第六話「母と娘!大鷲の塔と太陽の鏡!」前編
【注意】
前回の話と続き物になっているので、前回の話をご視聴の上ご覧ください。
なお、以前は「やり直せ冒険!大鷲の塔と太陽の鏡!」の4編構成の中編として本話を公開しましたが、読みやすくするためサブタイトルを変更しこちらが「母と娘!大鷲の塔と太陽の鏡!」の前編としての扱いになりました。ご了承ください。
また、今回の第五話は「前中後編」構成に。こちらは前編です。こちらの前の話に当たる5.5話を読んでからこちらをご覧ください。
~あらすじ~
魔法少女の新たなる仲間「ヒメコ・ペガサス」こと「竜ヶ崎 姫子」を仲間にしたユウキたち一行。早速魔王城に向かい魔王を討伐しに向かおうと、魔王城に最も近い街「ラブゼバブ」の街までビューンの呪文で戻るが、魔王チーマは自ら大地震を起こし、魔王城への道を地割れで封鎖してしまった。チーマは、勇者たちに「再び魔王城にたどり着いて自分を倒すためには、全世界を冒険し、3つのアイテムと4つの伝説の武具を集めなければならない」と告げる。またそれを探しに行くのを拒否するなら世界各地で大地震を起こすと勇者たちを脅し、ユウキたちはしぶしぶ徒歩(と馬車)で冒険に旅立つのであった―――。
「ぜぇ……はぁ……」
魔王チーマが起こした大地震により、魔王城への道を遠回りせざるを得なくなった勇者ユウキたち一行。
5人とも、死んだ魚のような目をしながら、とぼとぼ馬車をひきながら歩いていた。
「ああああもう無理!!! アタマかゆい!!! どーしてお風呂のない生活に逆戻りなのよぉぉぉ!!!」
ヒメコが、髪をボサボサかき乱しながら叫ぶ。
「仕方ないわよ……あの地震であの家も壊れて、街中の水道も壊れちゃったんだから……」
アイルも、元気がなさそうにため息をつく。
「そもそも、私たちは以前メイデン・ワンダーランドの全土を旅したのよ!? なんで……なんでビューンが使えなくて徒歩でまた旅をしないといけないのよォォォォ!!!」
なぜ瞬間移動の呪文『ビューン』が使える彼女たちが、わざわざ徒歩で果てのない街道を歩き続けることになったのか。ことの始まりは、一週間前にさかのぼる―――。
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~1週間前~
「てかさ、一応ボクたち、メイデン・ワンダーランドは全部の街を旅してたんだよね。てことは、どこに行くにしてもビューンで飛べるんじゃないの?」
ラブゼバブの街を旅立つことになり、荷物をまとめていると、ミクルが言った。
「それ。私も思ったわ」
ヒメコが言った。
「そっか、皆普通は最初の街から冒険をスタートするんだよな……」
「あたしたちだけ、魔王城にいきなり飛ばされちゃったのよね~」
ユウキとアマネは苦笑いで言った。
「でもでも! ということは、ビューンでどこにいくのもひとっとび! 何日も歩かなくても、どこにでもいけるってことよね!?」
「ええ。そうよ。なんなら日中冒険して、日が落ちたらこっちの街に帰る日帰り冒険もできるかもしれないわね」
「日帰り冒険! この家ならお風呂もお部屋もあるし、安心して帰れる家があるって幸せね!」
「いや、まあさっきの地震で水道は壊れちゃったけど……」
「……まずは、始まりの街でもあり、メイデン・ワンダーランドで一番の大国『ラドルーム』に行くのがいいと思うわ。大きな街なら、情報も集まるでしょうし。皆、準備ができてるならさっそく(呪文を)使うけど、いいかしら?」
アイルが言うと、全員がうなづいた。
「じゃあ行くわよ! ……ビューン!」
▼アイルは、ビューンの呪文を唱えた!
……し~ん。
「……あれ? この間みたいに飛ばないぞ?」
「ちょっと、どうなってんのよ! 早くしなさいよ!」
「ま、待って頂戴! あ、アタシにもどうなっているのか……た、確かにラドルームの城下町をイメージしたのに……」
アイルが、もう一度街をイメージして呪文を唱える!……しかし、何も起こらない。
「な……なんでよ!?」
アイルは思わず地団太を踏んだ。すると突然、
『は~っはっはっは! アイル君! ここで神様からの優しい忠告だ!』
突然、全員の脳内にアイルの主神「ケイロ神」が話しかけてきた。
「うおっ!? びっくりした!?」
「アイルセンパイの神様!?」
「け……ケイロ神さま! 一体どういうことです!? なぜアタシたちは、ビューンで飛べないんです!?」
と、アイルが問いかけると、
『いやいや、お前ラドルームに行ってから何年経ったと思ってるの? 俺たち神はまあ何千年何万年だろうと記憶力持つけど……人間の記憶力じゃ1年が限界でしょ? あと未来予知も使えないし。ほら、アイルが旅立ったころに剣を買った道具屋、あそこもう潰れておっパブになってんだよね』
とケイロ神は答えた。
「……は?」
アイルが呆然としている。
『まあ、なんだ……つまりは……『鮮明に現在の街のイメージができていないと、飛べない』っていう制約があるんだよね、ビューンの呪文は。まあ一年以内は多少違ってても誤差で飛べるみたいだけど、だいたいアイルがラブゼバブの街を気に入って住むようになってから3年くらいたってるだろ? つまりは、キミが最近行ったアイドラウム以外には、ビューン使えないと思うよ?』
「あ……」
顔面蒼白になるアイル。
「あ……」←アイドラウム王国で2年近くアイドルやってた人
「……え」←4年くらい森の中で引きこもって呪術師やってた人
「…………」
「……つまり、3人のビューンには、ゼンッッゼンたよれないってことなのね?」
『そういうことになるんだなぁ。はっはっは、まあこれも青春青春! 歩いて流せ、汗と涙! 太陽のメモリーと筋肉は、決して裏切らないということさ! 頑張りたまえ、少年少女たちよ! はーっはっはっは!』
そういうと、ケイロ神からの通信が途絶えた。
「…………」
「………」
「……………」
全員がしばらく沈黙した後、アイルが口を開いた。
「……行きましょうか、皆」
「……うん、そーだね」
「アイドラウムまでは一応行けるみたいだけど……行っときます?」
「ええ、頼むわ。アマネちゃん」
「はーい! まかせて! ……ビューン!」
5人はこうして、アイドラウム王国からの徒歩の旅を始めるのであった。
※ちなみにアマネちゃんは、今までの冒険の途中で少しだけSPが余ったので「ビューン」と「トコトコ」は取得しています。
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そして、現在。
「アイドラウム城は、城壁の一部が壊れただけで大した被害はなかった。そして安心して旅立ったボクたちを待っていたのは……長い長い終わりのない旅。朝日が昇ってから、日が昇るまで、ひたすら馬車で揺れらたり歩いたりする一日を、ここ一週間ず~~っと繰り返しているってワケなのさ……」
ミクルが歩きながらため息をつく。
「長い……長いわね」
ヒメコたちは、終わりの見えない大きな川沿いの道路を、ひたすら歩いていた。
「あたし、もう足が痛いわ……」
「僕も……疲れ、た……」
「しっかりしなさい……ふう。早くいかないと……ミートパティ君のご飯が、もう半日分しか残ってないんだから……」
「ひひ~ん……」
馬車を引っ張るパーティのマスコット的愛馬のミートパティは、何日も休みなしで馬車を引っ張るお仕事ですっかり疲れ切っていた。食事もあまり満腹になるまで食べさせてもらえず、日に日に鳴き声が弱弱しくなっているので、さすがに可哀想になってきた5人も歩いているのだ。
「ごめんね~、ミートパティ……もう少しで着くから……」
「というか! だいたい『アルフルート』の街まで、この街道をいけば5日で着くって話じゃなかったのかい!? もう2日もオーバーしているじゃないか! 途中に村の一つもないし!」
ミクルが文句を言う。
「しょうがないじゃない……ほら、東にジャングルが見えるでしょ?あそこら辺には、腕力だけは魔法少女に匹敵するといわれる『ゴゴゴリラ』の群れや、ゴゴゴリラよりも強くて怖い、近隣の男を攫うアマゾネスの国『アマンゾーラ』があるから、迂闊に人々が集落を作れないのよ」
アイルが言った。
「お、男攫い……?」
「魔法少女に匹敵するパワーのゴリラなんて……ちょっと、こわいわね」
ユウキとアマネは、ぞっとした。
「ま、私は男がどうなろうと知ったことではないけど……この子がお腹を空かせているのは、ちょっとかわいそうよね」
ヒメコは、優しくミートパティの頭をなでる。
「ヒメコ~、その子『オス』だよ?」
ミクルがからかって言った。
「ひっ……!?」
ヒメコは、慌ててミートパティから手を離した。
「あれれ~ヒメコ~? 馬でもオスが怖いんだ~?」
「かっ……からかうんじゃないわよ! 大体、ウマのアレって結構大き……いや、なんでもないわ」
「……?」
「……おい! 皆! あっちを見てくれ!」
ユウキが指をさした先を、全員が見る。
「まあ! 街だわ!」
「ほんとだ! ……それに、なんだか大きい街~!」
金色の格子に囲まれた巨大な四角形の街。それが、ユウキたちの近くにを流れる川の先にある、海の中央に浮島のように広がっていた。
「ここ、『アルフルートの街』は、別名『水の都』と言われているの。魔王城がある南の『オーマ大陸』と、ラドルームのある北の大陸『グランド大陸』を渡るには、この街の北にある、水中の地下トンネルの水門を通らないといけないのよ」
横幅60m、全長200mの石橋を歩きながら、アイルが説明する。街の南の門までは、この『ルルーの大橋』から入ることができるが、アルフルートの街から北のグランド大陸に行くためには、60㎞の長さの水中トンネルを歩いていかなければならないという。
「それにしても……すごい人ね!」
アマネが周りをきょろきょろ見渡すと、ルルーの大橋の上では多くの商人や買い物客らが行き来している。露天商もかなりの数がありとても賑わっているようだ。
「ええ。ここは北の大陸と南の大陸の流通品が唯一交わる場所。北からも南からも、多くの商人が集まってくるのよ。それに、街中もとっても綺麗で、観光名所としても有名なの。……ほら」
そして、橋を渡り切り、大きな門からアルフルートの街に入る。
「わぁ……!」
街の中は、白い石畳の道路の脇に、透き通るような水が流れる小さな川がキラキラと輝いていた。その近くの小さな公園には、水を吐き出す壺を持った女神像の彫刻や、噴水が設置されている。それだけでなく、青々とした緑の街路樹も多く植えられており、小鳥がバードバスで気持ちよさそうに水を飲んでいる。水と緑と人工物が、ほどよく調和された見事な風景はまさしく『水の都』というのにふさわしい、美しい街並みだった。
「キレイね~!」
「わあ……すごい!」
「ふふっ、こんなにきれいな街は、確かに日本にもないわよね」
「ねえねえ! ボク、ここでライブやっていい!? 観てくれる人観客のみんなもいっぱいいそうだし!」
「……ふざけないでちょうだい。なにが楽しくてこんな人が多いところでさらに人を集めないといけないのよ……うう、すでに頭が痛いし、人酔いが……」
ヒメコは、ちょっと気持ち悪そうに口を押さえた。
「大丈夫ですか!? ヒメコさん」
「まあ、そうね……ひとまず、目的を果たしましょう。まず『ミヤオ様』に会いに行くわよ」
アイルが言った。
「ミヤオ様?」
ユウキが言った。
「ええ。この街で一番の大商人にして、商人連合の盟主さま。一代でこの街の売り上げをたたき出して商人たちのリーダーになって、前の盟主様から連合のリーダーの座を譲り受けた、まさに『風雲児』という感じの実力者よ。……南から水門を通るには、彼の許可が必要なのだけれど……それ以上に、彼は商売人で一番の地獄耳で、世の中の色んな財宝のありかを知っているらしいの。だから、この間魔王が言っていたアイテムのいくつかも、知っているかもしれないし、もしくは持っているかもしれない」
「そっか、なるほど!」
アイルの説明に、ユウキは納得した。
「えー、でもあのおじさん、前はボクのスカートの中のぞこうとチラチラみてたりスケベで嫌な人だったんだけどね~……」
「ええ、私もその視線は感じてたわ……嫁も娘もいるくせに。これだから男に会うのは嫌なのよ……」
ミクルとヒメコはちょっと嫌そうだ。
「でも、あの方は魔王討伐のために、勇者への協力を惜しまないことで有名な人よ。ちょっと嫌かもしれないけど、少し我慢して頂戴」
「はーい」
「ちっ……しょうがないわね」
アイルに諭され、ミクルとヒメコはしぶしぶ承諾した。
「だ、大丈夫かな……?」
「だいじょーぶよ! とにかくアイテム、手に入れなくちゃよ! ユウキ!」
不安そうなユウキの背中をアマネが笑顔でバンっと叩いて見せた。
「僕は、アマネちゃんのことを心配してるんだけどな……」
とにかく5人は、街の中央にあるというミヤオの屋敷を目指すのであった――。
「おおーっ!」
ミヤオの屋敷は、大きな丘の上に建っていた。大きな門の前に、大きな長い階段。階段の横には、大きな川が滝のように流れており、その長い階段の上には、水の都の主ということを示さんばかりの、広大で豪華絢爛な大きなお屋敷が建っていた。
「すごい……! ものすごい、豪華だ……!」
「あたしも、こんなところ住みたい~~!」
ユウキとアマネが目を輝かせる。
「ふふっ……あとでじっくり見学させてもらえばいいわ。……すみませーん」
アイルが、階段の前の門番に話しかける。、
「おお! 貴方たちは! 勇者様御一行ではありませんか?」
すると、門番の男はアイルたちを見て言った。
「あら? アタシたちを知っているの?」
「はい! 先日、アイドラウム王国の王女様から、勇者様一行が近々アルフルートにいらっしゃるとの知らせがあり……盟主様の部下より、街に到着したとの報せがございましたので。ささっ、盟主様がお待ちです。どうぞお入りください」
門番の男は、金の鉄柵の門を開き、中に招き入れてくれた。
「まさか、あたしたちのことを知ってるなんて……」
「ミノ子は、盟主様とも知り合いだったのか~。知らなかったよ」
「……盟主様が、待ってるって言ってたけど……? どういうことなんだろう?」
ユウキがあごに手を当てて考えてみるが、全く心当たりがない。
「さあ……とりあえず、この屋敷の人に聞いてみるしかないでしょうけど……」
と、アイルたちが話していると、屋敷の奥から若いメイドの女性が駆けつけてきた。
「まあ! 勇者様がいらしてくれるなんて何年ぶりでしょう! 今すぐご主人様に伝えてきますので、待合室にてお待ちください!」
すぐにユウキたち一行は、メイドさんの案内で屋敷の待合室に案内された。
「どうぞ、この部屋のものはお客様のためのおもてなしの品ですから、茶葉もお菓子もご自由にお使いくださいね。何かあったらベルでお呼びください」
そういうと、メイドは部屋を出ていった。
「……ほら、メイドさん。早くお茶いれてよ」
アマネはふかふかのソファにどかっと座る。
「ぼ、僕をメイドって言うな! た、確かにメイドだけど……」
と言いつつユウキは素直にティーポッドでお茶を淹れ始める。
「それにしても……これだけのお菓子も茶葉も、普通に買えば1000Jは下らないわよ? さすがはこの街で一番のお金持ちといったところね」
「てかさー、さっきのメイドさん、美魔女で有名な『エリンシア』メイド長じゃない? 先代の盟主様のころからこのお屋敷のメイド長をしていたっていう。前も会った気がするんだけど」
ミクルが言った。
「そうだったかしら……? でも、先代の盟主様が引退なさったのは、アタシが魔法少女になるよりも前……30年以上も前のことよ?」
「えっ!? でも、ふつうのお姉さんにしかみえなかったわよ?!」
アイルの話に、アマネも驚く。既に確かに、ユウキの目にも20代の女性にしか見えなかった。
「馬鹿ね……あの人は『エルフ族』よ。この世界のどこかに住んでいるといわれる、長命で何千年も生きるといわれる、少数種族のね。耳を見てなかったの?」
ヒメコはユウキが淹れたお茶を飲みながら言った。
「そういえば、ちょっと尖っていたような……?」
「も~、これだからユウキはニブチンね! モテないってよく言われるでしょ?」
自分のことを棚に上げるアマネ。
「……アマネちゃんのお茶にだけ砂糖じゃなくて塩入れちゃおうかな」
「ウソデスヤメテクダサイユルシテクダサイユウキサマ」
「まったく……ほら、熱かったら言ってよね」
ユウキは、アマネにお茶を渡した。
「うふふ、ありがと~……あっ! おいしい!」
「あら、ほんとね。ユウキ君、メイドの才能あるんじゃない?」
「ちょっとメイド、そこのクッキーとって」
「よっ! 未来のメイド長☆」
「皆して僕をいじらないでよ!? それに僕はメイドじゃ……」
と、皆でお茶とお菓子を楽しみながらぐだぐだお喋りしている時だった。
「ゆ”、ゆ”う”し”ゃ”さ”ま”ぁぁぁぁ!!!」
バタン!とドアが開き、誰かがユウキにとびついてきた!
「お……女の子!?」
「ぐすっ、ぐすっ……!」
黒髪で、褐色の肌の10歳くらいの女の子が、涙をポロポロ流してユウキに抱き着いている。
「ど……どうしたの? きみ? 名前は?なにかあったのかい?」
と、ユウキが女の子に聞こうとすると、
「言葉を慎みなさい! このお方をどなたと心得る!? 29代目商人連合盟主! 『ホミナ』様であらせられます! 頭が高いですわ!」
さっきのメイド長、エリンシアが駆けつけ、大きな声でユウキを叱りつけた!
「ひっ……!? す、すみません……!」
「すごい……! 声にだけは年齢分の覇気が宿っている……!」
「さっきまでただのお姉さんにしか見えなかったのに……!」
「……ぐずっ。ええんだべ。エリちゃん。そもそもまだ自己紹介だってまだだべ。勇者様を怒らないであげてほしいべ」
少女は、泣き止むとすっと立ち上がってエリンシアを制止した。
「しかし……」
「こほん。……よくぞ参られただ! 勇者たちよ! おらは『ホミナ・ナカマル』! 亡くなったおらのおっ父で先代盟主『ミヤオ・ナカマル』から盟主の座を譲り受けた、今の商人連合の盟主様だべ!」
少女、ホミナは、ぽんと胸をたたいて自己紹介をした。
「君が……盟主様!?」
ユウキたちは驚く。
「えっ、まだこんなコドモが、盟主様!?」
「アナタ……あの時の、ちっちゃい子供!?」
「え、えええーーーっ!?!?」
アマネたちは、全員驚愕の表情を浮かべて驚く。
「ちょっ、ちょっと待って頂戴!? 貴方はあの時の……ミヤオ様が、亡くなったですって!?」
慌ててアイルが聞く。
「んだ。おらのおっ父はすんごい商売人だけんど、儲けたお金で買ってきたお酒は毎日浴びるほど飲むし、故郷のイカナッペ村の食べ方でエビやチキンを油で揚げて食べるのが大好きで、お医者様の言うことも聞かずにぼーいんぼーしょくしてたら、お腹を壊して去年おっ死んじまっただ! んで、おっ母はお仕事がイヤっちゅうんで、おらがおっ父の跡を継いで盟主様になったんだべ!」
「そ、それは大変だったネ……」
「えー、なにその典型的日本人サラリーマンみたいな死に方……」
ヒメコが呆れる。
「でもでも、ミヤオ様がやっていたお仕事はどうなさってるの? 貴女一人じゃ大変なんじゃ……?」
アイルが心配になって聞いた。
「おら、おっ父の仕事は赤ん坊のころから横で見てたから、大体のことはわかるべ! それに、イカナッペ村の大農場で育てた野菜を、この街で売るびじねすの流通経路は、おらが基本的に何もしなくても動いてるから大丈夫だべ! 職員たちの給料もたんとやってるしな!」
「はい。従業員の満足度は全員100%です。むしろホミナ様がやるようになってからますます業績が上がっているくらいです」
エリンシアが言った。
「そうなのか……」
「クソブラック企業の社長共には見習ってほしいくらいね……」
ヒメコが言った。
すると、ホミナが言った。
「そげんことより! 今は……おっ母が魔物に攫われちまったんだべ!」
「えっ!? なんだって!?」
ユウキが聞き返すと、ホミナは事の経緯を語り始めた。
「それは、昨日の夜のことだべ……屋敷の窓が、バリーン! って割れて……おっ母の部屋で、おっ母の悲鳴が聞こえたもんで、慌てて駆けつけてみたら……トロールみたいな大きな魔物が、泣き叫ぶおっ母を連れて走り去って行ったんだべ……魔物は、街の地下水道から侵入したらしくて、追いかけようにも夜中なもんで人手も集まらず……したら! 屋敷の近くに魔物が置いていった手紙を見つけたんだべ!」
ホミナは、大きな紙で書かれた手紙を取り出した。
「そこには、なんて……?」
と、ユウキが尋ねると、
「えっとな……汚い文字で書いてあるせいで、おらにはちょっと読めなかったんだべ……」
「というわけで、メイドたちを総動員して解読作業を進め……先ほど解読が完了しました」
エリンシアは、手紙を読み上げた。
『この屋敷の主の母親は預かった。返してほしければ、10億Jと街の若い女100人を用意して、南東の森にある『大鷲の塔』までホミナ一人で来い』
「……だそうです」
「つーわけだ! 正直、お金も1Jだって渡したくはないだけんど……それよりも、街の女たちを巻き込むなんてマネ、おらにもできねえだ!」
ホミナは、泣きながら言った。
「それに……屋敷や街の地下水道に、『ゴブリン』の足跡を多く確認しました。しかも……100匹規模、かなり大きな群れの、です。女を要求しているということは……そういうことでしょう」
エリンシアが言った。
「ゴブリン……!」
ヒメコは、こぶしを強く握り締めた。
「でも……おらにはおっ母のことも心配だべ……! ゴブリンが、オンナに乱暴する怖い魔物だってことは、子供のおらもよく聞かされてる話だべ……おっ母がもし、魔物にひどい目に遭わされてるんだとしたら、今すぐ助けに行きてえ……! でも、おらが行くわけにもいかねえ、でも、魔物を100匹も倒せるような強え戦士なんて、この街にいるかどうかもわかんねえ……」
「……ホミナちゃん」
ユウキは、泣き崩れるホミナの手を取った。
「僕たちが……行きます。それが、勇者の使命ですから」
「……ほ、ほんとに行ってくれるべか?」
ユウキの言葉に、ホミナは顔を上げた。
「もちろんよ! ……ねー、ひーちゃん?」
「当たり前よ。ゴブリンは皆殺しにしてあげるわ。一匹残らずね」
アマネとヒメコが言った。
「もちろん! ボクも協力するヨ☆」
「ええ。それに、アタシたちは貴女のお父上にもお世話になったこともあるの。美味しいお茶のお礼も兼ねて、恩返しさせてほしいわ」
ミクルとアイルが言った。
「……ふふっ、盟主様は実に運に恵まれておられますわ。まさか、この未曽有の事態に、勇者様がこのアルフルートを訪れてくださるなんて」
エリンシアが言った。
「まさに天の助け! いや、このピンチにおっ父が勇者様を呼んでくださったんだべ!」
「なるほど……アタシたちに用事があるっていうのは、そういうことだったのね」
アイルは、ホミナが自分たちに会いたがっていた理由に合点がいった。
「とにかく、勇者様たちが伝説の武具や伝説のアイテムを探して旅をしているのも、おら知ってるだ! おっ母を助けてくれたら、おらが商人連合たちの商人たちに色々調べさせて、見つかったら差し上げるし、集めた情報もみんな勇者様たちに提供するって約束するだ! たのむ! おっ母を助けてくんろ!!!」
ホミナは、深々と頭を下げた。
「えっ、ほんとに!?」
ユウキが思わず聞き返した。
「つまり、事件を解決したらボクたち一気に魔王に近づけるってことジャン!」
「ふふん、がぜんやる気が出てきたわね……!」
ミクルとヒメコもやる気満々だ。
「と、とにかく……わかったよ。絶対に、君のお母さんは助けてみせる」
「アタシたちに任せてちょうだい。……それで、大鷲の塔の場所は?」
ユウキとアマネが言った。
「ああ、地図を今持ってくるだ!」
こうして、ホミナに大鷲の塔の場所を教えてもらったユウキたちは、早速『大鷲の塔』へと向かうのであった―――。
「……あれが、『大鷲の塔』か」
ジャングルを歩きながら、ユウキが顔を上げる。てっぺんに大きな鷲の彫刻の意匠が施された、ジャングルの木々よりも数倍は高い大きな塔が、少し先にそびえたっていた。
「うう、ここってさっき言ってたゴリラとかあまぞねす? とかが出る森なんでしょ……? 出くわしたらイヤだなぁ……」
「アマネちゃん、そうは言ってられないわよ。魔物を見つけたら、ユウキ君とすぐ変身するのよ」
アイルが言った。
「うう……ゴリラこわい……ユウキ、最初から手をつないでおきましょう」
「お、おう……わかった」
ユウキとアマネは、手をつなぎながら歩く。そういえば普段は意識してなかったけど、自然に女の子と手をつないで歩くなんて、ちょっとコイビトみたいで、ドキドキするというか……
「来たよ! ゴゴゴリラの群れだ!」
「!」
ミクルが叫んだ。すぐに索敵すると、3体の『ゴゴゴリラ(Lv.41、39、40)』が、まるでアクセルを強く踏んだ自動車のような勢いで目の前に迫ってきていた!
「ユウキ!」
「ああ、すぐに変身し……」
「それには及ばないよ! まだこのあとゴブリンたちとも戦わないといけないから、ユウキたちは温存しておいて!」
ミクルは、エメラルドの蛇腹剣を引き抜いた!
「宝石魔法! 『エメラルド・チェーンスライサー』!!!!」
エメラルドの蛇腹剣は、ぐるりと伸びると、ジャングルの木々ごとゴゴゴリラを切り裂いた!
「ウホ……ウボオオオオオ!!!!」
「よしっ! 決まった!しゅぴーん☆」
と、決めポーズをするミクルだったが、
「ウゴホホホ……ウゴオオオオオオ!!!」
しかし、切り裂かれたゴゴゴリラが、強引に筋肉をビルドアップさせて出血を止めてしまった!
「げっ、まだ動けるの!?」
「ウッホオオオオオオオ!!!!!」
そして、逆に拳を振り上げミクルに一斉に襲い掛かる!
「うわあああやべえええええっい!」
「油断なんかしてんじゃないわよ! ……『グラド』!!!」
ヒメコは、一瞬で『ヒメコ・ペガサス』に変身すると、呪術スキルパネルを開いた!
ヒメコ▼SP:120を使用して、『グラド』を取得しました!
「はぁっ!」
「ウボオ!?!?」
ヒメコが放った3つの『重力の玉』が、3体のゴゴゴリラに命中すると、ズドンと地面にたたき落される!
「ごめっ、助かったヒメコ!」
「ったく、男のくせに世話の焼ける! いいからとどめ!」
「オッケー! 『シャインフラッシュ』!!!:
ミクルは強烈な閃光の光呪文で、ゴゴゴリラをまとめて浄化した!
▼ ユウキはLV:36にレベルアップしました! ステイタスが上昇しました! SPを獲得しました!
▼ アマネはLV:36にレベルアップしました! ステイタスが上昇しました! SPを獲得しました!
▼ ミクルはLV:41にレベルアップしました! ステイタスが上昇しました! SPを獲得しました!
▼ ヒメコはLV:41にレベルアップしました! ステイタスが上昇しました! SPを獲得しました!
(あれ……なんでアタシだけレベルアップしないの!?)
「あれ、戦っていないのに僕たちにも経験値が……」
「ま、同じパーティだから僕たちが代わりに戦闘すれば、ユウキたちもレベルアップするってワケさ!」
ミクルが説明した。
「あんたたちガキんちょたちは、とりあえず後衛に回りなさい! 私たちがゴリラやゴブリンを倒していけば、塔を登りきるころにはもう2~3レべはあがるはずよ!」
「ああ……ヒメコさん、わかりました! 頼みます!」
「みーくんたちが疲れたら、あたしたちがみーくんたちの分までがんばるから!」
「任せたまえ☆ ……あと、みーくんって呼び方はなかなか新鮮ダネ?」
「まったく、あーちゃんってばコイツにも馴れ馴れしいんだから……ほら! サボるな金ピカ! また次のゴリラ近づいてきてるわよ!」
「金ピカってなんだよ金ピカって! ……ヒメコこそ、炎魔法とか使ってジャングル燃やしたりしないでよね!」
「まったく……仲がいいんだか悪いんだか……」
こうして、5人はゴゴゴリラの群れを倒しつつ、大鷲の塔へと向かうのであった―――。
~後編へ続く~
ここまでお読みいただきありがとうございました! 今回も3編構成になっています! 長いですが最後までお付き合いいただけると幸いです! 感想や評価など頂けるととても励みになります!
後半も現在製作途中ですが、完成次第投稿予定です! 気長にお待ちくだされば幸いです!
誤字、脱字、書きミスありましたらお気軽にご指摘ください。早めに修正します。
追記:前書きにも書きました通り、以前は「やり直せ冒険!大鷲の塔と太陽の鏡!」の4編構成の中編として本話を公開しましたが、読みやすくするためサブタイトルを変更しこちらが前編としての扱いになりました。読みやすくするため改編や改良などを加えることがございますがご了承ください。