34 死後
内通者はテオドール、ベルクが誇る騎士団の長がブーゼ帝国と通じて国を窮地に貶めている。何とかしなくてはと思いだけが空回りして何も考えられない。意識も身体も闇に飲み込まれていく。
深い深い暗闇、深淵のさらに奥へ落ちていく。
気が付くと赤い花一面に咲き乱れ、無数の剣や槍、斧槍などの武器が乱立する丘の上に立っていた。
「ここは……どこなの?」
空を見上げる。空は雲一つなく、黄昏時のように金色に輝いている。
私は王位継承の儀の途中で、テオドールに胸を貫かれ……死んだ。自分の胸に目をやると衣服は赤く染まり、ぽっかりと穴が開いていた。
「ここが、ヴァルハラ?」
死んだ魂が行きつくと言われている場所。戦死者が眠る場所。奇しくもベルクに伝わる聖槍と同じ名の死者の国と呼ばれるもの。
死後の世界など信じてはいなかったが、この異様な光景と、胸に風穴を開けられても平然としている自分をもって信じざるを得ない。
「よくぞお越しくださいました、資格あるものよ」
突然後ろから声がして振り返る。そこにはボロ布を羽織っただけの痩せこけた人が立っていた。髑髏に皮を貼り付けただけのような顔は表情の機微どころか、男なのか女なのかも判別がつかない。ただ酷くしわがれた声だけが男性のものであると感じた。
「貴方は誰なの? ここがどこだか知っているの?」
「私は導き手、貴方様を次の正式な所有者としてお出迎えしました。そしてここはヴァルハラ。しかし、貴方が考えているような場所ではありません」
男の答えは実に簡素が故にわからないことだらけだ。導き手、所有、そして先程言っていた資格あるもの。ヴァルハラであるが私の考えるものとは違う……
「貴方どうして私が考えていることがわかるの?」
「ここにある貴方は魂だけの存在でございます。魂の声はどうやっても隠すこと叶いません」
よくはわからないが私の心が読めると言うことなのだろうか。
「そして、貴方の渇望もよく聞こえます。ベルク王国が未来永劫、平和で幸せでいることに尽力したい。実に素晴らしい望みです。ならば叶えましょう資格あるものよ」
男が私の手を掴む。
「さぁ、私を悠久の彼方まで楽しませてください」
男から眩い光が放たれる。私は直視出来ず目を閉じる。
光が弱まるのを瞼越しに感じ、恐る恐る目を開くと男の姿はなく彼に握られた手には一本の黒い槍があった。
「ヴァルハラ……」
突如、黒槍から影が伸び私を包み込む。抵抗する間もなく全てを包み込まれ、私は闇の中へと飲まれて行った。





