82 愛すべき日常
ブーゼ帝国との戦争終結から六年の月日が流れた。私は二十三歳となり、立派な大人の女性……と言いたいところではあるが、ヴァルハラの影響なのか十七の頃から見た目が全く変わっていない。全てにおいてあの頃の……小娘のままだ。
時々、王として外交のため外国を訪れるが、「相も変わらず御綺麗で」と言う社交辞令の相も変わらずが真実になりつつある。
「失礼致します。姫様、お茶が入りました。少し休憩に致しましょう」
相も変わらずと言うなら、私の従者であるリーザも変わらない。確か齢は二十六になると言うのにあの頃のままである。まぁ人が大きく成長する時期に不死となった私と比べ、成長しきった彼女ならば六年程度では大きく変わらないのは頷けることだろうか。
前国王、お父様の自室であった部屋は今、現国王たる私の仕事場となっている。外国からの客人を持て成すために設えられたテーブルにティーセットが置かれる。来客がない日は専ら私とリーザのお茶会の席となっている。
何が入っているのかは不明だが、フカフカの外国製ソファに腰を下ろす。少し前のベルクには王の仕事場だと言っても、こんな調度品を揃える金はなかった。
大国ブーゼ帝国を退けたベルクは、北の国々からは最後の砦と呼ばれている。帝国を恐れる北の国々は六年前の戦争以降、こぞって金をだした。ブーゼ帝国の魔の手から自分たちを守ってもらうための援助金だ。
そのため、各国代表らがこの国に視察に訪れることが多くなった。そして、質素な佇まいの部屋を見るたび、心配と不安な表情をするので、仕方なくそれ相応の物を揃えた。正直いつまでたっても慣れる気がしない。
まぁ、来客用最高級品の茶葉を、古くなると勿体ないからと言って楽しむ分には、心地の良い空間とも言える。
「それにしてもリーザ、貴方は全然変わらないわね」
「姫様にそれを仰られても嫌味にしか聞こえませんが?」
「これは仕方ないじゃない。私はもう少しちゃんと大人の女に成長したいのだけど……」
「はぁ……大人でございますか。これでも私は肌に大変な気遣いをしています。ベルク国王の従者として、どこに出ても恥ずかしくないように、大変な努力をしているのですよ?」
他の者が聞けば、淡々とした口調で話すリーザからはその必死が伝わらないかもしれない。もう少し感情が表情に出れば、そろそろいい人も見つかるやも知れぬと言うのに。
「もっと表情で気持ちを表現してみてもいいんじゃない?」
思っていたことがほぼほぼ言葉にでた。こういう風にただの友人のように話せるのは彼女だけだ。
「それは出来ません。無駄な皺が出来てしまっては大変ですから」
「今までずっとそんな事気にしてたの?」
「いいえ別に、これは単なる個性でございます」
日々忙しく国王の仕事をこなし、時折従者とこんな取り留めのない会話をする平和な日常。永久になど贅沢なことは言わないまでも、末永く続いて欲しい愛する日常だ。





