13 恋慕
異変に気が付き、関所内にいた見張り役が数人出てくる。
私もこんな事態になることは想定していなかった。彼らも随分混乱していることだろう。
「姫様、ご無事でしょうか、えっと……その者たちは」
「私は問題ない。こやつらは訳あって拘束することになった。招かれざる客ではあるが、丁重に扱ってほしい。それとだれか、アンナに私の着替えを寄越してくれと伝えに行ってくれ」
先頭に立っていたのはアベルの父親。
彼は了解の意を示し、私と兄に代わりバルトルトを数人で担ぐ。
「ブルーノ……だったな。武器はここで預かる。今のお前たちなら案じることもないだろうが、この国の決まりでな」
「構わねーよ。それにほんの少しあんたが見えてきた気がするぜ、姫様」
軽口を叩き、ブルーノはバルトルト付き添い関所内に入る。
彼らにもう敵意はない。
国の中に入れても問題ないだろう。しばらくは牢屋暮らしをしてもらうことになるが、アンナが来たら掃除を頼もう。城の牢なんてここ何十年も使ったことがないからな。
関所内の仮眠用の寝床にバルトルトを寝かす。
ブルーノは弟の側に付き寝顔を眺めている。
初めは警戒をしていた見張り役たちはそんな二人を見て危険はないと悟ったのだろう余分な警戒を解いた。
しかし、一人だけ険しい顔で緊張を隠しきれていない者が一人いる。アベルだ。
彼の視線は兄弟の方ではなく私に向いている。
「アベル、こっちにおいで」
私に呼ばれて一瞬痙攣したかのように体を震わせる。
彼はあの凄惨な場面を見たのだ。無理もないだろう。
「私が恐いか」
手足を震わせ、私を見つめる彼の眼の奥には恐怖が見え隠れしているように見える。
この国に住む者たちは余すことなく、私が不死である事を知っている。
それが例え、子供たちであろうともだ。いや子供の頃からそれを知らせ、口外せぬよう教えているからこそ、ここ百年以上は私について大きな問題が起こったことはない。
だが、実際に不死の存在を実感するのは自分自身が年老いてもなお変わらぬ私を見た時だ。
彼は若い、見張り役としても人としても。
躊躇なく人を殺し、腕を斬り落とされ、胸を貫かれても死なない私に彼が何を感じたのかは容易に想像出来る。
「姫様は……痛くはないのですか、苦しくはないのですか」
私の問いにそう答えた彼の意思がくみ取れない。
面食らった私をよそに彼は口を開く。
「あんな大怪我をして痛くないのですか! それでも一人戦い続けることは苦しくないのですか!」
「……痛いさ。有り体に言えば死ぬほど痛い。ははは、なんとも不死の私が言うとおかしいな。それでも苦しくはないさ。この国を、そこに住まうお前たちを守る事が苦行なものか」
心からの言葉だ。
剣で斬られれば痛い、槍で貫かれれば痛い、矢が刺さっても痛い。
それでも、矢面に立って自ら皆を守ることが出来るのは誇りだと思っている。
「姫様は私に恐いかと問いました。正直、恐ろしいと思いました」
「気にするな、それが人とし――」
「しかし! それ以上に私は悔しいのです。身を挺して国を、私たちを守る姫様と戦えないことが! この国の痛みを全てその身に受け、戦い続ける姫様を見ていることしか出来ないことが!」
アベルの目から涙が零れる。
「私は、貴方と共に戦いたい……貴方が抱える荷を少しでも背負いたい。貴方が受ける痛みを少しでも減らしたい。ただ守られるだけの存在は嫌なのです!」





