ、ゲームどころではなくなります。チーマ様は、崩れ始めた均衡に対して、貴方がたに早く神器を譲渡してゲームを早く終わらせることで事態の収束を図ろうとお考えのようですが……それでは! 魔法少女たちはもはやおんぶに抱っこでございますよ! 魔王様が簡単に手に入るように調整されたチートアイテムで、ただ一方的に勝ってもらうだけでは……もっと困ることがあるのですよ!」
フェゴレザードは言った。
「な、なにが困るっていうんだよ?」
ユウキが聞いた。
「それも―――口外しかねます。しかし……私は、こう考えるのです。このゲームを、可能な限り波乱の展開で状況を二転三転させ、視聴者の皆々様に飽きさせないようにできる限り長引かせたい! それゆえに……意外性のある展開で、貴方がたにピンチになっていただきたい!」
「そ、それのどこに私たちにメリットがあるのよ!? 話にならないわね!」
「そーだそーだ!」
ヒメコとミクルが言った。
「こほん……ご安心ください。貴方がたは我々魔族とは違い……女神様の加護により、死からの復活『コンティニュー』が認められています。なので程よく何回か全滅していただいても……貴方がたの冒険が終わることも、真の意味での死が訪れることもありません」
「いやそういうことじゃないだろ……」
「もちろん! 貴方がたがピンチになったあとには……! 各地のダンジョンに魔王様が用意したスペシャルアイテム! 新スキルの書など! 各種チートアイテムを使って是非我々魔王軍に逆転していただきたい! そして、敗北と勝利を繰り返し……最後は魔王様と魔王軍四天王、そして魔法少女五人での全盛期のパワーによるインフレしきったパワーバランスの総力戦で、最後までどちらが勝つかわからない最終決戦によるフィナーレ! ……それこそが、魔族と人類、両方が末永く繫栄する唯一のシナリオでございましょう」
フェゴレザードは、ばしゃっと温泉から立ち上がり、月明かりの下に照らされる。
「ちょっ、タオルで隠しなさいよ変態!」
「きゃ~っ! みえてる! みえてるから!」
ヒメコがタオルを投げつけ、アマネが手で顔を隠す(指の隙間からチラ見しながら)。
「フッ、失礼……見せつける気はございませんよ、決して」
「ほんとか???」
「こほん! とにかくですね!」
ユウキのツッコミを咳ばらいで誤魔化したフェゴレザードは、がしっとミートパティの肩を掴む。
「なっ……」
「つまり!……今世紀最大のエンターテイメント! 魔法少女の味方のはずだったミートパティ様に、裏切りショーを演じて頂き、我が魔王軍の四天王の椅子に座っていただきたい! この波乱の展開に、視聴者の皆々様も大満足! 四天王の一角も埋まり、魔界の均衡も安定するでしょう!」
「そんなの、なんで納得すると思うんだよ!」
「そーよそーよ! ミートパティ君だって、あたしたちの大切な仲間よ! 魔王になんて渡さないわ!」
フェゴレザードの言葉に、ユウキとアマネが言った。
「そのとーり! ミートパティは、ボクたちの家族も同然だ!」
「ええ。アタシも、同じ意見よ」
「そうよ。まったく……何を考えているのかしら?」
ミクル、アイル、ヒメコも言った。
「みんな……」
ミートパティが、思わず顔を上げて5人を潤んだ瞳で見つめる。
「……その大切な仲間を、クビにしようとする相談を5人でしていたではありませんか」
フェゴレザードの言葉に、沈黙が訪れる。
「…………それは」
「そうでございましょう? ええ、そこで話しているのを、ミートパティ様にも私にも聞こえていましたから」
有無を言わさずフェゴレザードが追及をかける。
「ミートパティ……聞い、てたの……?」
アマネが、ミートパティを不安そうな顔で見つめる。
「…………」
ミートパティは、無言のまま――――静かに、涙目でうなづいた。
「……はぁ。聞かれてたのなら仕方ないわね。確かに、私たちはミートパティをこの村に置いていくべきか、話し合ったわ」
ヒメコが言った。
「で、でもでも! それは!」
「ええ。それは、ミートパティのことを大切に思っているから。激しい戦いで傷ついてほしくなくて、だから……」
「そうだよ! それでネ……」
「ボクは――――、もう、用済みですか」
「えっ」
ミクルとアイルの言葉を、ミートパティが遮った。
「用済みだなんて、そんな!」
「そうだよ! みんな、ミートパティのことが大好きだから……」
「でも! ボクはもう……皆と一緒の旅には、連れて行ってくれないのかい!?」
ミートパティは、涙を目に浮かべて立ち上がり、バシャバシャとお湯をかき分けてヒメコのところへ歩きだす。
「ちょっ!? ミート……」
「ボクは!!! 皆のことが大好きなのに!!!」
バシャッと、ミートパティはヒメコの身体に2m越えの巨体のまま飛び込んで、思いきり抱き着く。
「ひやあああああああ!?!? み、ミート!!! ステイ!!!! ちょっ、力強っ、あああああ!!!」
タオル一枚のほぼ裸のヒメコが、タオル一枚の裸の男に思いきり抱き着かれた興奮でテンパって大きな悲鳴を上げた。
「み、ミートパティ! 落ち着いて! ひーちゃんビックリしてるから!」
「あ、ああっ! ゴメン……」
慌ててミートパティはヒメコを話す。
「はーっ……はーっ……!」
ヒメコは、腰を抜かしてばしゃぁっとへたり込んだ。
「でも……そうよね。ミートパティだって、一緒にいたいわよね……」
アマネは、涙ぐみながらしゃがんだミートパティの頭を優しくなでた。
「ぐすっ、アマネぇ……」
ミートパティは、アマネの身体に寄りかかって頭を預ける。
「ああ、美しい友情……! もう私も800年も生きていると割と涙もろくなってきましてですねぇ……ううっ、ぐすっ……」
フェゴレザードは、タオルで涙を拭いている。おい、股間を隠すタオルで涙をふくな。股間を隠せ。
「ですから! ミートパティ様には、魔法少女たちのよきライバルになっていただきたいのです! 今のままでは、過酷な冒険のお供にはなれませんが……魔王軍の軍門に下り、魔王様の力を授かれば! 毎週……いえ、毎日魔法少女の皆さまとバトっていただいて! 戯れながら毎日過ごすことができるではありませんか!」
フェゴレザードが言った。
「ふざけないでくれ! ボクは、皆を攻撃なんてしたくない!」
「そうよそうよ! あたしだって、ミートパティに魔法を打つなんていやよ!」
ミートパティとアマネが言った。
「ええ。ですからそこはホラ……見栄えがいい爆発呪文とかをなんとか、適当な方向に撃ってもらって、立ち合いは強く当たって流れは何とか……とかやれば、お互い無傷で済むのではないのですか?」
「オイ、エンタメがどうとかいっておいて……それってどうなんだ?」
「まるっきり八百長じゃないの。そんなんでアンタの言う上の人ってのも、満足させられるわけ?」
「せめて真剣な殺し合いなんだから、せめて真面目にやるべきよね……」
ユウキ、ヒメコ、アイルが言った。
「ぐぬぬぅ……やはり納得していただけませんか……」
フェゴレザードはため息をついた。
「そりゃそうでしょうよ」
「では、仕方ありません……
察しが悪いようなので、言わせていただきます」
フェゴレザードのその言葉で、場の雰囲気が一瞬で変わった。
「ミートパティ様……いえ、サー・グレイ様が四天王として戦ってくださるのなら……魔法少女たちは苦しめずに仲良くケンカする毎日を過ごすだけで済んだ、と申しているのです」
「ど……どういう意味だ!?」
ユウキが問いかけた。
「いえいえ……そろそろ私が本気を出さねばならない時期が来た、と申しているのです。 私は、いわゆる『No.2』……今までやられた四天王の3人とは、格が違う。魔王様との付き合いも一番長く、また新たな四天王を擁立できる権利を、魔王様より直々に頂いております。もうすぐ我ら魔王軍は――――『新・四天王』を擁立し、本格的に魔法少女を、人類に総攻撃をかけるフェーズへと移行いたします」
さっきまで、朗らかに酒を飲んで涙ぐんでいた温厚な彼は、一瞬にしていなくなっていた。
冷徹な瞳で、全てを憎悪するような、冷たく睨みつけるような張り付いた笑顔の悪魔が、そこにいた。
「フェゴレザード……!」
「う、ウソだ! 前に戦った時は……キミよりもヒンケルのほうがよっぽど強かったぞ!」
ミクルが言った。
「はぁ……まだお分かり頂けないのですか? あんなものは遊びです。分かりやすく言えば、あと何段階か変身を残している……とでも申せばよろしいですか? とにかく以前のアレは本気などではございません」
「そ、そうだったの……」
アイルも驚く。
「もう一度言います――最後通告です。 サー・グレイ様が四天王へのオファーをお請けにならないのでしたら……新たなる四天王と共に、人類に総攻撃を開始いたします。……よろしいですか?」
フェゴレザードの冷酷な提案に、6人は思わず唾を呑んだ。
「ぼ……ボクは……ボクは……ぼ、ボクは……ボクは……」
ミートパティは、人間になったばかりで慣れない脳で、必死になって考える。
ただの馬でしかない自分に、大切な仲間と、全ての人類(ニンジンをくれて世話もしてくれる)たちの命がかかっているのだ。Yesと言うべきか、Noと言うべきか。頭から火が出そうなほど思考を回転させて、必死に目まぐるしく考える。
「ミートパティ」
すると、ミートパティの手を、ぎゅっと誰かが掴む。
「ヒメコ……」
「あたしもいるよ」
ミートパティの左手をヒメコが握り、右手をアマネが優しく掴む。
「ミートパティは、私たちの仲間よ!」
「あたしたちの仲間を、絶対に魔王になんて渡さない! どんな四天王がやってきても……大切な仲間も、この世界の人たちも、あたしたちが護って見せる!」
ヒメコとアマネは、フェゴレザードに向かって高らかに叫んだ!
「み、みんなぁ……!」
うれし涙でぐじゃぐじゃな顔になったミートパティが、二人を見つめる。、
「ええ、よく言ったわ」
「そーこなくっちゃ! 勝って守る! 今までもこれからも、そうやって魔法少女たちは戦ってきたんだ、ヨ!」
「ああ! お前たち魔王軍には、絶対に負けない! だから、そんな脅しには屈しないぞ!」
アイル、ミクル、ユウキも言った。
「……そう、でございますか」
フェゴレザードは、その返答を聞くと、ばしゃあっとお湯に腰を下ろした。
「まあ、それも選択の一つでしょう……もう少し、賢明な判断をしていただきたかったのですが……残念です」
フェゴレザードは、魔術式の空間転移ポケットからまた日本酒の入った徳利を取り出すと、ぐびぐびと徳利に口をつけて飲み干す。
「……ぷはぁ。 ご馳走様でした。 ――――では、」
フェゴレザードは、バサッと翼をはためかせ、夜の満月をバックに上空から魔法少女たちに向き直る。
「――――ただいまより、新たなる四天王『レディ・キルティ』と共にイカナッペ村をすべて破壊させていただきます。 せいぜい……抗って見せてください。では、ごきげんよう」
次の瞬間、フッとフェゴレザードの姿が消えた。
「おい! 待てフェゴレザ……うおっ!?」
ユウキが手を伸ばそうとした瞬間、ゴゴゴゴゴ……と地面が揺れ、温泉の水面がバシャバシャうねりだす!
『おーい! 大丈夫だべか~!?』
『揺れている、揺れている、揺れている……!』
すると、脱衣所から慌てて聖盾シブト、聖鎧ガンボイが魔法少女たちの元へ飛んできた。
「シブト! ガンボイ!」
『向こうの方で強烈に嫌な気配を感じて飛んできたべ! 地響きも、北の方角のほうからしているみたいだべさ!』
『記憶データ、認証中……なるほど、情報は把握した、把握した』
ガンボイは、ヒメコの腕に腕当てとして装備されると、ヒメコの記憶データを読み取って状況を把握した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぱぱ。ぱぱ」
北の森。金色色に輝く泉のそばで、小さな少女が手を伸ばそうと身体を動かす。
「おやおやおや―――もうお目覚めかい? 可愛い可愛いキルティ……ちゃんと私の合図で発芽できるなんて、さすが君は一流のレディだ」
フェゴレザードは、薄緑色の肌の少女の頬を、優しく撫でる。
「ぱぱ。愛してる。ぱぱ、愛している」
フェゴレザードにキルティと呼ばれた少女……『レディ・キルティ』は、まだ幼い少女だった。背丈は齢9歳程度の身長の小柄な少女であり、脚はピンク色の毒々しい木の根そのもので地面に埋まっており、豊かな森の大地からぐんぐんと生命力を吸い取って、スカートの下から延びるイバラの触手をどんどん伸ばし、森の木々に絡みついて養分をどんどん吸い取り、森の命を吸い取る、いわゆる『花植物女』と呼ばれる魔女のモンスターだ。
「ぱぱ。あかちゃん、あかちゃん欲しい」
レディ・キルティは口づけを欲しがるように、パクパクと唇をフェゴレザードの顔に近づける。
「ははっ、いいとも……君が大人のレディになったら、君の全てを愛し、妻として娶ることを誓おう」
レディ・キルティの腕は、脚と同じく木の根のように地面に張り付いていて、自分からフェゴレザードに触れることはできない。だからフェゴレザードは、自分からレディ・キルティを抱き寄せ、アツいハグと頬擦りをした。
「さあ、君がもっと成長するため……『苗床』を探しておいで」
「うん、パパ……いっぱい、わたしのあかちゃん、うむね」
触手が、森の奥へ奥へとどんどん伸びていき、イカナッペ村の方角に向かってどんどん木々をなぎ倒しながら伸びていく。途中で逃げ遅れた猿が木の根に絡みつかれて、一瞬で水分を吸い尽くされてミイラになったり、木の根に腹を突きさされた大きな熊の体内に、強制的に植物の胞子を植え付けて大きな花が熊の身体を突き破って咲き誇る。
「……フッフッフ、さあ魔法少女よ! 苦難に抗って見せよ! 絶望に打ち勝って見せよ!!! どうしようもない理不尽を前に、バッドエンドを辿るのもまた美しい!」
フェゴレザードは叫ぶ。背中からレディ・キルティを抱きしめながら。
「この戦いに魔法少女たちが勝てば……聖なる兜『メタ』はお前たちのもの! 逆に負ければ……お前たちは私のものだ! ハーッハッハッハ!!!!」
レディ・キルティの足元のイバラ。そのイバラの檻の中で、黄金色の兜が鎮座していた――――。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ギャアギャア、ギャアギャア……
突然の森の異変に、野鳥の群れが一斉に森から飛び上がって逃げていく。満月の月明かりに照らされた明るい夜空は、鳥の群れで真っ黒に染め上げられていく―――。
『……た、大変だべ! 新しい四天王?みたいなヤツが、どんどん巨大な木の根を伸ばして村にせまってきているべ!』
シブトが、上空からアイカメラで状況を撮影する。
「……みんな、いくんだね」
ミートパティが、5人を見つめる。
大慌てでいつもの服に着替えた魔法少女たちは、北の森を見つめている。
「ああ、行ってくるよ。 ミートパティ」
「すぐ戻ってくるから……村の皆をお願いね! ミートパティ!」
アマネの言葉に、ミートパティの目が輝いた。
「ああ! まかされた!」
ミートパティが走って行ったのを確認すると、アイルはふーっと息を吐いた。
「じゃあ――――皆、行くわよ!」
「ええ」「ああ!」
魔法少女たちは、プリズムアイテムを構えた。
『『ツイン・マジカル・ウェーブ!!!!!!!!』』
「『アイン・マジカル・シャワー!!!!』」
「『マジカル・プラズマ・シャイーーーン!!!!』」
「『ピュアラブ・マジカル・ウイング!!!』」
~その4へ続く!~




