30 役目
「帝国の狙いですが、恐らくベルクの内部崩壊だと思われます。堅固な護りを誇るベルク王国を労せず手に入れるために」
確かに今国の士気は大きく下がり、混乱と不安が渦巻いている。この状態が続けば降伏と言う選択を望む者たちが出てくるであろう。そうなれば対立は免れず、内乱へと繋がるのは目に見えて明らかだ。野蛮な侵略国家だと聞いていたが、ただ武力を振り回すだけではない。
「私たちがすべきことはまず国民の不安と混乱を静めることです。北門の開通には時間が解決するのを待つしかありませんが、そこまで持ち堪える事が出来れば国民の安全確保と他国の支援で戦いの土台に立つことは出来ます。しかし、間者と内通者はその前に次なる一手を打ってくることでしょう」
お互いの刻限は北門の開通。
私たちのすべきことは見えた。しかし――
「静めると言ってもどうすればいいのかしら……」
「相応しいお方が国を護ると誓いを立て皆を鼓舞するのです」
「でも、誰がその役目を?」
ここで国を統治する王が不在であることが響いてくる。一体誰が皆を鼓舞し、士気を高められると言うのか。今この時に相応しいと言えるのは、騎士団長のテオドールくらいしか思いつかない。
「もちろん次期継承者たるブリュンヒルド様でございます。不本意ではありますが、今がこの国を支えて導く立派な人間になる第一歩でございます」
「へあ?」
危機的状況には全くそぐわない間抜けな叫びが口から漏れ出てしまった。
◇◇◇
「王位継承の儀だと! こんな状況下で何をふざけたことを言っているんだ! それに国王不在の継承など聞いたこともない!」
部屋中に響き渡る声で吠えるラルフ。リーザは早速とばかりに再び会議を開き召集した。しかし、集まっているのは私とリーザ、ラルフの三人。彼女はラルフに先程の帝国の狙いや打開策を話したうえで、具体案として私の王位継承の儀を提案した。
「ラルフ、貴方は姫様が王に相応しくないとお考えですか?」
「そう言う問題じゃないだろう。それに何故お父――騎士団長殿が居られないのだ」
「テオドール殿は強く反対されると思いましたので、席を外して頂きました」
「俺だって反対だ! リーゼ、お前の意図はわかる。だがそれは大きな賭けだ。そもそも姫様はこの案をご了承されたのですか?」
「いや、私も今初めて聞いたことだから……」
了承も何も初耳である。確かにこの国のためにどんな無茶もする覚悟ではあったものの、王位継承とは想像もしなかった。





