第八話「砂漠の呪いの謎を解け!巨大ピラミッド大決戦!」その2
伝説の武具「自由の鎧」を探すため、砂漠の国シャムランにあるピラミッドに侵入した勇者ユウキたち一行は、ピラミッドの内部で魔王軍の四天王「レディ・ミスティ」が潜伏しているところを発見する!
しかし、レディ・ミスティの罠により、デストラップダンジョンに改造された地下迷宮に落とされてしまったユウキたちは、5人ともバラバラにされて孤立させられたうえで、MPを吸い取られ変身と呪文が使えない状態でミイラ兵たちに襲われ大ピンチに!
そんな中ヒメコは、突然ダンジョンの壁の中に吸い込まれ、謎の彫刻に話しかけられるのであった――。
『オレの名は……『ガンボイ』。お前たちが来るのを、ずっと待っていた』
魔王軍四天王、レディ・ミスティの罠によりピラミッドの地下迷宮に落とされ、ユウキ達とバラバラにされ孤立してしまったヒメコは、迷宮の壁の中の部屋に突然吸い込まれ、そこの壁につるされていた仮面のような石の彫刻に話しかけられる。
「まさか、アンタは……!」
ヒメコは、ごくりと唾を呑んだ。
『いかにも……いかにも、いかにも。このオレは、伝説の鎧……の、一部である』
ヒメコたちが探していたのは、このピラミッドに眠るという伝説の武具「自由の鎧」。
まさか、それが目の前にあるというのか?
ヒメコはにわかには信じられなかった。
「えと……ちょっっっと待ちなさいよ。つまり……アンタは、あの喋る盾みたいに、意思をもったヨロイ……ってことでいいのよね?」
『いかにも。いかにも。いかにも。我が兄弟『聖盾シブト』同様、我ら聖なる武具たちは皆言語を介し意思疎通が可能である』
伝説の鎧を名乗る彫刻『ガンボイ』は、静かな声で答える。
「な、なるほどね……えと、もう一度言うわよ。ア・ン・タが、伝説の鎧ってことでいいのよね!?」
『いかにも。いかに』
「何回も繰り返して言わなくてもいいわよっ! ……って、アンタのどこが鎧なのよっ!? 鎧って言うより……いや、なんかもう違うじゃない!」
ヒメコは、思わずどうツッコんだらいいかわからず叫んでいた。
『話を聞け。話を聞け、話を聞け……まず、このオレは『自由の鎧』の一部、である……』
ガンボイは、説明を始める。
「自由の鎧の……一部?」
『いかにも。いかにも、いかにも。本来、このオレの身体は『5つ』の身体で構成されている……今喋っているオレは、他の4つの身体に指令を送る『メインブロック』ではあるが、5つのブロックが全て揃わなければ、オレは本来の『自由の鎧』としての真の力を解放することはできぬ』
「どういうことよそれは……じゃあ、他の身体はどこにあるってワケ?」
ヒメコが尋ねる。
『おそらくこのピラミッドのどこかにあるだろう……あろうだろう、あるだろう……オレはあの魔王軍の女にこのピラミッドを支配されたとき、ヤツらの手に落ちる前に身体を分離させ、ピラミッドの壁と一体になることでヤツらに気付かれる前に隠れることができたのだ』
「なるほどね……じゃあ、このピラミッドのどこかにはあるってことでいいのね? ……ん?」
すると、ヒメコはあることに気が付く。身体が、軽い。
身体の疲労が回復しているどころか、先ほど魔物から受けた傷まで回復している。さらに、MPまで完全に全快していることに気付いた。
『気付いたか。気付いたか、気付いたか……そう。オレの空間にいる間は、ダメージやMPが回復するのだ』
ガンボイが言った。
「何よそれ、めっちゃ便利じゃない……! でも、外に出ればまた魔法が……」
『心配するな。このオレを装備すると、外の空間の魔法力吸収を少しではあるが阻害することができる』
ヒメコの不安そうな声を、ガンボイが遮った。
「そうすれば、僅かではあるがMPを残すことができる……短時間であれば、変身も可能になるであろう。あろう、あろう……」
「アンタ……なんでもできるのね! やるじゃない」
ヒメコが、目を輝かせた。
『頼む……このオレを使って、全てのブロックを集めてくれ……そうすれば、オレはお前たちと共に、魔王と戦う力になるだろう』
ガンボイは、ヒメコにお願いした。
「むしろ、願ったりかなったりってヤツね。上等よ。あとついでに、私も仲間を探しているの。協力しなさい、ガンボイ」
『よろこんで。よろこんで、よろこんで協力しよう。共に巨大な敵を討つとしよう。しよう、しよう』
こうして、ヒメコは自由の鎧『ガンボイ』と共に協力して行動することにした。
そして、MPを回復したヒメコは、壁の前に立つ。
(いいか? いいか、いいか? お前がオレの空間を出た瞬間、オレはオレの空間を解除してお前の胸当てに変化する。オレを装備したら、お前は変身して敵を討つのだ)
先ほどガンボイと話した作戦を思い出すと、ヒメコはすーっと深呼吸をした。
「……行くわよ!」
ヒメコは、目の前の石壁に向かって駆け出す!
ぬるっ。
「ばうっ!?」
石壁の前に集まって呆けた顔をしていたゾンビ犬たちが、突然壁の中から現れたヒメコを見て慌てふためく。
(さあ! オレの名を呼べ! 叫べ!)
跳躍したヒメコは、ゾンビ犬の頭を飛び越えながら、大きく息を吸って叫んだ。
「フリーーダーーーム!!!! ガーーーンボイーーーーーー!!!!!!」
『心得た!!!』
ヒメコの叫びと共に、石壁の中から白銀の胸当ての鎧が高速で現れ、飛翔する!
ガキィィィン!!!
ガチャガチャと前方を開いて鎧が変形すると、ヒメコの胸に装着される!
『さあ! どうだ!』
「ちょっ……胸が苦しい! サイズがきついわよ馬鹿!!! もう少し緩めなさいよ!」
ヒメコが叫んだ。
『むっ? ……おおそうか。 お前は随分素晴らしい胸筋を持っているのだな。素晴らしい。素晴ら』
「鎧のクセにセクハラとか売り飛ばすわよこのエロアーマー!!!」
『? なぜだ? なぜだ、なぜだ? オレは称賛したつもりだったのだが……』
そう言いながらガンボイは身体を変形させてヒメコの胸のサイズにぴったりな胸当てに形態を変化させる。
『さあ! 勇者ヒメコよ! 今である!』
「……ったく、しょうがないわね!」
ヒメコは、『プリズムベルト』を構え、変身する!
「覚悟しなさい! 私はあーちゃんと違って……犬は大嫌いなのよっ!!!」
ヒメコは、「『火炎呪術:橙‐焦燥罪課‐』を放ち、オレンジ色の火炎でゾンビ犬の群れを焼き払う!
「キャイーン!!」
「アンタたちが成仏できないってんなら……私の荼毘で!!! 残らず昇天させてあげるわよォ!!!」
ヒメコは続けざまに『火炎呪術:蒼‐煉獄閻魔‐』を放つと、巨大な蒼い炎の大火球がミイラ兵たちの群れを焼き払う!!!
「Vwohoooooooo!!!!!」
――――――――――――――――――――――――
『おや? この反応は……!』
ユウキに装備されていた、聖盾シブトが言った。
「どうしたんだ、シブト!?」
地下ダンジョンでアマネたちを探しながらミイラ兵たちと戦っていたユウキは、ミイラ兵の腕を切り落としつつシブトに尋ねる。
『この反応は……ガンボイ! 自由の鎧の反応だべ! しかも、ヒメコの反応もあるべ! どうやら、ヒメコがガンボイを装備しているみたいだべさ!』
「なんだって? 伝説の鎧を、ヒメコさんが……! よし、ヒメコさんと合流しよう! 案内してくれ! シブト!」
『わかったべさ! こっちだべ!』
シブトは、ヒメコがいる方向にライトを当てながら、ユウキを案内する。
「うっ……早く、逃げないと……」
ミイラ兵たちの包帯ぐるぐる巻き装置によって、アマネは磔にされたままぐるぐると包帯を巻かれ、足元から徐々に巻かれていった包帯は、ついに胸の上にまで到達していた。
「このままじゃ、あたしは本当にミイラに……」
もはや腕も足もまともに動かせず、首だけしか動かすことができないが――それももう、肩の上に包帯がかかり、ついに首にまで包帯が巻き付いてきた。
(ユウキ……! このまま、助けに来なかったら……オバケになって化けて出て、一生呪ってやるんだから……!)
ぽろり、と涙をこぼしたアマネは、ついに抵抗をやめ、そのまま顔まで包帯が巻かれていった――。
――――――――――――――――――――――――
ヒメコがミイラ兵たちと戦いながら、ガンボイに尋ねる。
「ガンボイ! 残り変身持続時間は?」
『MP残量から計測中……残り20分である! 今のうちに、ダンジョンを探索し、オレの身体を集めるのだ!』
「ヒメコさん!」
すると、ヒメコの後ろからユウキがやってきた。
「グズユウキ! 遅かったじゃない!」
「ヒメコさん、変身を……! 一体、どうやって?」
地下ダンジョンではMPを吸われてしまうはずなのに、変身できているヒメコにユウキは驚く。
『このオレの力だ。勇者ユウキよ。我が名は『ガンボイ』。伝説の鎧の一部である』
ガンボイがユウキに話しかける。
「伝説の鎧の……一部?」
「ああ……むっ!? 勇者たちよ! 先ほどオレの身体の一部の反応があった! 急いで走れ! オレの身体の近くで、少女がピンチになっている!」
ガンボイが叫んだ。
「少女……あーちゃんがピンチってこと!?」
「なんだって!? 急ぎましょう、ヒメコさん!」
ヒメコとユウキは、顔を見合わせて走り出した。
「ちっ……アンタ、足が遅いわよ! 私に捕まりなさい!」
ヒメコは、ユウキを脇で抱えると『ペガサス・ウイング』で飛翔して高速移動した!
「わわわっ……! ヒメコさ~~~ん!!!」
ヒメコは、ダンジョンの中をユウキを小脇に抱えたまま高速でスイスイ移動しつつ、アマネを探していた。
『……止まれ! ここである。ここである、ここである……』
ガンボイが言った。
「ここって……ただの壁しかないですけど?」
ユウキが言った。
「つまり……壁の中にアンタの一部がある、ってことでいいのよね?」
『いかにも。いかにも、いかにも。そこの壁の中に入り、壁を通り抜けて向こうの部屋に行くがいい。敵に捕まった少女が、助けを求めている』
ヒメコの言葉を、ガンボイが肯定した。
「壁の中……? どういうことです?」
「はぁ? 察しが悪いわね……こういうことよ!」
ヒメコは、ユウキの尻を蹴飛ばして壁にたたきつけた!
「うわわわわ~!!!」
壁にぶつかる、と予感したユウキは思わず衝撃に備える――――が、
ぬるるっ。
「……?」
ユウキが、恐る恐る目を開けると、壁の中に謎の廊下のような空間が広がっており、自分は壁にぶつからずに済んでいた。
「おおっ!? なんだこれ!?」
『オレの身体の一部……Bパーツだな。 急げ! 今の一瞬でも少しだけMPが回復したはずだ! 走って壁を抜けたら、大急ぎで技を撃てよ、撃てよ、撃てよ!!!』
「……! そうだ、アマネちゃん!」
ユウキは、シャムシールを抜くと全力ダッシュで壁に向かって走り出した!
―――――――――――――――――
「…………」
ついに、アマネの包帯は顔まで覆ってしまい、いよいよアマネミイラが完成しようとしていた。
(ああ、もうあたし……ダメなのかな……)
包帯が口と鼻まで覆い、呼吸がとても苦しい。包帯自体に染み付いた闇のエネルギーのようなものに、段々と身体の意識を乗っ取られそうになるアマネは、諦めそうになっていた。
「アマネちゃん!!!!」
「!」
アマネは、はっきりと自分の耳でユウキの声を聴く。
「OA!?!?!?!?」
ぐるぐる巻き装置を動かしていたミイラ兵たちが、驚いて後ろを振り返る。
「うおおおおおおお!!! フレイミング……!」
壁の中からぬるりと飛び出したユウキは、跳躍してシャムシールに炎を纏わせる!
『力を貸そう! 勇者ユウキよ!』
ガンボイは、自分のBパーツを飛ばしてユウキを支援する!
ガッキィィィィン!!!!
ユウキの右腕に、ガンボイのBパーツが腕当てのような形で合体する!
「ファイア……スラアアアアアッッッシュ!!!!」
ユウキは、炎の斬撃でアマネに巻きついた包帯を伸ばす巨大な包帯ロールを焼き切った!
「OAAAAA!?!?!?」
「アンタたちの相手は……こっちよ!!!!」
ドカーーーン!!!!! と壁が爆発すると、蒼い炎が一瞬でミイラ兵たちを取り囲み、燃やし尽くした!
「WAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
「よくよく考えなくても、呪文さえ使えれば壁ごとブチ抜けるじゃないの。もっと早くやればよかったわ」
火だるまになったミイラ兵を尻目に、壁を吹き飛ばしたヒメコがやれやれとため息をついた。
包帯が焼き切れたことで、アマネに巻き付いていた包帯の呪いの力が効力を失い、ぱさり、とアマネの拘束がほどけた。
「ユウ……キ……!」
よたよたと、アマネは座り込んでユウキを見上げる。
「アマネちゃん! ……大丈夫!? た、立てる……?」
ユウキは、片膝をついてかがむと、アマネに手を伸ばす。
「ユ、ユ……ユウギぃぃぃぃ~~~!!!! こ、ごわがっだぁぁぁ~~~!!!! ほんどに、ミイラにされるかと思っだぁ~~~~!!!」
アマネは、涙と鼻水を垂らしながら思いきりユウキに抱き着いた。
(ふおおおおおおおおお!?!?!?)
いきなりのアマネのハグに思わずドキドキしながらも、ユウキは、ぽんぽんとアマネの背中を撫でる。
「大丈夫、もう大丈夫だから……ね?」
「もう、離れないで……あたし、もうミイラはイヤ……!」
アマネはよほど怖かったのか、抱きしめる力をぎゅうぅぅっと強くして全然ユウキを離そうとしない。
「わ、わかったからわかったから……その、兜に鼻水ついちゃうだろ!?」
『お、おいらも挟まれてて苦しいべさ……!(照)』
「あっ……ご、ごめんっ……」
アマネは、ぱっとユウキから離れる。
「……あーちゃん、大丈夫?」
ヒメコが駆けつける。
「ひーちゃん! ……うん、もうダイジョブ。たぶん……」
「まったく……ユウキといい、他の男どもは何してるのかしら? ほんっと役に立たないんだから」
「あっ、そうだ……他の2人は、まだ見つかってないんでしたっけ」
ユウキがそう言うと、ヒメコはガンボイに尋ねた。
「……ガンボイ、残り変身可能時間は?」
『残り8分だ。時間がない。早く仲間と合流して、出口を探す必要があるだろう』
「他の二人も、MPがない状態でずっとミイラたちと戦い続けるのは、危険すぎます……! 僕も、探しに」
ユウキがそう言うと、ヒメコは立ち上がって首を振った。
「……アンタたち、ちょっと話があるわ。あーちゃんもね」
「え?……あたしに?」
――――――――――――――――――
ヒメコが話した作戦とは、こういうものだった。
『いい? アンタたちはまずBパーツを壁の中に埋めて、その空間の部屋でMPを回復しなさい。そして、壁の内部からアイツらと出口を探すのよ』
『ああ。Bパーツの中に勇者がいれば、オレはAパーツの本体とBパーツを共鳴できる。そうすれば、Bパーツをこちらの意志で動かし、壁の中を自在にお前たちの自由に動かすことができるだろう。部屋の中にいれば、壁の向こうの声も聞き取れるはずだし、近くにパーツの反応があればアラームが鳴るはずだ。頼んだぞ』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……なるほど。自由の鎧『ガンボイ』は、こうやって自在に休憩スポットを作ってくれる鎧なのか……すっごく便利だなぁ」
ユウキは、Bパーツの床に座ってくつろぎながら言った。
『ガンボイは、とっても器の大きくて、できることも多い頼りになる伝説の鎧だべさ! いつか、ガンボイのように大きな神器になるのが、オイラの夢なんだべさ!』
「へぇ~、シブトにも夢ってあったんだね……って、」
ふと、ユウキは右手に目をやる。ユウキの右手は、ユウキの横で寝ころんでいたアマネが、ぎゅううっと両手で握っていた。
(……女の子が、僕の手をすごく大事そうに握ってくれてる……)
柔らかい女子の手に、ユウキはとてもドキドキしながらアマネに言った。
「アマネちゃん……」
「ごめん、ユウキ……もう少し、手握ってて……」
アマネのか細い声に、思わずユウキはドキリとしてしまう。
「あたし……魔王城でゴブリンにおそわれたときも、レドにつかまった時も、こんなに死ぬかもって思ったことなかった……おかしいよね。異世界てんせいする前は、魔法なんて使えなかったのに、今は魔法が使えなかったら、ってかんがえると……怖くて仕方ないの」
「……そう、だね」
なんて返せばいいかわからなかった。もし、自分も魔王を倒して、元の世界に帰ったとして……向こうでは、炎の剣もシャンプーの魔法も、何も使えない自分のまま、暮らしていけるんだろうか。
「……アマネちゃん、僕も」
「こわいんでしょ。……知ってる。だから、ユウキ……あたしが怖いときは、そばにいて。ユウキが怖いときは……あたしが一緒にいるから」
寝転がったまま、アマネはぎゅうぅっとユウキの手を握る力を強くする。
……そうだ。この冒険が続く限り、僕とアマネちゃんは一心同体。お互いを励まし合って、最後まで戦わなくちゃいけない。
「……でも、ユウキって強くなったわよね。あんなミイラたちを相手に、変身しなくてもちゃんと剣で戦えるんだもんね」
アマネが言った。
「それは……たまたま、僕が剣の修行をしていたからで……」
「羨ましいな。ユウキは男だから、あたしよりも力強いもんね。変身しなくても、腕の筋肉すごくなってるし」
アマネは、そう言いながらユウキの腕を触る。剣を振るようになってから、明らかにガチガチの戦士の筋肉を身に着けた自分の腕の硬さと、それを触るアマネの指のやわらかさは、明らかに別物のような正反対な性質をしていた。
「それは……」
「……あたし、変身できなかったら、なんでこんなに弱いんだろう……」
その悩みになんて答えたらいいか、僕にはわからなかった。本当に、自分に剣を振れる才能があったのはたまたまだ。それに、本来ならアマネちゃんだって、自分では思いつかないような強力な魔法攻撃をたくさん使える。自分よりもアマネちゃんのほうが強いんじゃないかって思う時だって、たくさんあるのに。
「……弱音なんて、らしくないよ。アマネちゃんのくせに」
「……ユウキのクセに、空気読みなさいよ。……バカ」
その言葉を最後に、しばらくの間二人は無言になった。空気を読めって―――どういうことなんだよ。
ピピピピピ! ピピピピピ!
「!」
大きなアラームの音に、ユウキとアマネは急いで顔をあげる。
『聞こえるか! 勇者ユウキ、勇者アマネよ! そちらにオレの身体の反応があった! 壁のモニターにマップがあるはずだ! 見えるか?』
ガンボイの声が天井のスピーカーから響く。
「はい! あります……北東の壁に、赤いのが2つ映っています!」
ユウキは、壁のモニターを見ながら言った。
『2つか! 2つのパーツは近いところにあったのだな! そのビーコンをタッチしてくれ! すぐにそこに向かう!』
「了解です!」
ユウキは、アマネと顔を見合わせて頷くと、二人でモニターに映るビーコンをタッチした。
―――――――――――――――――
『ヒメコ!』
「オーケイ、頭に入ってきたわ。ふっ飛ばしていくわよ!」
ヒメコは、『ペガサス・ウイング』でユウキたちの元に大急ぎで飛翔した!
「……とりあえず、僕たちもそろそろ外で探索できる用意をしておいた方がいいかもね」
ユウキは、アマネに言った。
「そうね……ん?」
すると、アマネはぴくっと耳を動かした。
「待って……誰かが戦っている音がする!」
「えっ!?」
アマネの言葉に、ユウキも耳を澄ませる。
わずかだが、何かが乱闘しているような音が聞こえる。
「これって、もしかして……」
「みーくんとアイルお姉さんだわ! ユウキ、すぐ助けに行くわよ!」
「あっ、待って!」
壁の外に出ようとするアマネを、ユウキが止めた。
「どうしたのよ?」
「ガンボイさん……僕たちが外に出たら、Bパーツはアマネちゃんに付けてあげてください」
ユウキは、ガンボイに話しかけた。
『む? 構わないが……君はMPが使えなくなってしまうぞ? 大丈夫なのか?』
「大丈夫です。僕は……アマネちゃんが強いこと、知ってますから」
ユウキは、ためらわずまっすぐに答えた。
「ユウキ……」
「ミクル君とアイルお姉さんのこと……頼んだよ、アマネちゃん。僕も、剣でアマネちゃんをサポートするから!」
ユウキは、アマネの肩に手をポンと置いた。
「……もうっ、ユウキのくせにナマイキよっ! ……ばか。任せておきなさい!」
二人が笑って頷き合うと、二人で手を繋いで石壁の向こうに跳び出した!
――――――――――――――――――――
「……ぜえ、はぁ……」
「……はぁ、はぁ……」
ミクルとアイルは、周りを100体近い数のミイラ兵とゾンビ犬に囲まれながら戦い続けていた。
「ねぇ……さっきゾンビ犬に噛まれてたヨネ? キミもうじきゾンビになっちゃうんじゃないの?」
汗をだらりと垂らしながら、ミクルはアイルに言った。
「お生憎様ね……はぁ、貴方も、さっきミイラに肩を嚙まれてたわよね? 死ぬときは一緒よ?」
アイルも、軽口は叩くもののすでに拳はボロボロにダメージを受けており、もう長くは戦えないほど傷ついていた。
「え~、やだな~……ボクまだファイナル公演の予定数年間はするつもりなかったんだけどな~……」
「ここを最後の会場にする気? ピラミッド公演をするフレンディさんとの約束、忘れてるわけじゃないでしょうね?」
「まさか! だいたい、最後の公演のお客がミイラとゾンビ犬だけなんて、死んでも、ごめ……」
ぐらり、とミクルが倒れた。
「ミクル!?」
倒れたミクルに、アイルが駆け寄る。
「あれ……なんだろ、目がかすんできた……はは、ボク世界一カワイイゾンビとして爆誕しちゃうかも……」
「バカな事言ってるんじゃないわよ! 立ちなさい! こんなところで……約束を終わらせちゃダメよ!」
「uhoaaaaaaaaaaaa!!!!」
ミクルを揺さぶるアイルの背後に、ミイラ兵が飛び掛かった!
(マズイ……! やられる……!)
アイルが、思わず目を伏せた―――――その瞬間だった。
(……?)
攻撃を受ける覚悟したアイルであったが、何事もない。ずれたメガネをかけ直して、アイルは顔をあげた。
「…………」
すると、目の前にいたのは―――――謎の男だった。
「……フンッ!!!」
謎の男は、凄まじい剣の攻撃で、一瞬でミイラ兵たちの群れを斬り伏せ、全滅させていた。
彼の容姿は、黒い犬の尻尾と、垂れた獣の耳とマズルから、獣人族であることはわかるが、顔を仮面で隠しており、正体をうかがい知ることはできない。
「あ、アナタは……?」
アイルが尋ねると、その男は静かに口を開いた。
「――――――名乗るほどのものではない」
~~~~その3へ続く!~~~
第八話「灼熱!砂漠の呪いの謎を解け!ピラミッド大冒険!その4」として本話は収録されていましたが、パートが長くなりそうだったので砂漠を横断する場面を第7.5章として再編集し、本話を『第八話「砂漠の呪いの謎を解け!巨大ピラミッド大決戦!」その2』として再編集しました!
今後も展開的に定期的な修正と、読みやすくするための改変作業は行っていく予定なので、よろしくお願いします!
誤字、脱字、シナリオ上の矛盾などありましたらご報告お願いします! 早めに修正します!




