第七話「獣人族の聖地!神竜樹と神竜の巫女!」その1
【注意】
前回の話と続き物になっているので、前回の話をご視聴の上ご覧ください。
また、暴言や性的な表現を含む内容がありますのでご注意ください。
~あらすじ~
魔王チーマを倒すため、伝説の武具と伝説のアイテムを探し旅を続ける勇者ユウキたち一行。南のオーマ大陸と北のグランド大陸の繋ぐ水の都「アルフルート」を訪れたユウキたちは、その街で一番の大金持ちであり商人連合の盟主ホミナから、魔物に攫われた母親を助けてほしいと依頼され、道中突然現れた伝説の喋る聖なる盾「シブト」の助けもあり、無事にホミナの母を攫ったゴブリン集団のボス「チャンプルー」を撃破する。そして、一行は次の目的地を決めようと考えていた―――。
「それで……これから、勇者様たちはどうするだ?」
聖盾シブトを手に入れたユウキたち一行は、水の都アルフルートの大商人、ホミナに尋ねられた。
「そうだなぁ……魔王チーマが言うには、僕たちはこれから魔王の城に行くためには、さっき手に入れた『太陽の鏡』の他に、神竜樹にあるといわれる『雨のハープ』、そして西の大国ラドルームにあるという『純愛のルージュ』が必要らしいんだ」
ユウキが言った。
「それと、伝説の鎧と兜、剣も必要らしいわ!」
とアマネも言った。
「ホミナ様、なにか……その伝説のアイテムと武具に関して、知りえる情報はありませんか?」
アイルが尋ねた。
ホミナは、う~んと顎に手を当てて言った。
「そうだべなぁ……勇者様たちが大鷲の塔に行っている間に、情報はなるべく集めてみただけど……確証になるほどの情報は得られなかったべ。でも、教えられることであればお教えするだよ」
ホミナは、大きな羊皮紙に書かれた世界地図を机に広げた。
「まず、ここがおらたちのいる『アルフルート』だべ。そして、神竜樹に関しては、ここからグランド大陸に渡って北上し、まっすぐ北の山脈を進んでいけば雲を超えるような大きな木、つまり『神竜樹』があるのはわかっているべ。そして、その途中にある街道を西に進んでいくと、砂漠の国『シャムラン』があるべ。この国の王家の墓、ピラミッドに伝説の何かがあるという噂があるべ。もしかしたら、伝説の武具かもしれないべ。そして、シャムラン砂漠をさらに超えて西に、西の大国『ラドルーム』があるんだべ。おらが教えられるのは、それくらいの情報だべ」
ホミナは、地図にペンで印をつけながら、順番に説明した。
「へぇ……神竜樹、それに砂漠の国かぁ。ありがとうホミナちゃん! 参考になったよ!」
ユウキが言った。
「だいぼうけんってカンジで、ちょっとワクワクするわね!」
「でもアマネちゃん……神竜樹がある山脈は、ちょっと今までの比じゃないくらい苦しい道のりになるわよ?」
アイルが言った。
「そーそー。ボクたち3人は、そんなめんどくさい山奥行きたくないからって普通にスルーしちゃったもんね!」
「山奥なんて店もないし、あそこは狂暴で野蛮な『ビースティア』たちのナワバリなのよ。誰が好きで行きたいなんて思うのよ……」
ミクルとヒメコが言った。
「ひーちゃん、ビースティアって?」
アマネが聞いた。
「あ? ……まぁそうね、あーちゃんは知らなくて当然だったわね。簡単に言うと……『獣人族』よ」
ヒメコは、真面目な表情で言った。
「全身が毛皮に覆われていて、頭が犬やトラなど、動物の姿をしていて、身体は人間と同じ。でも、その身体能力は動物と同じくらいパワフルで、今日戦ったゴゴゴリラなんかも簡単に倒してしまう力があると言われているわ」
とアイルが説明した。
「おお~! あたし、動物はすきよ! カワイイ獣人さんだったら、なかよくなれるかな? モフモフさせてくれるかな?」
「そういえば、アマネちゃんはペットを飼っていたんだもんね」
と、無邪気にアマネとユウキが言っていると、
「……そんな甘いモンじゃないわよ」
ヒメコが、はぁ、とため息をついた。
「え? どういうコト!?」
アマネが聞くと、ヒメコは言った。
「この世界ではね……100年以上前に、『ビースティア』と『人間族』との間で戦争があったの。結果は人間族が火薬兵器と魔法の力で圧勝。多くの獣人族は殺されたり捕らえられて奴隷にさせられたりしたの。最近は奴隷禁止法や獣人差別解消法などが世界的に普及し始めて、友好的な関係を築ける獣人族も少しは出てきたけど……ビースティアの多くは、人間のことをよく思ってない人が多いのよ」
「そ、そんな……」
「戦争だなんて……そんなのひどいわ!」
「でも、神竜樹はビースティアにとっての宗教的な聖地とも言われているわ。 神竜樹にある『雨のハープ』を取りに行くのなら……ビースティアとの接触はどうしても避けられないわ」
アイルが言った。
「その通りだべ……勇者様。お力になれねえのは悔しいけんど……なるべくおらの知り合いの商人たちにも、勇者様たちを応援してくれるように頼んでみるだ。他にも何かわかったら、手紙で知らせるだよ!」
ホミナは、笑顔で言った。
「ああ、わかったよホミナちゃん。教えてくれてありがとう」
と、ユウキが言うと、
「ああ、それと……これ、少ないけんど今回の件の報酬だべ。おらのおっ母を助けてくれてありがとうだ!」
と、大きな宝箱を差し出した。
「これって……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……まさか、4万Jもくれるなんて、ホミナちゃん太っ腹ね~!」
アマネは、うきうきで新しい装備を身に着けた。
アマネ▼防具装備「銀のティアラ」「魔導士の手袋」「みかわしのワンピース」「魔導士のブーツ」を装備した!
アマネ▼手持ち装備「ブルーオーブロッド」を装備した!
大金をもらったユウキたちは、アルフルートの街で装備品を整えた。
「ユウキ君、それ似合ってるわね」
「へへっ……昔の僕だったら、こんな重たい鎧や兜なんて、装備できなかったと思うから、僕も成長したってことかな?」
ユウキ▼防具装備「鉄製の兜」「鉄製の手甲」「鉄製のヨロイ」「鉄製のブーツ」を装備した!
ユウキ▼手持ち装備「戦士のソード」「聖盾シブト」を装備した!
『おいらのことも、よろしく頼むべさ!』
喋る聖盾、シブトが喋った。
「ああ、シブト! お前のことも、頼りにしてるからね!」
「いいな~ユウキ。あたしにも後で装備させてよね?」
「……お待たせ」
すると、ヒメコがやってきた。
「おおっ!?」
「……なによ、ユウキ。私のファッションセンスに、何か問題でもあるっての?」
ヒメコ▼防具装備「ヒメコのカチューシャ」「魔法使いのコート」「あみタイツ」「魔法使いのブーツ」を装備した!
ヒメコ▼手持ち装備「ドラゴンロッド」を装備した!
「いや……むしろ、可愛いなぁって! びっくりしちゃった!」
と、ユウキが褒めると、ヒメコは数秒黙った後、
「……スケベ。死ね」
「褒めただけで死ねって言われた!?」
「アンタのようなケダモノ男の視線は全部わかってるのよ。燃やすわ」
「べっべべ別に変なとこなんて全っっっ然みてないです~!!! (たしかにおっぱいを強調する服だなぁとは思ったけど! スカート可愛いと思ったけど~!)」
ユウキが必死になって弁明しようとしていると、
「へんたーい」
とアマネにもからかわれてしまった。
「そんなに男にみられるのが嫌なら、もっと身体を強調しない服を着ればいいのにネ」
と、ミクルが言うと、
「はぁ? あんたは男だからわからないのよ。胸が大きい女はね……胸が目立たない服を着ると、デブに見えるのよ! あと、そういう服ってたいたい可愛くないし! 可愛くない服なんてありえない!」
「へぇ~? 刹鬼の時代に着てたシャーマンの服は、だいぶダサかったと思うんだけど……」
「あれは! 森で生活してるとカワイイ服はすぐ枝に引っかかってダメになるから着れなかっただけよ! 適当にその辺の旅人からぶんどったローブと、呪術繊維で作ったスーツが最終的に耐久力が高かっただけで……別に好き好んで着てたわけじゃ……!」
(つまり、その服を手に入れる前はボロボロの服、もしくは全裸で生活していた可能性があるのかしら)
とアイルは一瞬考えたが、口に出すと殺される気がしたので言わなかった。
「アイルお姉ちゃんとミクル君は、結局服は買わないの?」
アマネが二人に尋ねた。
「そうね……下着の替えくらいは買ったけど、それ以外はいつものやつで大丈夫よ」
「ボクはそもそも、変身を解くつもりもないからネ!可愛いのが一番ってワケさ!」
「じゃあ……行きますか! 僕たちのまだ見ぬ大地、グランド大陸! 次の目的地は……北の『神竜樹』だ!」
ユウキは、高らかに右手を上げた!
「おーっ!!!」
「って、ボクたち3人はもうすでに行ったことあるんだけどね……」
こうして、ユウキたち5人は、アルフルートの北にある『水中トンネル』を通って、北のグランド大陸へと渡るのであった―――。
――――――――――
そして、4日後。
「いや~……それにしても、水中トンネルってとっても長かったね!」
「まさか、丸二日もずっとトンネルの中だとは思わなかったよ……一昨日やっと地上に出れた時は、気分がとっても晴れたようだったよ!」
ユウキたちは、水中トンネルの冒険を思い出していた。
「でも、あんなトンネルの中にもちゃんと空気が通ってたり、休憩所やお店もちゃんとあって、さらにガラスで太陽の光や海の中が見れる場所もあって面白かったよネ~! この世界の建築技術も捨てたもんじゃないネ!」
ミクルが言った。
「空気の問題は『ウインド』の魔法石でダクトから常に新鮮な空気を送っているらしいわね。それに、ガラスは逆にこの世界では『錬金術』がの技術が発展してるから、現実世界の水族館で使われているアクリル樹脂のガラスよりも物質的には上位なものが作れてるって、ケイロ神様が以前教えてくれたわ」
とアイルが説明する。
「へ~……勉強になるなぁ」
「む~、むずかしい話ぜんぜんわかんない~! でもお魚はちょ~キレイだった!」
「うふふ、少しずつ勉強していけばいいのよ。ちなみに、本来元の世界の中学校や高校などで習うべき勉強は、時々神様が情報をアタシたちの脳にデータを送ってくださるわ。質問だったりこんな勉強がしたい! っていうときは、神様にお願いしてみるといいかもしれないわね」
と、アイルが言うと、
『はい! お姉ちゃんにお任せください! 国語に数学、なんでも手取り足取り完全にわかるまで教えてあげますよ!ハァハァ』
女神ゼウが脳内に語り掛けてきた。
「うう……よくわからないけど、この人に保健体育だけは絶対に教わってはいけない気がする……」
すると、アマネが口を開いた。
「ねえねえゼウ様! 赤ちゃんって、どうやったらできま」
「わー!!! わー!!!! ダメダメダメアマネちゃん~!!!!」
「なによ! ベンキョウ大キライなあたしがめずらしくベンキョウしようと思ったのに!」
「ここで聞くのはなんかちょっと……気が引ける!」
「なんでよ!?」
『うふふ……いいわねぇ、中学生がえっちなことを意識し始める年頃のウブさ……雑炊6杯いけるわ……アマネちゃん、それについては夜になってからこっそり2人で教えてあげるわ。あとでユウキ君にも教えてあげてね♡』
「アマネちゃんづてに喋らせようとさせないでください女神様!?」
「………」
アイルは、じっくりねっとりケイロ神から保健体育の授業を受けたことを思い出し、目が死んでいた。
「そういえば、ボクの神様も最近喋ったことないなぁ。なにしてるんだろ?」
ミクルが言った。
「ミクル君の神様は……確か、メテル神さまだったかしら?」
アイルが聞いた。
「うん……アイルセンパイのケイロ神さまの弟さん、だったかな? なんだか、気まぐれな人で……アドバイスしてくれる時なんて、最初の1年は熱心だったけど、今ではほんとにたまにしかないし。ゼウ様、何か知らない?」
『え? メテル兄さまですか? そうですねぇ……あの人は私たちの兄弟の中でもかなり職務怠慢がヒドイ人ですから……天界の海で釣りでもしてるんじゃないでしょうか?』
「ゼウ様よりも職務怠慢がヒドイ人いたんだ……」
思わずユウキも呆れた。
「そういえば、私の神様も数年連絡を取ってないわね」
ヒメコが言った。
すると、女神ゼウが言った。
『ああ、ヒメコちゃんの担当は『セポイ』姉さんですね……セポイ姉さん……気の毒なことに担当にした貴方がゴブリンに襲われる悲惨な目に遭ってから、責任を感じすぎて鬱病になってしまいまして……最近は部屋に引きこもってずっと布団にくるまってガタガタ震えてるだけなんですよ……』
「神様でも鬱病ってなるんだね……」
溜息を吐く女神ゼウに、ユウキが言った。
「はぁ……あいつのほうから呼んだくせに……もうアレに関しては気にしてないわ。パドラーの奴はぶっ殺したし。あんまり気にせずに普通にしてなさいって言っておいてよね」
『ホ……ホント……?』
すると、全員の脳内に聞き慣れない声がした。
「うわっ!? ……セポイ!? 久しぶりにその声聞いたわ!」
ヒメコが言った。
『ごめんね、ごめんねヒメコちゃん……アタイがダメ神だから……全然助けてあげられなくて……あんな、ひぐっ……ひどい目にあわせちゃって……ふえぇ~ん……』
女神セポイは、ものすごい涙声でヒメコに謝った。
「まったく……てか、ほんとになんで助けてくれなかったのよ!? 犯されついでに殺されてたかもしれないのよ!?」
『だって……条件で、決められてるから……ぐすっ』
『我々、神々は冒険の手助けならできますが……『魔王軍や魔物との戦いで、たとえ勇者が死んだとしても戦闘の手助けはしてはならない』というある方からの決まりがあるのです。本当に心苦しいですが、私たちはいざという時に貴方たちを助けることはできません。本当にごめんなさい』
女神ゼウが言った。
「ある方からの、決まりですって?」
『あっ……こほん。これも詳しく言ってはいけない決まりなんですよ。ごめんなさいね』
『……ゼウちゃん、うっかり喋りすぎちゃダメだよ~。アレが成立しなくなっちゃうからね』
『ええわかってますよセポイ姉さま!大丈夫ですようっかり口を滑らせたりなんてもう絶対にしませんから!』
なにやら怪しげな会話を女神二人でやっているが、たぶん聞いてはいけないのだろう……と5人は空気を読むことにした。
そんなこんなで、アルフルートの水中トンネルから地上に出たユウキたちは、しばらく自然豊かな街道をのんびり会話しながら歩いていた。
すると、
ピピッ!
「!」
ユウキは、前を振り返った。
「何か来ます! 皆さん!」
ユウキのスキル『瞬間複数識別』『空間把握』で何かを感じ取った!
「あれは……誰かが追われている!?」
ユウキが街道の先をよくよく凝視すると、何者かが砂煙をあげながら、走っている姿が見えた。
「た、助けてください~!!!」
「あれは……獣人族!?」
一番先頭を走っているのは、煌びやかな踊り子風の衣装を着た、白い犬の獣人の女性だ。
それを追うように、黒い犬や黒豹、ワニの獣人たちが走りながら、背中に大きな羽を生やした鷲の獣人が空からも女性を追いかけている。
「助けよう!」
ユウキは、ためらうことなく駆けだした!
「待って、ユーキ君! 状況も確認しないで……」
「あたしも助けるわ! あの子……怯えてるもの!」
アマネも駆けだした!
「待ちさないあーちゃん! ……ああんもう!」
「仕方ないわね……ヒメコちゃん、アタシたちが行くから、馬車をお願い!」
アイルがそう言うと、ミクルと一緒に駆けだした!
「こら! 男ども~! ……ちっ、仕方ないわね……」
「こっちだ!」
「!」
ユウキが逃げる女性に向かって叫ぶと、女性は慌ててユウキの後ろに隠れた。
「大丈夫ですか?」
「ハァ……ハァ……い、嫌……怖い……助けて……」
ユウキの肩を掴む犬獣人の女性の手は、ぶるぶると震えていた。
「あれは、ニンゲン族!?」
「止まれ! ……なんのつもりだ、ニンゲン!?」
獣人の男たちは、槍や斧を構えてジロリとユウキたちを睨みつけた。
「この人……怯えているじゃないか! 一体、何をしたんだ!?」
「女性一人に男が寄ってたかって追いかけて……最低よ、貴方たち!」
ユウキとアイルが叫んだ。
「黙れ! ニンゲン風情が! その女は、神聖な儀式の最中に逃げだしたんだ!」
「神竜の巫女に選ばれた女が、その使命を投げ出すなど許されない! その女を渡せ!」
獣人たちは、槍を向けてユウキたちを威嚇している。
「……お姉さん、大丈夫です。一旦、どこかへ逃げましょう」
「うう……ううう……」
ユウキが安心させるように、女性の背中を優しくさすった。
すると、獣人たちのリーダーの黒い犬獣人がニヤリと笑った。
「……動くな! 俺たちには見えているぞ……! あれはお前らの仲間の馬車だな!」
「!」
ヒメコは、後ろの街路樹の近くに、馬車を隠したようだが―――上空の鷲の獣人たち6人が、空中で弓を構えていた。
「あいつら……僕たちの馬車とヒメコを狙っているのか!?」
弓矢の狙いは、変身していないヒメコと、無防備な馬のミートパティ君に定められていた。
「お前たちの仲間や馬、殺されたくはないだろう? わかったらその女を渡せ! 女さえ渡せば、ここを通るのは見逃してやる!」
獣人たちのリーダーの黒い犬獣人が、ニヤリと笑う。
「あわわわ……ヒメコ!」
「動くな!」
助けに行こうとしたミクルを、鷲の獣人が弓を構えて制止する。
「ミートパティ君だって、僕たちの大切な仲間だ……ど、どうすればいいんだ……」
「ひぃっ……」
犬獣人の女性は、怯えた表情でユウキたちを見た。
「……『神竜の巫女』の、代わりになる人がいればいいのよね?」
アマネが言った。
「え?」
「貴方をあんな人たちに渡したりなんてしないわ。ねえ! あたしが『神竜の巫女』になるわ! だから、この人を見逃してちょうだい!」
アマネは、一歩前に出ると、獣人たちに向かって言った。
「ほう……? お前は……」
意外にも、獣人のリーダーは興味を持ったようだ。
「おい、人間の小娘。名前はなんという?」
「アマネよ!」
「そうか、アマネか……神竜の巫女には、毛並みが珍しければ珍しいほど神に通ずる適性があると聞く。白い毛並みであの年ごろの女は、あいつしかいなかったが……ニンゲン族、しかもあの女と同じ年齢だな。匂いも悪くない」
黒い犬獣人の男は、にやりと笑った。
「アマネちゃん!?」
ユウキは、思わず驚いた。
「大丈夫よ! ちょちょっと儀式やったらすぐ戻ってくるから! それに、危なくなってもあたしだって変身しなくてもそこそこ魔法だって使えるようになったのよ?」
「でっ、でも!」
「おい、連れていけ」
黒い犬獣人の男が指示を出すと、鷲の獣人が、アマネの腕を掴む。
「その女性のこと、たのむわね! ちゃんと安全なところまで連れて行ってあげてね~!」
アマネがそう叫ぶと、鷲の獣人が飛びあがって空に舞い、遠くのほうへとアマネを連れ去った!
「あっ、ああ!」
「ありがとうよ、ニンゲン。こりゃ今年の儀式は本当に成功するかもな。もうその女は好きにしていいが、くれぐれも神竜樹に近づくんじゃねえぞ! わかったら失せな!」
そう言い残すと、黒い犬獣人とその部下の獣人たちは、すさまじい勢いで走って去ってしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アマネが連れ去られるのを、黙ってみていたユウキ、アイル、ミクルの3人は、何を言うこともできぬまま、沈黙していた。
「ちょっと、どういうこと!? あーちゃんが連れていかれるのが見えたわよ! 何があったのよ!?」
ヒメコが馬車を連れて駆け寄ってきた。
「……ああ、あああのっ、ああ……」
白い犬獣人の女性は、へなへなとその場に倒れ込んでしまった。
「あの、大丈夫ですか……?」
ユウキが聞くと、女性は口を開いた。
「ああ、なんてこと……私の身代わりに、あの子が……」
「大丈夫です。いざとなれば自分で逃げだせるやつですから」
ユウキがそう言ったが、女性は震えながら語った。
「違うんです……! 神竜の巫女の儀式というのは……! 私たちの住むビスタの里で一番毛並みが珍しい13歳の女性が、聖なる祠の台座に体を縛り、里にいるビースティアの戦士たち全員とまぐわうことで、世界に平和をもたらす神の竜の卵を授かるという伝承に基づいた儀式なのです……! 私は、巫女に選ばれましたが、儀式の直前に怖くて逃げだして……ああ!」
「え……つまり、その身代わりになるということは……」
事態はかなりマズイ、ということが4人に伝わった。
すると、聖盾シブトが、
『だったら……おいらが先に行って、アマネを護るだべさ! おいらの速さなら、まだ追いつくだべ!』
「おお、そういえばキミ飛べるんだったね!?」
ミクルが驚く。
「頼めるか? シブト……アマネちゃんを護れるのは、お前しかいない!」
『任せるべさ! アマネには、指一本触れさせないべさ~!』
聖盾シブトは、ユウキの手から離れキーンと風を切ってアマネの飛んで行った方角へと向かって行った。
「……すいません、こうなってしまったのも私の責任です。このまま、助けてもらいっぱなしでは私も申し訳ないです。どうか、恩を返すチャンスを与えてくださいませんか」
白い犬獣人の女性は、涙を拭いて立ち上がった。
「私の名前は、ピレーネです。どうか、アマネさんを助ける手助けをさせてください」
「ピレーネさん……いいんですか?」
「大丈夫です。それに、ビスタの里には、足の悪い私の母がおります……里を追われてもビースティアの私には行くところもありません。里に帰る途中にでしたら、人通りの少ないところもわかります。少しはお役に立てるかと……」
「心苦しいけど、アマネちゃんと取り返すにはピレーネさんの協力を得るしかなさそうね……」
「それに、雨のハープも取りに行かなくちゃだし!」
「早く行かなきゃマズイってことでしょ? はぁ~……ほら、全員早く馬車乗って! ミートパティ、全力で飛ばしていくわよ!」
ヒメコが馬車の前部に乗り込み、残った4人は急いで荷台に乗り込んだ。
「ひひ~ん!」
「ハイヨ~!!!」
ヒメコがムチを入れると、ミートパティも最愛の主人を助けるために、勇ましく全力スピードで駆けだすのであった――――。
続く
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。続編は月末の前後に投稿予定です。
感想や評価など頂けると大変幸いでございます。
お久しぶりです。前回から丸一か月空いてしまい大変申し訳ありませんでした。
小説執筆の活動は、Vtuber活動や動画編集などの作業と重なってしまい、あまり頻度を上げて投稿できないことを大変申し訳なく思っています。投稿頻度は遅くなりますが、必ずこの物語は完結させてようと思ってますので、コメントなどで応援頂けると大変うれしいです。