38 責任
「ブリュンヒルド様、よろしいでしょうか」
「どうぞ……」
テオドールとの話を終え、部屋で休んでいるとラルフが訪れた。深刻な表情で自室へと入ってくる彼から大体のことは察することが出来る。
「此度は我がヴァルツァー家がベルク王国に多大な――」
「ラルフ」
部屋へ入るなり、ラルフは頭を下げるが私はそれを止めた。
「今回のことに関しては私どころか国中の人たちが困惑しているわ。でも皆ちゃんとわかってる。ラルフ貴方は悪くない」
「しかし! 身内の不始末……どう償いをすればいいのか……」
「償いね。貴方はどんな罰でも受けるつもりなのかしら?」
「はい! この国のために身心全てを献上する覚悟でございます!」
騎士団長になるため厳しく教育されたラルフは剣の腕もさることながら責任感が強い。先程のテオドールとのやり取りで錯覚してしまいそうになるが、彼も元は比類なきと謳われる程、騎士としても人間としても立派な人物であった。
比類なき……彼は小さな国の天辺に上り詰めてしまったが故に、より高みに聳える帝国へ憧れを抱いてしまったのかもしれない。しかし一種の孤独に苛まれたとしてもテオドールの取った行動は容認出来るものではなく、本人の話を聞く限り改善も難しい。
だからと言ってラルフが親の罪を被り責任を取るのは間違いだ。テオドールに裏切られ酷く傷付いたのはラルフも同じなのだから。むしろ今まで尊敬し、目標としていた父が、突然国に背く大罪人となってしまったのだ。心中察するなどおこがましい程の衝撃だろう。
現状、ラルフを動かしているのは強い責任感だけだ。そんな彼は今ならどんなことでも受け入れるだろう。例えば『死ね』と命じれば喜々として首を差し出すに違いない。だがこれ以降、いかに帝国をうまく退けた理想の未来であろうとも、一度国王を殺し国を欺いた大罪人の息子として誹りを受け続ける。
そんな過酷な人生が待ち受けているのであらば、騎士の誇りを胸に死ぬことはある意味での幸せなのかもしれない。
しかし、そんなことは私が許さない。
「ブリュンヒルド様……」
普段の私からかけ離れた神妙な態度と長い沈黙に耐え兼ね、彼は私の表情を伺うように呼ぶ。
「本当に全てを捧げる覚悟があるのね?」
彼が全てを献上すると言うのならばそうしてもらおうじゃないか。その生涯を捧げてもらおうじゃないか。
「ベルク騎士団所属、ラルフ・ヴァルツァー。ベルク王国国王ブリュンヒルド・フォン・ベルクの名のもとに命じます。貴方は英雄となりなさい」
分かりやすく驚きの表情を浮かべるラルフ。
「ベルク騎士団を率い、私と共にブーゼ帝国の魔の手からベルク王国を護るのよ」





