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第七話「獣人族の聖地!神竜樹と神竜の巫女!」その3

北のグランド大陸に進んだユウキたち一行は、『雨のハープ』があるという神竜樹を目指すことにしたが、その道中でユウキたちは獣人族の戦士たちに追われる犬獣人の女性ピレーネを助けるため『神竜の巫女』という役目の身代わりになってアマネが獣人族たちに連れ去られてしまった!


 攫われたアマネは獣人族の長老、デッド・コリーとその息子で獣人族の戦士たちの隊長、レドからおぞましい儀式の内容と、根深い獣人族たちの人間族に対する確執の歴史を知る。

 儀式の前にアマネを取り戻すため、ユウキたちはピレーネとその母の助力を借りて、神竜樹に潜入することにしたが――――。



「フッフゥ~~~!!!!」

「いいぞピレーネ!」


 獣人族の男衆たちが鼻息を荒げて凝視する中、白い犬の獣人の女性ピレーネは、紫色のトップスから零れ落ちるような巨乳の胸を揺らし、シャラシャラと腰の輪っか飾りを鳴らしながら大きなお尻と尻尾を揺らし、妖艶なダンスを踊り続ける。


(ユウキさんたち……もうすぐ、アマネさんを助け出している頃でしょうか……?)


 ピレーネは息を何度も吐きながら、火照る身体をさらに揺らし、華麗にくるくると回転して見せる。


(どうか……無事でいてください、皆さん……!)



 ―――そんな彼女を、男衆の後ろで酒を飲んでいた黒い犬獣人の戦士、レドがちらりと横目に眺める。

「……あの女、匂うな」

 そう言うと、レドは持っていた発泡酒のジョッキを一気にあおってテーブルにドンッ!と叩きつけて立ち上がった。


「ああ、たまんねぇな~蒸れ蒸れのメスの臭いがよォ~……おいレドぉ、どこにいくんだ?」

 酔っぱらったダックスフントの獣人の男がレドに言った。


「いや……ちょっと()()()()()だ。 酒飲みすぎてビンビンになっちまったもんでな」

 しかし、レドは木に立てかけてあった剣を手に取ると、神竜樹を見上げた――――。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(よしよし、ピレーネさんのお母さんの作戦、上手くいったみたいだね)


 魔法少女たちは、新呪文『エアクリア』の魔法で透明になり、姿を闇夜に隠しながら巨大な神竜樹の螺旋階段吊り橋を忍び足で登っていた。そして、耳もいい獣人族(ビースティア)たちに声を聴かれないよう、ユウキは『魔法少女専用:マジカル☆テレパシー』で魔法少女たちに語りかけた。


(一応、あの子のベリーダンスのお陰で見張りの戦士たちも何人か下に降りて、警備が手薄になってるみたいね……)

 アイルがテレパシーで言った。


(ちっ、これだから畜生のオス共は…… あの子がどれだけあんな気持ち悪い目で見られてるかと思うと…… ああ、ホントにムカつくわ……!)

(仕方ないよヒメコ……実際、そのお陰でボクたちこんなに簡単に潜入できてるんだから、大目に見てもらわないとね!)

 苛立ちを隠せないヒメコを、ミクルがなだめた。



(とはいえ……そろそろ神竜樹の半分くらいの高さになってきたわね。 ということはつまり……)

 先に行こうとするユウキたちをアイルが手で静止し、木のうろに背を付けて隠れるように促した。

※ちなみに透明化の魔法はよくよく凝視すれば多少はシルエットが見える程度の透明化で、魔法少女になって視力も強化されているユウキたちは全員自分たちの姿が見えています。


「……ねぇ、ルームゥ。下は随分盛り上がってるみたいだよ♪ 彼女の踊り、たまらないねェ~♪」

「おい、望遠鏡早く貸せよレザイソン! 裸眼じゃムカゴみてえにしか見えねえよ!」

 大樹の枝に作られた見張り台のデッキに、ニシキヘビの獣人とトラの獣人の戦士たちが、酒を飲みながら望遠鏡を取り合ってじゃれていた。


(……少し見張りが降りてない区間に入ってきたわね……でも、この人たちは警戒している様子はない。 今のうちよ、急いでここを登りきってしまいましょう)

 アイルがテレパシーでそう言うと、ユウキたちはうなづいた。4人は音を立てないようにデッキの横を速足で駆け抜けていった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その後も、トカゲやオオカミ、コウモリにクマの獣人たちが辺りを巡回していたが、特に敵が来ると警戒している様子はなく、ユウキたちはすんなりと神龍樹の上層部まで登ることができた。


(皆……もう少しで祭壇の祠がある広間に着くわ)

 アイルがテレパシーで言った。螺旋階段吊り橋は、いよいよ最後まで登り切り、この神龍樹の幹を削ってできた木の階段を上り切れば、祭壇の祠がある広場だ。


(やっと……あーちゃんを助けられる!)

(アマネちゃん……無事でいてくれ!)

 と、ユウキが階段を上ろうと足を踏み出した時だった。





「匂う……匂うなぁ」

 じゅるり、とミクルの横で舌なめずりをする音が聞こえた。




「ひぃ!?」

 ミクルが振り返ると、次の瞬間ミクルの頭を誰かが鷲掴みにした!



「こんなとこまで、よく登ってきたもんだなニンゲンさんよぉ!」

 闇夜に姿を現したのは、黒い犬獣人のレドだった!

 レドは、ミクルの頭を掴んでそのまま神龍樹の幹の壁に叩きつけた!


「ぐああああああああああ!!!!」



「そんな……気づかれたっていうの!?」

 アイルが驚く。次の瞬間、ユウキ達にかかっていた透明化の魔法が解け、ユウキ達の姿が月夜に照らされて露わになってしまった!



「透明化の魔法か……いかにも姑息なニンゲンが考えそうな手だが、惜しかったな。俺はこの里の誰よりも()()()()。野郎ども!」


「フッ、お前の読み通りになったな。やはりニンゲン共は来たか」


「ガハハハ! 俺たち獣人族(ビースティア)の戦士たちに歯向かおうとは、身の程知らずめ!」


 すると、レドの呼びかけに呼応して上空にワシの獣人の飛行戦士部隊が、そしてレドの後ろの螺旋階段吊り橋から、ワニの獣人が率いた兵士たちが姿を現した!





「ちっ……待ち伏せしてたってワケ!? 畜生のクセに……生意気ね!」

「それより……ミクル君!」

 ユウキが慌ててミクルに目をやる。レドに頭を叩きつけられたミクルは、変身が解けてだらりと腕を垂らしたまま静止していた。だが、ピクリと右手の小指が動くと、右手が強烈な閃光をまとって輝き始めた!


「なにっ!?」

「……シャイン、フラーーーーッシュ!!!」

 強烈な閃光がミクルの手から放たれ、レドに向かって爆発した!


「ぐああああ!!! このガキ、まだこんな力が!?」

「……ひっどーい! よくもボクの綺麗できめ細やかな美肌の美しい顔に、傷をつけてくれたな!」

 変身を解かれて鼻血を垂らしたミクルは、服の袖で鼻血を拭いた。


「みんな! 変身だよ!」

 ミクルが、自身の変身アイテム『プリズムリング』を構えた。


「……ああ!」

 アイル、ヒメコは、変身アイテムを構えた。






「『マジカル・プラズマ・シャイーーーン!!!!』」



 ミクルは、自分を抱きしめるように腕をクロスさせると、『プリズムリング』が光り輝きミクルの身体を包む!


 光のドレスが、ヴェールで包み込むようにミクルの身体にフィットする。そして、キラキラとアクセサリーがドレスに装着されていき、ダイヤモンドや宝石の意匠が施された黄色いミニスカートのアイドルコスチュームに変化して、髪型も黒髪から黄金よりもまぶしい金髪の髪になって、伸びた髪は自動的に三つ編みになっていく!


「未来を照らす、栄光の輝き!《魔法少女(マジカルヒロイン)》、『ヒカル・ミクル』!」

 ミクルの名乗りと共に、ダイヤモンドが弾けて七色のプリズムが輝く!


挿絵(By みてみん)






「……『アイン・マジカル・シャワー!!!!』」


 アイルは、一度自らの変身を解除すると、もう一度『プリズムブローチ』を両手に持って胸に抱きしめた後、天高く掲げる!


 光のシャワーが、アイルを包み込むと、段々と男性的な肉体が美しい曲線を描く女性の身体に変化していく。そして、その体にピンク色と薄紫色をベースカラーにした、セーラー服のようなコスチュームが現れフィットするように体に装着されていく。そして、元々腰まで長かった黒髪は、ピンク色の髪をツインテールに変化していく。



「……咲き誇るは、乙女の花!《魔法少女(マジカルヒロイン)》、『アイル・フルール』!!!」

 アイルが名乗りを上げると、桃色の花びらと藤色の花びらが、突風と共に吹き荒れた!


挿絵(By みてみん)





 ヒメコは、プリズムベルトへ手をハートの形にしてかざす!


「『ピュアラブ・マジカル・ウイング!!!』」

 ヒメコのプリズムベルトが光り輝くと、神々しい光の天馬が現れ、光の翼でヒメコの身体を包む!


 鬼の角、そして欠けたユニコーンの角が、ダイヤモンドの光で再生されていく。竜の鱗がキラキラの天の川のように体を包み、そして風船のように膨らみ、バルーンのようなスカートを作る。

 髪は光り輝きながら伸び、蒼や桃色の美しい色とりどりの色調に染まっていく。最後に、桃色のマントをたなびかせ、地面へと降り立つ。


「過去を越え、天空に駆ける憧れの翼!《魔法少女(マジカルヒロイン)》『ヒメコ・ペガサス』!!!!」

 ヒメコの名乗りと共に、ペガサスの羽が輝きながら辺りに舞う!



挿絵(By みてみん)





「くっ……でも、僕はアマネちゃんがいないと変身できない……」

 ユウキは、悔しそうにプリズムペンダントを握りしめた。


「ユウキ君! この人たちは、アタシたちに任せて! 早くアマネちゃんのところへ!」

「まっ、ボクたちは主人公だから、死亡フラグならへし折っちゃうもん、ネ!」

「早くいけ! のろま!」

 変身したアイル、ミクル、ヒメコの3人は、獣人族の戦士たちに向かって跳躍した!


「ぐっ……皆! 頼んだよ!」

 変身できないユウキは、アイルたちに背を向け階段を急いで駆け上がる。


「逃がすか! お子様風情が!」

「行かせないわよ!」

 獣人族の飛行戦士部隊がユウキを追いかけようとするが、ヒメコの蒼い炎が鳥獣人たちの行く手を阻む!


「スモークターキーになりたければかかってらっしゃい! 私、焼き鳥は大好物なの!」

「なんだと……おごり高ぶるニンゲンが! それ以上の冒涜は、この飛行戦士部隊隊長『テバ』が許さぬぞッ!」

 ワシ獣人のテバは、怒りのままに翡翠色の宝石が埋め込まれた剣を抜いた―――!



「……ナゾク二、レザイソン、ルームゥ! このニンゲン共抑えてな!」

 犬獣人のレドが、後ろにいた特に大柄な獣人たちに向かって命令した。


「へい! 隊長の命令なら、命に代える覚悟もできてらあ!」

「やあ♪ ニンゲン族のお嬢さん! 僕たちと遊ばないかい?」

「あ~、待て待て……酒がまだ抜けてねェよぉ、ひっく」

 二丁のトマホークを構えた黒い鱗が特徴の、ワニ獣人の大男『ナゾクニ』。長い舌を伸ばした赤い瞳と白い鱗が特徴のニシキヘビの優男『レザイソン』。ミクルの腰ほどもある太い腕と、白いシャツがはち切れそうなほど豊満な大胸筋が特徴の酔っぱらったトラの大男『ルームゥ』。

 それぞれが強烈な眼光でアイルたちを睨みつけると、一斉に3人に向かってとびかかる!


「うわああああ!? ボク、ヘビは苦手なんだよォ~!」

「なら、好きにしてみせるよ♪」

 白蛇の獣人、レザイソンは、パチリとウインクをすると、指先から謎の液体を発射した!

「!」

 ミクルは、危険を察知して謎の液体を身体をひねってかわす。すると、謎の液体は吊り橋の床板に命中し、ジュっと焼けた。


「ど、毒液ィ!?」

「アハッ♪ 僕の親戚に分けてもらった特性のポイズンさ♪ ハートに焼き付けてくれるかい?」

「ハートに焼け付く前にお肌が焼けちゃうよ! アイルセンパイ、どーしよ~!?」


「しのごの言わない! ……それより、ボスに逃げられるわ! このっ、待ちなさ」

 アイルが、レドに向かって攻撃しようとするが、ワニ獣人、ナゾクニの斧に脚を止められる!


「隊長のお邪魔はさせねぇ……俺と殺り合おうぜ! オカマの兄ちゃん!」

「誰がオカマよっ!?」

 アイルは、つい興奮するともう一撃ナゾクニの斧に蹴りを入れた!


「おっ、さっきよりいい脚の一撃だなァ! ぶっ倒し甲斐があるってもんよ!」

 ナゾクニは、アイルの強烈な蹴りを余裕そうな表情で受け止める。


「アンタに構ってる暇なんてないのに……厄介ね」

アイル▼習得済みスキル『オブジアイス』と『ブルーローズタイフーンドリルキック』を合わせ、合わせ技スキル『ブルーアイスストームランスキック』を取得しました!

 アイルの脚の先が、凍り付いた薔薇の花びらの竜巻が槍になっていく――――!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はぁっ、はぁ……!」

 ユウキは、木の階段を登りきって、祭壇の祠に向かって広場を大急ぎで走った。


「アマネちゃん……! アマネちゃん!」

 ユウキは、必死で叫ぶ。


「……はっ!? ユウキ!」

 祠の中で眠っていたアマネは、飛び起きて石扉の向こうに向かって耳をひっ付けた。


「アマネちゃん! ここにいるんだね!? 開けてくれよ! アマネちゃん!」

 ユウキは、祠の石扉をドンドンと叩く。


「ユウキ! ……ダメなの! その扉は、」


「ああ、その扉は獣人族(ビースティア)の族長の一族……要は、俺でなければ開けられない」

 すると、ユウキの背後にレドが現れた。


「お前は……!」

「ああ、そういえば名乗ってなかったな。……俺は獣人族(ビースティア)の族長が嫡男にして、選ばれし獣人族(ビースティア)の戦士たちを束ねる隊長、レド・コリーだ!」

 レドは、そう言うと月夜に黒光りする黒曜石のブレードを抜いた!


「僕は……僕はユウキ! 魔王を倒し、この世界を救う……勇者という名の、魔法少女の一人だ!」

 ユウキも、戦士のソードを抜き、剣を構える。


「魔法少女……? なんのことかは知らんが、小僧。お前は他の奴らのように姿を変えないのだな」

 ユウキは、(本当は変身できないだけだけど……)と内心で焦る気持ちを(つば)と一緒に飲み込み、こう言った。


「僕は、勇者なんだ! お前ごとき……変身するまでもない!」

「随分自信家だな! 面白い!」

 レドは、にやりと笑うと跳躍し、ユウキに切りかかる!


カキィィィィン!!!!


「ぐおっ!?」

「どうした、その程度か!」

 ギリギリギリ……と、ユウキの剣とレドの黒曜石のブレードが、嫌な金属音を発しながら火花を散らす!


(想定していたより……この人、強い!)

(妙だな……このガキ、プレッシャーを感じない……わざと自分の実力を隠しているのか、あるいは……)

 剣を交えながら、レドが力でユウキの剣を押し返していく。じり、じりとユウキの右足が、後ろにずり下がっていく。

 そして、ユウキの背中が、石扉にぴたっとくっつくところまで追いつめられてしまった。


「どうした! そんなものか! 小僧!」

「まだだ! ……こうなったら、ストックしておいたSP(スキルポイント)を……!」

 ユウキ▼SP:36を使用して、『バイパワー』を取得しました!


「バイパワー!!!!」

 ユウキは、攻撃力を上げる呪文を取得すると、自分の腕力をパワーアップさせた!


「!」 

 すると、グイグイとレドの剣を、ユウキの剣が押し返していく―――!


「これなら、いける!」

 すると、レドが牙を嚙み締めた。


「……俺を、失望させるなァ! ガキぃ!」

 レドは、激高して叫ぶと、力任せに剣を右に薙ぎ払い、ユウキを吹き飛ばした!


「なにっ!? ぐああああああああああ!!!!」

 吹き飛ばされたユウキは、広場の横から延びる太い枝の壁に叩きつけられる!


「魔法を使ってパワーアップ……一見楽そうだが、俺はそういう猪口才な手を使う人間とは何度も戦い、そのたびに獣人族(ビースティア)の圧倒的なパワーで斬り殺してきた……お前には、何の強さも感じないッ!」

 レドが、剣を盾に振るった! すると、斬撃の衝撃波でユウキの横の広場の地面が、枝の壁ごと大きな亀裂を走らせた!


「なんだって……!?」

 ただの剣の攻撃とは思えない圧倒的なパワーに、ユウキは思わず汗を流した。


「俺は……俺たち獣人族(ビースティア)は! 今日の儀式のためにどれだけ多くの血を流しながら、神竜の卵を宿す巫女の出現を願ってきたか、ニンゲンなんかに分かるか!? お前らニンゲンが、木を切り森を焼いて広げた大都市でのうのうと暮らしている間に、俺たち獣人族(ビースティア)が何度ニンゲンの遊びで殺されてきたか! その遊び感覚で、お前たちはあの逃げ出した女を助ける、などと抜かして神聖な儀式を台無しにしようとしたことの、罪の重さがわかるか!」


「そっ、それは……わからなくもないけど! でも、それとピレーネさんの意思や……アマネちゃんの意思とは関係ないだろ!」

「黙れ! 犠牲になるだけの対価はある! 我々獣人族(ビースティア)の救世主、神竜の母として、裕福で幸福な、名誉ある生き方ができるのだ! それ以上の女の幸せなど、あるわけがない!」

「ぐっ!」

 レドの飛ぶ斬撃の衝撃波をユウキは身体を転がしてかわす。


「それに、俺は……あの娘に、アマネに惚れた! あいつは……俺の妻に相応しい女だ!」

 レドが剣を横に振るう。ユウキは枝に身体を隠しながら身をかがめ、斬撃を間一髪かわしながら走る。


「あの女に、俺の子を孕ませる! あの女は……神竜の巫女になると、俺は信じている! 俺の鼻が、間違いなくそうだと言ってる!」

「それとこれとは……話が、違うんだって!」

「今まで抱いてきた他の巫女も……獣人族(ビースティア)たちの勇敢な戦士や新たな巫女を産む役目を果たしてきた! だが、神竜の卵は産まれてこなかった! あの女だけは、他の女とは違う臭いなんだ……! あいつが、獣人族(ビースティア)最強の戦士である俺の種を孕んだ時……今度こそ! 神竜の卵は産まれる!」

「こいつ……! そんな、根拠のない伝説のために、嫌がる女の子たちに何度そんなことを繰り返してきたんだぁぁぁぁ!!!」

 ユウキは、怒りを爆発させて剣を構えて飛び出した!


「フレイミング……ファイアスラーーーーーッシュ!!!!」

 ユウキの剣は、強烈な爆炎をまとい、レドを切り裂―――――――けなかった。


 ぷしゅ。という情けない音と共に、ユウキの剣にまとっていた炎が、勢いを失い消えていった。


(しまった! 今は変身していないから……MPを大量に消費する聖剣技の『シャイニングソード』と超上位魔法『フレイミングバーニングボムズ』を同時に使う『フレイミングファイアスラッシュ』は、僕の今のステータスではMPが足りなかったんだ!)

「笑止!」

 レドは、ユウキの剣を軽く受け流すと、左腕で正拳突きを放ち、ユウキの腹に衝撃波を放つ!


「がっ……!」

 鉄製のヨロイの腹部がベコリと凹み、接合部のベルトが破れてヨロイの一部が剥がれ落ちる。次の瞬間には衝撃波がユウキの身体を突き抜け、そしてユウキの身体が祠の石扉に向かって吹き飛ばされ、叩きつけられる!



「ユウキ!? しっかりして! ユウキ~!!!」

「アマ……ネ、ちゃ……」

 ユウキは、アマネの声援に応えようとなんとか立ち上がろうとするが、頭がフラフラしてうまく立ち上がれない。なんとか膝で立とうとするが、失敗して倒れた拍子に鉄製の兜がカランコロン……と落ちた。

 

「これで終わりか、ニンゲンの小僧」

 レドは、ユウキの目の前に立つと、黒曜石の剣を構えた。

「れ、レ……ド……!」

 

「しっかりしなさいよ! ユウキ! ワンちゃんなんかに負けちゃダメ! まだ、大きな砂漠にも、メイデンワンダーランドで一番の大都市にも行ってないのに! 伝説の神器も、伝説の武器防具だって、半分もそろってないのよ!? 魔王を倒して、世界を救うんでしょ!? ユウキ~!」

 石扉の向こうで、泣きながらアマネが叫ぶ。


「……お前たち『ニンゲン』は罪深い」

 レドは、必死で立ち上がろうとするユウキの前に立つと、剣を構えた。


「アマネは、俺の妻になるべき女だ。偉大な獣人族(ビースティア)の次期族長である俺の妻になることで、あの女は人間であることの罪から逃れられる。お前が、あの女の未練になっているのなら……俺はお前を倒し、俺に惚れさせてみせる!」


「やめなさい! そんなことしたって、ワンちゃんとは結婚なんてできないわよ! 考え直して!」


「せめてもの礼儀として、獣人族(ビースティア)の戦士に伝わる最強の剣技をもってお前を殺す!」


「……!」

 僕が。僕が……アマネちゃんを、守らなきゃ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『し……死ぬなんていわないで! ユウキがいなかったら……あたしは、パパもママも皆も救えない!』


 ふと、僕は初めてアマネちゃんと変身したあの日を思い出していた。


 元々、魔法少女になる前の僕といえば……何の取り柄もなく、クラスでいじめられて友達に『大丈夫?』の一言も言えず、ただ黙ってみていることしかできないダメな奴だった。

 名前だけは「ユウキ」のクセに、「勇気」とは全く縁のない、臆病者として、今まで生きてきた。

 そんな僕でも、女神さまからもらったスキルパネルとプリズムペンダントの力のお陰で、困ってる人をほんの少しだけど助けてあげられるようになった。だから、僕はほんの少し、自分を誇らしく思えるようになったんだ。


 でも、その成長は、アマネちゃんだって一緒で。アマネちゃんも、元々住んでいた世界を滅ぼされて、大好きな家族や友達、ペットと別れてつらい思いをして泣いている、ただの女の子だった。


 そんな女の子が、いきなり異世界に来て怖いなにかと戦わなきゃいけないなんて、あんまりじゃないかって思ったんだ。僕だって怖かった。でも、君を守るためだったら、少しだけ僕もユウキを出せたんだ。


『あたしにだって……みんなを! ユウキを守りたい!』


 君が、手を伸ばして僕の涙を拭ってくれたあのとき。本当に嬉しかった。

 本当に、君は強い女の子だ。でも、君だって、僕と同じで、ただの中学生なんだ。

 僕が傷つくよりも……ただの女の子の君が、つらい目に遭う方が、もっと辛い。


 だから、僕が守らなきゃ。僕が―――――――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



獣人族(ビースティア)の戦士の聖剣……受けてみよ!


森羅万象を裁断する! 究極奥義―――――『獣牙王の(ビースティア・)覇閃(カイザー)』!!!!!



 レドの黒曜石の剣に、虹色の閃光が走り、タイムラプスでも見ているかのように光が集中していく―――!


「ユウキーーーー!!!!」

「う、うおおおおおおお!!!!!」

 ユウキは、アマネの叫びで最後の気力を振り絞って立ち上がり、剣で防御の姿勢をとる!



 黒曜石の剣から、金色のオーラが迸ると、凄まじいエネルギー波となって巨大なビームサーベルとしてユウキに襲い掛かる!


「僕は……僕はァ!!!!」

 しかし、その攻撃を剣で受け止めた瞬間、ビシッ、と音がした。


「!」

 そして、ユウキが買った戦士のソードは、いとも簡単に粉々に割れてしまった!


(あ、これ死んだな)

 ユウキは、全てを悟った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ずどおぉぉぉぉぉん! とものすごい衝撃の音が、神竜樹の広場の方から聞こえてくる。


「ちっ……オス勇者、死んでないでしょうね!?」

 ヒメコが、苛立ちながら飛行戦士のコウモリ獣人を、低火力の炎で攻撃する。


「わからないよ~! 今すぐ助けに生きたいけど、殺さないように戦うのにもムチャがあるし~!」

 ミクルは、レザイソンの尻尾に首を絞められながらも、必死で獣人戦士たち複数人と戦っている。


「こいつら……! タフすぎるのよっ!!! 骨を一本折ったくらいじゃ、全然余裕そうにしてるのが腹立つわね……!」

 いつも冷静なアイルも、段々と息を荒げてイライラし始めている。


「へっへっへ……! 俺はまだまだやれるぜェ! もっとこいよ! オカマの兄ちゃん!」

 既に足や腕などをかなりの氷魔法を喰らってダメージを受けてるはずのナゾクニは、へらへら笑いながらアイルを挑発する。



「だからアタシはオカマじゃないっ! ……とはいえ、これ以上強い攻撃を使ったら、本当に殺しかねないわよ?」

 魔法少女たちは、殺さないように手加減して攻撃してはいるが、獣人族(ビースティア)の戦士たちがタフなうえにかなりの攻撃力をしているので、手加減するのも難しいのだ。


「ボクは嫌だね! 外交問題にまで責任持てませーん!」

「ああもう! 燃やしたーい! この大樹丸ごと燃やして、この山、全っっっ部を火の海にしてやりたいわ~!」

 と、ヒメコが叫んだ瞬間だった。


「隙アリ!!!」

 ワシ獣人のテバが、バチバチと剣に電気をまとってヒメコに切りかかった!


「ぎゃあ~!!!! 畜生どものくせに、雷属性~!?」

 モロに攻撃を喰らったヒメコが、痺れて吊り橋階段に叩き落される!



「ヒメコ!?」

「痛ったたた……アンタ! それ! ダンジョンでも滅多に手に入らない超高級な魔剣よね!?」

 ヒメコがテバの持っている剣を指さした。


「いかにも……これは『雷鳴の魔剣』。獣人族の戦士の中で、隊長に認められるほどの武功がなければ、決して持つことを許されぬ名剣。故に俺は、次期隊長に任命されるためにも、手柄が必要なのだ! ルームゥ!」

「でへへへ~! ほ、ほ……豊作ピーチぃ~!」

 むにゅっ。


「……は?」

 ヒメコの背後に、トラ獣人のルームゥが現れ、ヒメコの豊満な胸を大きな手で思いきり鷲掴みにした。


「でへへへ……いい弾力してやがる……! 俺、新しい神竜の巫女よりコイツを抱きたいなぁ~」

 ルームゥは酔っぱらって真っ赤な顔のまま、背中からヒメコを抱くような形でヒメコを押さえ込み、ご満悦そうにヒメコの胸をむにゅむにゅ揉んでいる。しかも握力や腕力が妙に強くて変身したヒメコの力でも引き離せない。

「ちょっ、どこ触って……! うぷっ、酒臭っ! このスケベネコ! 燃やすわよ!? 毛皮どころか頭蓋骨残らないくらい黒焦げになるまで燃やすわよ!? さっさと放しなさい! スケベ! 死ね!」

 必死になってヒメコがじたばたしてルームゥの腕を引きはがそうとするが、ヒメコは身動きが取れない。


「そのまま押さえていろルームゥ! そのままそいつを斬る!」

 テバは、雷鳴の魔剣を構えて急降下してくる!

「えへ~? でへへ、もうちょっと楽しませろよ~あ~勃ってきた」

「コイツ……尻になんか当たってるし……! ああ、もう……」

 ヒメコは、眼前に迫るテバの雷鳴の魔剣を見て、はぁ、とため息をついた。


「―――――キレたわ。」

 ヒメコは瞳から真っ赤な眼光を放つと、強力な重力魔法『グラビドドン』の魔力を、拳と足に込めた!


「ふんっ!!!!」

 ヒメコは、10tの威力のあるアッパーカットを放ってテバのクチバシを粉砕し、左足で20tの威力のある蹴りを放ってルームゥの腹に叩き込んだ!

 

「アバッ!?!?!?」

「げぼっ!?」

 次の瞬間、意識を失ったテバとルームゥは、すごい勢いで吹き飛ばされ、勢い余って神竜樹から落ちていった―――。





「……そうね。アタシも、手加減しなきゃと思いすぎて、ちょっと甘かったわね」

「そうだね……ちょっとまあヘビ男子も悪くない気がしてきたけど、これ以上は時間かけられないよネ!」

「なんだと!?」

 容赦のないヒメコに触発されたアイルとミクルは、お互い目を見るとうなづき合った。


「宝石魔法! 『エメラルド・チェーンスライサー』!!!!」

 ミクルは、素早くレザイソンの尻尾高速から抜け出すと、エメラルドの蛇腹剣を伸ばして敵全員をぐるりと取り囲んだ!


「な、なんて綺麗な技なんだ……! い、いやこれはボクたちをまとめて切り裂くつもりなのかい!?」

「そんなもの!この俺が叩き切ってくれるわぁ!!!!」

 ナゾクニが、トマホークでミクルの技を斬ろうとする。


「ナイス援護よ、ミクル君……あとはもう、十分!」

 すると、アイルが上空に跳躍して、両手を掲げた!


「『スノードーム……リリィ・アイランドぉぉぉぉぉ!!!!』」

 すると、振り下ろそうとしたナゾク二の斧が空中で凍り付き、橋の中央に集まっていた獣人族(ビースティア)の戦士たちは一人残らず『氷の宮殿』に閉じ込められた!


「な、なんじゃここは……あっ、寒っ……眠くなる……」

「あっ、僕も……それに、なんだかとっても、いい匂い……Zzz……」

 密閉された氷の宮殿の天井から、花のように甘い香りのガスが湧き出し、獣人族(ビースティア)の戦士たちの周りに充満する。そのガスが吸った獣人族(ビースティア)の戦士たちは、たちまち強い眠気に襲われて全員残らず眠ってしまった。


「……流石に百合の毒ではなくて、ネムリ草の花の力を使っているわ。死ぬことはないから、安心して眠りなさい。3日くらい」

「イヤ~、結構寝かすねぇ~」

 アイルにミクルが突っ込んだ。


「ふんっ。こんな奴ら永遠に眠っておけばいいのよ。……それより、あーちゃんとアイツが心配だわ。急ぎましょう」

 ヒメコの言葉に、アイルとミクルはうなづくと、急いで階段を駆け上がるのであった――――。





~その4に続く~








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