57 忠誠
「テオドール、自分がここに呼ばれた理由がわかる?」
「はぁ、私は囚われの身。薄暗い牢の中では何が何やら――」
「帝国の間者についてよ。貴方は何も喋らなかったし、私たちにそれを聞き出す力はなかった。でも今はそんな余裕も無くなっているのよ」
テオドールは私を見下すように上から目線を投げかける。
「姫様いえ国王様、目つきが変わりましたな。何があったかはわかりかねますが、いや若者の成長とは目まぐるしいものでございます」
聖槍を手に取り、テオドールの首にピタリと合わせる。
「ひ、姫様!」
「黙りなさいラルフ。ねぇテオドール、雑談のために呼んだわけじゃないの。私の質問に答えなさい」
容赦なく首を刎ねると強く意思表示をする。脅しではない。
「姫様、そんな男のために手を汚す必要はございません。次に戯言を吐くようであれば、私がその首を刎ね上げて見せます」
リーザがスカートを捲り上げ、短刀を取り出す。それを私とは逆側の首にあてがう。
「つ……な、なんなりと」
投獄されてもなお、余裕の表情を絶やさなかったテオドールが焦りを見せる。こいつらが拷問や処刑など出来るはずがないと高を括っていたのだろう。しかし、私とリーザの気迫に、死の足音を聞きその余裕はなくなったようだ。
「北の国に使いを出しているのだけど、もう一週間も戻らないの。何か知っているかしら」
「恐らく……帝国の間者が邪魔をしたものと思います。使いを出すであろうと予測はしていましたので、迂回路で待ち伏せをせよと指示致しました」
やはりそうか……迂回路で奇襲を受けたのであれば使いの者はすでに……
「帝国軍のことについて何か知っていることはあるかしら? 軽装、重装の部隊と騎兵隊、大砲の装備と退けてはいるのだけど」
「いえ、それは全く聞き及んでおりません。連絡は間者を通した伝聞のみですので……それに、帝国がこういった状況を想定していたのならば、情報は信頼に足るとは思えません」
許せない裏切り者ではあるが、この状況下で嘘を言えるほど愚かでもないだろう。なんせ、自分の首がかかっているのだから。
「では、最後に問う。テオドール・ヴァルツァー、我に忠誠を誓い帝国と戦う意思はあるか?」
口調を変え、ベルク王としてテオドールに問う。その言葉に関所内にいる全員がざわつく。
「姫様! 正気にございますか! こやつは――」
「どうだテオドール! 貴様が恋い焦がれた戦いが待っているぞ」
リーザの言葉を遮り、テオドールを煽る。彼はしばらく逡巡する。私の腹積もりを計り兼ねているのだろう。だが彼にとってこの提案を受けない理由はない。
「誓います」





