43 茶葉
山から下りた彼女は村人を説得し、鼓舞し、帝国に対して徹底的な抵抗を試みることになる。アルビーナがヴァルハラの力を、奇跡の力を手にしたのは違いないが、あまりにも唐突な展開だ。
「失礼いたします」
扉を開け、入ってきたのはリーザだ。その手にはティーセットがある。
「非常事態ではありますが、あまり根を詰めると姫様が持ちません。一息入れましょう」
「えぇ、ありがとう。でも皆が大変な時にそんな高価なものを楽しむなんて……」
茶葉なんて高級品、こんな事態でなければ喜んで頂いただろう。
「そう思うのであれば、その分民の皆に還元すればよいのです。帝国を退け、窮地を脱した際に」
「うん……じゃあこれからのために鋭気を養うことにするわ。もちろん、貴方も一緒してくれるわよね、リーザ」
「それが、姫様の命であるならば」
「じゃぁ命じるわ。これから私と共に戦う仲間として、私の友人として一緒にお茶を飲みましょう」
テーブルに付きリーゼと共にお茶を楽しむ。他国からの大事な客人をもてなす為の貴重品はとてもいい香りがし、心を癒してくれる。この短期間にあまりにもたくさんのことがあった。
帝国の攻勢、騎士団長テオドールの裏切り、そして……ヴァルハラの奇跡。
今わかっているのはあの黒槍には持ち主を癒す力があることだ。それも、死さえ覆すほどの癒しの力だ。テオドールに刺された胸の傷は今や跡形もない。これはアルビーナが残した書物にも書いてあった。
そうか私、太陽のもとに出ても大丈夫なんだ。もう、あの光を避ける必要はないんだ。そう考えると根拠はないけれど希望が生まれた気がした。
「よし! ありがとうリーザ! 貴方のおかげで元気が出てきたわ!」
「それは良かったです」
「それじゃあ、私はこの書物の続きを見てみるわ。きっとこの中に今を覆してくれるようなことが書いてある!」
ティーセットと共にリーザは退室する。部屋の中にまた一人ではあるが、先程とは違う。本当にこの中に希望があるのか、恐る恐るページを捲っていた先程とは違う。
私は凛とした心持ちで続きを読み始めた……





