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第七話「獣人族の聖地!神竜樹と神竜の巫女!」その2

~あらすじ~


大鷲の塔で『太陽の鏡』と『聖盾シブト』を手に入れたユウキ達一行は、大商人の娘ホミナから報酬の資金をもらい、装備を整える。そして水の都アルフルートの北にある水中トンネルを通って北のグランド大陸に進むと、『雨のハープ』があるという神竜樹を目指すことにしたが、その道中でユウキたちは獣人族の戦士たちに追われる犬獣人の女性ピレーネを助ける。

 『神竜の巫女』という役目を捨てて神聖な儀式を逃げ出した彼女の身代わりになり、アマネが獣人族たちに連れ去られてしまった!

 しかし、その神聖な儀式というのが、とにかくヤバいらしい。ユウキたちはアマネを助けるべく、ピレーネの案内で獣人族の里「ビスタの里」へと向かうのであった―――。




「へ~、空を飛んでいくのって、こんな感じなのね~」

 『神竜の巫女』、ピレーネの身代わりとなって、獣人族(ビースティア)の戦士たちに連れていかれたアマネは、(ワシ)の獣人の一人の腕に抱きかかえられながら、上空から夕焼けに染まる山々の景色を楽しんでいた。

「どうだ? ニンゲンのお前が空を飛ぶことなんて、そうそうないだろう」

 鷲の獣人が話しかける。

「そうね! ビューンの魔法じゃ、一瞬でとんで行っちゃうから景色なんてわからないし! すごいのね! あなたたち!」

 アマネが笑顔でそう言うと、気持ちよくて冷たい風がアマネの頬を撫でた。



「この辺りは、空気がおいしいのね! 緑がいっぱいで、それに……」

「見るがいい、ニンゲンよ。あれが、我らの神が生まれた場所『神竜樹』だ」

 とても高い場所を飛んでいるにも関わらず、ここからでもはっきり見えるほど巨大な大樹が、アマネにも見えた。



「我ら獣人族(ビースティア)の隠れ里である『ビスタの里』は、神竜樹を囲むように、大樹の根の隙間にほら穴を掘って作られている。神竜樹そのものは、大きな丘の上に立っているからな」

 鷲の獣人族たちは、上空から下降を始める。だんだんと、神竜樹の大きな根のまわりに、木で増築された小屋がいくつも建っていて、そこから明かりが漏れているのが見える。

「お前が行くべき場所は、あそこだ」

 集落の中央にある巨大な神竜樹は、100階建ての高層ビルのように巨大な大木だ。太い幹の周りを螺旋階段のような形で板でできた吊り橋が建てられており、そして、螺旋階段つり橋を登り切った先に、幹と枝の間に結婚式場の大ホールのような広間ができており、その広間に石で作られた祠が建っていた。


「あの建物で……儀式、ってやつをやるのよね?」

「ああ、そうだ」

 鷲の獣人たちは、その広場に降り立つとアマネをそっと祠の前に降ろした。


「入れ」

 鷲の獣人の一人が、石でできた重い扉を引いて開ける。


「おー、思ったより広いわね」

 石造りの祠は、外から見たよりも広く感じるほど、広々とした空間だった。

 水の入った小瓶が入った棚と、大きな鏡のある神棚のような小さな祭壇。そして、中央には人一人がギリギリ寝ころべるよう大きさの、平たくて大きな石。それ以外にはなにもない、こじんまりとした場所だ。


「あたしはここで、何をすればいいの?」

 アマネが鷲の獣人に問いかける。

「今日は、この部屋から出ずに好きに過ごしていればいい。本来の儀式の時間は明け方。日が昇ると同時に行う。あの女が昼過ぎまで儀式を拒んで時間を引き延ばした挙句、我らを欺いて逃げだしたのだ、男たちも今日やれるような状態ではあるまい」

「だから、何をするのかって聞いてるんだけど……」





「それについては、俺が説明しよう」

 すると、先ほどユウキたちと対峙していた、リーダー格の黒い犬獣人の男が、よぼよぼで毛むくじゃらの身長の低い犬獣人の男と共に現れた。


「おお、レド……して、『神竜の巫女』になる娘は……あの者でよいのじゃな?」

 よぼよぼの犬獣人の老人が、黒い犬獣人の男に話しかける。


「我らの掟に、『ニンゲンを神竜の巫女にしてはならない』という文言はない。それに……いずれ聖戦の切り札となる神竜が、ニンゲンの娘から生まれればニンゲンたちに攻撃する大義名分にもなりましょう」

「そうじゃな……皮肉にも、ニンゲンから生まれた神竜がニンゲンを滅ぼす……我が息子ながら実に気味のいいことを考えるものじゃな、お前は……」


「ねえ、シンリュウ? ってなんのこと? この神竜樹と、なにか関係があるの?」

 アマネが、黒い犬獣人レドに問いかけた。


「そうか……お前は、儀式がなんたるかを知らずに、あの娘の身代わりを名乗り出たというのか。実に健気じゃないか」

 レドは、笑いながらアマネの頭を撫でた。


「おお……それでは流石に気の毒であろう。どれ……この獣人族(ビースティア)の長老、デッド・コリーがこの神竜樹に伝わる、聖なる儀式の伝説を聞かせてやろう……」

 犬獣人の老人、長老のデッドは小さな切り株のような枝に腰を下ろすと、オホン、と咳払いをした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 かつて、我々獣人族ビースティアの一族の総人口の3分の2を死に至らしめた大きな戦争があってから、150余年……それ以前にも、我々獣人族(ビースティア)とニンゲンは、3千年も前から、戦争、休戦、友好、そして裏切り、また戦争……と同じ歴史を繰り返し続けていた。


 ニンゲン族を大きく超える身体能力、そして野ネズミのように早い繁殖能力を脅威に感じたニンゲン族は、何百何前年にも渡って我らの人口を減らそうと、戦争を仕掛けてきた。

 今生き残っている獣人族(ビースティア)の多くは、先の時代の戦争で、奴隷時代にニンゲンの手で繁殖能力を抑える手術を受けた親から生まれ、今やビースティアの人口は全盛期の100分の1、絶滅の危機にある。


 このことを千年前に予言していた、獣人族の英雄だった獣人族の神官がいた。

 彼の伝承によれば、獣人族(ビースティア)は、かつて神がこの世界を作ったときに、神はニンゲン族には魔法と英知を、我ら獣人族(ビースティア)には『神の子を産む』肉体を授けたと。

 この世界に産まれたばかりの原始の獣人族(ビースティア)は、ニンゲンとあまり変わらぬ姿をしておったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。


 また、獣人(ビースティア)の男がニンゲンの娘と交わると、その子供は必ず獣人族(ビースティア)になる。


 そして、ニンゲンは我々獣人族(ビースティア)の繁殖行為により、ニンゲン族の種の全滅を恐れ、獣人族(ビースティア)の迫害を始めるであろう。という予言をすでに残していた。


 そして、いずれ獣人族(ビースティア)は、ニンゲンの迫害を乗り越え、地球上の全ての種族と交わるとき、増長する魔族や、驕り高ぶるニンゲンたちを粛清し、世界に平和をもたらす神の使徒『神竜』の卵を授かるであろう、という神のお告げを聞いたのだという。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そして……我らの祖先は様々な獣と交配を重ね、ついにこの『メイデン・ワンダーランド』の全ての種族の血を取り入れることに成功した。しかし、粛清を恐れたニンゲンにより、獣人族(ビースティア)は殺され続けた」


「で、でも……あたしは、そんなことしないよ? それに、最近は百年近く平和が続いていて、ゆーこー的な関係の獣人族(ビースティア)もでてきたって……」

「愚か者めが! ニンゲンと友好を結ぼうとするなど、歴史から何も学んではおらぬ愚か者のすることよ!」

「ひっ!?」

 アマネの言葉に、長老デッドが激昂して叫んだ。


「先ほども言ったが……このままでは、例えニンゲンと友好を結んだところで、子が生まれねば我らの獣人族は絶滅する。しかし、ニンゲンと魔族、生き残った両者はいずれ巨大な戦争を起こし、世界は破滅する……! そして、神官の神託に従い、我ら獣人族(ビースティア)はある儀式を何百年にも渡って続けてきたのじゃ。それは……」


「それは……?」

 長老デッドはスーッと息を吸い、再びオホン、と咳払いをすると口を開いた。



「それは……『聖なる神竜樹に祠を作り、里の中で初潮が訪れる13の年齢の娘の中で、一番珍しい毛並みをした娘を『神竜の巫女』に選び、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』……これが、聖なる神竜樹の儀式の伝説じゃ!」

 長老デッドが高らかに叫んだ。


「……えっ!?」

 次の瞬間、アマネの顔がポッと真っ赤に染まる。


「その反応……生娘のようで実に安心した。儀式は処女でなくてはならぬからな。なぁに、獣人族(ビースティア)の戦士たちは皆勇敢で優秀な肉体を持っている。もし儀式に失敗して神竜の卵が産まれなかったとしても、どの男の子を孕んでもよき子ができるであろうよ」

 犬獣人の男、レドはニヤリと笑いながら、アマネのあごをくいっと持ち上げた。


「ひっ……そ、そんな……! あ、あたし……!」

 後ずさるアマネは、先ほどのベッドのような石にかかとをぶつけて尻餅をついてしまう。


「実のところは……俺もサカリの時期でムラついてるからよ……早くお前の肌を味わいたくて仕方がなねぇ……! 俺は、夢なんだ……俺と番ったメスが神竜の卵を孕んで、俺が神竜の父親になるっていうのがな……もし、俺の子を孕んだら、妻として毎晩可愛がってやるからな……!」

 レドは、べロリと舌を伸ばして、ハァハァと呼吸を荒くしたまま、アマネに顔を近づける。


「い、いやよ……! あ、あたし、ワンちゃんをそんな目で見たことなんて……」


「レドよ。儀式の前に巫女を汚すのは、族長である儂の息子であるお前といえどならぬぞ。慌てずとも、儀式は一度始まれば7日も昼夜問わず休みなく続けられるのだ。気を静めるがよい」

 デッドがレドに言った。


「なっ、7日間も……休みなし!?」

「……ああ。そうだな、親父……アマネといったな。今夜は儀式の前の最後の休みだ。よく眠っておけ。俺はお前に惚れたよ。絶対に俺が孕ませてやる……!」

 レドは、アマネの頭をポンポン、と撫でると、祠の外に出た。それに続いて、他の獣人たちも、祠の外に出る。


「こんなの……あたしが、認めるわけ!」

「言っておくが……逃げ出すんじゃねえぞ。お前が言ったんだからな。お前が『神竜の巫女』になるってな」

 レドは、そう言うと祠の石扉を閉めた。






「ちょっと! 出して! 出しなさいよ!」

 アマネが、慌てて石扉を開けようとするが、女子中学生の腕力では石扉はビクともしない。


「そんな……どうしよう、あたし……」

 アマネは、へなへなと閉じた石扉の前に体育座りで座り込んだ。




『アマネちゃん……聞こえますか?』

 すると、アマネの脳内に、女神ゼウの言葉が聞こえてきた。


「ゼウ様!」

『色々言われてよくわからなかったでしょうが、さっきの言葉の意味……分かっていません、よね? 今からお姉さんが説明……』


「わかってるわよ! 性交……セックスの意味くらい!」

 アマネは、思わず大声で叫んでいた。


『アマネちゃん……分かっていたのですか? その……赤ちゃんの作り方、ですよ?』

「小学校でだって……保健の授業くらいはやったもん……その時は、ぜんぜんイミわかんなかったし、パパやママに聞いてもはぐらかされてゼンゼン教えてくれなかったけど……さっきの話を聞いて、()()()()()()なんだって、急にジッカンがわいてきちゃって……」

 アマネは、顔を真っ赤にして立てた膝に顔を埋める。


『そうですか……ですが、その、神々の目線からみても、その未成熟な体で、屈強な体の獣人族の皆さんを相手に何日も行為に及ぶのは、オススメできませんので……何とかして逃げ出してほしいところ、なんですけど……』

「だったらゼウ様! ゼウ様の世界に、あたしをよんでちょうだい! あたしを、助けてください!」


『………うううぅ~……!』

 すると、女神ゼウの念話通信に、ザザッ、と雑音が混じる。


『ごめんなさい、アマネさん……そうしたいんです。私もそうしたいんですけど……ダメなんです。昼にも言いましたが……生死に関わることでも、多くの場合女神や神は直接干渉することが禁止されているんです。本当にごめんなさい……!』

 ゼウは、心底申し訳なさそうな声で、アマネに言った。



「ゼウ様……もう! ゼウ様のバカッ! だったら……あたしが自分で脱出するもん!」

 アマネは、魔法の杖『ブルーオーブロッド』を構える!


「ダブル・バーニング……ボムズ~!!!!!」

 アマネは、強力な爆炎魔法を2連続で唱え、石扉に向かって放った!


 ドカーン!!!!!!!



「きゃあっ!」

 爆風で吹き飛ばされたアマネは、石扉と反対の壁に背中をぶつけた。……しかし、


「なんで……壊れてない!?」

 石扉には、亀裂の一つもなく、まったくビクともしていなかった。


『どうやら、強力な『魔法耐性の封印』が施されているようです……おそらくその石の祠は、我々神々が住まう神殿にも使われている『神の岩』からできているのでしょう。今の貴女は、ユウキさんがいなければ変身できませんので、腕力や魔法で祠を破壊して脱走するのは難しいでしょう……』

 女神ゼウが言った。


「じゃあ、どうやってここから逃げ出せば……」

『アマネさん。こうなった以上……アイルさんたちが助けに来てくれるのを待つしかないでしょう。獣人族(ビースティア)たちが明け方になって石扉を開ければ、脱走のチャンスもあるかもしれません。明け方になる前に私が起こします。少しの間でいいので、目を瞑って休んでいてください』

 女神ゼウの言葉に、アマネはうなづいて、石のベッドの上で横になった。


(頼むわよ、ユウキ、皆……必ず、あたしのこと助けに来てね)

 アマネは、そう祈りながら目を瞑り寝息を立てた――――。




―――――――――――――――――――――――――――――――――



「皆さん、こっちです」

 一方その頃。ピレーネに案内されながら、ビスタの里に潜入することに成功したユウキたち4人は、ビスタの里の小さな小屋に入っていった。


「おじゃましま~す……」

「おお、ピレーネ……よく、よく無事でいたねぇ……げほっ、げほっ」

 すると、部屋の奥で、ボロボロのベッドの上に寝ている茶色い犬獣人の老婆が、咳き込んでいた。


「お母さん! 無理をして起きたらいけませんわ!」

「お前が『神竜の巫女』に選ばれたと聞いてから……心配でねぇ。あたしゃ、親友のウーザが巫女に選ばれたときに、ほとんど廃人状態になって何人も産まされたのがショックで……お前もああなりはしないかと不安で仕方なかったのよ。逃げ出せてきたんだねぇ、よかった……」

 ピレーネの母は、やせ細っていて今にも死にそうな顔をしていたが、それでもにっこりと娘に向かって笑顔を見せた。


「お母さん……! でも、私の身代わりになって、人間の女の子が神竜の巫女に……! だから、助けてあげたいんです! なにかいい方法はないかしら、お母さん……!」

 それを聞くと、ピレーネの母はユウキたちを見た。


「そうかい……見ればわかるよ。お前たちは優しいタイプの人間だね。皆さんの仲間が、この子を助けてくれたのかい。そうかいそうかい……」


「あの、ピレーネさんのお母さん……!」

 ユウキが声をかけようとすると、ピレーネの母は手で静止した。

「あたしゃね、正直この里では、閉鎖的な里の掟をよく思っていないはみ出し者さ。協力するのは別にかまわないよ。……でもね、今まで『神竜の巫女』の役目から逃れられた女を、あたしゃ知らないよ。身代わりを用意できたヤツ以外はね」

 ピレーネの母は、メガネをかけた。


獣人族(ビースティア)の戦士たちは、強い。狙った獲物はどんな手段を使っても追いかけて追い詰める。一度儀式から逃れられたとしても、どこまで逃げても追いかけてきて、捕まったが最後、逃げた分だけ儀式はより苛烈になる。もし、親友が身代わりを申し出てくれなければ、あたしゃどうなっていたかわからなかった……」

 ピレーネの母は、先ほどの覇気のない瞳から、真剣な眼差しになってユウキたちを見た。


「お前たち。もし、『ニンゲンと獣人族(ビースティア)の全面戦争』になってでも、お前たちの仲間を助ける覚悟はあるかい? もし、この戦いで命を落とすかもしれない覚悟がないなら……諦めた方が身のためだよ」

「そんなの……絶対に嫌です! アマネちゃんは……僕の大切な仲間です!」

 ユウキは、即答で答えていた。


「そうね。どんなに強い相手でも……大切な仲間を傷つけさせるわけにはいかないわ」

「何度も言うけどね……私の二の舞になる子なんて、もう十分! 畜生ども、タダじゃおかないんだから」

「ヒメコ、その発言はデリケートすぎるからやめといたほうがいいと思うな―」

 アイル、ヒメコ、ミクルが言った。


「……よし。そうこなくっちゃね。……いいかい? よーく聞くんだよ」

 ピレーネの母は話し始めた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 まず、儀式をする神竜の祠は神竜樹の頂上にある。

 そこまで行くには、螺旋階段吊り橋を登っていくしかないが、昼は昼行性の獣人族(ビースティア)の戦士が、夜は夜行性の獣人族(ビースティア)の戦士が警備している。

 つまり、神竜の祠に行くには、警備の目を潜り抜けるか、警備する獣人族(ビースティア)の戦士を倒していくしかない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そうだねぇ……そして、獣人族(ビースティア)の戦士たちは、あまりにも強すぎる。直接戦闘するのは、例え手練れの冒険者でもお薦めはできないよ。しかし、夜行性の獣人族(ビースティア)たちは、夜目も利く。なんとかして隠れる方法……あるかい?」

 ピレーネの母がそういうと、ユウキたちは頭を悩ませた。


「そうねぇ……ユウキ君以外は変身すればある程度戦えると思うけど……」

 アイルが言った。


「無理だと思うな~。獣人族たち、かなりの数がいたよ? あいつら一人ひとりがゴゴゴリラの数倍は強いと考えると……頂上に着くころにはスタミナ切れしちゃう。あんな大きな大樹なんだもん。往復する体力のことだって考えないと」

「あら、ミクルのくせになかなかいいこと言うじゃない。あと、加えて言うと人間である私たちが迂闊に獣人族との戦闘になってみなさいよ。神竜樹に火なんかつけてみなさい、政治問題に発展するわよ」

 ミクルとヒメコが言った。


「そうですねぇ……私としても、神竜樹に火をつけるのはやめていただきたいです……」

 ピレーネが言った。


「うぐぐ……やりづらい……せめて、僕が変身できていたらなぁ……」

 ユウキが言った。


 すると、ピレーネの母が言った。

「だったら……ピレーネ。お前には『アレ』があるじゃないか。アレを利用して、兵士たちの目を引くっていうのはどうだい?」

「アレ……えええっ!? あれ、ですか……?」

 ピレーネは、顔を真っ赤にしてもじもじしている。


「ピレーネさん……アレ、ってなんですか?」

 ユウキが聞いた。

「アレはそのう、あのう……獣人族(ビースティア)の女性に代々伝わる『アレ』ですけど……アレを披露するのは、そのう、あのう……」


「…………」

 じーっ、と全員の視線が、ピレーネに集まる。


「あ、あわわわ……!」

 ピレーネは、真っ赤な顔のままさらにぐるぐると目を回す――――。



――――――――――――――――――――――――――――――――――



「び、ビースティアの戦士の皆さま~!」

 神竜樹の根元、螺旋階段吊り橋の入り口前の広場。ピレーネは、セクシーな踊り子衣装を着て、広場で大きな声で叫んだ。


「お? なんだ? ピレーネじゃないか」

「ニンゲンの娘に巫女を代わってもらったって聞いたぞ! どうしたんだ?」

 見張り役のニシキヘビとアライグマの獣人がピレーネの方を見る。


「そっ、その……! 私も役目を代わっていただきましたが、皆さまには明日、絶対に儀式で成功していただきたく……! 不肖ながら、私のダンスで皆さまに今夜はハッスルしていただいて、朝に儀式での成功につなげて頂きたく存じます! では―――!」

 ピレーネは、フリフリと腰を振り、妖艶なダンスを踊り始めた!


「おっ、いいぞいいぞ~!」

「こりゃ明日は捗ること間違いねえな!ムフゥ~たぎってきたぜぇぇ!」

 たまたま見ていた観衆の男が、興奮して声を上げる。その声を聴いて、獣人族(ビースティア)の戦士たちが、螺旋階段吊り橋を降りて続々と広場に集まってきた。




(あわわわ~……恥ずかしい、恥ずかしいですけど……今のうちです! 皆さん!)



(ありがとう、ピレーネさん!)

 ユウキたちは、陰からぐっと親指を立ててサインすると、息を吸って螺旋階段の入り口に向き直った!





ユウキ▼SP:20を使用して、『エアクリア』を取得しました!


「エアクリアー!」


 ユウキが、『透明化』の魔法を唱えると、ユウキたち4人の姿が闇夜に紛れるように透明になった!





(これなら、あいつらにバレずに祠までたどり着けそうね)

 小声でヒメコが言った。


(油断したらいけないわ、とにかく明け方になるまでに急ぎましょう)

(おーけ―、善は急げ! だネ!)

(待ってて、アマネちゃん!)

 ユウキたちは、足音を立てないように忍び足で螺旋階段吊り橋を登り始めるのであった―――。



~その3へ続く!~

 






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