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不死姫  作者: 秋水 終那
第二章 不死の姫と勇敢な騎士
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64 火計


 鎧を着こんだ帝国の猟犬が餌の臭いを嗅ぎ付けて獲物に群がる。気圧されるな。向かい討つ意思を見せつけろ。


「大砲を後方へ!」


 ラルフが指示を飛ばし帝国が置き去りにした大砲を運び出す。戦場での略奪であり、騎士道云々から言えば唾棄すべき行為ではある。しかし欠陥が多いとはいえ、脅威を排除しつつもこちらの手札を増やせる。


 私たちは迷わない。民のため、国のため手段を選んでいる程の余裕はない。


「ここで向かい討つぞ!」


 ラルフが声を掛けると直線で行軍してきた直剣部隊と槍部隊が混成して壁を作る。出鼻の騎兵隊による突撃を危惧し槍部隊を先行させたがその心配は杞憂であった。先の戦いの際に騎兵を防いだことと槍の部隊が先行したことで、帝国が騎兵隊を出し渋っているのならば好都合だ。


 後方で弓兵の展開が完了すれば騎兵はより動き難くなる。


 相手の先陣は重装の歩兵団。鈍重さを少しでも補うため槍や斧槍などの武器を装備している。そして少し後方には軽装で取り回しのいい直剣を装備した部隊が控えている。重装歩兵の取りこぼしを確実に狩るための後詰めだろう。


「構え!」


 こちら側の弓兵部隊が展開し終えたようだ。


「放て!」


 遥か上空を流星の如く矢が通り過ぎて行く。それは相手歩兵の上で雨となり降り注ぐ。矢じりと黒の鎧がぶつかり空しく地へと落ちてゆく。大した成果は得られないがそれでいい。弓兵の存在感が相手に伝われば後詰めが動きにくくなるからだ。


 飛び道具と言うのはつくづく厄介である。ベルク特有の地形と遠征だと言うことが幸いし、帝国軍はその飛び道具の用意がないのは唯一ベルク側の勝る点だと言える。


「後退しつつ、引きつけろ!」


 相手の一歩に対して半歩ほど下がる。後退のことを考え出来る限り、歩兵を引きつける。立ち向かう意思を相手に向けながら慎重に。


「直剣部隊用意!」


 ラルフの部隊が彼の声で用意したのは剣ではない。一人一つ持たされた瓶だ。中には液体が半分ほどまで入れられ、コルクで栓がされている。


「放て!」


 その声で瓶が中空を舞って先頭の兵たちを少し越えた辺りに降り注ぐ。頑強な鎧にぶつかり弾け、中の液体がばら撒かれ、こちらまで独特の臭気が漂う。


「さ、酒の臭いだ! 下がれ!」


 一部の兵がこちらの思惑に気が付いたようだがもう遅い。


「火矢を放て!」


 矢じりの代わりに油をしみこませた布が巻かれ、それに火が灯された特注の矢が放たれる。



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