80 終幕
「うぐ! あぁぁぁ!」
コルネリウスが叫びを上げる。リーザの突き下ろしは彼の右腕、鎧の隙間である肘裏を深々と突き刺していた。
「くっ、貴様! 騎士道を愚弄するか!」
「もはやその腕では、剣を振るうことは出来ないでしょう。貴方の、騎士としての命は今ここで頂きました」
コルネリウスは顏から脂汗を出しながら苦痛に抗いリーザを睨み付ける。
「フン! 本当に口が減らぬ女だ……何が望みだ? この騎士としては殺し、コルネリウスとしては殺さぬ意味があるのだろう?」
「平和です。永遠に続くベルク王国の平和を望みます。だから貴方には生きて、語り次いで欲しいのです」
リーザはコルネリウスの腕から剣を引き抜き、叩きつけるように地面へ血を振るい落とし、鞘に納めた。
「ベルクには手を出してはならない。不死の軍勢が立ちふさがり、災いを運んでくると吹聴してほしいのです。騎士団長である貴方がその怪我を証拠に話せば、しばらくベルクへの遠征はなくなるのではないかと考えます」
「フン! そこの禍々しい槍を持った女がこの国の王であり、不死であるのだろう? 指揮官のアレから聞いた……」
「そうです。有名になりましたね、姫様」
コルネリウスは空を見上げ、そして目を瞑る。
「そうか、不死の姫と不死の軍勢……剣をペンに変え、物書きにでもなるか」
その言葉はリーザの話を承ったと考えてもいいだろう。
その後、コルネリウスは帝国軍の撤退を指示し、私たちは各部隊に終戦だと伝え、追い打ちを禁じた。練度の差はあれど、混乱に乗じて攻め込んだベルクの軍は、多少の怪我人が出たものの、死者はいなかった。
これで、小国ベルク王国と大国ブーゼ帝国の戦争は終幕となった。





