20 通路
「リーザ……何故ここに?」
「はい、姫様が夜な夜な自室を抜け出しているのは存じ上げておりました」
「あう……もう! 部屋で大人しくしてろってい――」
「いえ、私もご一緒させて頂ければ問題ございません」
予想外の答えで思考に空白が出来る。彼女の言葉を脳内で反芻してようやく理解した。
「いいの? 一国の姫が夜に抜け出して歩き回ってるのよ?」
「ご自覚があるのでしたら自制してくださいませ。今日からは私が護衛兼見張りとしてご一緒致します。ただし、これは私の独断ですので内密なのは変わりません」
何はともあれ、リーザは私の小さな楽しみを肯定してくれるらしい。
「よかった……それよりも貴方その恰好で城を出ると言うの?」
彼女はいつも通り従者の制服に身を包んでいる。城内であれば特に目立つことはないだろうが町に出れば話は違ってくる。そんな恰好をした者を連れ歩いていたら私の素性を疑われてしまう。それは騒ぎの種だ。
「私は姫様の従者であることを誇りに思っております。この服を脱げと言うことは即ち私の解任を意味します。非常に残念ながら姫様がそれをお望みであるのであれ――」
「わかった! わかったから……せめてローブで隠して頂戴」
その服は従者の制服以上の代物で、リーザなりの矜持なのだろうか。彼女の理屈はさっぱりわからないが、意地でも着替えないらしいのでせめてもの提案をした。私はベッドの下から先程だした箱とは別の箱を取り出し開く。中には黒のローブと短剣。もしものための予備をリーザに手渡す。
「一つお伺いいたしますが」
「なに?」
「このローブはどれほどお使いになられたのですか?」
「まだ一度も使ってないわね」
「そうですか、それは少々残念ですが致し方ありません」
「よくわからないけど……ラルフを使いに出して手に入れた布で私が作ったんだから、大事に着てよね」
二人は夜では目立たない茶と黒のローブに身を包み城内を歩く。夜と入ってもそれ程深くもない。気を付けなければいまだ働く従者や見張りに出くわす危険を孕んでいる。
「それで姫様、どこから外へ行かれるのですか」
「地下よ。そこから城の外に通じる通路があるの。昔読んだ本の中にこの城の歴史や設計図が書いてあるものがあったの。ちょっと分かりづらいところにあるし、今は私が隠してあるから誰も知らないと思うわ」
隠し通路は私がいつもラルフと訓練をしている地下訓練場にある。普段私とラルフ以外の人間は出入りすることはなく、それ以前は不要品を置いてあるだけの倉庫だったので、その通路の存在を知っているのは私だけだと思う。
ランタンの中の蝋燭に火を灯し地下への階段を下りる。ここまで来れば安心だ。この時間に地下に降りてくるような者はいないだろう。訓練場での休憩用に設置した長椅子を退ける。その下には石畳とよく似た布を被せてあり、その布を捲ると人ひとりが限界の小さな階段が姿を現した。
階段を下り、ランタンの光だけを頼りに狭い通路の先を目指す。しばらくすると黒塗りの扉が現れる。扉を開くと月明りが差し込む井戸の底へと出た。





