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不死姫  作者: 秋水 終那
第二章 不死の姫と勇敢な騎士
19/99

19 計画


 湯あみと食事を済ませ、部屋でのんびりと過ごす。昼間は固く閉ざされていたカーテンは開け放たれ、窓は満天の星と月を描いた一枚の絵画のようだ。もしも太陽に弱い私でなくとも、きっと夜を好きになる。のんびりと眺めながらそう思う。


「さて……リーザ!」


 部屋の外に届くように声を出し、従者を呼ぶ。しかし返事は一向に返ってこない。それもそうだ、食事が済んだ後、人払いをしてくれと頼んだのだから。それは彼女自身も含まれる。もしも返事が来ても、早く自室に戻って休むなりしろと命じるだけなのだが。


 部屋の周りに誰もいないことを確認した私は、ベッドの下に隠しておいた秘密の箱を取り出す。開いて中身を確認。茶色のローブ、そして一本の短剣。太陽の恩寵を受けられない私は夜が一番活発になる時間なのだ。


「一日がずっと夜だったらいいのにな……」


 そう独り()ちる。でも、私のような存在のために一日の半分を夜にしてくれたと考えると神様も平等主義なのかもしれない。この土地の神様に信仰心があるわけじゃないけど。


 この国に伝わる神とは、守護の神である。その昔、神様がアウスティン山脈を巨大な槍で穿ち、その出来た切れ目にベルク王国が建国された。周りの山々は要塞となり、荷馬車が横に二つ並んで通れる程度の道幅が大軍勢を阻む。道を見下ろす形で設置された間所や城門は他国からの侵攻に対してとても強固だ。と言うお話は、文字を覚えたての幼い頃に蔵書を読み耽って蓄えた知識だ。


 それを今の年になってから教わるのはとても億劫だ。既知のものでは好奇心をくすぐられない。だから今私の興味は体験である。本で得た知識が本当なのか、どういった刺激を私に与えてくれるのか。槍の訓練もそういった好奇心から始めたものだ。いくら指南書が頭に入っていても体は言うことを聞いてくれない。相手が次にどう攻めてくるのかは教えてくれない。すでにその考え方は古いと年代物の書は指摘してくれない。


 その既知ではあるものの未知でもある事柄のために今日も夜のお散歩だ。今日の計画は城を抜け出したあと、酒場によって夜食を貰い、星がよく見える場所を探す小さな小さな旅。計画内容を反芻すると心が躍ってきた。城を抜け出す背徳感、お城で食べる食事とは違った味わいのある夜食、どこを見ても美しく輝く星たち。


 私は短剣を携え、ローブを羽織り、静かに自室の扉を開いた。


「姫様、お待ちしておりました」


 計画失敗、扉を開いた先にはリーザが立っていた。


 

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