第5.5話「やり直せ冒険!?卑劣な魔王チーマのお説教!」
【注意】
前回の話(第五話)と続き物になっているので、前回の話をご視聴の上ご覧ください。
なお、以前は「やり直せ冒険!大鷲の塔と太陽の鏡!」の4編構成の前編として本話を公開しましたが、読みやすくするためサブタイトルを変更し5.5話としての扱いになりました。ご了承ください。
~あらすじ~
変身の能力を奪われ、「刹鬼」と呼ばれる復讐鬼「スレイヤードラゴンナイト」としてユウキたちに襲い掛かる3人目の魔法少女、「竜ヶ崎姫子」。彼女の猛攻に4人の魔法少女たちは撤退を余儀なくされるが、傷の回復を待っていたタイミングで魔王軍の四天王「レディ・ミスティ」の奇襲に遭い、アイルとミクルが洗脳され、操られた2人はアマネに襲い掛かり、さらにそのタイミングで姫子がアイルとミクルに襲い掛かり、あわや魔法少女が全滅寸前の大ピンチになるが、ユウキが気合でピンチからアマネを救い、ユウキメイドとアマネキャットに変身してミクルとアイルを洗脳から救い出し、レディ・ミスティに逆転で勝利する。だが姫子がもう一人の四天王パドラーに襲われ、助け出そうとした4人は再びピンチに。だが傷ついても諦めないユウキたちに、自分の輝きは消えていないと諭された姫子は、新たなる魔法少女「ヒメコ・ペガサス」に変身する。そして今までのトラウマを払拭すべくヒメコは因縁の相手であるパドラーを見事討ち倒し、魔法少女の新たなる仲間として加わったのであった―――。
魔女の森で魔王軍の四天王「レディ・ミスティ」と「パドラー」を倒し、ついに5人目の魔法少女「竜ヶ崎 姫子」=「ヒメコ・ペガサス」を仲間に入れた、勇者ユウキ、アマネ、アイル、ミクルたち一行。
「いよいよこれで……魔王チーマを倒すだけだね! ユーキ君!」
ミクルはユウキに声をかけた。
「ああ……いよいよ、だね」
ユウキは、真剣な面持ちでうなづく。
魔王チーマとは―――、ユウキとアマネ、そして3人の魔法少女たちが過去に挑むも、いずれも勝つことができず返り討ちにされたほどの強大な力を持つラスボス(幼女)であり―――そして、魔法少女たちが元々暮らしていた平行世界の地球を滅ぼした諸悪の根源でもある。
「じゃあ、ひとまず……『ラブゼバブ』まで帰るわよ」
アイルが言った。
「え……? 帰るって、やっとこうもり峠のふもとまで戻ってきたところですよね? アイルお姉さん? ここからラブゼバブなんて、歩いていけば一週間はかかるんじゃ……?」
ラブゼバブの街とは、魔王城に最も近い街だ。魔王討伐に向かう勇者が最後に立ち寄る街でもあり、アイルが基本的な拠点にしている街でもある。当然、今まで魔女の森を目指して東へずっと進んでいたユウキたち一行がUターンして戻ろうとしても、徒歩なら数日単位でかなりの時間がかかる。
「……あんた、ほんとに魔法少女? 頭使いなさいよ」
ジト目でヒメコがユウキを睨みつけた。
「な、なんだよ……?」
「ぷーっ! たしかにほんとにユウキはおこちゃまね! 『あたしたちが最初に覚えた呪文』、忘れちゃったの?」
アマネがそう言うと、ユウキはふっと思い出した。
「あっ……そっか!」
「ふふっ、基本的には、一度行った街には、これで移動するのが魔法少女の常識よ。じゃあ、皆で唱えてみましょうか」
アイルの言葉に、全員がうなづいて、魔法の呪文を唱えた。
「「「「「『ビューン』!!!」」」」」
瞬間移動の呪文で、ユウキたち5人(と馬車)がふわりと宙に浮かび上がり、夜空を流れ星のように飛んでいった!
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「よお! よく帰ってきたな~! アイルの兄ちゃん! 仲間もいっぱい増えたじゃねえか!」
ラブゼバブの街の入り口に一行が降り立つと、顔見知りの商人のおじさんが声をかけてくれた。
「あの……アイルお姉ちゃん、ですからねアタシ。……それにしても」
アイルがボロボロだった村の入り口を見渡すと、木でできたゲートが少し修繕されている。
その横には薬草の花が植えられた花壇が綺麗に整備されており、以前は朽ち果ててガタガタになっていた白石畳の道路も、少し新しく整備されているようだった。
「気づいたかい? こないだアイル兄ちゃんたちと別れた後、アイドラウム王国の騎士様たちが帰りにキャラバンを護送してくれたんだが……その時に同乗してた国のお役人もやっている騎士様が、この街の現状を見てアイドラウム王に口を利いてくれたみたいなんだ。飢えた民を助けるために、いろいろ動いてくださるんだとさ。これも、今朝の配給で頂けたんだぜ」
商人のおじさんは、嬉しそうに手に持ったツヤツヤのリンゴをかじった。
「なんでも、ミノ王女も乗り気でないアイドラウム王に強く言ってくださったんだとか。まさしくあの方は聖女のような方じゃよ」
腰の曲がったお爺さんが、にこやかな笑顔で言った。
「そっか、ミノ子が……」
「あのあと、ラブゼバブの皆のことは、結局王女様にばかり頼ることになってしまったものね……ほんと、ありがたい限りだわ」
ミクルとアイルは、安心したように微笑んだ。
「さ、アイル君たちの部屋も、ちゃんとリフォームして綺麗にしておいたわよ。仲間が増やしたいって聞いてたから、全員分の個室も用意しているわ」
エプロン姿の女性が、アイルに声をかけた。
「あら、ありがとうございます大家さん……! 少し、ふくよかになられました?」
「あらやだ、アイル君! 最近配給のゴハン食べすぎちゃって、昔の服が入らないのよ~。あーしのお古のワンピース、よかったら皆なら着れるんじゃないかしら?タンスに入れておいたから、普段着にでも着てちょうだい」
「そうね……アタシは(身長的に)着れないから、アマネちゃんかヒメコちゃんに着てもらうといいかしら」
「え~!? 自分の個室に、おようふくまでもらっちゃっていいの!? なんだか、ボロ馬車での生活から、一気にぐれーどあっぷした感じ~!」
アマネは喜んで目を輝かせている。
「アマネちゃん、そんなに馬車での生活が嫌だったのか……」
「イヤ、当たり前でしょ……なにが良くてあんなクッソ狭いうえに臭いもひどい豚箱のようなところで男3人と寝なきゃいけないのよ」
ヒメコが言った。
「まあ、ユウキたちとねるのはともかく……クサいしせまいし、干し草のまくらだけだとネゴコチが悪くて……首がすっごく痛いのよ!毎朝!」
とアマネも不満そうに首と肩を回している。
「ま、それはボクもドーカンだね……あと毎回狭くてアイルセンパイだけ寒いのに外で寝袋敷いて寝てるのがチョット可哀想だったヨネ」
「いいのよ、あたしは皆が元気ならそれで……くしゅんっ」
「あら、カゼでもひいちゃ大変よ? じゃあ今日は、久しぶりにお風呂でも沸かそうかね。さ、皆お入り」
「お風呂!? やった~! やっとシャンプーできる~!」
大家のおばさんがドアを開け、5人は久しぶりに屋根のある宿で、ゆっくり体を休めるのであった―――。
~翌朝~
「ん~……おはよう、アマネちゃん」
ユウキは、久しぶりに絹のパジャマでゆったりとした朝を過ごしていた。
「おはよ~! ユウキ! ……ちょっと、ユウキ頭クサいよ? 昨日ちゃんと頭洗った?」
「いや、だって元の世界みたいなボディーソープとかシャンプーとかなかったし……」
「あら~、ねえねえこれみて? これを知らないなんて、ほんとヤバンジンね~? ぷぷっ」
アマネがスキルパネルを開いた。そこには【日常系魔法:バブル】【日常系魔法:ホットエアー】と書かれている。
「これを使えば元の世界よりもじょーしつな髪のお手入れができるのよ? ユウキもいちおう魔法少女になった時は女の子なんだから、それくらいは覚えたほうがいいと思うわよ?」
「た、確かに変身して女の子になったら、髪は結構伸びるけど……変身したときは勝手にツヤツヤになるもんだろ?いるのか? 髪のお手入れって」
「……いるわよ」
コーヒーを飲みながらアイルが言った。今日はリラックスしてるせいか変身前のメガネ姿だが、長いロング黒髪はツヤツヤだ。
「そーそー。可愛さは一日にしてならず、だヨ!」
「アンタの変身前けっこうなボッサボサでしょうが」
ドヤ顔でツヤツヤの金髪をなびかせるミクルをツッコむヒメコは、ココアを飲みながら新聞を読んでいた。彼女の黒髪もツヤツヤだ。
「うっ……いいもん! ボクは変身前は男、変身後は女って切り分けてるから!」
「へー、都合よくちん〇のオンオフができるオカ魔法少女は便利でいいわね……削ぎ落していい?」
ヒメコは、不機嫌そうにミクルを睨みつけた。
「げっ、アンタまだ男を恨んでるの……?」
「うっさいわね……オトコは許せないけど、それ以上にぶっ潰したいヤツがいるから、アンタたちに協力してあげる。要はそれだけの同盟ってだけよ。あんまり馴れ合おうとしないでチョウダイ」
ぶっきらぼうにヒメコは吐き捨てる。
「まあまあ……僕は、その……ヒメコさんとも仲良くできればなぁ、って思ってるけど……」
と、ユウキが言ったが、
「フンっ、あんた子供のくせに、浮ついたチャラ男みたいなこと言ってんじゃないわよ、気持ち悪い」
一瞬でヒメコに拒絶されてしまった。
「チャラっ……!?」
「あら~、フラれちゃったわねユウキ~……慰めてあげよっか?」
アマネがにやにやしながらユウキの肩に手を置く。
「べっ、別に告白じゃないだろこれは!? ……ぼ、僕は皆のパーティのリーダーとして、皆が円滑にコミュニケーションをとれるようにしなきゃと思って……」
「は?????」
かなりドスの利いた低い声でヒメコに威圧された。怖い。
「ガキんちょのくせに……100万年と6千年早いわ。大体、このパーティのリーダーは、野蛮な男になんか任せられないわ。聡明な女性であり年長者でもある私以外に誰がふさわしい人がいるっていうのよ?」
「はいはーい! 一番キラキラしてカワイイ、ボクがいいと思いマース☆」
ミクルが手を挙げた。
「……こほん。男性女性はさておいて、このパーティの中では一番年長者なのはアタシだと思うんだけど」
ちなみにアイルの年齢は現在21歳。ミクルは18歳。ヒメコは17歳。ユウキは14歳、アマネは13歳である。
「えー、みんなばっかりずるい! あたしもリーダーやりた~い!」
「い、いいや! 僕がリーダーだ!誰が何と言おうと、それだけは譲らないぞ!」
「なんですってぇ~……?」
ヒメコが、プリズムベルトのギアを回した。
「闇竜変身!!!」
すると、姫子は再び闇の狂戦士「スレイヤードラゴンナイト」に変身する!
「え、ええええええ!?!? そ、その姿はもう使えなくなったんじゃ……!」
「お黙りなさい! いつでも自由に変身切り替えできるようになっただけよ!!!」
「が、ガビーン! ……そうなの~~~~!?!?」
「って、ちょっと! まさか魔法少女同士でまた仲間割れする気!? ここは大家さんから借りてる借家なのよ!?」
「ちょっと! ひーちゃんすとっぷすとっぷ~!」
「うっさいわね!!! あんたたちも、それ以上でしゃばるつもりなら、全員の頭サイコロステーキに……」
と、ヒメコが斧を振り上げようとした瞬間だった。
ガタガタガタ……!
「なんだ!?」
さっきまでヒメコがココアを飲んでいたマグカップが、ユウキがミルクを飲んでいたコップも揺れていた。
そして、次の瞬間、
ガガガガッガガガガガガガガガガガガ!!!!!
大きな地鳴りと共に、立っていられないほどの衝撃が、5人を襲った!
「きゃあぁっ!?」
「ヒメコさん!」
尻もちをつきそうになったヒメコの肩を、とっさにユウキが受け止める。
「これは……地震!?」
アイルが冷静に言った。
「え、えとえとえ~~っと……! 避難訓練でなんて言ったっけ!? 机の下にかくれる!? お台所の火を消す!? 頭に教科書をのせて頭を守る……教科書ないわ!!! どうしよう!?」
「アマネちゃん! 落ち着いて! 皆! とりあえずテーブルの下に!」
5人はなんとか急いで、ダイニングテーブルの下に頭と体を押し込んで身を寄せた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
「……揺れ、長いですね」
長い揺れが続く。ユウキが、アイルに言った。
「ええ……メイデン・ワンダーランドでは滅多に地震なんて起きることはないわ。こんなの、アタシも初めて……」
「こんな地震、(地震大国の)日本人のボクたちならともかく、街の人やアイドラウムの皆のほうが心配になっちゃうよ……お城、無事だといいけどな……」
「まさか、異世界てんせーの前の週に、学校で避難訓練をやってたケーケンが活きてくるなんて……! あたし、逆にラッキーだったのかしら……?」
なんてことを喋っていると、ユウキの肩に思いきりヨロイ姿のままのヒメコがしがみついてきた。
「ちょっ、ヒメコさん痛いですって……! ヨロイ脱いでくだ、さ……?」
ヒメコは、甲冑の鉄兜を押し付けるようにユウキの胸に頭を埋める。
「地震……イヤ……! 地震、こわい……!」
さっきまでの調子とはまるで違う、小さすぎて声にならないか細い震え声だった。
「……大丈夫です、もうすぐ終わります。大丈夫ですから」
ユウキは何かを察すると、片腕でテーブルの脚を掴みながら、もう片手でヒメコの鉄兜を優しく胸に抱きよせた。
「ひぐっ、ひっ、うう……」
ヒメコは、まるで子供のようにユウキに抱き着いた。
「ヒメコ……キミ、泣いてる……のかい?」
その様子に驚いたミクルが、思わず言った。
「……フッ、情けない話よね……私ね……小学生の頃に、住んで地区で大きな地震があって……自宅が全壊したうえに、津波にまで襲われたの……そのせいで、祖父と祖母が亡くなって、私も逃げる途中で波にさらわれかけて怪我したの……今でも、あの日のことを思い出すと……」
ヒメコは、半泣きで過去を語る。
「……そっか。あの大災害の……そりゃ、辛くもなるよね」
ミクルは、ヒメコの鉄兜を撫でた。
「あたしも、あの津波の映像は、すごく怖かった……ひーちゃん、今はあたしたちがいるからね、大丈夫だからね!」
「……ごめん、ありがど、みんな……」
ヒメコは、涙声で返事をした。少し安心したようで、元気が戻ったようだ。
そして、しばらくした後。長く続いた激しい揺れは、ようやく少しずつ収まっていった。
「……みんな~!? だいじょうぶかい!?」
すると、大慌てで大家のおばさんが部屋に駆けこんできた。
「はい! ……なんとか!」
部屋の窓ガラスは割れて、床には割れたコップや皿の破片が散乱していたが、幸い全員がスリッパは履いていたので、誰一人ケガもない。
「……とにかく、街の皆が心配だわ! 余震が来るかもしれないから、この建物も、倒壊の恐れもある……一旦外に出ましょう!」
アイルの言葉に、全員がうなづき。大急ぎで荷物をまとめて外に出た。
「これは……」
「ひどい……!」
ラブゼバブの街は、高い建物が軒並み崩壊し、せっかく整備したばかりの道路もまた壊れ、一部の倒壊した建物からは火の手も上がっていた。
「水魔法が使える奴は来てくれ~! 火の勢いが止まらねえんだ~!」
「うえ~ん! ママ~!」
「犬のコウジローがまだ瓦礫の下にいるんだ! 今すぐ助けねえと死んじまうよォ!」
街中の人々は、老若男女問わず大パニックで泣き叫び、阿鼻叫喚の地獄と化していた。
「こういうときこそ、アタシたち魔法少女の出番よ! アタシたちの力なら、多くの人を救助できる……!」
と、アイルが言おうとしたその時だった。
《くっくっくっく……悪いがしばし時間を貰おうか……! 導きに集いし勇者たちよ……!》
どこからともなく、不気味な幼女の声が響き渡る。
「こ、この声は……!」
ユウキは、はっきりとその声の主を覚えていた。
「忘れるハズがない……! 唯一、ボクの輝きに泥を塗った存在……!」
「魔王、チーマ……!」
ミクル、ヒメコ、アイルも、全員険しい表情で上空を見上げる。
《くっくっく……久しぶりじゃのう、そうじゃ、我こそがこの世界の支配者、万物の王にして絶世のメチャカワ美少女、その名も魔王チーマである!》
魔王チーマは、魔王城の闇の水晶から遠隔魔法でラブゼバブの上空に自分のホログラムを映し出して姿を現した!
「……だっ、だれよアンタぁ!?」
ヒメコが、鉄兜を脱いで大声で叫んだ。
「えっ?」
「魔王チーマって……私が戦った時には、緑の肌のオッサンだったわよね!? なんなのその、気色悪いペドフィリアが妄想で考えたみたいな幼女の姿は!? 舐めてんのかしら!?」
《ああ、そうじゃったな……お前と戦った後で、いめちぇんしたのじゃよ。我に性別などない。我の姿は、最新のとれんでぃに合わせて気まぐれで変えるもの。お前たち人間は不老不死の我とは違って、生殖で世代を経なければ1000年の時を過ごすことすらできぬうえに、一度生まれた性に縛られなければならぬとは、不憫でしかたないものよのう》
「……フンッ、ちょうどよかったわ! アンタをそろそろぶっ殺しに行くところだったの。遺書書いて待ってなさいクソ魔王が」
「ちょ、ちょっとヒメコちゃん? 今は魔王討伐より、街のことのほうが……」
怒りに任せて魔王城に向かおうとするヒメコを、アイルが止めようとする。
《はっはっは! 勇者よ忘れてはおらぬか? お前たちの使命はこの我を倒すことじゃ……それはなによりも優先されるべき使命である。じゃがしかぁし!》
魔王チーマの大声で、周辺の空気がキーンと響く。
「ぐっ……!」
《お主ら、四天王を倒したから我に勝てるなどと、調子に乗ってはおらぬか? そもそも仲間を集めたら即☆魔王討伐など、ま~だまだまだ早~い! 大体レベルが50にすら届いておらぬではないか! なのに女神どもがスタート地点をミスったことをいいことにちゃっかり魔王城に一番近い街に住居まで作りおってからに! 『ビューン』でいつでも魔王城に戻れるなどと、そんなチートじみた攻略ルートは神々が許しても、この我が許さんぞ! 絶対にな!!!》
「ま、まさか貴方……!」
アイルは、魔王がなにをしでかしたのかを悟った。
《うん、そうじゃよ。ラブゼバブから魔王城までへのルート――――さっきの地震で潰しておいたから。》
「さっきの地震を……」
「自分で起こしたっていうの!?」
アイルとヒメコの言葉に、魔王チーマはにやりと答えた。
《そうじゃよ? 我この世界も他の平行世界も自在にコントロールできる最強魔王じゃし? ちょちょいのちょいで地震を起こして、大地割れを起こしてやったわ! あれだけ地面にぽっかり裂け目をあけてやったから、歩いての移動はゼッタイ無理じゃのう~! 別のルートを使って魔王城まで来ることじゃな。がーっはっはっは!!!》
「……まさか、コイツそのためだけにこの地震起こしたっていうツモリなの? ねぇ、やっぱり殺らねーとダメなんじゃないかな? 処さないといけないんじゃないかな?」
「ミクル君……気持ちはアタシも同じよ。というか、そもそもアタシたち3人は、一回自力で魔王城にたどり着いてアナタに挑んでるから再戦の資格くらいあるでしょう!?」
「そーだそーだ!」
《うるさいうるさーい! というか、新人のそこの2人はまだよい! お前ら『初期実装組』こそ最初から修行をやり直さんと我とは再戦なんぞゼッタイしてやらんわ~い! 魔王城には入れますぅぇ~~~ん!!!》
魔王チーマは舌をベロベロしながら手で×を作っている。
「つまり……僕たちを邪魔するために、関係ない街の人たちまで地震に巻き込んだんだな!?」
ユウキの問いかけに、魔王チーマは答えた。
《ああ。いかにも》
「そんな……! そんなの、許せないわ! 魔王チーマ! 絶対倒してやるんだから!」
アマネも、涙を目に浮かべながらチーマを睨みつけた。
《くっくっく……そうそう。こういう故郷の村焼いたときとか殺されたくない人間を殺された時の勇者が見せる表情。それこそが実に我が求めていたものよ》
魔王チーマは、にたりと笑うと、さらに語り始めた。
《お前たちには、我と最高の舞台で戦ってもらわなければならぬのでな……てなわけで、魔王チーマちゃんによる、大ヒントた~いむ! 今から我が言う攻略情報を、耳をかっぽじってよ~く拝聴するように!》
「だ、大ヒントぉ?」
アマネが呆れる。
《よいか? まずは……我の城は、広大な『竜の湖』に囲われており、陸路ではラブゼバブの先にある『死の荒野』を通るしか道はない。しかし、その道には地震で大地割れを起こしておいたので歩いてはもう通れぬ。空を飛ぶ乗り物は、我が500年前に原材料のガスも製造方法も闇に封印したのでこの世界には存在しない。当然海路となる『竜の湖』には我の配下のギャングマーマンたちがいるので船を使うのも無理じゃ》
「くっ、ご丁寧に全部説明してくれる気なの?」
「じゃあ、どうすればいいっていうんだ!」
《くっくっく……我は初心者には優しい魔王じゃからのう……特別に教えてやろう。
神竜樹にあるといわれる『雨のハープ』。
水の都アルフルートにあるといわれる『太陽の鏡』。
そして湖を挟んで魔王城の反対側、西の大国ラドルームにあるという『純愛のルージュ』。
この3つを集めてラドルームにある天使の岬にその3つのアイテムを捧げれば我が魔王城への道が開かれるであろう―――。あろう―――。あろう―――(エコー)。》
「……ふざけんじゃないわよ! 誰が魔王の言うデタラメを信じる勇者がいるっつうのよ!」
ヒメコが叫んだ。
「うん、確かに僕も正直そう思うけど……」
「あたしもどーかんだわ!」
《なんじゃと? 我は嘘はつかんし約束も守るせーれんけっぱっくな魔王じゃというのに……あ、でもよいのか? お前たちの様子は常にモニタリングしとるんじゃ。お前たちがちんたら寄り道して間違ったルートを選ぶたび、我お前たちが変なとこ行かないように進行方向にいつでも地震起こせるんじゃぞ?》
「こ、コイツ……!」
「うげーっ、最悪かよコイツ!」
「この、ヒキョーモノ~!!!」
つまり、魔王の言う通りにしなければ、他の街も危ないということだ。
《はっはっは、さすがに状況は理解したようじゃな……結構結構。じゃ、頑張るんじゃぞ~。我、お前たちが我を殺しに来るのめっちゃ楽しみに待ってるからな~、はっはっは!》
魔王は、映像ホログラムを切って姿を消した。
「……ま、魔王チーマめ……!」
と、ユウキが怒りに震えていると、
《あっ、スマン忘れておった》
またブンッと魔王チーマがホログラムを付けた。
《道中で伝説の剣、盾、ヨロイ、兜、見つけておくんじゃぞ? あれがないと我倒せないからな?》
「……はい?」
「えっ、そうなの!?」
アイルが驚く。
《いや、つーかまずお前たち3人……ワシがこっそり変化がうまい部下にさりげなく道中の村人に化けてこっそり魔王攻略のありかのヒントを言わせようとしていたというのに……アイル・フルールは『武器に頼るのは三流』とか抜かして人の話を聞かんし、ヒカル・ミクルはアイドル活動にかまけて鍛錬も情報収集もそっちのけで金のことしか考えてないし、あとユニコーン・ヒメコ。お前に至ってはコミュ障過ぎて村人に一切話しかけずに行く村々を全てスルーした挙句、レベル上げ不足で我に挑んで四天王にすら勝てなかったではないか! お前はとくに論外じゃ!》
「うぐっ……!」
「ぐっ……」
「……(脂汗)」
3人とも、かなり痛いところをつかれたようでかなり表情が苦しそうだ。
「アイルお姉ちゃん……ミクル君……」
「ひーちゃ……」
「み、見るなァーーー!!!! そんなに憐れむような目で、こんな、惨めな私を見ないで~!」
「しゅ、守銭奴でずびばぜんでじた……」
「……いい? 貴方たちは先輩たちのしくじりから、色々学んで強くなるのよ……(達観)」
《そーいうことじゃ! じゃ、最初から冒険をやり直してくることじゃな!》
そう言うと、今度こそ魔王のホログラムは切れて魔王の姿が消えた。
「……アイル君」
後ろで全てを聞いていた大家のおばさんが、声をかける。
「……大家さん」
弱弱しく振り向いたアイルに、大家のおばさんがぽんと肩をたたいた。
「……ちっちゃいことは、気にしないでいいのよ♡」
「その心遣いが……今は逆につらいです……」
「……って、魔王に気を取られてたけど、街の皆が大変なんだってば!」
アマネが叫んだ。
「そうだな……! とりあえず、次の冒険のことは、後片付けが終わってから皆で考えよう! アイルお姉さん! ミクル君! ヒメコさん! いきましょう!」
ユウキは、急いで被害の多い建物へと走っていった。
「え、ええ……!」
「うが~! ムカつく~! とりわけ自分に腹が立つ~!」
「……早く終わらせましょう。あいつぶっ殺しにいけないから……!」
このあと、5人は驚異的なスピードとパワー、そして魔法スキルの力で、二次災害を食い止め住人を全員救助し、がれきの撤去と残った建物の耐震補強工事を終わらせて、早々にラブゼバブの街を飛び出していくのであった―――。
~続く~
補足
アイル(……ケイロ神様。少し説明していただきたいのですが、4人は別々の平行世界から来たはずなのに、どうして同じ地震のことを知っていたのでしょう?)
ケイロ(まああれだよ、アレ!キミたち別々の平行世界から来たといっても、同じ「日本から来た」のは変わらないってことよ!別々の平行世界といっても、わずかに違うだけで国家が変わるような世界観や重要な歴史などはおおよそ似たようなものになるんだなぁこれが。大きな地震なんかも、だいたいそういうことよ)
アイル(ところで、あたしはその地震を知らなかったのは……?)
ケイロ(まあ、その地震が起きる時間を迎える前に、チーマがアイルのいる世界を滅ぼしてしまったから、そういうことなんだよなぁ)
お読みいただきありがとうございました!感想や評価など頂けると嬉しいです!
誤字、脱字、書きミスありましたらお気軽にご指摘ください。早めに修正します。
現在中編、後編のほうも製作途中なので、完成次第続きも投稿していきたいと思います!気長にお待ちくだされば幸いです!
追記:今回の話は、前語りにも書きましたが以前は「やり直せ冒険!大鷲の塔と太陽の鏡!」の4編構成の前編として本話を公開しましたが、全ての話を続けて読みやすくするため、サブタイトルを変更し5.5話としての扱いになりました。読みやすくするため細かい変更や改良などはございますがご了承ください。