23 決意
常連客と談笑し過ごし、お弁当として持っていこうと思ったベリッシュも皆で食べてしまった。夜も更け常連たちも帰路に就いた頃、私たちももう一つの目的のために店を出ることにした。
「ヒルデちゃん、リーザちゃんまたいつでも来ておくれ。俺たちはいつでも歓迎するよ」
「ありがとうカスパル、また来るわ! リーザも連れてね。そうだ、私たち星を見に行きたいのだけどいい場所を知らないかしら」
少し頭を傾かせ、目をつぶり考えるしぐさのカスパル。うーんとうなり声をあげて少し待つ。
「そうだね、ベルクならどこから見え上げても綺麗に見えると思うけど、ここらから南に行ったところに小高い丘があるだろう? あの辺ならもっと綺麗に見えるかもしれないね」
「ありがとう。それじゃ、おやすみなさい」
私たちは店を出てカスパルに教えてもらった丘を目指す。
「姫様、とてもいい人たちでしたね」
「えぇ、まさか正体が知られているとは思ってもみなかったけど……」
「姫様の姿は目立ちます。ただ、悪い意味ではありません」
「ありがとう、リーザ。今日はとても楽しかっわね。こんな毎日を送るためにはどうすればいいのかしら」
「民草が日々を楽しく生きているのは貴方様のお父上、現国王陛下の努力の賜物です。ならば、その意思を継ぐことが姫様の願いを叶える近道かと思います」
立ち止まりリーザの目を見つめる。月明りでもわかる濃い青色に輝く彼女の瞳からは力強い思いを感じる。彼女は言っている、私に王になれと。この月の子に、忌み子に国の行く末を担えと……
「お言葉ですが姫様。月の子であることを悲観しているものは貴方と一部の人間だけです。国王様も王妃様も貴方を次期国王、ブリュンヒルド女王としてお考えです」
「そんな! でも、そんな素振り一つも……」
「人の上に立つこと、一国の王になること……それはとても大変なことです。ですのでお二人方は姫様の意思を尊重し、慎重なお考えなのです」
「……ねぇリーザ……私、この国を支えて導く立派な人間になれるかしら?」
「もちろんでございます。不肖リーザが全力で姫様を支える所存でございます」
彼女の瞳はより一層強い意思を宿し私に訴えかける。とても力強く、そして優しさに満ちた視線に私の心の中で大きな決意が生まれた。





