61 最強
「ラルフ……」
「リーザのことならば心配することはありませんよ。それに彼女は少々頑固者ですから、今更どんな説得も無駄でしょうね。それは姫様が一番ご存知でしょう?」
「えぇ……そうね」
「それとリーザからは口止めされていることなのですが……私は彼女との勝負で勝ったことがありません」
は? これは私の不安を紛らわせるためのラルフなりの冗談の類であろうか? 次期騎士団長と言われ、そして現騎士団長であるラルフは現在名実ともにベルク最強の騎士である。そんな彼が勝てない相手など、この国にいるはずがない。
「場を和ませる冗談だと思いましたか?」
まるで私の思考を読んだように続けるラルフ。
「事実です。騎士団には入ってはいませんが、よく訓練には参加していました。姫様をお守りする力が必要だと。父に剣術を教わり、いずれは団長の座に就くのだとぼんやりと考えていた私と、貴方様の剣として、盾として戦う決心をした彼女とでは、覚悟の差が歴然でした」
不安で押しつぶされそうだった心に、まるで自分を褒め称えられているような、そんな誇らしく嬉しい気持ちが流れ込む。
「だから心配はありません。リーザは間違いなくベルク最強の騎士と言えます。団長の私が言うのだから信じてください」
「ふふ、ありがとう。えぇ私はもっとリーザを信じてあげなくちゃいけないのね」
心に少しばかり余裕ができる。彼女への心配や不安が、少しづつ信頼に塗り替えられていくような気分だ。
「あの、ラルフ。ごめんなさい……テオドールのこと」
今回の重要な任務に就くのはリーザだけではない。彼の父であるテオドールもだ。大罪人ではあるが、ラルフの大事な家族であることには変わりない。そんなテオドールにヴァルハラの呪いの契約を施した。
やったことに関して間違ってはいないと思うが、ラルフのことを思うとチクリと心に棘が刺さったような罪悪感を覚える。
「何か謝る事がございますでしょうか。私はむしろ感謝しております。父は、騎士と言うよりも武人でした。自分の実力に溺れ誇示したいがために国を窮地に立たせました。そんな父に、ヴァルツァー家に大事な作戦を任せて頂きありがとうございます」
彼の言葉に無言で返す。ラルフをヴァルツァー家を思ってテオドールを呼び寄せたわけではない。ただただ戦争に必要だと考えたからである。
「先ほど父と話しました。少し見ない間に大きく立派になったと……そして、すまなかったと言われました。私は思わず父に拳を振り上げ、すまなかったと思うならば何故あんな事をしたのだと怒鳴りつけましたよ。そして父は私に言いました、『騎士団を頼んだ』と」
ラルフの瞳に涙が浮かぶ。
「全く、どの口で言っているのかと……」





