32 虚構
「虚言でもいいのです。国民の寄る辺となるならば虚構でも構わないのです。私はこの話を流布し、折を見て王位継承の儀を執り行います」
「リーザの考えはわかった……心配事は尽きてはいないが、賭けてみる価値はあると思う。騎士団で出来ることはないか?」
「あまり表だって動かれると皆の不安を煽りかねませんし、間者の存在を公にするのも得策とは言えないでしょう。なので、見回り程度の警備に抑えましょう。それだけであちらは動きにくくなるはずです」
国を護るための騎士団だと言うのにと不満顔を見せるラルフ。
「時が来れば、頼りにしていますよ。それでは早速行動に移りましょう。帝国の狙いは内紛でしょうが、時間は有限です」
姫、従者、騎士、立場は違えど幼馴染の三人組。子供の頃のように無邪気に遊ぶことはなくなってしまったが、こうして三人だけが集まるこの場は不謹慎ながらも心が躍った。
◇◇◇
三人だけの作戦会議から三日が経過した。緊急事態だと言うのにその時は穏やかで静かな時間だった。北門の開通は今だ目途が立たない、しかしその不安よりも、日々希望を求める声が大きくなってきている。
王国とは王あっての国ではない。そこに住む民あっての国なのだ。民が希望を新たなる王を求めるならば、王位継承の儀に現国王が不在であることは些事である。これはリーザの目論通りなのであろう。
「いよいよなのね……」
「はい姫様。このような形となることは複雑に思いますが、今皆が求めているのは希望の象徴なのです。ベルクの未来のためにその道を示してくださいませ」
「ええ、私が不安がってちゃだめよね……」
奇しくも今日は満月。南の空に浮かぶ夜の太陽が爛々とベルクを照らしている。恐らく今日をもって動き出す。これからの歴史に深く刻み込まれるような時のうねりが……そんな不安とも期待とも取れない心持ちにも関わらず頭はとてもすっきりしていた。
王とはどうあるべきだろうか? 国とはどう考えるべきだろうか? 皆の幸せには何が必要だろうか?
今そんなことは些事である。皆の希望のために、ただ求められるままに王となる。虚構の希望だろうと、実態なき寄る辺であろうとも国民が求めるならば……
今宵、私はベルクの王となる。





