第九話「呪いに負けるな!田舎の村の不思議な泉!」その2
西の大国『ラドルーム王国』を目指すため、途中の山奥にある自然豊かな集落「イカナッペ村」を訪れたユウキたち一行。そこでユウキたちは、砂漠を横断して疲弊した愛馬のミートパティ君を休ませるため、馬が入れる温泉がある宿屋『魔獣邸』を訪れる。
魔法少女たち5人は、宿屋の主人にミートパティの世話を任せて混浴で温泉に浸かり、ひと時の疲れを癒やしながら今後のことを話し合っていた。今後も熾烈を極めるであろう過酷な旅に、愛馬のミートパティを引き連れていくべきか、この村に預けて置いていくべきか。
そんななか、温厚な宿の主人であった『ヤバン』が、ミートパティの前で正体を現す。
「動物の勘というものは非常に鋭い……故に、私も隠し通すのに非常に苦労しましたよ……クックック」
ヤバンの正体は、魔王軍四天王の一人『フェゴレザード』であった。
「どうです? このフェゴレザードが調達した『願いの泉』の水が、身体に染みてきているでしょう……?」
「!」
フェゴレザードがミートパティの飲み水に混ぜた不思議な水の力で、白馬のミートパティは人間の美青年に姿を変えてしまっていた!
「この近くの森の奥深くにある、女神の一族がかつて残した遺産の一つです……その泉を飲んだ者は、どんな願いでもかなえる力を手にする! 例えば、今の裸の貴方が願えば、今なら衣服の一つも生み出すこともできるでしょう」
「ほう……それはいいことを聞いたぞ!」
ミートパティは、強く願うと白銀の鎧と、白銀の刺突槍に身を包んだ!
「今ここで、お前を倒して、勇者たちに報いるまで!」
ミートパティは、白銀の刺突槍を構えてフェゴレザードに突撃しようとする!
「うわっ!」
ミートパティは、足を滑らせてお湯の中にばっしゃあん!とダイブする。
「くっ……人間の手足には、まだ慣れていないから……」
「まあまあ、そう血気盛んにならずに……私は、貴方と交渉するためにこうして泉の水をお持ちしたのです」
フェゴレザードは、ひょいっと翼で飛翔しすると、宿の建物の屋根に飛び乗った。
「ぼくに、だと……? なんのつもりだ!?」
「単刀直入に申し上げましょう……貴方を、魔王軍の最高幹部、『四天王』の一角としてお迎えしたく、こうしてお迎えに上がりました。ミートパティ……いや、『サー・グレイ』様……!」
フェゴレザードは、ニヤリとミートパティに微笑むのであった―――。
「サー・グレイ……? 何の話だ!?」
ミートパティは、後ろに手をついて起きあがりながら、屋根の上のフェゴレザードを睨みつける。
「おっと、まだ先の話でしたね……貴方には、魔王チーマ様の配下になっていただき、その暁には『サー・グレイ』を名乗り、魔法少女たちと戦って欲しいのです」
「ふざけないでくれ! ぼくの主人は……ヒメコたちだ! 魔王の味方になんてならない!」
ミートパティの叫びを、フェゴレザードはうんうんと頷きながら聞いている。
「ええ、ええ。 わかっておりますとも……貴方様が、動物畜生の身でありながら、甲斐甲斐しい勇者たちの世話で貴方が彼女たちに心を開き大きな信頼を寄せていること。故に、貴方が彼女たちを害する立場になることを望まないであろうことは、重々承知しております」
「じゃあ、だったらなぜこんなことを……!?」
「いえいえ。単刀直入に申し上げましょう……『魔法少女たちを、魔王様の手からお守りする為です』」
フェゴレザードは、ニヤリと微笑みながら片眼鏡を光らせる。
「あの子たちを……守るため? どういうことだ!?」
思わずミートパティは聞き返す。
「……ゴホン。では、もったいぶらずに結論から申し上げましょう」
フェゴレザードは、わざとらしく咳ばらいをすると、息を吸った。
「申し上げます――――。魔法少女たちがこの先、どれだけ強くなろうと魔王様の相手にはなりえません。
その気になれば……
すぐにでも魔王様は貴方たち人類を簡単に滅ぼすことが可能、ということでございます」
フェゴレザードのその言葉に、二人の間に緊張が走る。数秒の沈黙の間に、辺りの竹林から風に乗って草葉が落ちて、温泉の湯船に波紋を広げる。
「……お前は!」
「あーっ!!! フェゴレザード!」
そのとき、二人の前に隣の温泉から走ってやってきたユウキ、アマネ、アイル、ミクル、ヒメコが駆けつける。
「これはこれは皆様。 ご機嫌麗しゅう。 ポロリしそうでしないあられもない温泉タオル姿……大変エクセレント! ビューリホーでございますよ! これはスクリーンショットを写さなくては! ベリィィィィナイス!!!」
フェゴレザードは、顔色一つ変えずに魔法少女たちに向き直ると、魔術式のカメラを手に召喚してカメラを撮る。
「撮るなヘンタイ魔物! 死ね!」
タオル姿のヒメコが顔を真っ赤にして腕で身体を隠す。
「まさか……ヤバン先生が貴方だったなんて! いったい、どういうつもり!?」
「ていうか……あのイケメン、誰!?」
アイルがフェゴレザードを問いただす横で、アマネが両手に手を当ててドキドキしながらミートパティを見つめる。
「あ、アマネ……!」
ミートパティはアマネのタオル姿に一瞬ドキっとして、思わず自分が鎧を着ていることを忘れてしゃがんで股間をお湯の下に隠す。
「おっと、いきなり人の姿になった影響でしょうか? どうやら人間の姿でも性的興奮できるようになられたのですね……フフフ、入浴シーン……最高でございますね!」
何かを察してフェゴレザードは微笑む。
「おいこら!!! まさかオマエ……ボクのセクシーな入浴シーンを撮影することが目的で……!?」
ミクルはくねくねと身体を隠すポーズをとっている。
「アンタは男でしょうが! ……じゃなくて、そこのヘンな銀髪の男はだれ!? ミートパティを、どこにやったの!?」
怒りながらヒメコが問いただすと、フェゴレザードはフフッとほほ笑んだ。
「お探しのミートパティ様でしたら……目の前の美しい美青年が、まさしくミートパティ様でございますよ」
フェゴレザードが答えると、5人がバッとミートパティに振り返り、またバッとフェゴレザードを見て、もう一度ババッとミートパティを凝視した!
「え、ええええええ~~~!?!?!?」
「み、ミートパティが……人間に!?」
「しかも、こんなイケメンに……!」
ユウキ達は思わず驚いて声を上げた。
「ど、どういうことよ……!? 何をやったら、人畜無害なミートパティが、こんなのになるワケよ!?」
ヒメコがキレながら温泉にミートパティを指さす。
「こ、こんなの……ってぇ~……ヒメコぉ、ヒドイ……!」
顔を真っ赤にして目をうるうるさせて、ミートパティがヒメコを見つめる。
「うっ、その曇りのないまっすぐな黒目……! 確かにミートパティっぽいけど! でも……」
「ははっ、私は嘘など申しておりませんとも。アイル様に聞けばお分かりになるのではないのですか? ……『願いの泉の水』、こちらをミートパティ様にお渡ししたのです」
フェゴレザードは言った。
「なんですって、『願いの泉』の……!?」
フェゴレザードの言葉に、アイルはすぐに顔色を変えた。
「な、なんなんですか……? 『願いの泉』って?」
ユウキが聞いた。
「この辺りの森に残る伝説の泉よ……かつてケイロ神さまたちのご先祖様、神の一族が遺した奇跡の泉、その水を一口飲めば、飲んだ者のどんな願いも叶える、という眉唾物の御伽噺が、このメイデン・ワンダーランドには伝わっているの。まさか、実在したっていうの……!?」
「はっはっは。 アナタたち……それでも冒険者ですか???」
声高にフェゴレザードが腕を広げて力説する。
「勇者である前に、この広大なメイデン・ワンダーランドを旅する貴方たちは、まさに『冒険者』! つまり……ヴァイキングの財宝、古代遺跡の秘宝、大空を舞う大怪鳥のタマゴに、エメラルドの都! 10000カラットの巨大ダイヤモンド! この世界を冒険するからには……そういう ロ・マ・ン を! 追い求めてしかるべきでしょう!」
「まーたなんか言ってるよ……」
呆れるユウキ。
「はぁ……フェゴレザード! 私たちは、世界の平和を取り戻すために戦っているの! そんな浮ついた目的のために使っている時間は、一日たりともないのよ!」
アイルが真剣な表情で叫んだ。
「そうだそうだ~! 確かにピラミッドでお宝くらいは欲しいってチョットは思ったけど!」
「思ってんじゃないわよバカ!」
ミクルをヒメコがひっぱたいた。
「おやおや……まったく。それでは困るのですよ。RTAですかアナタたちは。それでは困るのですよ……」
フェゴレザードはやれやれとため息をついた。
「いいですか……? 貴方たちは、魔王チーマ様によって遊ばれているのです。 人類と魔族、その戦いを観て楽しんでいる方々がいらっしゃるからこそ、チーマ様はすぐに人類を滅ぼすことはなさらず、わざわざ戦ってくださっているのです。貴方たち人類は……その温情に対する感謝が足りないッ!」
フェゴレザードが叫んだ。
「な、なに……?」
「考えればわかることでしょう? 貴方がたの元居た世界に隕石を墜として星を破壊したように、この世界に同じことをするのはチーマ様にとってはライターに火をつけるよりも簡単なこと。この世界の人類と貴方たちが今生きながらえているのは、チーマ様の恩情によるものなのですよ」
「だから……なんだっていうのよ!」
ヒメコが叫んだ。
「……でも、確かにどうして……魔王チーマは、人類を滅ぼすことが目的じゃないのか?」
ユウキが言った。
「たしかに……それだったら、わざわざ魔王をたおすためのヒントをいうのもおかしいわよね……」
アマネも、思わず疑問に思う。
「なにか、別の目的がある――と?」
アイルが言った。
「ええ、ええ。 ご明察でございますよ。 流石は魔法少女の皆々様。 察しの良さもレベルアップなさったようですね」
フェゴレザードは微笑んで拍手をする。
「お世辞はいいよ! どういうことなんだ、フェゴレザード!」
ユウキが叫んだ。
「まあまあ、慌てないでください……どーどー。順を追ってご説明しましょう。ですから……」
フェゴレザードは、悪魔の翼をはためかせ、飛び上がって温泉にザブン!と着地する。
「なっ……やる気!?」
ヒメコが身構える。
「……ご夕食、いかがでございましょうか?」
温泉の周りに建てられたぼんぼりに、ロウソクでぼうっと明かりが灯る。
柔らかい火の明かりに当てられた温泉のお湯の上に、豪華な和食のお膳が乗った大きなお盆が浮かぶ。
「では、皆様手を合わせて」
いつもの執事服を脱いで筋骨隆々の身体でタオル一枚の姿のフェゴレザードが、温泉に浸かりながら手を合わせる。
「いただきます」
「「「いただきまーす」」」
魔法少女たちも、手を合わせていただきますをする――――。
「……イヤ、なんでよ!!!!!」
ヒメコのツッコミが、満月の夜空に響き渡った――――。
~その3へ続く!~




