40 記念
リーザと共にお父様の部屋に訪れる。今ここに前国王がいたならばこんな不躾な真似はしなくてもよかったかもしれないが事は急を要する。
「お父様、不躾な娘と従者をお許しください」
初めて入るお父様の部屋。他の部屋と比べると王の自室とは思えぬほどに飾り気がなく質素な部屋だ。眠るに十分なベッドと頑丈さだけが取り柄の机。お父様と言う人物をよく表した私室と言える。
「姫様!」
お父様の部屋を物色し始め、しばらくしてリーザが何かを見つけたようだ。
「こちらをご覧ください」
リーザが持ち出してきたのは一つの古い箱だった。質素な部屋には似つかわしくない装飾の施された年代物の箱には鍵が備え付けられていた。
「こんな箱どこにあったの?」
「ベッドと床の隙間にございました。やはり親子と言うことでしょうか、大事な物の隠し場所は同じでございますね」
「うるさいわね! 今はそんな事を言っている場合じゃないでしょう! それにしても鍵か……」
部屋を探していたときには特にらしき物はなかった。そもそも現在お父様自身が持っている可能性だってある。急は要するが。こんな年代物の箱を無理やりこじ開ける方法を取れば中身までも傷つけてしまうかもしれな。
「どうしよう……」
カチッ――
頭を捻って考えている最中に静かな部屋の中に乾いた音が響いた。
「姫様、開きました」
「え! どうやったの?」
「姫様の従者たるもの、鍵開けくらい出来て当然でございます。それに年代物故、とても単純な構造でございました」
リーザ、貴方の中で従者の理想像とはどんな人物を思い描いているのかしら……
喉から出かかった言葉は、無表情ながらも醸し出す彼女の自慢げな態度を見て飲み込んだ。それよりも箱の中身のほうが重要だ。ヴァルハラの謎を少しでも解くことのできる代物だといいのだが……
「これは!」
箱を開けるとまず飛び込んできたのは、他国への書状などに使われる上質な羊皮紙だ。それも数枚入っている。そこに記されたのは……
人の形を真似た、人ならざる者が描かれている。輪郭は逆三角形を思わせ、髪が所々抜け落ちたように不揃いであり、瞳は大きくその双眸は顏の大半を占める。その異形の口元は笑みを零しているように下向きの半月型であるが、なんとおぞましい歯の並び方だろうか。しかも描かれているのは一人ではなく二人だ。それぞれの顔の下には手の震えを抑え込んで書いた名を表すであろう文字が刻まれていた。
お父様、お母様……
いつぞやの記念日に私が二人に送った似顔絵だ。高価な羊皮紙を何十枚も消費し、描いた中でもこれぞと思った最高傑作を数枚送った。後日それを知ったお父様に少し怒られた覚えがある。
「先進的な芸術でございますね」
「み、見ないでよ! 恥ずかしい……もう、お父様ったらこんな大事そうにしまい込んで――」
「姫様、その下にも何かございます」





