90 国王と従者と騎士団長の三人旅
「お荷物はこちらで終わりでしょうか?」
出発当日、旅支度をして馬車に荷物を積み込む。使いの者によれば、ベルクからミトスへは片道でも四、五日かかるらしい。途中、点在する村や町に立ち寄りながらではあるがそれなりに遠出となる。
国王の仕事に関してはお父様にお願いをしてきた。少なくとも十日以上は空けるのだ。旅の疲れに苛まれながら、十日分の仕事に追われるのは勘弁願いたい。
「ええ、問題ないわ」
粗方の荷物は馬車の屋根上の荷台に乗せた。ミトスからの使いに返事をし、馬車に乗り込む。使いの彼は乗り込む私を訝るような表情で見ている。それは明らかな大荷物を中に入れようとしているからだ。
それは入念に布で巻いたヴァルハラである。ミトスからの計らいか、かなり大きい馬車を用意してもらってはいるが、それも不自然に見えるだろう。しかし仕方ない、国宝を外の荷台に放り出すわけないはいかない。
私に続いて乗車するのは従者であるリーザ、そして護衛の名目で乗車する騎士団長ラルフ。当初、護衛として兵を数人手配してほしいとラルフに言っていたのだが、本人の強い希望でベルク騎士団の長が同席することになった。
国の守りは前任の団長であり、ラルフの父でもあるテオドール・ヴァルツァーが担う。先の大戦において、帝国と言う戦禍を招き入れた大罪人でもある。しかしその大戦での功績と、戦いの後に自ら投獄を望み、五年間の服役の末、現在は騎士団の指南役兼相談役としてベルク発展の一助となっている。
と言うことでしばらくの間、ベルクは先代の方々にお任せし、私たち次世代の人間はさらなる発展のために旅立つ。
「それではみなさん、よろしくお願いします」
全員が馬車に乗り込むと、騎手の席に着いた彼は小窓から挨拶をする。
「申し遅れましたが、私ルッツと申します。何かあればお気軽にお申し付けください。それでは出発致します」
ルッツは手綱を手に、ゆっくりと馬を走らせ始めた。
出発してしばらくして、私は気になっていた疑問をラルフに投げつける。
「ねぇ、いつもはベルクから出ないのに、どうして今回は行こうと思ったの? それも自分から」
「はい、それは……父上に助言を頂いたのです。ベルクに引きこもらず、他国を見ることも強くなるためには必要であると。『私のようにならないために勉強してこい』だそうです」
テオドールが一時期帝国に付いた理由は、国内で競争相手が居らず飽いていたのが原因だった。自分自身の力を示したかった、その上で認められたかった……人から言わせれば下らない承認欲求なのかもしれないが、あてどもなく一人走り続けるのは苦しく険しい。
リーザとの勝ち負けに固執する最近のラルフはきっと何かに迷っている。それをテオドールが察したのだろう。今回の旅がそんな彼にとって有意義なものであるように願うばかりだ。





