52 兵器
朝食終えた私たちは昨日のように配置についた。夜通し見張りをしていた者に帝国の状況を聞いて下がらせた。やはり、目立った動きはなかったようだ。昨日の惨状を物語る黒塗りの鎧群が鎮座している。
しかし、朝の出来事から騎士団の様子が少し違う。上手く表現は出来ないが、まとまったと言う感じだ。決意を抱いたような表情で、皆が帝国軍のいる南を見つめる。
太陽は高く上り、南からベルク王国へと繋がる道を満遍なく照らしだす。これでは関所に控える者も坂で迎え撃つ準備をしている者も太陽の光のせいでやや見通しが悪い。
日の光が問題なくなったと言っても克服したわけではなく、あくまで傷ついたとしても治るだけだ。じりじりと皮膚を焼く痛みがないわけではない。皮膚同様、瞳もあまり光を入れると痛む上に強烈な眩しさで見ていられない。
「帝国軍に動きがあり!」
帝国軍の攻撃がないため、出していた斥候部隊が戻ってきて大声で告げる。
「馬が荷物を引き、こちらに向かっております!」
背筋が凍るような悪寒に襲われる。アルビーナの残した書物を参考に、今までこの地形を十二分に活用した戦い方をしてきた。実際彼女らは地形利用の防衛で帝国を苦しめたのだ。しかし、それも古い話。
人は闘争において常に進化を繰り返してきた。優秀な武器が考案されれば、それを防ぐ防具が考え出される。革命的な戦略が生まれれば、その対処法が考え出される。
大荷物を運ぶ馬の姿がはっきりと見える距離まで迫る。荷物の正体は大きな布で覆われているがそれが象る形から答えは明白だ。
「そんな……大変よラルフ! 防壁部隊を下げて!」
「はい!」
ラルフも気が付いていたようだ。しかし、あまりにも悪い知らせに私が声を上げるまで意識が乖離していたように思う。
「防壁部隊下がれ!」
彼は大声で盾を並べどっしりと壁を構築していた部隊に命令をだす。その瞬間、大荷物の布が取っ払わられその正体を露わにする。それは人ひとりが中に入れるであろう巨大な筒。黒光りした表面が太陽の光を浴びて妖しく光る。
大砲だ。火薬の爆発力を使って丸い石を撃ち出す代物だ。破壊力は絶大、どんな城門や城壁をも吹き飛ばす。投石器に代わる次世代の兵器だと、武器商人がお父様にすすめていたのを聞いたことがある。しかしまだまだ事故や破損が多く危険、火薬も貴重品であることから断っていた。
まさかベルクの護りに難儀し、そんな物を持ち出してくるとは……端から頭になかったわけではないが、関所や国の損傷を最低限にしたい帝国が、破壊兵器を持ち出してくる可能性はないに等しいと考えていた。





