39 問題
処刑、もしくは厳罰を言い渡されるとでも思っていたのか、それとも身内の犯した罪の意識にそれを望んでいたのか、ラルフは信じられないと言いたげな表情を浮かべていた。
「どうしたの、国王直々の命令が聞けないの? テオドールに代わって騎士団長として、ベルクを命を賭して護りなさいって言ってるのよ」
「い、いえ……そんな滅相もない。しかし私に騎士団長が務まりますでしょうか……」
ラルフは俯き、語尾がしぼんでいく。自信がないと言うよりも、自分なんかが騎士団の長に就いても良いものかと考えているのだろう。
「もう! いつまでもうじうじと! テオドールがベルクを窮地に立たせた責任を取りたいなら、その窮地から救うのが道理じゃない。それとも王の命に背いて罪を重ねる気なの?」
「……わかりました。ベルク騎士団所属ラルフ・ヴァルツァー、ブリュンヒルド王より騎士団長を拝命致します! 全身全霊でブーゼ帝国の脅威を振り払って見せましょう!」
顔を上げ、決意に満ちた表情で彼は宣言した。
◇◇◇
「姫様、リーゼでございます」
ラルフが退室した後、しばらくしてリーゼが訪れる。彼女には様々な事をやってもらっている。先の王位継承の儀騒ぎの収拾、そしてその混乱の大本と言ってもいい聖槍ヴァルハラについての情報収集。
「ご報告致します。まずは国民の混乱ですが、概ね問題ありません。あの場のカスパル様の助けにより、深刻な不安は広がっていないようです。しかしながら、帝国への戦意が向上しつつあるのが心配事でございます」
彼らの不安が緩和したのは良いことだ。しかし、死したはずの国王がヴァルハラの奇跡によって蘇り帝国への戦いを高らかに宣言したことと、奇跡を目撃したある種の興奮で国民が戦う意思を持つのは少し懸念が残る。
強大な暴力を誇る帝国軍の兵士に、戦闘訓練も受けていない彼らが立ち向かったところで良い成果は期待できない。そもそもそんなことは私たちの望むところではない。
「ヴァルハラについてですが……残念ながら書庫にも、国民の口伝や伝承にも目ぼしい情報はございませんでした。残るは前国王様のお部屋を残すだけです」
国の歴史にも書かれていない……私の見落としなどではなかった。ベルクの国宝であり、王の象徴ともなる重要なものでありながらヴァルハラは謎に包まれたままだ。もはや誰かの意思で秘匿されていると考えるべきであろう。
人を生き返らせる奇跡……確かにそんな代物の存在が知れたならば侵略戦争どころではない。血で血を洗うような、世界を巻き込んだ争いになるだろう。しかし、今の状況からすればヴァルハラの奇跡は救世の力だ。
何としても聖槍について知る必要がある。
「リーザ、お父様のお部屋に行きましょう」





