49 朝日
結局その日の夜まで帝国軍の動きはなかった。夜間の侵攻も十分考えられるが、今は休息が必要だ。ただでさえベルク騎士団の人数は限られる。それに比べれば帝国軍の数は無限にも思える。休みなく、絶え間なく攻めるのは相手としても容易だろう。
しかし、そんな手を打ってこないのがまた恐ろしい。
先の作戦のおかげで相手の士気を大幅に削り、帝国軍全体に大きな影響を及ぼしている。お上と末端で情報が交錯し、混乱の中にある。など希望的観測が脳内を巡るが、相手は南を統一した侵略国家なのだ侮りは希望の類は一切合切を捨てるべきだろう。
何はともあれ、これ以上の交戦はないと考えよう。思考の泥沼に入って身心を労すわけにはいかない。
「ラルフ、見張りだけを立てて皆を休ませてあげて。気を張ってるはずだから、あとでリーザに嗜好品を持たせるわ。でもお酒はほどほどにしてと伝えてね」
「お心遣い痛み入ります!」
私は関所を離れベルクの町へと向かった。
◇◇◇
城に戻った私はリーザに使いを頼み自室へ赴く。自室に着いた私は装備も外さず、着替えもせずにベッドに突っ伏する。
「はあ……」
身心の疲労から一人、大きな溜息をもらす。戦場では誰にも見せたくはない姿だ。ほんの少し前まで私は国王の娘として平和な暮らしを謳歌していた一七歳の少女だったと言うのに。それがまやかしだと言わんばかりに突如として崩れ去った。
実際には元騎士団長のテオドールの手引きにより、起るべくして起きたことなのだが……
明日はどう出るだろうか……これ以上ただの小手先が帝国に通じるであろうか。それは否。アルビーナの残した書物で疑似的に未来は見えている。いづれ痺れを切らした帝国は数に物を言わせて攻めてくる。
今と昔では国同士の親交も違うと言っても、他国の援助を受けられない状況なのは同じだ。近いうちに物資は底を尽き、剣と剣を交える時が来る。
その時、私はアルビーナのように勇敢に、そして残酷に戦えるだろうか。戦場の痛みを受けても私の心は壊れずにいられるだろうか。
こればかりはその時が来てみないことにはわからない。今はただ決意を胸に、安らぎへと全てを委ねるだけだ。うつらうつらと眠気に襲われるままに眠りにつく。
そして、気が付くと朝日は登り開戦二日目を迎える。





