31 虚言
王位継承の儀……受け継ぐのは王の名だけではない。建国時から代々受け継がれ、かつて神が振るいアウスティン山脈を穿った逸話がある『聖槍ヴァルハラ』の所有権も同時に受け継ぐのだ。儀式用の武具にしては豪奢な飾りはなく、聖なる槍と言うにはあまりにも異様。星々が存在しない夜を槍の形にしたような、この世のものとは思えないヴァルハラはどちらかと言えば魔槍の類ではなかろうか。
その名は戦士たちの墓場であるとか、騎士たちの安息の地だとか、ベルクの歴史で諸説あるがどれも死者の行きつく場所の意味が多い。
どれをとっても不吉が似合う槍ではあるが、私はこの槍に魅かれていた。私が強く求めているような、私を強く求めているような……心の奥で魅かれ求めあう感覚を抱いていた。
「――から無理に決まっているだろう!」
王位継承と儀でヴァルハラを思い出して少しぼんやりとしていたようだ。ラルフの怒声で現実に呼び戻される。リーザの意図は単純明快、国をまとめ、導く代表者がいないのであれば代わりを立てればいいと言うことだ。しかし、国王不在でそれを行うのは反逆行為と見られても仕方ない。それに月の子であり、齢十七の小娘が新たなる王などと誰が認めるのか……どう考えても新たなる混乱を生む未来しか見えない。
「リーザ……その案は本当に勝算があることなの? 貴方が考えもなしにそんなことを考えるとは思えないけど」
「はい、勿論でございます。ラルフも少し頭を冷やしてください」
ラルフは腕組みをし、口を堅く結んで黙った。
「始めに言っておきますが、私は姫様を愛しています」
「ちょ、ちょっと何言ってるのよ!」
彼女は私の顔を凝視し、微動だにしない表情で言った。誰からであろうともその率直な言葉は気恥ずかしさを感じる。
「いえ、今から話すことで姫様がお気を悪くされないようにとの配慮でございます」
「いいから、早く話して頂戴!」
私はリーザに顔を見られるのが恥ずかしく、手で覆いながら話しを促した。
「まず月の子は災禍を呼び込む忌み子、国の凶兆などと言い伝えられていますが、それは間違いでございます。事実は国に降りかかる不幸を振り払う存在。月の子が生まれたから不幸が訪れるのではなく、それらから国を護る存在として生まれるのです。ヴァルハラを思い出してくださいませ、まるで夜を象徴するあの槍は、月の子にこそ相応しいとは思いませんか?」
そんな話聞いたことない。国の歴史書は幼少期とはいえ、随分と読んだと思うがそんな記述はなかったと思う。
「まあ、虚言なんですけどね」
「な、なんですって!」





