22 談笑
「いつもありがとうカスパル!」
「あの……お代は」
リーザが心配そうに尋ねる。そんな彼女に笑顔を向けカスパルが答える。お代とはなんのことだろう。
「あぁ、いいんだよ。ヒルデちゃんがおいしく食べてくれたら。それにお姫様からお代を取るわけにはいかないしね」
「おい! カスパルそれは言わねー約束だろ!」
常連に注意をされたカスパルがしまったと言った表情を浮かべるが時すでに遅し。私は聞いてしまった。
「え、え? いつから知ってたの!」
まさか正体が知られているとは思ってもいなかった。しかも店主のカスパルのみならず、常連の客たちにも周知の事実だったとは……開いた口がふさがらないとはこのことか……
「それは、最初から……月の子のお姫様のことはベルクの中じゃ有名な話だからね。その特徴的な白い髪を見たらだれでもわかると思うよ……」
カスパルにそう言われてリーザの顔を見た。そうなの? 言葉には出さないが表情でそう問うと彼女は当然だろうと言わんばかりに力強く頷いて返す。力が抜け、危うくベリッシュを落としそうになる。
「そんな……私、気を使わせてしまったかしら……迷惑だったかしら」
一国の姫が突然現れて皆はどう思っただろう。しかも忌み子と言われる月の子だ。皆優しくしてくれた、楽しい時間を過ごしてきた。そう思っていたのは私だけだったのかな。皆だけ私のことを知って、それで気を使って接してくれていたのかな……
そう思うと目に涙が滲んできた。
「最初は俺たちも困惑してたけど、ヒルデちゃんは俺や常連の連中に分け隔てなく接してくれる。それでいつの間にか仲良くなっちゃって、今じゃヒルデちゃんが来るのを楽しみに毎日通う奴らがいるくらいなんだよ」
「そうだぜ! 俺たちはヒルデちゃんが何だろうと関係ねえ。だから……いつでも来てくれよな。安上がりのベリッシュくらいしか用意出来ねーけどさ! ハハハッ!」
一人の常連客の笑いが伝播するように店の中で笑いの渦が巻き起こった。姫様が認めたベリッシュだぞとカスパルが言うとそりゃ最高級品だなと常連客が返しまた一層笑いが大きくなった。
私は涙を拭い、皆と一緒に笑った。
その後はこれまで以上にカスパルや常連客の皆と話しをした。教育係が毎日勉強がとうるさいとか、騎士団のラルフは訓練に容赦がないとか、今まで話す相手がいなかったお城の中での私をたくさん話した。そしてたくさん笑った。





