41 亡命
リーザに促され、自分の過去の傑作をどけてみる。その下には黒塗りの上に白の文字で表題が書かれた古い書物が隠されていた。
「聖遺物ヴァルハラ……どうやら当たりのようね」
「はい、まさかここまであからさまな品が出てくるとは思いませんでしたね」
ヴァルハラと共に王から王へと受け継がれてきた書物なのだろうか。しかし、王位継承の儀にはこの書物のことは一切書かれてはいない。恐らく槍が正式に移譲されるときに前国王から直々に、そして秘密裏に渡されたのかもしれない。
私は表紙を捲り斜め読みする。内容の語句には不死や生贄、奴隷など不気味な言葉ばかりが散見する。そして書物の最後には著者の名前が記されていた。
「初代ベルク国王、アルビーナ・フォン・ベルク……ベルク王国を建国した奇跡の姫!」
「ベルク建国が約三百年程前だと言われていますから、そのころの書物にしては異常に状態がいいですね」
「待って……それ以外にも名前が載ってるわ。きっとこれ写本だわ」
聖槍ヴァルハラとこの本の継承がベルクで行われ、書物の紛失や劣化で失われないように歴代の王たちが写本を作り続けたのだろう。それ程の代物であるならばヴァルハラの謎に、奇跡に大きく近づくことが出来る。
◇◇◇
他にまだ手がかりはないかと二人で探したが、これと言って目ぼしいものはなかった。その後、私は一人自室に戻り、お父様の部屋で見つけた書物に目を通すことにした。
内容としてはアルビーナの生涯とベルク建国について書かれていた。どうやら、彼女自身は南の国――現ブーゼ帝国――出身の貴族だったようだ。また私と同じ体質、つまり月の子だったらしく、それを理由に迫害を受け家族と共に国を追われたのだと言う。
今も昔も自分とは違うことに、酷く排他的な考えを持っている人間は一定数いるようだ。それが血を重視する貴族連中だと対応が極端だ。お父様とお母様の庇護を受ける私ではあるが、これが他国であるならば同じような運命を辿っていた可能性は十分になる。
彼女のことは遠い過去の他人事とは思えない。
そして辿り着いたのが今のベルク王国となるこの地だったようだ。当時は帝国領の小さな村であったが、帝都から亡命してきた貴族一家を温かく出迎え、もてなしてくれたとある。今のベルクの民たちの優しさはすでにこの地に根付いていたのだと心が温かくなる。





