59 兵糧
「それで、これからの方針は?」
「こちらから討って出ましょう。このまま守りを固めていたとしても、帝国に総力を挙げて攻め続けられた場合、すぐ瓦解致します。しかし、今それをしないのは指揮を執っている者が、いまだ軍の損害に躊躇しているからです」
テオドールの考えは概ね理解出来る。しかし……
「あらましはわかったけど、状況を打開できる策はあるのかしら?」
「賭けになることは間違いありませんが……奇襲です」
奇襲……あの見晴らしのいい平原で奇襲とはどう言った了見だろうか。
「勿論、考えがあるのでしょう?」
「はい。まずはこの先に団員を総動員して陣地を形成します。これは……いわば囮です。状況が状況です、帝国も深く考えずこの餌に食いつくことでしょう。交戦後、関所まで下がればこちらの被害も最小限に防げることでしょう」
最小限……少し引っかかる部分はあるものの今は置いておこう。
「すると、散々と辛酸を舐めさせられたあちら側も、深追いをせずに負傷者を連れ、撤退することになると考えます」
「そこに兵を紛れ込ませると?」
「その通りだリーザ。この先に転がる鎧を拝借し、負傷者を装い撤退する敵と共にあちらの陣地に潜入してもらう」
「しかし父上――テオドール……たかだか数人の兵でどう奇襲をかける」
息子からの言葉に苦々しいとも寂しさとも取れない複雑な表情を見せるテオドール。彼とて人の親だと言うことだろうか、ラルフに思うところがあるのかもしれない。
「確かにその人数で出来ることなど、たかが知れている。だから最小にして最大の効果を期待するのであれば……兵糧を攻めることだ」
「食料や水がなくなれば戦線を維持することは無理ね。国から補給はあるだろうけど、あの人数を賄う量を運ぶのは難しい。間違いなく本国への撤退を余儀なくされるわね」
「姫様、その通りでございます」
テオドールの顔を見て一つの疑問を尋ねる。
「それで、賭けと言うのは? ばれずに兵士を送り込むのも、うまく兵糧を攻めることも賭けに思えるけど違うのでしょう?」
「はい……兵糧がなくなり、相手側が現状の兵站では間に合わないとなったとき大人しく撤退するか、ベルクからの略奪を考えるか」
「後者は考えうる限り最悪のシナリオね」
「ただ、二、三日耐えることが出来るなら、勝利の芽が見えるかと」
現状では遅かれ早かれ総力戦と成れば敗北は必至。同じ総力戦ならば、相手に後のない状態で戦う方がいいに決まっている。
それに、ヴァルハラを使えば……アルビーナが帝国を退けた、あの力を使えば……





