第九話「呪いに負けるな!田舎の村の不思議な泉!」その1
魔法少女たちは、砂漠の王国シャムランのピラミッドに巣食う魔王軍の四天王「レディ・ミスティ」のデストラップダンジョンを伝説の鎧「ガンボイ」の力を借りながら潜り抜け、さらにレディ・ミスティが起動したピラミッドを改造した100m級の巨大な石の巨人「超巨大・石魔人」を、巨大なロボットに変形したガンボイの真の姿『フリーダム・ガンボイ』の力でなんとか撃退し、シャムランの平和を守った。
そして、改修工事が終わったピラミッドのステージでミクルの大型ライブを成功させてファンを喜ばせ、砂漠に水と緑を取り戻したユウキ達一行は、シャムランを旅立つのであった―――。
砂漠の国、シャムランで魔王軍の四天王、レディ・ミスティを倒したユウキたちは、ミクルのピラミッドコンサートを無事に成功させ、そして数日後に西の王都「ラドルーム」を目指して旅立った。
ユウキたちは、砂漠を抜けて青々とした草木が広がる森の中の街道を歩いていく。
「今までの冒険で手に入れた、魔王を倒すために必要な伝説の装備は……盾のシブトと鎧のガンボイ。あとは兜と伝説の剣か……」
ユウキは、自分に装備した盾のシブトと鎧のガンボイを見て言った。
「あと、魔王城にわたるためのアイテムとして、『雨のハープ』と『太陽の鏡』も手に入ったけど、『純愛のルージュ』ってやつも必要なのよね? まったく、面倒ったらありゃしないわ」
ヒメコが言った。
「でも……今回ガンボイが入ってくれたおかげで、かさばるような荷物は全部ガンボイの中に収納できるようになったっていうのがいいよな~!」
『ウム……収納は任せろ、任せろ、任せろ……』
ユウキが笑顔で胸に鎧として装備したガンボイをなでると、ガンボイは誇らしげな顔で言った。
伝説の鎧『ガンボイ』は鎧の姿になる他に、ボックス型の部屋の形にもなることができるので、この部屋の中に今まで馬車の中に積んでいたかさばるような荷物や食料、タルなどを収納することができ、そのまま鎧に変形して着ることで今までとは比較にならない気軽さで冒険ができるようになったのだ。
「ミートパティ君も重たい荷物持たなくてよくなったから……楽になってよかったわね! ミートパティ!」
アマネは、笑顔で今までよりも小さくなった新品の馬車を引っ張る馬のミートパティを撫でた。
「……ひひ~ん」
「それにしても……魔王軍の四天王は、これでヒンケル、パドラー、レディ・ミスティの3人を倒して一人になったワケだから……」
「ええ……最後の一人は魔王軍四天王一の切れ者、フェゴレザード……アイツが、何かを企んでいても不思議じゃないわね。皆、油断しないように気をつけましょう」
ミクルの言葉に、アイルが言った。
「あいつ……一体、今頃どこで何をしているんだ……?」
ユウキは、青い空に浮かぶ大きな入道雲を見上げた――――。
一方、その頃。シャムラン砂漠の片隅で、砂に埋もれた超巨大・石魔人の崩壊した残骸の前に、何者か上空から翼をはためかせて降り立った。
「嗚呼……! 麗しのレディ・ミスティ……なぜですか……?」
降り立ったのは、魔王軍四天王最後の一人、悪魔族のフェゴレザードだった。
「私が、『氷結トカゲ』の尻尾を持ち帰った暁には……貴方の極上の肉壺で、私の魔羅を包んでくださると約束したではないですか……!」
フェゴレザードは、手のひらに氷結トカゲの尻尾を握りしめ、ボロボロと涙をこぼして膝をついた。
「我々、魔王様から命を頂いたモンスターは……死して亡骸が残ることはありません……! 命を墜とせば灰塵と化し、貴方の死に顔を見ることすら、死骸を抱きしめることすらもできない……! おお、憎らしいあの勇者たちが……!」
フェゴレザードは、手のひらに握っていた氷結トカゲの尻尾を闇の魔力で泥へと変えると、地面の砂に握りこぶしを叩きつける!
「我々はあくまで魔王様のためにあるべき存在……! あのお方のためだけにある存在でしかない……! しかし、私だって命もあれば意思もある生命体だ……! 私の無限の魔法力さえあればあの女を抱くこともできた……! 極上の快楽に溺れ、生物のように生殖に励み愛という麻薬に溺れる……そんな生き方すらも許されたいと願っていた……!」
フェゴレザードは、両手で砂漠の砂をすくって拾い上げる。
「嗚呼、レディ・ミスティ……私は、貴方を愛していましたよ……少なくとも、パドラーやヒンケルよりは貴方のことを真剣にお慕い申しておりました……ですので、私は貴方を忘れはしません」
フェゴレザードが救い上げた砂の中から、小さな布の切れはしが顔を出す。それは、レディ・ミスティが来ていた衣服の切れはしだった。
「僅かでもいい……貴方の残滓と、私の○○○○があれば、貴方を模した生命体を作ることはできる……! 貴方と私の子が、無念に散ったアナタのカタキを取ってくれるのです……!」
フェゴレザードは、ボロボロの布の切れはしを握りしめると、自らの―――、にあてがった―――!
場面は戻り、西の大国『ラドルーム王国』を目指して森の中を歩くユウキ達。
「ふう……そろそろ夜になるなぁ」
ユウキが空を見上げると、夕日が沈んで段々と星空が広がり始めていた。
「うわぁ、なんだかブキミな森……! 今にもナニかでてくるかも……」
アマネは、不安そうにヒメコの腕にしがみついた。
「ふっふっふ、ホラそこ! オバケがでてくるぞぉ~!」
ミクルが指を指すと、草むらの茂みがガザガザと動き出す!
「ひぃぃぃぃ!?」
「……なワケないでしょ。あーちゃん怖がらせてんじゃないわよ、馬鹿金ピカ」
ヒメコがドラゴンロッドの杖の先に、魔法で小さな炎を灯す。すると、明かりに照らされたのは、可愛らしい子ウサギの親子だった。
「なぁんだ……びっくりした~」
アマネはほっと胸をなでおろした。
「えへへ、ゴメンネ!」
「も~、みーくんってばヒドイわよ~!」
手を合わせて謝るミクルを、アマネがぽこぽこ叩く。
「心配しなくても、ここは冒険では序盤のステージなのよ。『オーマ大陸』に生息する魔物と比べると、『オレンジグミジェリー』や『覆面蝶』みたいな低級モンスターしか生息していないから、もしオバケみたいなモンスターがでてきても、アタシたちなら楽勝でしょうね」
アイルがアマネの頭を撫でながら言った。
「いやいや、そういう問題じゃないと思うけど……」
ユウキがやれやれと呟いた。
「あーちゃん、安心していいわよ。今夜はこの森の近くに村があるわ。なんと温泉もある宿屋もあるから、今夜はそこでゆっくり休めるわよ」
ヒメコが言った。
「えっ、温泉!? やった~! お風呂に入れる~♪」
アマネは、先ほどまでの不安はどこへやら、目を輝かせて飛び跳ねた。
「冒険を始めたころは、あの村ではお世話になったわね。 久しぶりに行けるから懐かしいわ」
アイルが嬉しそうに目を細めて言った。
「わかる~。ボクもあそこの小さなステージでライブをしたな~」
「そういえば、3人はラドルームから冒険を始めたから、その村には行ったことあるんだったっけ?」
ユウキが言った。
「ええ。『イカナッペ村』は、大きな森と北の『グランド蒼海』の沿岸部にある村。山の幸、海の幸、どちらも楽しめて温泉もある自然が豊かな村ね」
ヒメコが言った。
「小さい村だし交通の便も悪いから、ラドルームとシャムラン、どちらから行くにしても森を抜けていくしかないちょ~~~ド田舎村なんだけど、ネ!」
「確か、ホミナ様のお父様『ミヤオ』様の出身地だったわね……今も、ホミナ様がプロデュースしている野菜の大農場があるんでしたっけ」
「へ~~~……あっ! だったらミートパティ君のニンジンも買いに行きましょうよ! 最近ちゃんとしたお野菜をあげてなかったから……ね?」
アマネは、馬車を引っ張る馬のミートパティを撫でる。
「……ひ、ひひ~ん」
「あら? どうしたのミートパティ? なんだか元気ないわね」
いつもより少しミートパティの鳴き声が弱々しいことに、アマネは気づく。
「最近砂漠や森の中をずっと歩き通しだったからなぁ……そうだ、獣医さんにも診せてやろう。荷物が軽くなったとはいえ、お前に何かあったらいけないからな」
ユウキもミートパティの頭を撫でる。
「……見えてきたわよ!」
ヒメコが、森の出口に見える明かりを指さした―――。
「あいあ~い! こがん夜更けまで、長旅ご苦労様でがんす! ようこそ、イカナッペ村へ!」
村まで行くと、村の入り口を警備しているなまった口調の髭の男性が優しい笑顔で出迎えてくれた。
「こんばんは! あのぅ……宿を探していまして。できれば馬の獣医さんもいるところだと助かるんですが」
「あと、温泉もあるところね!」
ユウキとアマネが男性に言った。
「ちょっとちょっと? そんな全部があるようなところなんて……」
「だとすンなら……『魔獣邸』がおススメでがすよぉ。最近オープンしたばかりなんでげすが……なんとあそこは、人間が入る温泉の他に馬が入るための温泉もあるんでがんすよ」
男が言った。
「え、そんな便利なところが本当にあるんですか……?」
アイルのメガネがずれた。
「んだ。んだ。馬車を引かせる馬のケアを求める旅人に大人気の宿なんでがすよ。宿の主人の『ヤバン先生』も、気さくで優しくて、人にも動物にも愛されるイケメンな獣医さんなんでげすよ~」
「えっ、イケメン獣医さん!?」
アマネの目が輝く。
「……アマネちゃん。分かってると思うけど」
ユウキが、ジト目でアマネに釘を刺す。
「いいじゃないのユウキ! 最近スカートはいてる男の子ばっかりに囲まれて、ちょっとくらいイケメンとのラブロマンスに期待したっていいでしょ! あたしだって、世界を救うためにがんばっているんだからこれくらいのごほーびくらいは!」
「絶対ダメだからね!? アマネちゃん男を見る目がないんだから、絶対ロクなことにならないでしょ!?」
「いいじゃんユウキのケチ! このかいしょーなし!」
「誰が何と言おうとダメです! 魔法少女は恋愛禁止です! ……あと僕の甲斐性は関係ないだろ!?」
「……やれやれ、この夫婦は……」
「痴話げんかも、やればやるだけ仲良しってカンジだよネ~」
小声でヒメコとミクルが呆れながら言った。
「と、とにかく……ミートパティ君は診せないといけないから、その宿に案内してもらってもいいかしら」
アイルが言った。
「あ~い……んだば、この街の大看板を曲がって東に行くでがんす」
男の案内の通りにユウキたちがイカナッペ村の郊外に進むと、竹林に囲まれた風情のある土壁の建物が見えた。
「あった! あそこね!」
「あいあ~い。じゃ、オラはここで」
「わざわざありがとうございました! 足元お気をつけて~!」
案内してくれた男性に礼をして別れた。
「……さて、行きましょう」
「ほら、行くわよミートパティ」
「ぶるるる……ひひ~ん」
そして、ユウキたちはミートパティを連れて宿の建物に入っていった。
「……いらっしゃいませ。ようこそ、ヒトとヒトならざる者たちの楽園……『魔獣邸』へ」
宿に入ると、黒ぶちの眼鏡と白衣を見に纏い、緑色の艶やかな髪をした超絶低音イケボのイケメンな男性が微笑んだ。
「ほっ、ほんとにイケメン……!」
「ちょ、ちょーイケボだ……!」
アマネとミクルが思わずドキッとして二人で手を握りながら男を見つめてしまう。
「……こほん。今日、ここで宿泊をお願いしたいのだけれど……空きはあるかしら? それと、ウチの馬の診察もここで受け付けてるって聞いたんですけど……」
アイルが言った。
「ええ。私がこの宿の主人兼、獣医も担当しています『ヤバン』と申します。今日は幸い全室空いておりますので、ご宿泊も問題ありません。それより……」
ヤバンは、カウンターから席を立つと、ミートパティの元に駆け寄った。
「ふむふむ……これは」
ヤバンは、ミートパティの脚を見ながらメガネを光らせて頷いている。
「先生……この子、ミートパティがどうかしたんですか?」
「まさか、病気……?」
ユウキとアマネが心配そうに見守る。
「いえいえ、まさか! あまりにも鍛えられた筋肉、美しい葦毛……! これほどの名馬に出逢ったのは随分久方ぶりでして……思わず見とれてしまいました。毛並みや筋肉の状態から見て、幸いケガや病気の兆候は見られません。ですが、少々筋肉疲労があるかもしれませんね」
ヤバンは、穏やかな表情で言った。
「ほっ、よかったぁ~」
アマネが安堵した表情を浮かべる。
「もしよろしければ……このまま、当店の馬専用の温泉による湯治を受けさせてもよろしいでしょうか? この様子でしたら、湯治による血流の改善と、マッサージで十分に明日には回復するでしょう。宿泊費込みでお安くしておきますので、皆様は治療の間はどうぞ温泉でおくつろぎください」
ヤバンが言った。
「ええ、そうしていただけるなら助かるわ。どうぞ、ウチの馬をよろしくお願いします、ヤバン先生」
アイルが頭を下げた。
「やった~! よかったな! ミートパティ!」
「ひ、ひひ~ん」
ユウキがミートパティの頭を撫でる。
「じゃあ、あたしたちはその間に温泉行きましょう!」
「わ~い! おっふろ~♪ おっふろ~♪」
「はぁ……ほんっとに疲れたわ~……それで、温泉はどこにあるのよ?」
「あ、言い忘れておりました。皆さま、人間用の温泉なのですが……」
と、ヤバンが説明を始めた。
「……はぁぁ!? 混浴しかないですってぇぇぇ!?!?」
ヒメコがブチ切れて怒鳴り声をあげる。
「はい、申し訳ありません……なにぶんこの宿の温泉スぺースは70%が馬用の湯治場となっていまして……人間用温泉のスペースがどうしても狭くなってしまいまして。この状態で男女を分けてしまうと、どうしても多くのお客様におくつろぎ頂けるスペースが足りなくなってしまいますので……」
ヤバンが頭を下げた。
「それで温泉が混浴になっているのね……」
アイルが言った。
「どうする? 時間を分けて入る?」
ユウキが言った。
「いえ、申し訳ありませんが当温泉のお湯は、この近くの魔法石の魔力で温めておりまして……魔法石の魔力供給の関係上、ご入浴は19時までとなっております」
「あと1時間もないわね……」
「はい。お詫びと言っては何ですが、巻くだけで脱げづらく、ポロリの心配が少ないバスタオルをお配りしておりますので、そちらを着用したまま温泉に浸かっていただければと……」
「妙にサービスいいのか悪いのかわかんない店ねここ」
「はい、私が配慮できる範囲で精一杯のサービスを提供するのが、当店のモットーでございますので」
「……あーちゃん、だそうだけど、どうするの?」
ヒメコが聞いた。
「え、あ、えっと……うん、まあそういうルールなら仕方ないわよ、ね?」
アマネはモジモジしながら頷いた。
「そうね……気が引けるけど、時間がないなら仕方ないわ。皆、急いで入りましょう」
「え、えっ!? で、でも……」
「よ~し! 皆で温泉温泉だぁ~!!!」
ミクルが、ユウキとアマネの肩を抱いてダッシュで走り出した!
「えっ!? ちょ、みーくん!?」
「いくぞ! 突撃だ~!!!」
「ちょっ、ミクル君待って待って~!?」
更衣室に消えていく3人を、アイルとヒメコが見守っている。
「……はぁ、大丈夫かしら。あの3人」
「アイル。今更私たちの仲だから、心配はしてないけど……私のハダカ、見たらぶっ〇すわよ」
「ええ、もちろん。身体が完全な女じゃないからこそ……見られる恥ずかしさは理解しているつもりよ」
そして、2人も更衣室に入っていった。
(どうしよう、後ろでアマネちゃんが着替えているのか……!)
ユウキ、アイル、ミクルの男3人組と、アマネとヒメコの女子2人組は、壁の木製ロッカーを見ながらお互いに背を向けて、服を脱いで温泉用タオルに着替える。
ごそっ、ごそっ。もぞ、もぞ……と、布のこすれる小さな音が聞こえる。
(やばい、気にしたらダメだって、わかってるけどちょっと緊張する……!)
更衣室の中は、男のむわぁっとした臭い汗の匂いと、女子の甘い汗の匂いと、竹の壁から漂う自然のいい匂いとが入り混じって独特の匂いが部屋に充満していた。
「あれ~? ユーキ君? パンツ脱がないの?」
変身を解いて男になったミクルがニヤニヤしながら、自分の衣服を脱ぎつつ声をかける。
「い、今脱ごうと思っていたところですし!?!?」
「もしかして~、ボッ〇してた?」
「し、してない!」
実際にはしかけてたけどギリしてない! セーフ!
「オス共、こっち見たりちょっとでも興奮したら全員目玉くりぬくからね」
「え~? でもでも~、実際今まで一緒に旅して野宿もそこそこしているし~、着替えも何回か見たから今更ヒメコの裸を見たところで全然興奮しな」
「死ねっ!」
ミクルの頭に向かってナイフが飛んできた。
「痛でぇ~~~っ!?!? 殺す気か!?」
「ひっ……!?」
頭から血を流すミクルを見て、血の気が引いたユウキはそそくさとタオルに着替えて余計な気持ちを引っ込ませた。
「……う~……」
一瞬チラッとユウキの上半身とタオルのスリットから見えた太ももを見て、ドキドキするアマネであった。
「さあ、温泉に入る前に、これを飲みなさい。私が取り寄せた綺麗な泉の水に、薬草を混ぜた薬だ」
「ひ、ひひ~ん」
ヤバンは、水桶の水に薬を混ぜると、ミートパティに飲ませた。
「よし、飲んだかい?……さあ、おいで」
「ひひ~ん」
ヤバンに連れられて、ミートパティはゆっくりと馬用に深めに作られた温泉にちゃぷちゃぷと入っていく。
ミートパティは、心配そうにちらりと竹の柵の向こうを見る。
「ん? あそこは人間用の温泉があるところだよ。主人たちが心配かい? そこからなら、向こうの温泉は見えるだろう」
竹の柵の隙間からは、少し遠いが人間用の温泉の様子がよく見えるようになっていた。
「……ざっぶ~ん!」
「コラ! 身体洗ってから入りなさいよ汚いわね!」
「あら、シャワーはないのね……ここの風呂桶を使えばいいのかしら?」
「ユウキ! シャンプーとリンスのやり方、教えてあげようか?」
「べ、別にそれくらいもうアイルお姉さんたちに教えてもらったし……」
と、言った感じにユウキたちの声が聞こえてくる。
「…………」
「君は浮かない表情だね。もう少しリラックスしたまえ」
ミートパティは、湯船に漬かりながらユウキたちのお喋りに耳を傾ける。
「そういえば、アイルお姉さんも変身解いているんですね」
ユウキがアイルに聞いた。
「流石に布面積が0%のときは、変身による性別転換も維持できなくなっちゃうからね。はぁ、あれが本来のアタシの身体だったらいいのに」
「……それにしても、ミートパティ、大丈夫かしら……?」
「心配ナイナイ! ヤバン先生が診てくださってるでしょ?」
温泉に浸かりながら、心配そうなアマネにミクルが言った。
「……そのことなんだけどね、皆。聞いてちょうだい」
タオルを胸まで巻いたアイルが、足だけをお湯につけながら言った。
「なんだよ? お姉さん、改まって」
「私たちの冒険で……荷物を収納できる神器『ガンボイ』が仲間になったでしょう?」
「確かに、今の僕たちのメイン収納はガンボイになっちゃった感じだよね~」
「……アンタ、まさか」
アイルの言葉に、ヒメコが言った。
「酷なことを言うようだけど……もう、重い荷物をあの子に運ばせなくても、私たちは冒険を続けられるようになった、ということよ。今まで、長い間あの子に荷物を引っ張ってもらったけど……あの子と冒険を続けるのは、この村で最後にしたら、って思うの」
アイルは、深刻そうな表情で静かに言った。
「そ、そんな……!」
「ミートパティ君だって、大切な旅の仲間じゃない! 今さら、用が済んだからサヨナラ、なんてあんまりよ!」
「アタシだって、そんなこと言いたいわけじゃないの……ただ、この間の砂漠の件と言い、ビスタの里でビースティアの戦士たちに狙われた件と言い、あの子の安全が脅かされた場面がいくつもあったわ。そして、今後魔王城での決戦が近くなるにつれて、戦いはきっと激しくなっていくでしょう……その時に、本当にアタシたちは、あの子を守りながら戦い続けることができるの……?」
深刻そうなアイルの発言に、ユウキとアマネも言葉を失った。
「……それは、確かに、一理あると思う……」
「ユウキ!?」
「だったら、あの子に何かある前に、せめて美味しい野菜が食べられるこの村で、優しい人に引き取ってもらって、穏やかに余生を過ごさせてあげたほうが……あの子の為になるんじゃないかって、アタシは思ったの」
「……ま、それもそーだね。それに、次の相手はフェゴレザード、だもんネ。卑怯な手を使ってこない、人質として、ミートパティ君を狙ってこないとも限らない」
「馬質、でしょ?」
「それは……たしかにそうだけど……でも!」
ユウキたちは、真剣にミートパティをこの村に置いていくか、話し合っている。
「…………」
「君の主人たちは、実に動物思いのようだね……クックック」
「ひひんっ!?」
ミートパティは、目の前のヤバンの気配が変わったことに驚いた。それは、まるで―――。
「動物の勘というものは非常に鋭い……故に、私も隠し通すのに非常に苦労しましたよ……クックック」
ヤバンは、眼鏡を外すと、変化の術を解いて真の姿を現した!
「どうです? このフェゴレザードが調達した『願いの泉』の水が、身体に染みてきているでしょう……?」
「!」
ヤバンの正体は、フェゴレザードであった。彼が笑うと同時に、ミートパティの身体が熱を帯びていく。
「ひ……ひひーん!!!!!!」
ミートパティが大きな悲鳴を上げると、ミートパティの身体が光り輝きだした!
「ひ……ひひーん!!!!!!」
ミートパティの大きな悲鳴が、静かな温泉宿に響き渡る。
「い、今のは!?」
「ミートパティの声だわ!」
「ちっ……こんなときに、何かあったってワケ!?」
「先生も無事かしら……? いや、まさか」
「とにかく、皆変身アイテムを持って! すぐ行くヨ!」
ユウキたち5人は、お湯から立ち上がって大慌てで声のする方に走って行った。
「クックック……気分は、いかがです?」
フェゴレザードは、それに声をかけた。
「………な、なんだ、これは……!」
ミートパティは……言葉を喋っていた。
それだけではない。ミートパティは、白銀の髪。長いまつげ。そしてムキムキの身体の人間の美青年に姿を変えていたのだ。
「私はヒトならざる者の気持ちが分かります……勇者たちと共に冒険を共にしながらも、大きな重い荷物を背負い歩く以外何も許されず……あまつさえ冒険の足手まといになり始め、そして自らの完全上位互換の神器まで現れた! 貴方はこう願いでしょう……『ヒトの身になりたい!』と」
「なぜ……なぜぼくの願いを知っている!?」
フェゴレザードの言葉に、ミートパティは問いかけた。
「なぜ、ですって……? 当然でしょう! 貴方は『願いの泉』の水を飲み、その姿になったのですから!」
「願いの……泉?」
「この近くの森の奥深くにある、女神の一族がかつて残した遺産の一つです……その泉を飲んだ者は、どんな願いでもかなえる力を手にする! 例えば、今の裸の貴方が願えば、今なら衣服の一つも生み出すこともできるでしょう」
「ほう……それはいいことを聞いたぞ!」
ミートパティは、強く願うと白銀の鎧と、白銀の刺突槍に身を包んだ!
「今ここで、お前を倒して、勇者たちに報いるまで!」
ミートパティは、白銀の刺突槍を構えてフェゴレザードに突撃しようとする!
つるっ。
「うわっ!」
ミートパティは、足を滑らせてお湯の中にばっしゃあん!とダイブする。
「くっ……人間の手足には、まだ慣れていないから……」
「まあまあ、そう血気盛んにならずに……私は、貴方と交渉するためにこうして泉の水をお持ちしたのです」
フェゴレザードは、ひょいっと翼で飛翔しすると、宿の建物の屋根に飛び乗った。
「ぼくに、だと……? なんのつもりだ!?」
「単刀直入に申し上げましょう……貴方を、魔王軍の最高幹部、『四天王』の一角としてお迎えしたく、こうしてお迎えに上がりました。ミートパティ……いや、『サー・グレイ』様……!」
フェゴレザードは、ニヤリとミートパティに微笑むのであった―――。
~『呪いに負けるな!田舎の村の不思議な泉!』その2 に続く!~




